コラム・観戦記

第34期最高位決定戦5日目・最終節①

【17回戦】

起家 金子 + 41.3
南家 尾崎 △  4.4
西家 飯田 + 78.8
北家 石橋 △115.7

【東1局・ドラ

最終日ともあって、会場には既に多くのギャラリーが集まっていた。

大事な最終節の1半荘目は、今日の1日には大事な、大きな1局である。開局早々、ムードは最高潮の緊張感に包まれていた。

《金子・4巡目》

  ポン

起親の金子が第一声、ポンで先手の仕掛け。ここからペンの聴牌取らずでドラ含みのペンチャン、を払い相手を牽制。

《金子・6巡目》

残る3者は金子に対応していたが、その中で回りながら七対子の一向聴を維持していた飯田が16巡目に聴牌。

《飯田》

ツモ

ここで2枚切れの打として単騎にすると、次巡金子がラス牌のを掴みツモ切り。1600を打ち取る。

とても小さな声でロンと発声した飯田。走らせたくない東1局の金子の親を流す和了に、点数以上の価値を見出だしたのかもしれなかった。

良い和了でスタートを切った飯田だったが、続く東2局は親の尾崎のタンヤオ仕掛けに飯田、聴牌から1500を放銃。

1本場は金子が石橋から1300は1600をアガると、小さな動きで局が進んでいく。

【東3局・ドラ

最終節の序盤とあってか、小場になりそうな雰囲気を醸し出していたのだが、この局を皮切りに大きく動き出す。

何としてもここでトップを取って望みを繋ぎたい石橋に、打点十分の聴牌が入る。

《石橋・12巡目》

慎重に闇に構えた石橋は、一向聴だった金子のツモ切ったでロン8000。

どうしても取りたい半荘で一歩リードを奪うことに成功した石橋。この和了で波乱の幕開けを堂々と宣言する。

【東4局・ドラ

金子から満貫をアガり次局の自親で更に点数を重ねていきたい石橋だったが、凹ませた筈の金子にまたアガリ返されてしまう。

《金子・11巡目》

 ツモ

三色目の残るを引くと、先ほど8000のビハインドを抱えた金子、タンヤオドラドラで闇テンに決める。場にはが2枚切れで2枚目のは1牌前の親の石橋にツモ切られた直後。実際1枚1枚と残り僅か。

15巡目には尾崎が追いついた。

《尾崎》

こちらもタンヤオドラドラで、手変わりのある七対子。

闇に構えた同士の対決は、16巡目に金子が三色となるを引き当てて勝負あり。音も立てずにを手牌の傍らに置くと、愛しそうに手牌を眺めた。

【南1局・ドラ

前局の跳満ツモで一気に点棒を戻してトップ目に立った親・金子。

北家の石橋が遠い仕掛けを入れて場が動き出す。

《石橋・4巡目》

ポン

次巡ツモのでピンズに寄せる石橋。1つ鳴かれるまではと、親の上でマンズとソーズの中張牌をめいっぱい切り上げる。

次に動いたのは南家の尾崎。

《尾崎・12巡目》

 チー

一通の出来ている一向聴だったが、6枚目のをチーして生牌のを叩き付けた。ドラのを切らずにいられる聴牌取り。

このを石橋が仕掛けてまだ一向聴。

《石橋》

  ポン

この仕掛けに尾崎が次巡ツモでオリ。石橋が16巡目のツモの聴牌で放った打を捕まえられず。

しかしこの石橋の仕掛けがさらに効果をもたらした。ドラのが未だに生牌で、上家の石橋のピンズの一色手を前に、被せきれなかった親の金子。

《金子・16巡目》

親でイーペーコーの両面聴牌。仕掛けがなければ当然リーチとなりそうなこの手牌。終盤にや少し手変わるピンズをツモったら回る準備に出ようとしたのだろうか、石橋の聴牌打でを打たれた挙句、を次巡即ツモ。

2000オールは必至だったこの場面、即ツモなら親満を4分の1の1000オールに押さえられたのは、石橋に追い風が吹き始めたのかもしれなかった。

1本場は尾崎のピンフダマで1000は1300と蹴られた金子。残す3者の親番、金子は35000点で守りに賭ける。

【南2局・ドラ

親の尾崎に好手が入った。

《尾崎・6巡目》

 チー

は1枚切られた直後に重なって、はすでに4枚目。面前も親満も諦めてシャンポンに決める。

17巡目、ドラドラの七対子を聴牌していた飯田がをツモ切り5800。飯田は待ちごろの単騎受けだったのだが、何気なしにツモ切ったでの放銃に顔をしかめる。チーの後は手出しのなかった尾崎。での両面チーからのこの局面。防御なら待ち変えだが、まだ聴牌かもわからないならと、自らの和了にかけた大魔神。

この和了で今度は尾崎が波に乗る。

【南2局1本場・ドラ

2巡目にくっつきの一向聴だったが、なかなか両面にならず、もどかしさが手つきに顕れていた親・尾崎。11巡目にドラのを埋めてリーチ。

《尾崎》

決定戦に限らずだが、親の先制リーチも1人旅になることはそうない。ギリギリまで攻め込んでくる相手揃いなら尚更である。

《金子・12巡目》

 チー

フリテン解消となるをチーして、まだオリも可能な聴牌。金子が攻め込む。しかし下家の尾崎がをツモ切り。面前ならリーチもあっただけに、勝負のアヤになりそうな場面となる。

さらにこのを飯田がチー。

《飯田》

 チー

6枚目のを鳴けて聴牌。3者ソーズ待ちで石橋はソーズのメンホン一向聴。

《石橋》

この時点で山には1枚、1枚、1枚、は0枚。

鳴きがなければ石橋にしまい込まれたを掘り当てたのは、親の尾崎だった。力強く叩き付けて2600は2700オール。捲り合いを制して気分良く積み棒を重ねた。

続く2本場、飯田のリーチが入る中、尾崎が二副露のチンイツをツモりあげて4000は4200オール。これで2着目の金子を30000点近く引き離しす。

次局、金子が仮テンのタンヤオドラで石橋から2600は3500をアガって、ようやく長かった尾崎の親番が終わった。

―栄光への渇望は、紛れもなく誰しも抱いていた。増して最終節の大事な1回戦。まだ何が起こるかわからない。

ふと尾崎が、何かを想うように、天を見つめていた。

【南3局】

10000点を割りそうなところまで削られてしまった大魔神。

この親番は全力で向かっていくのだが、飯田包囲網が出来ているかのように、和了にたどり着けずにいた。

石橋とのリーチ対決が流局すると、1本場は辛うじて1人聴牌をもぎ取る。

しかし2本場では金子に2600は3200を放銃と、削られた点棒をさして回収できずに、17回戦はオーラスに突入する。

【南4局・ドラ

東家 石橋 15300
南家 金子 35000
西家 尾崎 53800
北家 飯田 15900

この半荘もマイナスなら、もう目がなくなりかける石橋。このオーラスの親に全てを注ぎ込む。

《石橋・5巡目》

  ツモ

石橋の切望が実ったか、5巡目の好形の一向聴に4枚目のツモ。ヘッドはがあるので、迷わずカン。するとが新ドラになった。リンシャン牌はで打として万全に受ける。

次巡にツモで、石橋、最後の望みを繋ぐ三面張リーチ。

《石橋》

暗カン

場には1枚、自分の1枚で見た目10枚残りのは、実際は山に残り3枚。

切なる願いを懸けてツモ山に手を伸ばし続けた石橋。14巡目のツモ牌は、タンヤオがつくだった。

これなら裏が1枚あれば跳満になる。石橋は震える手で裏ドラを捲ると、が2枚乗っていた。

まだ、諦めない。
石橋の強い気持ちが、6000オールとなって尾崎に詰め寄る。

【南4局・ドラ

尾崎と38000点差のラス目で迎えた石橋は、1局で4000オールで捲れる位置まで漕ぎ着けた。あとはもう意地だけが、残り僅かになった望みをつなぎ止める。

《石橋・7巡目》

仕掛けも可能で何とかなりそうではあるが、和了まで辿り着けるか。

すると前巡にドラのを切っていた金子からツモ切りリーチが飛んでくる。

《金子・8巡目リーチ》

ツモか裏1で2着に浮上。ドラを仕掛けられないで済んだなら、ここは素点を気にせず2着を狙う。

《尾崎・9巡目》

  ツモ

ドラのを持っていたのはトップ目の尾崎だった。リーチに無筋のを押してまず跳満の聴牌取り。逆に跳満を放銃してもトップの尾崎。ドラが暗刻なら当然、親以外にはまず全部行く。

10巡目、石橋がツモで聴牌。もう少し巡目が早ければダマテンや聴牌取らずもあるかもしれないが、ここはもう待ってはいられない。を押してリーチに出る。

《石橋》

《石橋・捨て牌》

ボルテージは最高潮に達しようとしていた。

金子が石橋の入り目のを唇を噛み締めてツモ切った直後、石橋のリーチの一発目。尾崎はノータイムで再度ツモってきたを切り飛ばした。

 ―ここは引かない。
これをアガれば一気に優位に立つ。引けないんだと、尾崎が勝負に出る。

さらに同巡、飯田にも聴牌が入った。

《飯田》

ツモ

飯田が長考する。
目下ラス目、これ以上の素点は減らしたくない。は3枚、は1枚切れているが、尾崎が押しているところを見るとを持っているのは尾崎の可能性が高い。それなら親の現物の、金子もが現物。それなら尾崎が打ってくれる公算がかなりある。

飯田が腹を決めてリーチに出た。

石橋の、金子のは2枚、飯田のは3枚生き。尾崎のは空である。

選ばれたのは、石橋だった。いや、選ばれなかったのは、尾崎だったと言うべきかもしれない。

長い1巡だった。

石橋が引き寄せたのは、一発ツモとなるだった。

傍からみたら、確かに『幸運』の4000オールだったかもしれない。

けれどこの決定戦、幾度も苦しんだこの男に、この場面でこのくらいの幸運があっても構わないではないか。

あと僅かな可能性に、希望を捨てない闘志の炎は、まだ石橋の心から消えていなかったのだ。

これで尾崎を捲った石橋、2本場は飯田が500・1000で半荘に終止符を打って次に繋いだ。

金子は堅く瞬きをすると、平らになったポイントを眺めて口を尖らせた。

石橋は引き締まった顔で引き上げる。渇望した初戦のトップ。これで次もトップなら接戦に持ち込める。

尾崎は周りをぐるりと見渡すと、無表情のまま席を後にした。

何も変わらない表情の飯田は、相変わらずつかみどころがなかった。

【17回戦】

石橋 46400 +46.4
尾崎 43000 +23.0
金子 23200 △16.8
飯田   7400 △52.6

【17回戦終了時】

飯田 +26.2
金子 +24.5
尾崎 +18.6
石橋 △70.3

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