コラム・観戦記

第5期最高位戦Classic決勝戦(1~5回戦)観戦記

今期から新システムによりリーグ分けされた最高位戦Classic。

他の各プロ団体からの出場選手も併せ、総数約130名の参加となったこのタイトル戦。リーグ戦、本戦、準決勝が終了し決勝進出者4名が決定した。

決勝に先立つ、ベスト16による準決勝。
決勝進出者の内2名は本戦1回戦で同卓していた。

 

  ドラ

 

東一局・西家の井出洋介の手牌。


ここにツモ
と3メンチャンながら片アガリへと待ち替えする井出。

ヤミテン。ドラを重ねてリーチにきた下家から、

さらにヤミテンのまま出アガった。

同じ半荘。

 

  ドラ

東三局。村上淳の手牌。
2者の河にピンズが安く、いかにも拾えそうな待ち。が、村上はリーチと出た。

数巡後、村上は3000-6000をツモアガった。

準決勝で終始首位を走り続けた村上と、安定上位を守り続けた井出。

好対照の同回であった。

「ロン。48000。」
準決勝最終日。会場の一角でどよめきが起こった。
トイツ手の名手として名高い土田浩翔から四暗刻単騎待ちを出アガった第3期優勝者・下出和洋。一旦はリーグ2組で敗退したが競争率の高いリバイバルマッチから本戦へ勝ち上がり、準決勝初日も-36.5Pと出遅れるが、二日目に親の役満を含めた108.6Pを叩き出し、2位勝ち上がりとなった。

そして四人目。やはり初日マイナスの位置から2・1・1・2と好着順によりポイントを伸ばし、もともとのボーダーを争っていた数名を横目に勝ち上がりを決めたのが、通称「スーパーデジタル」小林剛だった。

村上淳   最高位戦Aリーグ。日本プロ麻雀協会主催第8回日本オープン優勝。

下出和洋  麻将連合(ミュー)トーナメントツアー選手。第3期最高位戦クラシック優勝。

井出洋介  麻将連合(ミュー)認定プロ。

        第16・17・18・20・25期麻雀名人位。

        第19期最高位。第28期麻雀王座。

        麻将連合主催第2・4・12回ビッグワンカップ優勝。

小林剛   麻将連合(ミュー)認定プロ。第3・7期麻将連合将王。

以上の4名が決勝10回戦により優勝を争う。

一回戦 起家から、村上・下出・小林・井出の並び。

一つ咳払いをした村上の第1打が闘牌の始まりだった。

6巡目、その村上がわずかに手を止める。

 

 

  ドラ


もうタンヤオしかないであろう牌姿。小考しての打牌は、
。神経質過ぎる、と思うかも知れない。だがやはり連翻の打ち出しには確認を入れた。

第1打とした村上はすでにピンフに有効な客風牌・老頭牌は

切っていっているのだ。


続けて
と引き入れた村上。

 

  ツモ


でテンパイ。ここでヤミテンとする打ち手は珍しくない。の出を期待しなくとも、の2900、またツモアガリならば十分、と考えてもいい。
が、村上の選択は違った。
「リーチ。」
ドラツモの最高形がある手で息を殺して安目の2900を待って何になるか。

ツモアガリ場合のアガリ点は十分なのではなく、リーチの場合との得点差は

失点との見方もできる。その方が流局しての1000点のビハインドより明らかに

大きい。それが村上の判断だった。


5巡後、やはり村上が発声した。


「ツモ。4000オール。」発声、そして姿勢が実に堂々としている。

 

  ツモ


開局から村上が大きく先行した。

1本場。村上を追うべく小林がテンパイを入れたのが11巡目。

 

 

  ドラ ツモ


前巡の打牌が
。ダブルメンツを嫌った形だが、確定のピンフも見切っていて、構想どおりのテンパイ。

が、その2巡後にアガリを宣したのは井出であった。

 

  ツモ

 


1本場で1400-2700。村上追撃への名乗りを上げた。

東二局も点棒が動いた。

まずは南家・小林がテンパイ。

 

                                                  

       (加カン)  ドラ


これに村上が追いつく。

 

  ツモ 打

 

この直前に村上がをツモ切っていたのだが、3巡後の荘家の下出の

井出がロンをかけた。

 

  ロン

井出の5巡目、

 

 

  ツモ

から、の2枚出を見て打と引き入れてテンパイした。

井出の手順を見て、日本プロ麻雀協会、「東大は出たけれど」の須田良規氏が、「井出さんのサンショクの手作り、きれいですね。」と感心していた。
このルールから積み場300点を無くせば、それがそのまま麻将連合の

リーグ戦のルールである。そしてこのルールでは、2翻役の威力は大きい。

この後、村上へ小林から2000。村上から下出へ1300、と細かい動きがあって

東場が終了した。

南一局。ドラは。ここで局面が加熱した。


井出が9巡目にテンパイを入れる。

 

 ツモ

  
前巡ツモ
で打とスリムに構え、構想どおりのテンパイ。ヤミテンとした。
次巡、小林がリーチ。

 

   (↓)                     (↓)

(リーチ)
(↓)はツモ切り

この小林の河に対し村上が手出し、下出がやはり手出しで

井出は無筋ではあるが村上の現物と1牌は押し込むのだが次巡、

3人に通っていないを掴まされてテンパイを崩す。

ヤミテンの利を生かす井出のフォーム。しかし、これほどにぶつかり合うのも

珍しいだろう。
そこへ下出が
ツモ切り。思わず手牌のに視線を落とす井出。だが、

 

小林 

 

は小林のロン牌。が、井出のでの小林のアガリはなかった。

 

 

村上  


実はこの局のテンパイ1番乗りは村上。5巡目のカン
から待ち替えての

テンパイ形だった。
下出の
がすり抜けた、次の小林のツモ切りで本局の決着がついた。


下出「ロン。」

 

ロン

ドラシャンポンの5200。村上が序盤に
、小林がリーチ前に

1枚ずつの出。それにしても、と3種のロン牌が前後していたのだ。
局後、下出に質問してみた。

「おそらく最終手番まで崩す機会のない手。追いかけてリーチは?」
下出、

「確かに崩さないでしょうが、枚数上の不利も見えています。

失点を上乗せすることもないと思いました。」
第3期覇者の明確な回答であった。

南二局。ラス目に落ちた小林のツモアガリ。

 

 ツモ ドラ


南家で場に
1枚切れ。リーチと出れば倍の収入であったが、それでもヤミテンとしたのは、ドラが見えていない不穏さに対応したもの。

手堅くアガってオヤ番を迎えた小林だが、下出に3巡目リャンメンのチーテンと

厳しく出られ、回り込んだ井出の500-1000のツモアガリで流されてしまう。

オーラス。トップ争いは村上とラスオヤ井出の800点差が焦点となったが、

 

 

村上    ドラ


上家の
チー、またポンのシャンテン取りには見向きもせず、

結局はメンゼンの最短テンパイで下出から出アガリ。緒戦の1勝を手にした。

村上+22.1 井出+12.0 下出-10.2 小林-23.9

2回戦 村上・下出・井出・小林

東一局 ドラ

起家の村上の10巡目。

 

  ツモ ドラ


ここで
を抜き打った村上。ドラの見えていない局面で和了に見切りをつけた

わけだが、手を崩して放銃を避けようという場面であったからか、

村上にその特徴が出る。
打ち手というのは相手の手牌進行を河だけでなくその動作、呼吸などからも常に読み取ろうとするものだが、村上の場合、首から卓上に乗り出すようにする。

また、普通は自身の視界の外に相手の様子を窺ったりするものだが、

村上はまともに相手の顔を見つめる。直視、と言っていい。
同じく手仕舞いの小林はちらり、ちらりと目線だけを動かしていた。


この局、息を殺していたのが井出。

 



このイーシャンテンになったところで、村上がメンツ抜き打ちに出た。
この時点で
とも山に2枚生きだったが、この局アガったのは下出。

 

  ツモ

この苦しくもなさそうな待ちが実はラス牌のツモアガリ。

やはり井出の気配を注視していた下出。止め時の判断にこちらは差し当たり、

顔色には出さず腹筋にのみ力が入っていた、といったところであったろうか。

流局をはさんで東三局。(全体牌譜。2回戦東三局1本場)

最初に動いたのは小林だった。

 

  ドラ


この形から井出のトイツ落しの
をチーしたのは、いかにも格好にこだわらない小林らしい。
この小林のやり方を知っているからだろうか、眼中に無しと言わんばかりに井出が降ろした
をさらにチー。その時点での小林の手牌が、

 


に井出が仕掛け返し、とかなり目まぐるしくなった。
次巡、小林はドラ
を重ねるがここでやっとリャンシャンテン。


その同巡の村上。

 

  ツモ


シャンテン維持もあるが、村上は打
とした。数牌とはいえソーズの生牌を

切り出していけば、寄せの意図は明瞭。が、村上にすれば、ソーズをぶら下げたまま翻牌を鳴かれたくはない。
数巡小林のツモ切りが続く。井出も進まないままに
と掴まされて

まっすぐに打てなくなっていた。


膠着状態になった。 ただし、13巡目までは。


村上の
手出しに3人とも、(おや?)と思っただろうか。

村上の手はマンズに寄せられている。たとえトイツ落しだろうと、受ける気ならを打つことはない・・・。
答えはすぐに出た。次巡、
手出し。
もう明白だった。
を切り出した時点でイーシャンテン。さらに、イーシャンテンでを打ち出せるほどの牌姿だったのは間違いない。

そして打ちでテンパイは歴然。


この間も小林の
打ち、それを井出がポンと丁々発止は続いていたが、

村上の打ちでこれまでかと思った。そして私の観戦位置は村上の後ろ。

アガれば村上の連勝が濃厚である。
が、終わっていなかった。村上の一撃を嫌ってわずかな終局の可能性を狙った

井出が、フリテンのカンチャン待ちを維持したツモ切りに

小林が声を出したのだ。


小林「チー。」


。ギャラリーですら目を瞑りたくなりそうなマンズ打ち。確かに高め18000ではある。ここでは引かないのが小林の計算なのか。


村上が牌山に手を伸ばす。そしてツモ切った・・・。

何の力も入っていなかった。一瞬の遅滞もなかった。

まるで共通安全牌を切るように。


この手牌からであれば、
をツモ切ること自体は驚くに当たらないだろう。

だが村上は場を見渡すわけでなく小林の手牌に目を向ける素振りもなく、

無造作にを捨てた。
普段、リーチもかかっておらず何の仕掛けも入っていない場面で呻吟している

村上は珍しくない。だからこそ、こののツモ切りには、これぞと言える迫力を

感じたのだ。

結果は譜のとおりの流局。
対局者4人は何事もなかったように手牌を伏せ、洗牌に入った。ただ、ギャラリーの中からはいくつかの溜め息が漏れていた。

流局して2本場となった東四局。前局の熱を冷ますように決着は早かった。


村上の7巡目。ドラが

 

ツモ


と早いテンパイ。出アガリについてはリーチの効率が高いが、
がドラ表示に

1枚、河に1枚。が生牌なのは必ずしも好材料ではなく、ヤミテン。すぐに出た小林のに、村上の「ロン。」と井出の「ポン。」が重なった。3900は4500。

南一局にはタンピンドラ1高目サンショク、南二局には食いタンヤオドラ2と

小林がテンパイを入れるも流局。
南三局2本場でやはり食いタンヤオドラ2の1000-2000は1200-2200を

やっと小林がツモアガリ。


小林のラスオヤ、南四局を迎えた。

オーラスを迎えた時点で、村上←500下出←2100小林←2300井出、という

点差。

10巡目に下出のポンテン。

 

  ポン 打


だが、1巡早いテンパイはラスオヤの小林だった。

 

   ツモ 打


前巡打
と戻して、最高形に。
下出はツモ
で当然と振り替えたが、下家の井出からのポンで

上家の村上に流している。が、鳴かなければというのはもちろん結果論でしか

ない。


終局間際に小林がツモアガった。

 

  ツモ


ドラが安目の2600オール。
一気に小林が抜けて1本場。
2着争いが焦点となったが、イーシャンテンの村上が用無しと降ろしたドラで下出がチーテン。メンゼンタンヤオテンパイで連荘を目論む小林から2000は2300の出アガリ。1回戦トップの村上がオーラスで2着順落とした形で、

2回戦が終了した。

2回戦 小林+16.9 下出+5.2 村上-4.6 井出-17.5

Total  村上+17.5 下出-5.0 井出-5.5 小林-7.0

3回戦 村上・小林・井出・下出の並び。

開局早々に村上のツモアガリ。

 

  ツモ ドラ


700オール。リーチで高め2600オールがあるが、この辺りのバランスは打ち手

個々に微妙なところ。

1本場。

11巡目に小林が井出からの出アガリ。

 

  ロン ドラ


小林は第1打東としており好配牌を思わせたが、ドラ2枚は3・4巡目の連続引きであった。3900は4200。

東二局。
村上の5巡目。

 

  ツモ ドラ


場に
2枚、2枚。ドラメンツ未確定にメンゼンのこの時点では打とも

思われたが、村上は雀頭の最高形を目指して打とした。
カン
と絶好のツモの後、をツモ切ったもののすぐにツモ

テンパイ。
ツモアガリでハネ満までの大物だが、アガリは小林だった。


8巡目、

 

  ツモ


将来のダイレクトなカンチャン待ちを嫌い、ツモ次第ではピンズのリャンメンを

生かす、打といった。
すでに完全イーシャンテンとなっている上家の村上から
が降りて、あっさりのチーテン。その次巡のツモが。1巡おいて村上がテンパイを入れると同時の

アガリだった。

 

   ツモ


4000オール。前巡まで、村上と同テン。横棒1本で悲喜は枝別れしていた。
1本場。たて続けのアガリで好調ムードの小林にまた手が入る。


8巡目、

 

  ツモドラ
当然の
。そしてヤミテン。
が、次巡の
で井出への放銃となった。

 

 

井出  


井出の河は、

 

            (↓)(↓)(↓)    (↓)


と、いずれも初物を飛ばしてのテンパイ。「ロン」と言われた瞬間覚悟するメンホンだが、オヤ番でドラ2のテンパイでは押してしまうところか。

5200は5500。

次局はやはり10巡目に小林のアガリ。

 

  ロン ドラ


2000。下出の放銃だが、この時の村上の手が、

 


シャンテンとは言え、当然河にも前に出ている気配が映る。複数者にバランスよく手を組まれてそれが順調に進めば、受ける側も難しくなることが多いのだ。

東四局は村上が仕掛ける。

 

  ドラ


この配牌に第1ツモ
。打でなくといったのは、半ば捨てる局と見たの

だろう。
が、
と重なったところでポンと動いた。

 

 

  


いかにも重いが、間に合わなければ受けが利く。さらに、このルールで

翻牌含みのホンイツは威力が大きい。
この後、
と引き込みテンパイする村上だが、それ以前に村上の門風のを放っていた井出が下出からアガった。

 

 

 

  ロン


マンズが安いと見ての
勝負。下出も見えてはいたのだろうが、村上とに

挟まれて完全に手詰まりからの放銃。1300。

この後流局が続き、南三局は2本場からとなった。

細かい放銃が崇ってラス目となっていた下出に好手が入る。


3巡目、 

 

  ツモ ドラ

妙味のある変化を考えれば仮テンよりむしろ優る、と打
のテンパイ崩しとする。次巡のツモでは変化の多い仮テンに。さらに次巡、完全に整った。

 

 

  ツモ


当然の打
リーチ。次巡のツモ、ドラは手筋の外。長引いたが17巡目のツモで1300-2600。オーラスを2着目で迎える大きなアガリとなった。

南四局。
14巡目に村上の手が止まる。

 

 ツモ


は河に見えていないが、これがドラ。2着目でラスオヤの下出とは1200差。が、1100差でラス目の井出も気配を出している。
潔く
を抜いた村上。次巡続けての切りにも遅滞は見せなかったがその

ツモ牌はであった。


終盤、小林の打牌で井出がアガる。

 

 ロン


オヤの下出はオリを見せていたのだが、

小林はメンゼンタンヤオ、ツモりサンアンコのテンパイからのツモ切りであった。
「そっちでもツモアガリならなあ。」と、ジェスチャーをして見せる井出。

確かにツモアガれば2着となっていた。しかし、トータル首位の村上との着順逆転は果たしたのだ。

3回戦 小林+20.5 下出+1.8 井出-6.9 村上-15.4

Total 小林+13.5 村上+2.1 下出-3.2 井出-12.4

4回戦  小林・村上・下出・井出。

東一局ドラ。13巡目。

 

村上 

 

  ツモ


下出はすでにテンパイからの待ち替え。

 

  ツモ 打

 

井出

 

  ツモ 打


起家の小林はすでに手仕舞いしている。
は河には見えていないが山残り1枚。はカラ。下出のが2枚残りなのだが、その下出がさらにを手から切ってきた。
井出は9巡目に、

 


から
を外した。ドラのペンターも4巡目にすでにを決め打ってのもので、

13巡目は正にドンピシャ。だからというわけでもないだろうが、井出は相当な

手応えを感じていたのだろうか。ツモ番1回を残してツモ切ったに下出が

ロンをかけた。

 

 

 ロン


3900。「ロン。」には少し意外の響きがあった。

東二局。下出の続けてのアガリ。

7巡目に入れたテンパイが、

 

  ツモ 打 ドラ

 

そして10巡目、

 

  ツモ


他家の河には
が1枚ずつ見えている。下出の選択は打

3巡後、違わずをツモアガったのだが、下出の待ち替えの10巡目、

 

小林は、

 

  ツモ 打

と一手違い。全体譜には通常見えない明暗が数多く見られる。

東三局。オヤ番を迎えた下出にやはり手が入る。

 

  ドラ


この配牌にツモ
、さらにツモと引いたところでをポン。

役無しながらテンパイの村上からのをチーしてテンパイ。

 

    


3巡後の12000確定の
はツモ切った。今さら、と思うかも知れないが、待ちを絞り込まれる懸念は打ち手にとっては理屈抜きに避けたくなるものだ。
この局は役無しのカンチャン待ちの選択を捉えた村上のツモアガリ300-500で終わったが、陰に隠れたもう一人の主役が小林。

下出のチーに遅れること3巡。

 

 

  ツモ


ポンで片面出切れのマンズが埋まる、絶好のテンパイ。が、恐らくはドラ入りで

あろう下出に頭を下げた小林。一局の結果を左右した手仕舞いであった。

東四局は村上がドラの門風、の先付けのひと鳴きテンパイを入れるが、

一人を掴んでいない下出がオヤの井出からピンフのみ1000のアガリ。

南入。
他の3者が遅い中、井出に8巡目テンパイが入る。

 

  ツモ ドラ


もちろんドラ
単騎に受ける。次巡ツモで、これなら、と井出はを曲げた。
オヤの小林とは4900差。2着目の村上とは5700差。
このリーチは流局した。

リーチ棒が供託されて南二局一本場となった。
ここでも井出に早いテンパイが入る。6巡目、

 

  ツモ ドラ


でテンパイに取る井出。河には3枚見えている。ヤミテンに構えた

井出は次巡のツモでは打と、役無しとは言えリャンメンテンパイを崩した

のだ。そしてさらに次巡のツモが

 


絶好の仕上がり。井出は静かに
を河に置いた。ヤミテン。

私の観戦位置は井出の後ろで上家の下出の手牌が一部見えた。

萬子部分にが見える。

(薄いのか・・・。)思うのと井出がをツモアガるのがほとんど同時だった。


500-1000は600-1100のアガリ。前局出したリーチ棒こそ手元には戻ったが順位はラス目のままである。当然、井出には下出の手は見えていないが、

ツモアガリの瞬間の心境はどのようなものであったろうか。

流局をはさんで南四局。
最初にテンパイを入れたのがトップ目・北家の下出だった。8巡目、

 

 

  ドラ


村上の河が、

 

と、萬子が安い。

他には小林がを切っているだけ。
下出の選択は打
のヤミテンだった。さらに、このテンパイ取りに下家の井出がをツモ切るが下出は動かない。この時点であれば、はほぼ安全牌である

にも関らず、である。
重く構えたものだが、出アガリは利かないのはともかくこの絶好に見える

が村上が1枚ツモ切った他はまったく顔を見せない。終盤を掴んで、

これは当たらないまでも井出のテンパイを助けかねないと手を崩した下出。

とたんにとたて続けにツモってきたが、もはや流局を祈るばかり。
2着の村上に300差の小林が2巡を残してテンパイを入れる。

 

  ツモ


小林の2巡目の打牌が
であるが、もうリーチには出ないのでフリテンは

関係ない。打のテンパイにとった小林。次巡のツモが
流局。下出の1勝目となって4回戦が終了した。

4回戦 下出+18.5 村上+2.7 小林-5.6 井出-15.6

Total 下出+15.3 小林+7.9 村上+4.8 井出-28.0

5回戦 村上・小林・下出・井出。

東一局。下出の3巡目テンパイ。

 

  ドラ


尻上がりに好調となっていくように見える。さらに5巡目に
に待ち替え。
井出は10巡目にテンパイ。

 

  ツモ 打


ここに村上がリーチ。村上の10巡目は、

 

  ツモ


ここから
3枚、1枚切れを見て打とする村上。次巡がドンピシャの

 

 


井出が1手早いリーチを打っても村上の進行は打
。リーチもおそらく同じで

あったろう。
意外だったのはこの村上に井出がツモ切りで追いかけリーチに出た。

4メンチャンかどうかはともかく、苦しいリャンターを外してきたオヤに対して

わざわざめくり合いを挑むのか。
井出の真意を読み取る時間はなかった。井出のリーチ打牌が下出のロン牌の

であったのだ。

東二局。村上が4巡目にドラのをツモ切る。

3巡目に国士無双のリャンシャンテン。さらに6巡目イーシャンテンとなるが、

井出がをポンして1翻の1000点で捌く。
村上は仕方無し、の表情。
が、井出の
ポンの前巡、すでにオヤの小林がテンパイを入れていた。

 

  ツモ 打


この待ち牌が山残り4枚。またもやの地雷がやはり埋まっていた。

東三局。井出が4巡目にチーテン。

 

 

    ドラ


2翻増しの振り替わりも見込めるが、井出にツモ番を回すことなくアガったのは
村上。

 

  ロン

 


ドラと振り替われば初戦開局のようにリーチもあったのだろうか。
振り込んだ下出、

 


ここまでが大物の潰し合いの応酬、いったところか。

東四局。は井出は連荘狙いのチーテン。

 

  


一度は
をスルーしたのだが、見る間にが枯れて妥協したチーはすでに

4枚目。が、村上がしぶとく回し打って役無しドラ1ツモの500-1000で連荘を

阻止した。やはり小場で回っている。

南一局は緊迫した場面となった。


小林が3巡目リーチ。

 

  ドラ


高めが頼りなく感じる牌姿。が、リーチなら安目のツモアガリでもトップ目に

立てる。
同巡の井出。

 

  ツモ


の暗刻落とし。)私はまず、そう思った。
ストレートにテンパイしてもまずは1300の手。サンショクまで見るには巡目を

要する。ならばいったん戻すことによって懐を広げて情報量が増えてから

押し返す。一般的な手筋であろう。
が、井出の選択は、打
。ストレートなイーシャンテンに構えた。この後もきわどく押し返しながら、結局ツモが利かずに終盤オリに回る井出。
が、代わりに小林に追いついたのは村上であった。13巡目の追いかけリーチ。

 


小林は肝を冷やした筈。ドラ含みのリーチは間違いないところ。待ち形も弱くは

ないだろう。
流局。2本のリーチ棒が場に残った。

南2局1本場。供託をめぐる攻防。
オヤの小林のリーチは11巡目。

 

 ツモ ドラ


オヤ番。役無し。供託2本。スーパーデジタルの異名を取る小林ならずとも、期待値大、と判断するだろう。当然リーチと出た。
先に仕掛けていた井出も、それは同じだった。

 

  


小林のリーチの同巡、ツモ
でテンパイが入る。高めのはドラ表示含め3枚見え。まずはテンパイ取りの。これはリーチの入り目で当然無筋。

さらにと押す。
アガリは出なかった。
さらに供託が積み上がった。

南三局2本場。
トップ目のオヤ・下出に5巡目テンパイ。

 

  ツモ ドラ


供託が3本。繰り返しになるが、アガリの効果は通常に比して非常に大きい。
下出、さほど考える風でもなく、打
のヤミテンを選択した。
終了後、「トップ目でしたから。」と、下出。あくまでも自分のバランスを

見失わない。
そして、次巡がツモ
。他家は苦形のリャンシャンテンまでだった。
ツモのみ。500は700オール。
3本のリーチ棒はリーチをかけなかった下出に回収された。

南三局3本場。(全体牌譜 5回戦南三局3本場)
 
井出が仕掛けたのは3巡目だった。

 

  ポン 


重い。遅い。足りない。特に連翻の
が難しく見える。
ツモが利く。急所が鳴ける。その二つが同時に必要な手牌に私には見えた。
が、すぐに見落としに気づいた。現在ラス目の小林の立場である。
小林は自分のアガリで着順を上げるのがベスト。この狙いの場合、当然

手牌から打ち出される牌である。井出に鳴かれた場合、どのような展開になるか。
現在トップ目の下出と井出の点差は8500。3本場なので、1300-2600以上のアガリで逆転する。
下出はトータルトップ目であるので、優勝を争う上で井出が満貫級のツモアガリをすることは、自力による着順アップと同等の価値があると思っていい。
2巡後、小林からの
を鳴いた井出。さらに強力なツモ

アガリの現実味が一層濃くなった。
ここからは自力で見込める、そう思った井出の目に小林の打
が飛び込んで

きた。
「ポン。」の発声も驚いていた。
(小林も入ったか。しかし、
はよくぞ腹を括ったものだ・・・。)
が、小林はイーシャンテン。いずれ
のどちらかが余るならメンツを組易い筒子の受け入れを残した、ということか。
が、ツモ
ではさすがにオリた。しかし、そこでも小林は卓上をねめ回すように

長考していた。仮に結果無残な放銃となっても、要は正着であるかどうかだけが

常に小林の焦点なのだ。
井出の「ツモ。」の声と同時に、私は目を落としてメモを取り始めた。「3000-6000は3300-6300。」の申告でそのアガリ牌を知った。

オーラスは流局。下出がツモリ三暗刻のテンパイを入れたが、やはり慎重に

ヤミテン。逆転されたことによって冷静さを失うこともなく、村上との2着争いに

隙を見せなかった。

5回戦 井出+22.6 下出+3.9 村上-7.0 小林-19.5

Total 下出+19.2 村上-2.2 井出-5.4 小林-11.6

最終戦、井出のトップによりレースは短くなった。下出が一つ抜け出してはいる

ものの、残り5回戦。まだ趨勢は見えてこない。


最終回まで。最終局まで。そして最後の1牌までも戦い抜く姿を

4名のファイナリストに期待しつつ、一旦前半の筆を置くこととしたい。
                                       (文中敬称略)
 
                     社団法人日本麻雀101競技連盟 萱場貞二

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