コラム・観戦記

第3期最高位戦classic決勝戦観戦記その②

2日目
まずは首位の下出にインタビュー。
―どうですか?1日目が終わって首位ですけど。
こんな漠然とした、問いになっていない問いかけに対しても、いつも丁寧に答えてくれる下出が大好きだ。その上、どことなく気の抜けた感じがまたたまらない。
「うーん。とりあえず1人が独走する展開にならなくてよかったですね。」
いやいや、独走チャンスが最もあったのって、あなただと思われるんですが。・・・他人事ですか。そうですか。
―ルールとかはどうですか?
「アガリ連荘だからね。いつも以上に、チャンスは逃さないように意識しないとね。でもまあ、やっぱこのルールおもしろいですよね~♪」
ゆ、悠長~♪
―初日はどうでした?(※実は、私は2日目のみ出席のため、初日の様子がわからなかったため)
「実は対外試合では初決勝なんだけどね、意外なほど落ち着いて打てました。」
1日目の冷静な打牌の数々が納得できた。1日目を通して、1度も崩れることがなかったのは、その落着きゆえだろう。
しかし、今日はどことなく緊張していやしませんかね。
気のせいですかね。
気のせいならいいのですが。

6回戦
起家から出本、佐藤、金子、下出の順。

東1局 ドラ
まずは9巡目に西家金子がテンパイ。

なんでもないただのピンフ。これは簡単にアガれそうである。
次巡、下出がをアンカン。
すると、直後に金子が4枚目のをツモ。一瞬、金子の手が止まる。
河を一瞥。
その後、佐藤の河にもう1度視線を落とす。
南家佐藤の捨て牌

異状なしのように映る。
というか、仮にテンパイしていたとしても、アンカン後のなど、そう簡単に当たる牌ではない。もちろん、当たった場合にはそれなりの打点は覚悟しなければならないのだが。
金子も、やはりというか、当然のツモ切り。
「ロン」は佐藤の方角から。
 ロン
5200。
背筋が凍る。
佐藤のアガリにではない。金子の読みに。
こんなは切る。切らねば麻雀にならないだろう。
大事なのは、そこに読みと覚悟を吹き込めたかどうかである。
今、金子には確かにそれがあった。
あの少考で金子の調子がいいことはわかった。
あとは、噛み合いさえすれば優勝は金子か。
それほど衝撃的な目の動き。
放銃1つ取っても、有名選手金子正輝の説得力がそこにある。
ちなみに、佐藤は10巡目にタンヤオのテンパイ→11巡目にが振り替わって三色が付いた形であった。

東2局 ドラ
ここでもテンパイの金子。

終盤の17巡目、ここにを引くと、今通ったばかりの打でフリテンのシャンポンに受ける。
実はこのとき、オヤの佐藤が以下のテンパイを入れていた。

出アガリは利かないだが、やはり金子の読みとバランスに関する調子の良さがうかがえる。
結果は流局。
一刻も早く失点を返したい金子の立場からすれば、ワンチャンスのを打ちたくなる気持ちもあっただろう。
そういえば、誰かが言っていた。―「このルールは点数合わせになったら終わり」
ラスだから、持ち点が少ないから、といった理由で勝算の低い勝負をしていくような「点数合わせ」をせざるをえない状況になってしまったら、ノーテン罰符のないこの麻雀では、全員に受け切られて投了ということである。
金子は、意志をもって点数合わせを否定した。
すなわち、次につながる撤退をしたのである。
どんなに点数がほしくとも、点数合わせをしてはならぬ。
これは強者の共通見解。

東3局2本場 ドラ
前局は金子が500オールをアガって、連荘の今局も金子が5巡目にドラ切りテンパイ。

これをヤミテンに構えると、次巡のツモが
 ツモ
まだ6巡目ということもあり、関連牌は河にない。点数状況は以下の通り。
東家金子26600
南家下出29400
西家出本29400
北家佐藤34600
金子はリーチを選択。
確かにこれはリーチといきたくなる。
しかし、さきほどをグっと我慢した金子とは対照的に、安易なリーチすなわち点数合わせのリーチに見えた。

これに呼応したのが下出。金子のリーチを受けた次巡にタンヤオが確定するを引いてテンパイ。
 ツモ
金子の現物がないから、切りテンパイを取るのは当然。
ここでも焦点はやはり、リーチの是非である。
先行リーチがなければ、下出はヤミテンだったかもしれない。
しかし、1回戦でも述べたように、先行リーチが入っているならリーチである。さらに今局ではドラが2枚切れているから、なおさらリーチをかけやすい。
下出も当然待ちで追いかけリーチ。
すると、すぐに金子がを掴んで3900は4500。
 ロン
金子がヤミテンにしていれば下出もヤミテンにしたであろうから、金子はと入れ替え、放銃を回避できた可能性もある。やはり少々強引なリーチであった感は否めない。

南3局3本場 ドラ
下出がアガった後には流局が続き、南3局を迎えて点数状況は以下の通り。
東家金子21100
南家下出34900
西家出本29400
北家佐藤34600
下出はここでこの並びのまま終えることができれば、トータル2着目の金子をラスにしてのトップであるから、トータルポイントで頭1つ抜け出すことができる。そのため、ここでもうひとアガリしてトップを決めたいところ。
そんな下出に、7巡目テンパイが入る。

同巡、佐藤が危ない。
 ツモ
ツモで字牌の選択。
は2枚切れではともに初牌である。
まさか下出にこれほど早いホンイツテンパイが入っているとは思わない佐藤、正直どれを選んでもおかしくない。
3分の1でマンガン放銃の危機。
何ともいやなクジ引きである。
ここで佐藤がを選択し、3着に落ちるようなことがあると、トータル2・3着の金子・佐藤がラス・3着をひくこととなるから、下出を一層楽にさせてしまう。
佐藤の指が摘んだのは――――
セーフ。
ただし、次巡以降もが飛び出す危険と隣り合わせである。
佐藤の次巡はツモ切り。
セーフ。
しかし、その次巡、ついにが場に顔を見せる。
 ツモ
佐藤が打つ前に、下出が自らツモって2000・4000は2300・4300。
これで2着以下を大きく引き離すトップ目に立つ。
佐藤はなんとか放銃を免れ、最悪の事態を回避した。

南4局 ドラ
東家下出43800
南家出本27100
西家佐藤32300
北家金子16800
トータル最下位の南家出本は、できれば2着以上に入りたいところ。その出本が14巡目にテンパイ。

<3s>が2枚切れということもあり、ヤミテン。
しかし、16巡目に望外のラスをツモってしまう。
 ツモ
さて、どうする?
捨て牌は以下の通り。
東家下出

南家出本

西家佐藤

北家金子

現実的な選択肢は5つ。
①ツモアガリを宣言し1000・2000で3着を維持。
②何かしらのフリテン両面に受けてヤミテンを組み、ツモって2着を狙う。
を切ってフリテンのヤミテンに構え、ツモって2着狙い。ただし、ハイテイでイーペーコーの方をツモった場合のみトップ。
④何かしらのフリテン両面でリーチ。ツモって2着狙い。ただし、ハイテイでツモった場合のみトップ。
を切ってのフリテンリーチ。安目ツモで2着。イーペーコーの方ならツモってトップ。ハイテイなら安目ツモでもトップ。

私なら、①を選んで4000点の素点を取る。ここはまだ勝算の低いギャンブルをしていく場面ではないという判断である。
仮にフリテンに受けるとしたら、おそらく切りのヤミテンか、マンズ両面のリーチにする。佐藤に鳴かれるような牌を打ってハイテイをずらされたくないからである。
他方、出本は④を選択する。
吟味を重ねて選んだ両面は切りリーチで勝負。

確かに、この段階で最もヤマに残っていそうなのはで、実際に最も多い3枚がヤマに眠っている。
残り枚数という観点においては、最善の選択といえるだろう。
この辺りはさすがである。
しかし、これが面白いように空振りするのが今決勝の出本。
まずは、当然のように佐藤が宣言牌のをチーして打。クラシックならではの食い替えで出本のハイテイをずらす。
するとヤマに3枚残っていたのうち2枚が金子と下出に1枚ずつ流れ、あっという間に残り1枚となる。
最後のツモ番でもツモれず、流局。
ちなみに結果論から言うと、切りが大正解。すると、佐藤に流れたハイテイを出本がツモることになるから、3000・6000でトップとなっていた。
出本は、勝負どころでいま一つ運が味方してくれない状況が続く。
「うーん、ツモで1000・2000アガっておくとこでしたかねー。緊張はしていないつもりなんですけど、やっぱり知らないうちに緊張してるのかもしれませんね。」とは、出本談。

6回戦結果
下出 25.8
佐藤  6.3
出本△ 7.9
金子△25.2
(供託1.0)

トータル
下出 42.3
佐藤  1.0
金子△ 9.3
出本△35.0
(供託1.0)

7回戦
起家から出本、佐藤、金子、下出の順。

東1局 ドラ
前回ラスの金子が6巡目にでチーして打
そこら辺の若者が仕掛けたわけではない。
金子の仕掛け。
金子正輝が仕掛けたのである。
しかも6巡目に?
からを?
会場中の総意―ドラがトイツ以上のテンパイかつタンヤオの両面。
これを受けて3人がオリに回ると、あとは金子の1人旅。
ドラがアンコとはいかなかったが、きっちり高目をツモって2000・3900。
 チー ツモ
大きな先制弾。
ついに、金子が牌に好かれたか。
こりゃ、走るかな。

東2局 ドラ
金子の猛攻は止まらない。
南家の金子は9巡目に突如ツモ切りリーチ。捨て牌は以下の通り。

東家佐藤

南家金子
↓リーチ
西家下出

北家出本

これに対して、前巡に通ったを出本がツモ切りした後の11巡目オヤ佐藤。
 ツモ
リーチ一発目に金子がをツモ切っているから、はスジで、当たるならば単騎かシャンポンしかない。また、についても、が4枚枯れでが通ったから、単騎かシャンポンしかない。
すなわち、この2択である。
ここで、佐藤はをツモ切り。
一呼吸置いて金子の手牌が倒れる。
 ロン
鮮やかなチートイツ。
打点は3200だが、芸術点として5000点ほどプラスしてもいいぐらいではなかろうか。
チートイツに見えない切り出し。
が枯れ、が切られた頃合いの見極め。
打った佐藤には、「ドラがトイツの8000じゃなくてよかったですね」としか言いようがない。

東4局1本場供託1000点 ドラ
ここが本決勝のターニングポイントその1。
点数状況は以下の通り。
東家下出28000
南家出本26100
西家佐藤24800
北家金子40100

ここまで最も安定した戦いを見せていた下出が、ここで大きく崩れる。
オヤの下出は3巡目にリーチ。

ん?これをリーチ?下出が?
ここまでの下出のバランスからは明らかに掛け離れている。
「あのミスで揺れちゃいました。」
対局後に下出はそう語った。
「佐藤さんがドラ切りしていて早そうだと思ったので、慌ててリーチしちゃったんですよ。リーチした瞬間に、「あっ、しまった。」って思いましたね。」と下出は続ける。
確かに、下出の言う通り、これは失策。
佐藤の動きを止めたからどうということはなく、リーチしてもしなくても、自分がツモったときにしかアガれない(オヤリーチに対してほぼ誰も向かってこないから)という状況に変わりはないからである。
これはさきほど述べた「点数合わせ」の話とよく似ている。
要は、相手に受け切られる状況を作ってはいけないのである。
アガリたいときほど、ぐっとこらえてヤミテン。
役なしでも役ありでも、それは大差ない。
楽になりたいだけのリーチは、逆に相手を楽にさせる。
今、目の前にあるのは、そういうシビアなゲーム。
そういう麻雀。
そういう相手。
シビアなものをシビアなものと捉えない者には、天罰が下る。
「麻雀ってほんとよくできてるよなあ。」
全国で1日当たり1万回言われるセリフ。
下出、一発目にをツモ切り、すぐにツモで1000は1100オール。
記念すべき本日5000回目が、下出から私の心に届く。
麻雀って、ほんとによくできてるなあ。
「3900オール(もしくは2000オール)を、自分のミスでたったの1000オールにしてしまったことを引きずり、ここから崩れてしまいました。」と、下出は後に語った。
この半荘中には、ミスの連鎖が起こらなかったものの、その後に下出らしからぬあのようなミスを犯すとは。
加点はしたものの、失策は失策。
麻雀は、つくづくよくできたゲームである。
私も、5001回目を心の中でつぶやいた。

東4局2本場 ドラ
さきほど、金子のチートイツにやられた佐藤がチートイツで反撃。8巡目に1枚切れの待ちリーチ。

驚くべきは、金子と同様、芸術点が高い点である。上記リーチで、捨て牌が以下の通り。
リーチ
配牌から狙いはチートイツ1本に絞っており、チートイツに見えぬよう、順子手の河を描き上げてのチートイツリーチである。
字牌から切り出している点、カブったをわざと一旦手元に残した点、そして中張牌を2つ手出ししてのリーチで1枚切れの字牌待ち。
正に完璧ではなかろうか。
結果は、追いかけリーチの出本を振り切り、芸術点のおまけと言わんばかりにツモアガリで1600・3200は1800・3400。これでラスから2着に浮上である。
最高位戦所属の新井が休憩中につぶやいた。―「みんな、チートイツをチートイツに見せないもんなあ。」
正に同意。本決勝のレベルの高さを示した一言であるといえよう。

南1局 ドラ
西家金子がドラトイツの配牌をもらう。

これが9巡目までに以下のように変化。

ここから10巡目に南家佐藤が切ったをポンして打
 ポン
その後、を入れ替えた13巡目、佐藤が打
4枚目のである。ちなみにが1枚切れ、ソウズはほとんど場に放たれていない。
金子、巡目も考慮し、チーして打単騎の仮テンを組む。
しかし、なんとこれに佐藤からロンがかかる。
 ロン
ダブ南アンコで2600。
金子、思わず声が漏れる。―「かー、まいったなー。」
佐藤は以下の牌姿にツモの打であった。

南3局1本場
点数状況は以下の通り。
東家金子34600
南家下出28900
西家出本22200
北家佐藤34300
微差とはいえ、トップ目のオヤ金子。配牌がこう。

さて、何を考えようか。
当然ながら、2着目に落ちるリーチ棒は出せない。
私なら、チャンタかサンアンコ、あるいは遠くに見えるソウズのホンイツ、もしくはツモのみの500オールか700オールを念頭に置いて打ち進める。
したがって、第1打は金子と同じく、を選択する。
2巡目のツモが
私ならば、もうここで打か打としてしまうかもしれない。
金子の選択は打
その後、首尾よくと引いて6巡目テンパイを果たす。
 ツモ
ここで、金子が驚愕の一言。―「リーチ」。
はい??今、なんて??私の聞き間違えじゃなければ、確かリーチと聞こえたんですけど。
金子はなんと切りリーチを選択。
これはこの半荘を決めにいったものなのだろうが、勝負を焦った感は否めない。
ここは切りか切りのヤミテンがいいのではなかろうか。
しかし、これが金子なのだろう。自分が決めにいくと感じたときには、どんな状況だろうと決めにいく。
この感性が金子正輝。
ところが今回の結果は流局。佐藤に暫定トップを譲り、オーラスを迎える。

南4局2本場供託1000点 ドラ
東家金子33600
南家下出28900
西家出本22200
北家佐藤34300
南家出本にチャンス手。3巡目にはこのイーシャンテン。

その後はなかなかテンパイできず、迎えた8巡目。西家佐藤からが手出しされる。出本の余剰牌は3枚切れのに入れ替わっている。
そのときの出本の河は以下の通り。

パッと見て、マンズが高い。
もしここで出本がをポンしたら、おそらく金輪際マンズは1枚たりとも放たれることはないだろう。
さらに、打点的にも、門前で仕上げれば12000であり、どこからアガってもトップとなる。また、が鳴けた場合にも、どこからアガっても12000でトップとなる。
出本は1枚目をスルー。
直後、オヤの下出がを合わせ打つ。
2枚目もスルー。
この2度のスルーはどうか?
確かにをポンしてしまっては、ツモって2着、下出直撃で3着、佐藤か金子直撃で2着であり、トップとはならない。
しかし、ここはポンする一手ではなかろうか。
このを見送ったとして、初牌のダブが出るのか?このメンバーで?
また、をポンしたとしてが出るのか?
どちらにせよツモ限定になるのではないだろうか。
ならば、1着と2着の差はあれど、一刻も早くアガリ牌の抽選箱に手を入れられるようにしておいた方が
よいのではないだろうか。
結果は、佐藤に2000は2600を放銃し、終了。
今日、ここまでの2半荘を見て、出本はトータルポイントを気にしすぎている印象を受けた。
「今日が始まったときから、あと5回しかないという気持ちだったんですよね。あのはたぶん鳴いた方がいいんですよ。鳴いた方がいいのはわかったんだけどなあ。」と、出本。
あと5回「もある」という気持ちを持つことができたならば、出本の逆転優勝もあったのかもしれない。
事実上、ここで、出本が脱落。

金子は、やはりというかアガリ返すことができなかった。それでも、出本がをスルーした瞬間から完全にオリに回った嗅覚はさすがの一言。

7回戦結果
佐藤 19.9
金子  7.6
下出△ 5.1
出本△22.4

トータル
下出 37.2
佐藤 20.9
金子△ 1.7
出本△57.4
(供託1.0)

8回戦
起家から佐藤、下出、出本、金子の座順。

東1局 ドラ
まずはオヤの佐藤が下出から3900を出アガって先制。
 ロン

東1局1本場 ドラ
ここが、本決勝のターニングポイント前半である。
9巡目に下出は以下の牌姿。

10巡目、ここにドラツモでテンパイ。
3900のビハインドがあるとはいえ、今までの下出の打ち筋からすれば、当然ヤミテンの2000を選択するのだろうと思っていた。
しかし、下出はリーチ。
これは一概にミスとは言い難いが、今までの下出のバランスと比較すれば、明らかに間違い。
ここが、下出最大のミスといえるだろう。
これをリーチする下出など、はっきり言って全く恐くない。
下出はこれをヤミテンにするから恐いのだ。

結果は、出本が下出の現物を抜いて、先にヤミテンを入れていたオヤ佐藤が3900は4200を和了。
 ロン
これで佐藤が後続を大きく引き離す。

きっちりヤミテンに構えた佐藤が下出のリーチを咎めた恰好。
麻雀ってほんとうまくできてるなあ。
今日5132回目。

逆に、下出はこれでほぼ終わり。
1度崩れたバランスを短期戦の中で修正していくのは困難を極める。
短期戦の決勝ではバランスを崩したが最後、それを立て直すことはできないものなのだ。私はそれなりに様々な決勝戦を見てきたが、それをすぐに修正した者は、2006年マスターズ決勝における当時プロ連盟所属であった阿部孝則ただ1人である。
それほどに、この修正作業は難しいと感じる。
おそらく下出もここで終わってしまうだろう。
そして、ここからの焦点は、佐藤・金子の争いに絞り込まれていくことだろう。

東3局4本場供託1000点 ドラ
東1局2本場に佐藤が勝負を決めにいったリーチが流局し、その後は互いに牽制しあい、流局が続く。
卓上に輝く4本場と供託。誰しもアガリがほしい。
打点はともかく、アガリがほしい。
牌に選ばれたのは金子。
配牌が、翻牌アンコで、なんとチャンタのイーシャンテン。

これに驚いていると、ツモはその上をいく。
第1ツモでドラが重なると、4巡目にもう1枚ドラを引きこんで、電光石火の大物手テンパイ。

高目12000、安目8000。誰が飛び込んでもおかしくない。

最も危ないのは、オヤの出本。6巡目にはこのイーシャンテンとなった。

これは、単純計算すると、75%の確率で12000の振込である。
テンパイする牌4種のうち、を先に引いた場合には打のヤミテンにするから、打で放銃。
ツモの打で放銃。
唯一の放銃回避は、ツモの打だけである。
つまり、4分の3、75%で放銃。
さらに、ソウズが伸びたり、ツモでもに手がかかる可能性が高いから、実際には80%以上振込なのではないだろうか。
本人はテンパイへの抽選箱に手を入れているつもりだが、実は12000放銃への抽選箱にも手を入れているのである。
ピンチ続きの出本、ほんとにほんとの大ピンチ。

しかし、9巡目、佐藤の打牌に声をかけたのは出本。

なんと唯一放銃回避のを引き入れ、価値ある1500は2700で金子のチャンス手を粉砕。

東3局5本場 ドラ
オヤの出本は9巡目リーチ。残り3回でトータルラス目、どうやら腹を括ったようだ。

しかし、ここは下出の打牌を佐藤が捉え、1300は2800でトップ目を死守。
 ロン

東4局 ドラ
点数状況は以下の通り。
東家金子30000
南家佐藤39200
西家下出22300
北家出本28500
13巡目、下出が金子の仕掛けに対してリーチを放つ。

確かにソウズは良さそうに見えるため、悪くはないだろう。
点数状況的にもリーチでいい。
しかし、3枚切れのを狙いにいくのが、良い選択か。
やはりどこか違和感を感じる。
結果こそ、金子が以下のテンパイからをツモ切って2000のアガリとなったが、まだ修正中といったところ。
 ポン

南3局 ドラ
ここが本決勝のターニングポイント後半である。
点数状況は以下の通り。
東家出本30900
南家金子27000
西家佐藤39000
北家下出23100
まずは南家金子が役なしテンパイを組む。

これに追いついたのは14巡目の下出。
 ツモ
のピンフドラ1のテンパイ。
は出本が1枚、金子が2枚切っていて薄い。
ただし、下出の河にはがトイツ落としの形で(を切った瞬間にを引いてカラ切り)2枚並んでおり、も切っているから、絶好の待ちであるといえる。
点数的にも、これはリーチするのだろう。
しかし、下出はここでヤミテンを選択。
鳥肌。
恐い。
あれ?いつもの下出に戻っている。
すごい。
そんな感想しか出てこない。
この修正はそれほどに衝撃的。

このとき、実は佐藤も8巡目から以下の好形イーシャンテン。

ところが、これがなかなか動かず、16巡目に出本が下出の切ったをポンしてドラ切り。
これに対応することが要求される。
同巡、佐藤のツモは
 ツモ
河は以下の通り。
東家出本

南家金子

西家佐藤

北家下出

佐藤はここから、打を選択する。
確かに、は通りそうである。
しかし、このは下出のアガリ牌。
下出がリーチをしていたら,佐藤はを打った可能性が高いから,このヤミテン選択は下出のファインプレー。
下出にロンと言われた瞬間に見せた佐藤の「ドキッ」とした表情が印象的である。
 ロン
打点はたったの2000である。
しかし・・・・・・なんだ、これは?
どうしてヤミテンにしている?
なんでヤミテンにできる?
崩れたはずの下出がどうしてヤミテンにできた?
南3局、アガってラス目のヤミテン。
粘って、粘って、静かに獲物を狙う。
あれ?戻っちゃってるな。
私こそ前述の文章に修正が必要である。
佐藤・金子の一騎打ちではない。
ここからは、下出に佐藤・金子がどこまで食らいついていけるかである。
この南3局を、本決勝の最重要局と位置付けたい。
また、決勝最大のファインプレーはと問われれば、このヤミテンであると即答したい。

南4局 ドラ
東家金子27000
南家佐藤37000
西家下出25100
北家出本30900
どうしてもトップのほしい出本。ツモなら1300・2600が必要であるが、なんと1巡目に条件クリア。
 ツモ
ツモ切りリーチでダブルリーチ。ツモればきっちり1300・2600である。
試合後、これはどこから出ても見逃すつもりだったかという問いに、出本は頷いた。
ツモ専門のリーチ。ツモれるか。

これに追いついたのは、前局ファインプレーの下出。
9巡目にテンパイを果たす。

は出本が1枚切っている。役なしであり、5200ならばどこからアガっても2着になれるからリーチでもよさそうだが、下出はヤミテン。

すると、次巡、ツモアガリ決着。
 ツモ
下出が高目を引いて2000・3900。
下出は、結局これで、トップ目の佐藤まで1000点差に迫る2着目に浮上してしまった。
自らのバランスを取り戻した下出、持ち味の粘りで2着をもぎ取る。
修正した途端に急浮上か。
麻雀ってほんとによくできてるなあ。
5687回目。

8回戦結果
佐藤 17.0
下出  8.0
出本△ 6.1
金子△18.9

トータル
下出 45.2
佐藤 37.9
金子△20.6
出本△63.5
(供託1.0)

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