コラム・観戦記

第3期最高位戦classic決勝戦観戦記その③

9回戦
起家から、出本、金子、佐藤、下出の座順。

9回戦は佐藤の独壇場。オーラスまで、アガった者は佐藤のみ。

東2局1本場 ドラ
まずは、出本の国士に対応した2000を出本から。
 チー ロン

南2局3本場供託1000点 ドラ
またもや2000は2900を出本から。
 ロン

南3局 ドラ
東家佐藤36200
南家下出30000
西家出本23800
北家金子30000
この状況下で、10巡目に以下のテンパイ。

試合後に尋ねると、下出以外からは見逃そうと思ったのだそうだ。
確かに、ほぼトップの決まったこの状況下では、下出の着を落とすことが最善の策であろう。
しかし、これが出もせず、ツモれもせずに流局。
今日の佐藤は勝負所で決めきれない印象を受ける。

南4局1本場 ドラ
ここでも北家佐藤は翻牌アンコの好配牌。

これが6巡目にあっさりテンパイ。

下出がオヤなので、ツモるとオヤカブリで3着へと落とせる。
そのため、これも下出以外からは見逃すつもりだったという。
ところが、これまたアガリ牌が姿を見せない。

アガれないどころか、13巡目に金子の手が止まる。
ホワイトボードとにらめっこの金子。
長考に沈む。
そして数10秒が経過したとき、金子が意を決してリーチを宣言。
腹を括ったというような表情である。

このリーチ、佐藤からすると最悪。
金子からリーチ棒が出たため、ツモった場合に700・1300では下出を3着に落とせなくなってしまったのだ。
これでは、アガっても仕方がないから、佐藤はオリてトップの道を選ぶ。

しかし、これがトップにすらなれないのだから、厳しい。
金子が15巡目に引いたのはドラの
それをこともあろうに、手牌の横に置くではないか。
 ツモ
金子にラス牌を引かれ、2000・3900でトップをまくられる。
ただし、佐藤からすれば、1着順差は変わらず、下出との点差がオヤカブリの1900点分縮まったため、悪い結果ではないだろう。

これで佐藤がトータルトップ目に立つ。

9回戦結果
金子 20.2
佐藤  8.1
下出△ 8.0
出本△20.3

トータル
佐藤 46.0
下出 37.2
金子△ 0.4
出本△83.8
(供託1.0)

10回戦(最終戦)
起家から金子、下出、出本、佐藤の座順。

大まかな条件を確認しておくと、下出と佐藤はほぼ最終戦の着順勝負。正確には、佐藤は下出と800点差以内の1着順差ならば優勝できる(同点の場合は予選上位の佐藤が優勝)から、若干佐藤が有利か。
金子は、上位2人を沈めつつというのが理想だが、とりあえず何も考えず大トップを目指すこととなるだろう。

東1局 ドラ
起家の金子は、ここで連荘による加点をしておきたいところ。
その金子が、以下の河で9巡目リーチ。
リーチ
これに対し、北家佐藤は12巡目に以下の手牌にツモ
 ツモ
現物なし。
字牌はどれも初牌。
最も安全そうなに手をかけると、金子がロン。
 ロン
またもやチートイツには見えない河を作っての4800。
金子の優勝もあるのかもしれない。
会場中がそう思ったに違いない。

東1局1本場 ドラ
続いて1本場も、金子は3巡目にをポンして打
ドラがトイツ以上のタンヤオが容易に想像できる。
少し時間はかかったが、13巡目にツモでテンパイを果たす。
 ポン
テンパイ打牌のに、ベタオリの南家下出が合わせ打ち。
次巡も下出はを抜く。
しかし、これがタッチの差で間に合わない。
前巡、手出しで安全牌のを切った北家佐藤のツモが、テンパイとなるで、2000は2300。
 ロン
失点をしたばかりの佐藤だが、上位陣に食らいつく。

東2局 ドラ
下出も負けてはいない。
オヤの下出は9巡目にテンパイを果たすと即リーチ。

なんなくをツモって、1000オール。佐藤を引き離す。

東3局2本場 ドラ
ここで脱落者が1人出る。
西家の金子が8巡目にをカンでチー。
これもやはり、ドラがトイツ以上のタンヤオに見える。実際に選手たちもそう思ったそうで、3者は受け気味に打ち進める。
その後、金子はと2回連続の手出しで、相当手が進んでいるように見える。

これに対して、12巡目にをツモった南家佐藤。
 ツモ
前巡に下出がを打っており、金子の河にはがある。金子の現物はのみ。
を引いたときだけ、前に出ようと決めていました。」と、佐藤は悔しそうに語った。
佐藤、打を選択。
金子の手をドラがトイツ以上と読んだのならば、このが当たる可能性は高くない。




ほぼこの4パターンのみではなかろうか。
しかし、このうち3番目の網に引っかかってしまう。
 チー ロン
7700は8300。

これで点数状況がこのようになる。
金子42100
下出30700
出本29000
佐藤18200
佐藤は下出をまくれば優勝。
しかし、放銃の瞬間、佐藤の緊張の糸が切れる音がした。
佐藤はここで終わりのように感じてしまう。
事実、ここから点数合わせに奔走せざるをえず、アガリに結び付けることはできなかった。
佐藤脱落。
逆に、金子は集中力を増すばかりといった印象。
とりあえず点数に縛られず、のびのびと打っているという感じである。
ちなみに、この点数状況のまま最終戦が終わった場合、トータルはこのようになる。
トータル
下出 41.9
金子 23.7
佐藤 22.2
出本△88.8
(供託1.0)
金子が下出まで18200点差に迫る。
これは、いけるのか?
いける。
というより、いける気しかしない。
例えば、下出のオヤ番で金子がマンガンをツモれば、もうそれで逆転である。
このとき、会場の空気が変わる。
「金子さん優勝しちゃうんじゃないの?」
そんな心の声が飛び交う。
やはり、最後は金子か。
開戦と同時に金子の後ろに張り付いている金子応援団は、金子の優勝を確信しているようにも見える。
ちなみに、開戦からずっと多くのギャラリーを背負っているのは金子ただ1人。
有名選手、金子正輝。
あとは、幾度となく経てきた勝利への轍を踏み外さずに歩むだけ。

東4局 ドラ
ここでも金子が先手を取る。
南家の金子が12巡目リーチ。

ヤマには1枚しか残っていないリーチだが、どうせこれもアガっちゃうんでしょ?
そんな金子一辺倒の空気を冷静な声が切り裂く。
「チー」
西家下出が宣言牌のをカンチャンでチーして現物の打
 チー
いまさらリャンカンを処理してどうなるというのか。
下出の待ちは、河の偏りから見てもソウズかピンズ待ちのタンヤオであろう。
西家下出捨て牌
↓チー
対する金子の河にはほぼマンズと字牌しか切れていないから、脇からの出アガリは期待できない。
南家金子捨て牌
リーチ
仕掛けて金子と1対1?
で、危険牌引いたらオリか。
ハイテイずらしかな、などという邪推もはたらく。
しかし、いずれにせよ、ここが勝負所。
ここでアガった方が優勝に近づくのは言うまでもない。
決着は次巡。
何の気なしにマンズを放る金子。
倒れる下出の手牌。
はい??
マンズですけど?
開かれた手牌を見て下出の優勝を確信。
 チー ロン
金子にとっても、下出にとっても、重い重い1000点。
賢明な読者のみなさんならお気づきかと思うが、実は先にテンパイを入れたのは下出だったのである。

3巡前からこのテンパイを組んでいた。
ここに、下出から見て4枚目のが打たれると、チーして両面へ。
マンズなら脇から出ることも期待できる。
確かに合理的な仕掛け。
それは理解できる。
しかし、決勝のここ一番というところで、この漫画みたいな仕掛けができるものか?
私はおそらく体が動かない。
あるいは、緊張のあまり、チーという思考すらないかもしれない。
ああ、下出が優勝だな。
点数的にも、精神的にも。
金子応援団の力も抜ける。

その後、金子のオヤ番が終わると、佐藤・金子ともに点数合わせの作業を行うのみ。
下出からの出アガリや高目への手替わりを待ちつつ、最終ツモの1巡前で,なかば儀式的なツモ切りリーチ等を行っていく。
南2局 ドラ
西家佐藤

北家金子

南3局 ドラ
南家佐藤

西家金子

少なくともこれらが実れば、逆転もあるのだが、そこはシビアなゲーム。
満塁ホームランなど、そうそう出るものではない。
そう、麻雀はよくできているのである。
7432回目。

結局、オーラスは西家下出が5巡目ポンテン、8巡目ツモの秒速のアガリで完全勝利。
 ポン ツモ
打てるときにヒットを打ち、1点ずつ着実に加点した下出。
最後も下出らしく、翻牌バックで最速の400・700で決めた。

10回戦結果
金子 20.6
下出 10.5
出本△ 5.5
佐藤△25.6

最終結果
優勝  下出 47.7
準優勝 佐藤 20.4
第3位 金子 20.2
第4位 出本△89.3

粘って、粘って、アガれるときにアガリを拾い、優勝をも拾ってしまった下出。1度は崩れるものの、それを立て直しての完全勝利であった。

打ち上げ会場にて
下出のコメント
本当は、(最高位戦classicの予選本選等が行われる)水曜は麻雀教室の授業があるんですが、最高位戦classic出場の意思を生徒さんたちに伝えると、「先生いってらっしゃい!」と拍手で見送られ、classicの日はアシスタントに任せることになりました。競技麻雀なんてものを知らない人たちに、「先生がんばって!」と言われたのがとにかくうれしかったです。

競技麻雀を知らない麻雀愛好家に応援され、我慢に我慢を重ねた末に掴んだ勝利。

我慢に我慢を重ねた下出が、打ち上げの最後を次のような渾身の攻めコメントで締めくくってくれた。

「強くってすみません!・・・・ってことで(笑)」

でもね、冗談抜きで、先生は本当に強かった。

そういえば昔ゴルフを始めたとき、父に言われた。
一流の技術を身につけて三流。
一流の精神力を身につけて二流。
ゲームの中ですぐに修正できて一流。

今度父に会ったとき、真っ先に伝えよう。

一流選手下出和洋という名を。

帰宅し、パソコンに向かって、本日のハイライトを打ち込む。
ああ、麻雀ってほんとよくできたゲームだなあ。
ふと時計をみる。
午後11時58分。
9998回目ぐらいかな。
そして、明日も、麻雀は多くの者を魅了する・・・・

文:鈴木 聡一郎

お詫び
今回、第3期最高位戦classicの観戦記を担当させていただいた鈴木聡一郎です。観戦記の掲載が遅れまして、大変申し訳ありません。
牌譜の整理作業に遅れがあり、かつ、私自身の作業進行が遅れたことが原因であります。
読者の皆様には多大なるご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありませんでした。
今後、作業効率アップ、各部門との連携の強化に努めて参りますので、今後ともよろしくおねがいいたします。

おわりに
今回、第3期最高位戦classicの観戦記を担当させていただきましたが、このルールは非常に奥が深く、割愛した部分がかなりあるのにもかかわらず、この文量となってしまいました。
しかし、この文量でも内容の半分も紹介できていないと思われますので、興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ牌譜を購入していただき、吟味していただければと思います。

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