雨。
とても静かな雨とは言えない激しい雨。
これからこの場所で惨劇が起こるのではないか…。
そんなことを連想させた。
34期Aリーグ第7節
A卓
石橋、伊藤、大柳、平賀
一回戦
超がつくほどのリーチファイター平賀が魅せる。
なんと全11局中8局に参加する異質の麻雀を展開。
当然放銃もあるのだが、ここまで参加できるというのはそれだけ手が入っているということ。
50000点近いトップで幸先いいスタートを決めた。
逆にそろそろ挽回しないと降級の二文字が見えてくる大柳はラススタートで更に状況は苦しくなる。
二回戦(石橋、平賀、大柳、伊藤)※カッコ内は起家から順。
南2局 ドラ
北家の石橋の配牌がこれ。
4巡目には、
この5200聴牌と一変。
ここまで猛者が集うこのAリーグで首位を張り続けた勢いを魅せつける。
しかしこの仕掛けに逆らう侍がいた。
この半荘、これまで細かい失点を重ねてきた平賀である。
8巡目、
ツモで打リーチ!!
もう平賀らしいとしか言いようがないこのリーチ。
石橋も当然のように押し返すが、終盤に危険牌を掴みギブアップ。
そっと聴牌にたどりついていた伊藤と平賀の2人聴牌で流局。
南2局1本場 ドラ
伊藤がソウズのホンイツ風の捨て牌からポン。
ドラがということもあり、これに全員が対応。
なんと伊藤以外の3人が聴牌しての流局。
南2局2本場 ドラ
終盤に平和ドラ2の聴牌を入れていた平賀が、大柳のダマテンに放銃し1300は1900の失点。
無念の親落ちとなった。
南4局 ドラ
東家 伊藤 33000
南家 石橋 35500
西家 平賀 19000
北家 大柳 32500
平賀を除く3人の大接戦となったこの半荘。
平賀も跳満をツモれば2着に浮上できる。
この勝負所で最高の配牌をもらったのが石橋。
ツモも良好で5巡目にはこの形。
磐石かと思われた。
聴牌が入ったのは11巡目。
をチーして打、 –待ちとした。
しかし石橋には悲劇が待っていた。
手広さを追った平賀が、
ツモ 打 とする。
ツモ切りとしたほうが確定跳満ツモの可能性は上がるが、手広さで劣る。
更にをツモ切り。跳満聴牌を逃す。
次巡にを引き入れ
これでリーチ。ツモると2着、伊藤か大柳から出れば3着。
これでアツいのが石橋。
聴牌形の選択で、 そしての3択で唯一上がれないものを選択してしまったのだ。
3着目の大柳が手出しで現物を切ったのを見て、ダマテンをしていた伊藤が長考の末オリ。
石橋もそれを見て流局歓迎とばかりにオリる。
そして流局。
そっと手を伏せる2人。
2人!?
そう、大柳も聴牌を入れていたのだ。
平賀のリーチを受けた手牌がこれ。
(アンカン)
とのくっつき聴牌の形に石橋の当たり牌であるを引き入れての現物切り聴牌。
この半荘終了後、大柳に聞いてみた。
「最後ににくっついたらどうするんですか?」と。
「あの状況なら切るしかなかったと思います。」
にくっつけばラス落ち。
しかしにくっついた。そして同点トップを拾えた。
大柳にもまだ光は残されていると思えた。
3回戦(伊藤、平賀、大柳、石橋)
そんな希望は間違いだったのだろうか。
東2局1本場 ドラ
2シャンテンから親の平賀の、
に放銃する大柳。
さらに南2局3本場でも
ドラ
この平賀の18000に放銃。
平賀は+74.5の大トップを取り、前回のラスを挽回。
大接戦となった4回戦も制したのは平賀。
結局この日は平賀が+115.7を叩き、上位三人に迫ることに成功した。
逆に大柳は△82.0で最下位に逆戻り。この日1人目の惨劇の被害者となった。
B卓
上野、尾崎、張、冨澤
一回戦
トップスタートで借金をほぼ返済し、上位陣を追撃する体勢に入った冨澤。
しかし、尾崎は安定した麻雀でなかなか差を詰めさせない。
逆に張がラスを引き、上下の差が開いていく。
二回戦(尾崎、冨澤、上野、張)
東1局 ドラ
冨澤が早い配牌をもらうがなかなか好形聴牌を組めず、張から先制リーチが入る。
しかし、親番の尾崎が変則的な捨て牌から追いついて以下の牌姿でリーチ。
冨澤・上野は静観し、二人の対決に。
13巡目に張がツモアガリ。
ツモ
ドラをツモり、裏ドラがなんと!!
リーチツモドラ3裏2であっさり3000・6000。
東2局 ドラ
尾崎がをポンしホンイツの聴牌を入れた瞬間に冨澤が放銃し、8000の移動。
東3局 ドラ
配牌ドラアンコの尾崎が、張のリーチに真っ向勝負。
東1局に続いて二人の争いかと思われたが、親番の上野が聴牌打牌で尾崎への放銃。
尾崎は跳満親かぶりの後2局連続で満貫をあがり、張を追撃する。
東4局 ドラ
親番の張にチャンス手が入る。3巡目にして以下の牌姿。
6巡目にを引き聴牌を入れる。
直前にが二枚切られたのを見てか、切りのダマを選択。
しかし、これまたあっさりツモって2000オールのアガリ。
東4局1本場 ドラ
またしても張にチャンス手が入り、タンピンドラ2の聴牌を入れる。
しかしこの半荘いいところがなかった冨澤が見事な寄せで、
ツモ
この2000・4000をツモあがり、反撃の狼煙を上げた。
だが、この半荘は張のものだった。
この後何事もなかったかのように連続で満貫をツモり、簡単にトップをさらっていった。
やはりタイトルホルダーの力は伊達ではない。
そしてこの日の張には運も味方していた。
3回戦
南4局、点棒状況は以下の通り。
東家 冨澤 23400
南家 張 39600
西家 尾崎 33000
北家 上野 24000
上野が5巡目に以下のリーチ。
ドラ
高めが尾崎か張から出るかツモると2着浮上の勝負手。しかも切り出しが、
と、かなり強い。
安全牌が無く、タンヤオで捌きにいった張。
のチーテンを取り、こぼれる牌は…
裏ドラが1枚乗るも、5200で済みトップ逃げ切りとなった。
恐らく止まらなかったであろう高めのは…哀れ山に3枚眠っていた。
4回戦(冨澤、上野、尾崎、張)
流局が続く重い展開となり、初めてアガリが出たのは東3局3本場。
ツモ ドラ
この400・700も終盤にようやく聴牌を果たし、たどりついたものである。
続く東4局も張のリーチをかわして、300・500を上がる。
大きく動いたのは南1局。
親番の冨澤がドラ2の配牌をもらい、タンヤオに移行。
しかし手が伸び悩む中、南家の上野が派手な捨て牌で以下の聴牌を入れる。
ドラ
更に尾崎も西をポンして以下の牌姿。
捨て牌の分尾崎の方が有利かと勝手な予想をしていると、冨澤がツモ切ったに張からロンの声が。
これで冨澤が一歩後退。
興味深かったのが南2局1本場。
尾崎が6巡目で以下の牌姿。
ドラ ツモ
ここで単純に打やとせずに、マンズが場に高いことを考慮して打とする。
結果は でリーチとなり、張から一発で出上がり3900。
あの時点でにさえ手をかけなかったら結果は同じだっただろうが、
目の前のターツにこだわらず上がりだけを見据えていた打牌は輝いて見えた。
結局この後も順調に加点した尾崎がトップ。
尾崎はこの日2・2・2・1で決定戦に大きく前進した。
冨澤は1・4・4・4で降級争いに逆戻り、この日2人目の惨劇の被害者となった。
この日の開始前、何度訪れても慣れないAリーグの雰囲気に緊張気味の僕に話しかける選手がいた。
「今日は(俺を見ていればいいから)楽だろう。」
佐藤である。
そこに通りかかった金子が、
「お手柔らかに。」
とすかさず返し、周囲が笑いに包まれた。
佐藤の自分に対する自信、そして周りへの気遣い。
やはり一流である。
C卓
金子、佐藤、水巻、村上
一回戦(佐藤、村上、金子、水巻)
東1局 ドラ
親番の佐藤に早速手が入る。
村上のリーチに真っ向から立ち向かい、いきなり有言実行かと思わせる。
しかし途中押してきた金子に、村上が放銃。
ロン
最初に発言が嘘のような、「まだまだ早い」と言わんばかりのアガリである。
続く東2局も金子がメンピンツモ裏の1300・2600で加点。
その後細かく点棒が動き、迎えた南1局。
佐藤に再びチャンスが訪れる。
ドラ
完璧なイーシャンテンである。
しかしここから迷走が始まる。
金子にをポンされ、を持ってくる。
きっと誰もがを払うだろう。佐藤もに手をかけた。
その後ツモってきた牌は
佐藤は撤退を余儀なくされ、この局もチャンスを活かせない。
南2局 ドラ
そんな佐藤に更に手が入る。
配牌をあけてみると…
2巡目で好形イーシャンテンとなり、やっとチャンスが実るのかと思わせる。
しかし、もっと早い男がいた!!
3巡目に水巻のリーチが入る。
だが、佐藤の祈りが通じたのか6巡目に追いつきリーチ。
そしてようやく佐藤に初アガリがうまれる。
ツモ 裏
その後村上が2000・4000をツモり、大接戦で迎えた南4局。
東家 水巻27400
南家 佐藤33600
西家 村上28800
北家 金子30200
なんとかかわしてトップが取りたい佐藤には軽い手が入らず、逆に2着の金子には軽すぎる手が入る。
金子はすぐさまをポンし、
ドラ
ドラを絡めて佐藤から直撃しないとトップにはなれない、ほぼ2着狙いの仕掛けである。
しかしそこに村上が参戦する。
この七対子イーシャンテンからをポン。
続けてもポンして逆転の聴牌を果たす。
これにドラ2の好形イーシャンテンとなった水巻が飛び込み、1回戦は村上が制した。
何度もチャンス手をもらった佐藤にしてみれば消化不良の2着だろうか。
だが2回戦は佐藤の佐藤による佐藤のための半荘となった。
すでに65000点持ちの東4局1本場。
佐藤の先制リーチに、親番・現物なし・好形イーシャンテンの水巻が不要牌をツモ切り御用となる。
ロン ドラ 裏ドラ
リーチ三色ドラ2裏3。この呪文のような倍満で80000点を突破。
途中ツモられで点棒を削られるが、南4局に3000・6000をツモり84800点の超大トップ。
一回戦の鬱憤を激しく発散する佐藤の姿。
4・3と苦しすぎる立ち上がりの水巻とは表情も違う。
しかし水巻もこのまま終わるとはとても思えない。
三回戦(村上、金子、佐藤、水巻)
東1局に佐藤が水巻に3900の放銃。
ドラ ロン
この6巡目聴牌をダマにし、まだ手が進んでいない佐藤からの出アガリに成功した。
その佐藤、東2局に金子の親リーチを受けながらもこの聴牌。
ドラ
を切ってリーチ。
しかし、この打牌も許されなかった。
ロン 裏ドラ
さらに12000点を失った。
このまま金子の勢いは止まらずに東2局の親番は6本場まで続き、60000点を超える点棒を得た。
村上も粘り金子を追いかけるが、トップを脅かすところまではいけない。
逆に佐藤は点棒を借りることになってしまった。
前の半荘では最終的には3着になった水巻も途中で点棒を借りており、これで2半荘連続である。
そして、これはこの日最大の惨劇の序章に過ぎなかったのである。
4回戦(村上、金子、水巻、佐藤)
東1局 ドラ
親の村上、3巡目にしてこの牌姿。
ここにを持ってくるが当然の聴牌取らずでツモ切り。
が、なんと次もその次もツモは!!
捨て牌にが三枚並ぶという不思議な光景が。
そうこうしているうちに、佐藤が先制リーチを打つ。
しかし次巡に村上が追いついてリーチ。
佐藤がをツモ切ると「ロン」の声。
裏ドラ
声がかかった瞬間は怪訝な顔をした佐藤も手が開かれるとすべてを納得して点棒を支払う…
続く1本場は金子が村上から2600をアガり、親番が移動する。
東2局 ドラ
金子の配牌がこれ。
そこそこの配牌だが、期待以上のツモで7巡目にはこのリーチ。
そして一発でを引き寄せる。
安めで裏ドラも乗らないが、4000オール。
そして凄惨な惨劇のショーの幕が開く。
東2局1本場 ドラ
タンピン系の好配牌を貰った水巻がツモ切った。
それは金子のロン牌。
捨て牌はこれ。
そこまで派手な訳ではない。
さて、いったいその手は?
驚愕の18000。
この親番こそ次局で流れてしまうが、再び迎えた親番で…
南2局1本場 ドラ
こんな厳しい配牌をもらった佐藤だが、うまくまとめて10巡目にをポン。
そこに金子からリーチが入るが、水巻が打ったリーチの現物のをチーしてようやく聴牌。
金子の現物待ち。だからといって簡単に打つような面子ではない。
しかし、これ以上金子に叩かせたくない。
「安いから打ってくれ!」
そんな思いをあざ笑うように金子があっさりツモる。
ツモ ドラ 裏ドラ
メンタンツモイーペイコードラ2裏2。
完全にトドメとなる8000オールで、水巻がこの日二度目となる箱割れ。
「点棒を貸してください」という声が悲しく響いた…
南4局 ドラ
根性でメンホンの聴牌を入れた佐藤。
しかし最後まで金子は強かった。
ツモ
これも簡単にツモって1000・2000。
ぴったり90000点の大トップとなった。
結局金子がこの日+145.1を叩き、首位に躍り出た。
村上・佐藤はほぼ±0。佐藤は最初の2半荘で100ポイント近いプラスを叩きながらの結果で、とても満足できるものではない。
そして水巻はいいところ無く△146.9。最高位戦に所属してから最大のマイナスとなってしまった。
この日3人目にして、最大の惨劇の被害者は水巻だった。
朝のふとした予想が的中してしまったこの日。
しかし、まだ5節も残っている。
この後の結果はぜひみなさんのその目で見届けてください。
文責 浅井裕介