コラム・観戦記

第15期女流名人戦観戦記・後編

第15期女流名人を決める戦いも、遂に残り1半荘。

 

激戦を勝ち抜き決勝へ残った選手4名を早速紹介させて頂こう。


1位通過:眞崎雪菜(+73.0)

日本プロ麻雀協会所属、第4,5期女流雀王を連覇した協会を代表する女流選手の1人である。

私はこの決勝大会で眞崎の麻雀を観戦した中で、局面ごとでの損得勘定が非常に長けている打ち手であるという印象を強く受けた。


豪快な打点力の陰に潜む緻密な計算力、それが強さの源なのだろう。

5回戦まででトータル3位だった丸山が戦線離脱、2位の朝倉もポイントを大きく減らし、1人抜けた状態で臨むことになる決勝戦。

 

「かなり私に有利な展開になってますよね。」

 

決勝前、スコアを確認しながらそう私に一言話しかけてきた中でも決して余裕な表情は見せない。
数々の大勝負を経験してきた彼女にとって、油断という大敵はいなさそうだ。

 


2位通過:谷崎舞華(+34.1)

今回より最高位戦主催となった女流名人戦、その記念すべき大会で主催団体唯一の決勝進出を果たしてくれたのがこの谷崎。

最高位戦に入会した31期後期より古久根英孝氏の下で指導を仰ぎ、リーグ戦をはじめ精力的な活動をしている若手選手である。

 

そして観戦記の前編でも少し触れたが、谷崎にとっては2年連続の舞台となる女流名人戦の決勝。

 

「2年連続で悔し涙にならない様頑張ります。」

 

昨年はオーラスをトップ目で迎え優勝まであと一息の所まで行くも、北島朋子の猛攻の前に涙を飲んだ。

今年はポイント差を考えるとかなり厳しい戦いではあるが、当然最後まで諦める気は無いだろう。

 

 

3位通過:朝倉ゆかり(+32.5)

日本プロ麻雀協会所属、言わずと知れた現女流雀王。

 

この2年間で協会新人王、マスターズ、女流雀王と3つのタイトル戦で決勝に進出しており(新人王と女流雀王では優勝)、女流名人が実に4つ目の決勝の舞台。
今最強の女流選手と言っても過言ではない。

 

5回戦目で今日初めてのラスを引きポイントをかなり減らしたが、決勝大会に残った16人の中でもやはりその実力は際立っている様に思えた。

 

「やれることをやるだけです。」

 

決勝前にそう短くコメントした後、少し笑いながら付け加える。
「でも、眞崎さんやっつけます。」

 

現在トータルトップを走るのは同団体の先輩であり、歴代女流雀王でもある眞崎。
好敵手を前に静かに闘志を燃やしている様だ。

 


4位通過:藤戸眞由美(+26.8)

予選からの一般参加組で唯一人決勝に残った藤戸。
5回戦開始時点ではほぼ絶望的とも思えた条件を見事クリアし、最後の切符を手にした。

決勝進出が決まったことを伝えられると、どうやら驚きを隠せない様子。

 

「私が残っていいのでしょうか…。でもここまで来たら最後までプロの方々に胸を借りるつもりで頑張ります。」

 

今回の女流名人戦には、アマチュアの競技麻雀愛好家として非常に有名な芝美穂子さんに誘われての参加したとのこと。
普段は銀座近辺の雀荘で行われる麻雀大会等に出ているが、こういった競技タイトル戦に出場したのは初めてだそうだ。

 

和気藹々とした大会をイメージして参加したらしく、想像していた雰囲気との違いに戸惑いながらの決勝進出。
台風の目となるか!?

 


まず開局前に注目すべきが選手の並びだが、起家から以下順に決まった。
谷崎(+34.1)
朝倉(+32.5)
藤戸(+26.8)
眞崎(+73.0)

 

これは正直眞崎にとって最高の並びである。

 

まず、自分がラス親なのでオーラス(自分がトータルトップ目のままであれば)伏せれば優勝することができる。
そして谷崎、朝倉、藤戸とトータルポイントとは逆の順でラス親が潰えていくことになる。
更に上家はトータル4位の藤戸。藤戸は優勝の為には一番ポイントを叩かなければいけない分、眞崎の仕掛けに対してケアする局面が少なくなるだろう。

 

並びが決まった瞬間に肩を落とす谷崎と朝倉。

 

しかし憂いている時間など無い。いよいよ第15期女流名人を決める最後の半荘がスタートした。

 

決勝卓

 


さて、いきなりだがこの決勝戦の結果を先に書いてしまおう。


眞崎が危なげなく優勝を果たす。

追いかける3人は誰も彼女に大きな傷を負わせることはできず、逃げ切りを許してしまった。

 

 

しかし、その戦いの中でも各選手が必死となって眞崎に傷を負わそうとした爪痕は、確かに牌譜に残っていた。

わずか9局という短い半荘、折角なので東1局から最後まで順に振り返らせて頂きたい。

 

 

東1局0本場 親:谷崎 ドラ

起家谷崎の配牌

 

極めて悪いとは思わないが、時間はかかりそうなこの形。第一打にとする。 

 一番配牌が良かったのは眞崎、7巡目にポンの発声をして以下の様になった。
 ポン

 

確かに形は悪くない。

しかし逆に言えば中張牌だらけなので他家からの押し返しがかなり怖い形でもある。
ポイント的には既に抜けており、ラスだけは引いてはいけないこの半荘。ポンの発声が少し躊躇い気味に聞こえたのも、眞崎本人がそのリスクを分かっているからであろう。

 

眞崎がポンしたことで、下家の谷崎に喰い流れた牌は。打として以下牌姿。

 

2巡目以降のツモが何とあの配牌がホンイツイーシャンテンに化けていた。
しかもはまだ全ヤマ。面前で聴牌して眞崎から直撃すれば逆転優勝も現実味を帯びてくるだろう。

 

しかしこの後谷崎は有効牌を引けない。
一方眞崎はあっさりと聴牌し、11巡目に谷崎から出アガリ。
 チー ポン ロン

 

谷崎、第一の矢は惜しくも眞崎に届かなかった。

 

 

東2局0本場 親:朝倉 ドラ 裏ドラ

第二の矢を放つべく賽を振った朝倉の親番。しかし5巡目にまたも眞崎からの発声。

 

「リーチ」

 

優勝を決める決定打を出すべく、退路を断っての宣戦布告。

これを受けた朝倉、眞崎からの直撃を狙うべく当然真っ向勝負を挑み、6巡目には以下の形。

 

チートイイーシャンテン、あわよくば更にその上も見えてきた。ちなみには朝倉から見て全て生牌である。

 

そして次巡、対面の眞崎からがツモ切られるも、朝倉はこれをスルー。

平素の朝倉であれば、先制リーチ者に対してこの不安定な仕掛けで応戦することは、おそらく選択肢には無いのだろう。


まず鳴けばトイトイ三色同刻に必要とな以外の牌は全てツモ切らなければならない。
そして自分のシャンテン数が変わらない上に、眞崎に対して最低でもと二つの無筋を切り出すことが必須となる。
それならば切られたを安牌候補にして面前で柔軟に構える、確かにこの方が受けとしては優れている。

 

しかし、この局面に限っては攻めの一手を打った方が良かったのかもしれない。

 

何故ならトップをひた走る眞崎が無防備な構えを見せているこの局面、オリることがあまり考えられない。
分が悪いとは言え、この手はを仕掛ければトイトイ三色同刻のイーシャンテン、最安値でも5800コースが確定する。
自分が優勝する為には素点を稼ぐ必要があるし、更には眞崎からの直撃が欲しい。

となれば、朝倉も鳴くかどうかをかなり迷った筈だ。

 

どちらが正しいと断定はできないが、結果論で言えばこのスルーが今期女流名人戦の決定打を生み出すことになった。

次巡、眞崎の手元に引き寄せられたのは
 ツモ

 

愚推だが朝倉がを鳴いていれば、次巡のを喰い取りこうなっている。
 ポン

 

この場合お互いのアガリ牌はヤマに残り2枚ずつ、もし眞崎がを掴んでいれば暫定とは言え朝倉がトップになっていた。

 

実際は眞崎が裏を載せて2000・4000のツモアガリ。いよいよ優勝へのカウントダウンの始まりである。

 

 

東3局0本場 親:藤戸 ドラ 裏ドラ

谷崎が5巡目にリーチ。7巡目にメンタンピンドラ一の好形イーシャンテンになった朝倉から和了。
 ロン

 

ツモれば三暗刻もつく大物手だが、出アガリの裏無しでは喜びも少なめと言ったところか。

 

 

東4局0本場 親:眞崎 ドラ

何としても他の3人は直撃か親被りをさせて素点を削りたい。

そんな眞崎最初の親番、澱みない手順で15巡目に聴牌。

 ポン

もはや安い点数が欲しい局面でもないが、自然な手順での聴牌取り。一方このを切った対面の朝倉も同巡に聴牌していた。


 

ツモって満貫、眞崎に親被りをさせることができる手だが既に空テン。

さらに次巡、南家の谷崎がリーチ。

こちらはリーチ時点でヤマに3枚残っていたが和了できず。結局朝倉、谷崎の2人聴牌で流局。

 

谷崎、朝倉と幾度も攻撃を仕掛けながらも、なかなか眞崎の牙城を脅かすことができない。

 

 

南場を迎えた時点で点棒状況と現状のトータルポイントは以下の通り。
谷崎 29200(+38.3)
朝倉 23800(+11.3)
藤戸 27000(+18.8)
眞崎 39000(+97.0)

供託 1.0 

 

眞崎、残すは他家3人の南場の親を潰すのみ。

 

 

南1局1本場 親:谷崎 ドラ

谷崎最後の親番、12巡目にまたもツモり三暗刻の聴牌となりリーチ。

 ロン

 

これに終盤藤戸が手詰まってを放銃。裏は載らずに3900は4200を和了し、まずは連荘に成功。

 

 

南1局2本場 親:谷崎 ドラ

谷崎の牌姿が良い、わずか3巡目でこの形。

当然どこが入っても即リーチだろう。何より都合の良いことには眞崎と持ち持ち、はまだ誰も持っていない。
即ち早い巡目にが埋まってリーチできれば眞崎からの直撃が十分に有り得る状況になっている。

谷崎に与えられた最後にして最大のチャンス、2人の間で見ていた観客は誰もがそう思ったことだろう。

 

しかし、この簡単に埋まりそうながいつまでたっても持ってこれない。おまけにも河に出ることなく谷崎はツモ切りを繰り返す。
そうこうしているに先制聴牌が入った藤戸がリーチ。

 

リーチ後も当然イーシャンテンを維持する谷崎だが、14巡目に分岐点。

 ツモ

 

選択肢としては藤戸の現物であるの順子落としか、どちらかの対子落としだろう。
はリーチに対して無筋なので切れる牌ではない。

 

谷崎の選択は切り。
聴牌する為に必要な牌で一番ヤマにいそうなのはだが、どちらも生牌では確かに河に置きづらい。

 

そして次巡、谷崎が持ってきたのは無情にも
結局この手が聴牌することはなく、無念の親落ちとなった。

 

 

南2局3本場 親:朝倉 ドラ 裏ドラ

今度は朝倉最後の親番。
しかし6巡目にリーチの発声は谷崎から。

 

朝倉もタンヤオ形の牌姿で追走するが、中盤過ぎに藤戸が切ったであっさりと谷崎が和了。

 

 

率直に書くが、谷崎が最後まで”優勝のみ”を目指していたならば、この局のゲーム運びだけは苦言を呈さなければならない。

 

もう自分の親が流れて素点を稼ぎたい気持ちはよく分かる。しかし既に自分”だけ”が素点を叩くだけでは手遅れな状況にまで追い込まれているのだ。

 

現実的な話、谷崎が眞崎を捲って優勝するにはこの半荘自分のトップに加え、朝倉か藤戸のどちらかが眞崎より上の着順になってもらう必要がある。

 

そしてこの2人が眞崎を捲くれるチャンスはもうこの2局(朝倉、藤戸それぞれの親番)しか残されていない。

それをこの手で安く蹴ってしまうのは自らの首を半分絞める行為になりかねない。

 

裏ドラがだからこそ最悪の結果とはならなかったが、優勝条件を考えた上では決して誉められた選択ではない。

私が谷崎の立場であれば、フリテン覚悟で三色になるまでダマテンにして、出た牌は全て見逃すだろう。仮にリーチを打つとすれば、眞崎が先制してきた時くらいか。

 

自身が優勝する為にはもうそれ位のことを実行できる判断力が無ければ、打ち手として力不足と表現せざるをえないし、仮に見逃すつもりだったとしても和了した事実が経験の稚拙さの表れだと私は思う。

 

どこまで書くか悩んだが、今回決勝に残った唯一の同団体選手として敢えて辛辣に書かせて頂くことにした。

 

 

朝倉も親落ちとなり、いよいよ残すは藤戸の親番のみ。

 

 

南3局0本場 親:藤戸 ドラ

最後の砦となった藤戸。途中ドラドラのイーシャンテンまで漕ぎ着けるも、

 

結局聴牌することができず、眞崎と朝倉の2人聴牌で流局。

 

今年の女流名人戦は事実上ここで終焉となった。

 


南4局1本場 親:眞崎 ドラ
迎えたオーラス眞崎の親番はもう流すだけ、今日1日を締めくくるウイニングランである。

波乱を起こせるだけの条件と余力はもはや他の選手に残されてはいない。遂にその時が訪れた。

 

 

第15期女流名人は眞崎雪菜。


表彰式

 

 

表彰式が終わると、藤戸は私が挨拶をする間もなく会場を後にしていた。

最後まで不慣れな場に戸惑い気味な様子に見えたが、初めて参加したタイトル戦での決勝進出、思い出に残る1日になったことだろう。

 

(あくまで当日話した限りでの推測だが)おそらく御本人は最高位戦のHPや、この観戦記が書かれることも御存じでないと思う。

どなたか藤戸眞由美さんと近々お会いする機会のある方がいれば、こう伝えて頂きたい。

 

“こういう大会もたまには楽しいですよ。また来年もお待ちしています!!”

 

加えて決勝前のインタビューや、対局の撮影などに気兼ねなく応じてくれたことにも、ここで感謝の意を述べておきたい。

 


3位の朝倉は負けながらも、どこか清々しい表情で一言。

 

「やっぱり眞崎さんは強かったです。」

 

悔しさは当然あるだろうが、同じ団体のライバルであり、尊敬する先輩の勝利は素直に嬉しかったのだろう。

 

優勝には届かなかったものの、女流雀王としての実力を十分に見せてくれた朝倉。
今年の女流名人戦は、協会が誇る2人の女王によって席巻された舞台と言っても過言ではない。

 

 

「来年また出直してきます。」

表彰式で短くそう呟いたのは、準優勝に終わった谷崎。

 

優勝と準優勝の間にあるあまりに大きな壁、それを2年連続で味わう心境は察するに難くはない。

それでも今回の決勝で眞崎、朝倉という打ち手と対峙して得るものも大きかったのではないだろうか!?

 

実は本人にまだ伝えていないのだが(おそらくこれを読んで気づくだろう)、最高位戦HPにある彼女のプロフィールを先日勝手に変更させて頂いた。

 

【変更前】
主な活動:第14期女流名人戦準優勝

【変更後】
主な活動:第14,15期女流名人戦準優勝

 

来年は”16″という数字がこの行に追加されない様、更なる奮起を期待したい。

 

 

そして最後に優勝後の眞崎のコメントを紹介しよう。

 

「女流雀王で敗れたリベンジができて良かったです。来年は連覇を目指して頑張ります。」


実は昨年末に行われた
第8期女流雀王決定戦でも対戦していた、眞崎と朝倉。

その時は朝倉の連覇で幕を閉じたが、今日は見事にその借りを返す形となった。


更に打ち上げの席のこと、眞崎が朝倉に冗談っぽく一言呟く。

 

「女流雀王でもリベンジするから!」

 

勝負事など水物だし、まだ今期の女流雀王戦も1節も始まっていない。
それでも彼女が目指すのは、やはり決勝という舞台の先の様だ。

 

眞崎からの挑戦状に照れくさそうな笑顔で返す朝倉、2人の戦いはきっとこれからも続くのだろう。

お互い頂点を極めながらも、尚自身を高め合う好敵手がいる。何とも羨ましく、そして心強い話である。

 

 

 

 

こうして赤坂の居酒屋で祝杯があげられる中、今年の女流名人戦は幕を閉じた。


第16期となる来年はどんな展開が待ち受けているのか、当然まだ分からない。

だが眞崎雪菜という選手の麻雀を見ることができる、それだけでもきっと面白い決勝大会になるだろう。

 

 

 

 


と言うかせっかく主催団体になったんだし、

次は最高位戦勢のリベンジを是非期待します!!!

 

 

 

 

 

でも


こんな強い女王様を倒さなきゃならない選手達は大変だろうな…

 

良かった、俺男に生まれてきて(笑)


(文責 武中 真)

コラム・観戦記 トップに戻る