コラム・観戦記

第34期B2リーグ最終節観戦記

-「僕今日のレポートで出番ってありますか!?」
対局終了後、ある選手が私にそう問いかけて来た。

2009年10月11日
12節計48半荘に渡る第34期B2リーグの戦いも、ついに最終節を迎える。
まず11節までのポイント状況は以下の通り。
1 坂本 大志 446.7
2 石井 一馬 394.7
3 佐藤 聖誠 286.0
4 井上 慎司 213.9
5 中嶋 龍太 181.1
6 宇野 公介 174.1
7 三ヶ島 幸助 150.8
8 谷口 竜 143.2
9 森川 健太 137.2
10 松田 猛 48.2
11 齋藤 敬輔 37.2
12 川端 美雪 -29.1
13 中村 英樹 -78.6
14 清水 昭 -108.8
15 根本 佳織 -161.4
16 平林 佑一郎 -166.9
17 嶋村 恭介 -169.3
18 野口 洋貴 -177.5
19 津田 博愛 -221.7
20 佐藤 かづみ -235.9
21 阪元 俊彦 -300.9
22 中邨 光康 -446.7
23 秋田 大介 -464.2

B1リーグへの昇級枠は上位4名。
現状1、2位の坂本と石井は昇級ボーダーからやや抜けており、このポイントを維持するか更に上積みできれば最終戦を前に昇級がほぼ確定する。ポイント的に有利なのは間違いないが、当人達の気持ちとしてはなるべく早い内に勝負を決めてしまいたい所だろう。
3位の佐藤聖誠から9位の森川までは誰が昇級してもおかしい差ではない、降級の可能性もほぼ皆無な為かなり激しい叩き合いが予想される。

もう一つの注目は残留争い、こちらは14位以下の11名がC1リーグに降級となる。
余談となるが、最高位戦リーグは全リーグを通じて休場/退会者が出た場合の繰り上がりシステムを採用している。具体的な例を書けば、この最終節の結果で残 留となった選手の1人が来年諸事情でB2に出られなくなった場合、降級者で一番順位が上の14位だった選手がB2に繰り上がり残留となるわけだ。
今年B2より上のリーグで既に休場している選手数と例年の傾向などを加味すると、今年は14位は助かり残留となる可能性がかなり高い。15位で5割強、16位だとやや厳しいといったところだろうか(※これは筆者の勝手な予想です)。
「いやいや、あなた方プロならそんなセコイこと考えてちゃ駄目でしょ」という外野の声も聞こえてきそうだが、この順位一つで来年1年の所属リーグを左右す ることが十二分に考えられるわけだから軽視はできない。残留争いをしている選手もその点は当然頭に入っているだろうし、最終戦まで1着順でも上の順位を目 指して打ってくるに違いない。

尚最終節の卓組は以下の通り。各選手とも対戦者のポイントと順位は特に意識されるべき部分なので、最初に記載させて頂く。
1卓(石井、宇野、松田、根本、秋田)
2卓(佐藤聖誠、中嶋、森川、中村、中邨)
3卓(三ヶ島、齋藤、嶋村、津田)
4卓(井上、谷口、平林、佐藤かづみ、阪元)
5卓(坂本、川端、清水、野口)
※5人打ちの卓は左から順に抜け番

各選手がそれぞれの思惑を胸に秘め、第34期最後となる年間リーグ戦が定刻通りに開始された。

■1回戦
 [5卓]清水、坂本、川端、野口
現在トータル1位の坂本。最終節の対戦相手は3人とも残留争いをしている清水、川端、野口。卓内に自分を標的としてくる選手がいない点で、組み合わせに恵 まれていると言って良い。4半荘の内1回でも連対すれば概ね昇級が確定するが、できれば1回戦で決めてしまいたいところだろう。
東場は手が入らず苦しい展開だったが、南2局の親番であっさりとその時が訪れた。
南2局 坂本8巡目
ロン
7巡目聴牌でダマテン、8巡目に野口から和了しドラは無いが僥倖の12000を得る。
結果このリードを活かした坂本が35500点の2着を確保、B1への椅子が早々に一つ確定した。

残る椅子は後3つだが、トータル2位の石井、3位佐藤聖誠、4位井上と5人打ちの卓にいる為1回戦は3人とも抜け番になっている。追う選手は是が非でも良いスタートを切りたいところだろう。
[3卓]津田、齋藤、嶋村、三ヶ島
三ヶ島は開始時点でトータル7位だが他の同卓者に上位の選手がいない為、自分でポイントを大きく上積みするしかない。1回戦目、オーラスの親番。
南4局 ドラ 裏ドラ
三ヶ島 35900
津田 25600
齋藤 22000
嶋村 36500
まず先手を取ったのは北家の嶋村。9巡目に以下牌姿で聴牌。

アガリトップとは言え、これだけ積極的に仕掛ける嶋村を筆者は知らない。それだけ残留にかける思いが強く表れているということだろう。対する三ヶ島、6巡目から中々手が動かない。

9巡目に切られた上家嶋村の聴牌打牌はをポンされており三ヶ島から見て6枚目のとなるのだが、ここを堪えてスルーする。
14巡目にようやくを重ね場況的に絶好の待ちでリーチ。一発はならずも16巡目にツモ、裏がで6000オール。
ツモ
この後も連荘を重ねた三ヶ島、55000点オーバーのトップという絶好のスタートを切った。
また1卓ではトータル6位の宇野が2着を、4卓では8位の谷口がそれぞれ安定した内容でトップを取り、上位との差を縮めてきた。

そして1回戦の最も注目すべき卓は2卓
[2卓]中嶋、森川、中邨、中村(抜け番:佐藤聖誠)
現在トータル5位の中嶋と9位の森川の対決。抜け番の佐藤聖誠を追撃する為にも、ここはお互いより上の着順が是非とも欲しい。大きな動きはないまま迎えたオーラス。
南4局1本場 ドラ
中村 34800
中嶋 32600
森川 31300
中邨 20300
供託1.0
西家森川のリーチと東家中村の2軒聴牌で流局した後の一本場、まず中村と中嶋が7巡目に聴牌を入れる。
中村

中嶋

これに次いで森川も9巡目に聴牌
ツモ
トップまで3500点差なのでリーチは不要となったが、どちらの待ちに受けるかが非常に悩ましい。平面ならば打待ちのノベタンに受ければいいだけの話なのだが、ドラのでの和了がほぼ期待できないことを考えると、実際はの優劣が鍵となる(ちなみにどちらも1枚切れ)。
中村と中嶋の聴牌はほぼ明白、アガリ逃しは許されない局面。小考の末、森川が選んだのは打

場況的にソーズの上は安く、中村はをポンしている。おまけに前巡に下家中邨が手出しで切ったはトイツ落としの可能性も高く、単騎に受けたくなる要素はかなり多い。
しかしこれが結果最悪となった。同巡中邨からは出ず、中嶋からはをツモ切られてアガリを逃す。おまけに次巡持ってきたであえなく中村に放銃。
2本場は中嶋、森川共にリーチをかけるも流局して中村がトップ。中嶋は2着、森川は痛恨の3着となった。

■2回戦
ここから現在2位の石井、3位佐藤聖誠、4位井上が登場、これを追う同卓の宇野、中嶋、谷口は今回抜け番となる。
[1卓] 石井、秋田、根本、松田(抜け番:宇野)
南3局
根本 27100
松田 23200
石井 23200
秋田 46500
秋田のツモ攻勢の前に松田、石井はほとんど手が出せない形で東場が終了。
迎えた南3局、石井がようやく先制リーチを打った。

役無し、ドラ無し、愚形とリーチを控えたくなる要素はいくつでもあるが、石井に関して言えば「これを曲げなければ俺じゃない!」という声でも聞こえてきそうなリーチだ。
結果は10巡目に秋田から出るも裏はのらずに1300止まり。たったの1300だが、このリーチが躊躇なく打てるなら石井に追われるプレッシャーはなさそうだ。
オーラスは松田が2本場まで粘るも、何とか3着をキープして初戦を終えた。

[4卓]平林、佐藤かづみ、阪元、井上(抜け番:谷口)
2軒リーチで流局した東1局1本場。15巡目に井上が先制弾を決める。
東1局1本場 供託2.0 ドラ 裏ドラ
ツモ
佐藤かづみの高目三色の追いかけリーチを掻い潜ってのリーチ棒3本付の満貫ツモ、最高の立ち上がりと言って良いだろう。
しかしこの後井上の様子がどうもおかしい。牌を取る手が時折小刻みに震え、打牌選択にも非常に迷いが多くなっている。
不安気に観戦を続けていると、東2局では阪元のダマテンにドラので淡泊な12000を放銃。ほぼ振り出しに戻ってしまった後は、怯える様に安全牌を抱えてまるで前に出てこようとしない。筆者は”重圧”という見えない敵に井上が圧されているのが手に取る様に分かった。

南3局 ドラ 裏ドラ
阪元 33800
井上 26100
平林 23800
佐藤かづみ 36300
何とかラスだけは避けたい井上だが、そこに立ちはだかったのは平林。
ロン
12巡目にドラを切ってリーチ、一発で阪元から出アガると裏ドラは望外ので一気に2着浮上。井上はこれでオーラス400・700を他家にツモられると同点3着、それ以上だと親被りで単独ラスになる。

迎えたオーラスでも平林が5巡目リーチの一発ツモ。ドラは無いが2000・4000。
 ツモ
平林、裏3と連続の一発和了によって僅か2局でラスからトップに駆け上がる。
オーラスの親被りによって井上はラスに転落、3着順差を抜かれた佐藤かづみも残留へ向けて赤信号が点灯しつつある。

井上が3回戦までの小休憩の間にこう語りかけてきた。
「正直プレッシャーに潰されていたよ。」
やはり重圧感は相当なものだったに違いない。これだけ熾烈な昇級争いの下で一番狙われるべき順位にいるのだから無理もないだろう。
このまま井上は転落して行ってしまうのか…そんな筆者の杞憂を他所に力強い言葉が続く。
「でも今のラスで吹っ切れたから、もう大丈夫。」
果たして自身へ言い聞かせる強がりか、それとも真意か。口元に少しだけ笑みを浮かべて次戦の卓へと向かって行った。

一方3卓の三ヶ島は終始手が入らずラスを引かされて、一歩後退。
2卓の森川は勝負手が全て空振りしてラスを引き、昇級争いから事実上脱落。だが佐藤聖も中邨の攻勢の前に3着で終わり、トータル2~4位の3人が全員逆連対スタート。
昇級争いはますます混沌としてきた。

■3回戦
前半戦終了時点の成績は以下の通り。1半荘で4~8位までは簡単に順位が入れ替わる大混戦となっている。
1 坂本 大志 423.4
2 石井 一馬 381.3
3 佐藤 聖誠 265.0
4 中嶋 龍太 194.2
5 宇野 公介 184.8
6 谷口 竜 184.6
7 井上 慎司 176.0
8 三ヶ島 幸助 164.7
9 森川 健太 79.9
10 齋藤 敬輔 57.1
11 川端 美雪 28.6
12 松田 猛 -30.9
13 中村 英樹 -38.5
14 根本 佳織 -104.1
15 清水 昭 -127.8
16 平林 佑一郎 -169.6
17 嶋村 恭介 -178.4
18 野口 洋貴 -192.9
19 佐藤 かづみ -234.3
20 津田 博愛 -246.4
21 阪元 俊彦 -303.3
22 中邨 光康 -423.6
23 秋田 大介 -439.7
そして3回戦から最大の勝負所、同卓の上位陣による直接対決がついに始まる(1,2回戦は上位者が抜け番だった為、同卓内での対決はまだ始まっていなかった)。
中でも2卓の佐藤聖誠と中嶋、4卓の井上と谷口の対決は昇級枠を直接奪い合う戦いになるだろう。

[2卓]佐藤聖誠、中村、中嶋、中邨(抜け番:森川)
少し余談となるが、筆者は佐藤聖誠と同期で最高位戦に入り、彼の麻雀を今までよく見てきている(つもりだ)。そんな筆者の中でイメージしている佐藤聖誠の麻雀バランスから判断すると、今日の初戦の内容は正直「危なっかしい」と感じた。
元々負けん気の強いプレイヤーではあるが、いつもより前のめりになっている様に見える。1回戦こそ大きな放銃は無かったが、このままの状態で行くと中嶋との直接対決で致命傷も負いかねない…。

東1局2本場 ドラ 裏ドラ
連荘はしているが決定打を生み出せない中迎えた2本場、佐藤聖誠4巡目に以下牌姿。

小考の後打とする、この巡目でこの形なら聴牌を慌てて取る必要もないだろう。
次巡を引くがやはりツモ切り、しかしその後有効牌を全く引かないまま9巡目に再度を引き入れると今度は打でリーチに出た。

確かにそろそろ悠長な聴牌形を作っている時でもないだろう。聴牌を外している間にが2枚、が自分を含めて3枚切れておりソーズでの手変わり変化が薄くなっている。は2枚切れだが、場況的に確実にヤマにはいそうな牌だ。
しかしこのリーチを打った同巡、宣言牌のを中村がチーした後、中嶋と中邨が何と追いかけリーチを打ってきた。いくら場況が良さそうだと言っても3件リーチ下で自分が2枚切れのカンチャン待ちでは流石に分が悪い。もしここで中嶋に放銃をする様なことになれば、昇級争いは更に混迷を極めることになる。
緊迫の中佐藤聖誠の最初のツモ、中嶋と中邨両方に一発となる牌(自身の一発は中村のチーで消えている)で、力強くを引き寄せた。裏ものって親満の和了。
ツモ
「あのツモでようやく気が楽になった」と後に本人が語った通り、この和了を皮切りに5万点オーバーのトップを取った佐藤聖誠、昇級に王手をかける。中嶋も南場に満貫を2回、跳満を1回和了し、2着に食い込んだ。

[4卓]谷口、阪元、井上、佐藤かづみ(抜け番:平林)
序盤は佐藤かづみが一歩抜け出す展開となったが、谷口と井上はほぼ並びの状態で局が進む。
先に和了したのは東4局1本場の南家谷口、供託込みで5200の収入を得て一歩リード。
東4局1本場 ドラ
ツモ

南2局 ドラ 裏ドラ
18100点持ちのラス目、阪元が14巡目にリーチを打った。

阪元の河はソーズの無筋が非常に危険に見える。誰も逆らう者もいないだろうなと見ていた16巡目、佐藤かづみの手牌。
 ツモ
ヤマに確実にアガり牌が2枚いる国士聴牌だが、佐藤かづみは現在38700点持ちのトップ目。平素のバランスならば残り巡目と阪元の河、そして点棒状況を考えると、役満とは言えこのを切る行為はリスクがかなり大きい様に思える。
しかし現在のポイントが-230オーバーで残り2半荘しか残されていない状況ではもはや選択の余地が無い。小考の後やはり打、この12000放銃で彼女の今期の戦いは実質幕を閉じた。
そしてこの放銃、佐藤かづみだけでなく井上にもかなり痛い。この時点での点棒状況は以下の様に変わった。
阪元 30100
井上 26900
佐藤かづみ 26700
谷口 36300
谷口がトップに押し上げられたことに加え、一人離れたラス目だった阪元が2着に浮上。おまけに自身の位置はラス目と200点差に突然縮っている。井上に吹き続ける逆風、この半荘も収まらないのか!?

否、次局井上が渾身のダマテンを決める。
南2局1本場 ドラ
ロン
13巡目に阪元から8000は8300を和了。手元を見ると震えは既に消えており、いつもの淡々とした井上の麻雀に戻っている。どうやら先程筆者に言った言葉、強がりではなかった様だ。

南3局は阪元が佐藤かづみのリーチに追いかけ12000を和了、以下点棒状況でオーラスを迎えた。
佐藤かづみ 11900
谷口 36300
阪元 36300
井上 35500
谷口、井上双方にとってこのオーラスがどれくらい重要なのか、理屈だけで語るのは少し難しい。ただこの半荘を観ていた筆者は「ここをトップで終わった方が おそらく昇級するだろう」、まだ直接対決は2半荘残ってはいるが、そんな思いで眺めていた。いつも冷静な谷口も心持ち牌をツモる動作に力が入っている様に 見える。

平場は佐藤かづみのリーチ後、聴牌を入れた井上が2000点を放銃。
迎えた1本場、点棒は井上が33500、谷口が36300となっている。
南4局1本場 ドラ カンドラ
3巡目、早くも谷口に分岐点が訪れる。
ツモ
選択候補はいくつかあるが谷口は打とした。カンチャンを払って三色とタンヤオの目が残る、筆者もおそらく同じ選択をするだろう。
しかし次巡のツモは無情にも、この後と引きペンの聴牌を果たすも、結果論とは言え7巡目のツモ和了を逃したことになる。

谷口がツモ切りを続けていた12巡目、阪元がをアンカンしている親佐藤かづみの現物、かつ谷口の筋牌であるを切ると井上からロンの発声。
ロン
阪元の放銃つき谷口が単独2着とはなるものの、井上は値千金のトップをものにした。

1卓では根本が1・2・1と好調で残留がほぼ確定、宇野も2着で昇級戦線に踏み止まった。
5卓では初戦ラスの野口が意地の連勝で最終戦に残留の望みをつないだ。

■4回戦
4人打ちの3卓と5卓は、5人打ちの卓待ちの為休憩となる四回戦。
[1卓] 秋田、石井、宇野、松田(抜け番:根本)
秋田が局面をリードする展開で迎えたオーラス、宇野がおそらくこの日一番頭を悩ませたであろう局面が来た。
南4局 ドラ
秋田 40000
石井 25600
宇野 25900
松田 28500
まずラス目の石井が9巡目にリーチ。

これに対して宇野が12巡目に追いつく。

打ち出すは無筋だがノーテン罰符でも石井に捲くられてしまうので、聴牌を取るのは必然。問題はリーチをするかどうかの判断で、これが非常に難しい。
リーチをする理由として、安目のが石井か秋田から出ても3着のままで終了してしまう。はリーチに対して無筋だが、石井はアガリ牌でなければ当然ツモ切るしかない。この局ラス親の秋田も現在トータル23位で、この半荘が最終戦となる(5回戦目は抜け番)。残留には無限連荘をするしかないので、途中を切ってくる可能性も十分にあるだろう。
リーチをかけない理由としては、ツモなら安目のでも2着になれる上、リーチ棒を出すと2人聴牌の流局時に松田を捲くることができない。おまけに上家の石井からたった今が切られており、ダマテンにしていればリーチ者の現物として出てくる可能性も考えられる。なら石井、秋田のどちらから出ても2着になるので問題ない。

小考の末、宇野の選択はダマテン。
結果同巡に松田と秋田からは出ず、おまけに石井が即座にを掴んでしまった。
最終戦の条件を少しでも楽にする為に何としても2着に入りたいところだったが、これ以上勝負を引き延ばして自身がラスに落ちるのが一番怖い。宇野、苦渋のアガ3でこの半荘を終える。
石井が連続ラスとは言え2人の差はまだ約120ポイント、宇野がトータル4位までに入るにはかなりの素点を最終戦で叩く必要が出てきた。

2卓では佐藤聖誠が連勝、石井を抜いて2位に浮上し昇級をほぼ確定させた。中嶋はまたも粘って3戦連続2着、佐藤聖誠との争いには敗れたものの、気付けばポイントを230以上に伸ばしている。
4卓では3回戦を制した井上が連勝、4番目の椅子に王手をかけた。逆に谷口は持ち点を10000点近くまで削られる大きなラス、昇級戦線から大きく後退してしまう。
ついに残すは後1半荘。

■最終戦
現状までの上位成績は以下の様になっている。
1 坂本 大志 379.3
2 佐藤 聖誠 362.7
3 石井 一馬 309.0
4 井上 慎司 267.7
(ここまで昇級)
5 中嶋 龍太 230.6
6 宇野 公介 185.6
7 三ヶ島 幸助 154.6
8 谷口 竜 152.0

坂本、佐藤聖誠はほぼ昇級確定。
石井はかなり有利だが、他の卓の結果に関係なく昇級を決めるには連対条件といったところか。4位井上と5位中嶋の差は37.1ポイント、中嶋はなるべくトップ、最低でも連対に絡むことがほぼ必須となる。
6~8位の選手も条件は残ってはいるがかなり厳しい。宇野は同卓している石井を、同じく谷口は井上をトータルポイントで捲くることが実質的な条件になりそうだ。
全卓4回戦まで終了の後、一斉に最終戦が開始された。

まず5卓は坂本が安定した内容でトップを取り首位昇級を決める。この半荘トップを取れば繰り上げ残留が濃厚なトータル15位に食い込めた野口、清水だったが、無念の敗戦となった。
そして結果15位に入ったのは3卓の嶋村。オーラスにリーチタンヤオチートイツをアガって会心の逆転トップとなった。昇級へ大トップ+別卓結果条件の三ヶ島だったが大きな見せ場無く終局。

[1卓] 根本、松田、宇野、石井(抜け番:秋田)
東4局に松田が3000・6000をツモり抜け出した南1局、3番目の昇級者を決定づける和了が生まれた。
南1局 ドラ 裏ドラ
 ツモ
石井一馬8巡目リーチの11巡目ツモ、最後も彼らしい(!?)先制愚形リーチで自身の2着を決める。宇野は結果ラスとなり昇級への夢は潰えた。

[4卓]平林、谷口、佐藤かづみ、井上
谷口が南2局の親番で執念の連荘。持ち点を60000点オーバーまで上乗せするも、これを止めたのはやはり井上。
南2局2本場 ドラ
ロン
今日幾度となく見せてくれた息を殺すダマテンで、谷口の最後の望みを断つ。
しかし南3局、平林がリーヅモチートイドラドラをハイテイでツモり、2着に浮上。連対していればほぼ昇級確定だったが、3着に落ちてしまい2卓の結果次第となる。

[2卓]中嶋、中村、佐藤聖誠、森川
最後の椅子はやはり井上と中嶋の争いとなった。
井上の最終戦終了後のポイントが+252.3。中嶋はトップなら無条件、2着なら41800点以上の素点を叩けば昇級となる。
実際には2つの卓は当然同時進行で行われているので、中嶋に具体的な条件は分からない。とは言え井上がラスだとしてもこちらは連対がほぼ必須となる、本人もそのことは承知しているだろう。

東3局 ドラ 裏ドラ
中嶋が5巡目にリーチ

宣言牌がドラの。愚形リーチを割合多く打つ筆者の感覚から見ても、正直これはやり過ぎの感が否めない。案の定と言うべきか森川がドラ色のメンホンのイーシャンテンまで詰め寄るも、後筋になったを掴んで放銃。
今日の中嶋は何度も危険な目には遭っているが、とにかく致命傷を負わない。最後に笑うのはこの男なのだろうか。

東4局に佐藤聖誠が8000を森川から和了した後は、淡々と局が進みオーラスを迎える。
ラス親の森川が2900は3200、1300は1500オールをアガって迎えた南4局3本場、4人目の昇級者を決める1局がついに訪れた。
南4局3本場 ドラ 裏ドラ
森川 30900
中嶋 26000
中村 26400
佐藤聖誠 36700
中嶋は2着まで4500の出アガリか700・1300ツモ、トップになるには跳満出アガリか満貫ツモ条件となる。
できれば確定の満貫手を作りたいところだが、幸か不幸か5巡目にあっさりとカンチャンが埋まり、高目タンヤオの聴牌。
ツモ
は出たら見逃しますが、ツモってきたら最初からアガる気でした。」
中嶋はネット麻雀を下地に最高位戦の門を叩いた打ち手である。彼が今日まで培ってきた麻雀は、ネットでの膨大な対局数で築いてきたシステムマチックな戦術 がベースとなっている。確かにこの手、打てる回数が無制限の勝負であれば、即リーチして出場所や着順に構わず和了することが最適な判断に違いない。
しかし中嶋には最高位戦の同期として、また今年筆者が参戦を断念したB1で来年戦うかもしれない選手としてあえて苦言を呈したい。
この手、即リーチをするかしないかの判断はまだ意見が分かれるところだと思う。仮にをツモってきて裏がのらなかったとしても、それが間違っていたと筆者には言い難い。
しかし現実の世界で起こった中嶋の7巡目ツモ和了、これは正直自分に課された条件を甘く見過ぎているのではないだろうか。
ツモ
裏ドラがのれば2着で井上のラス待ち、のらなければ3着のままで自身の5位以下がほぼ確定する。
少なくとも筆者はこのポイント条件下でこの手をリーチしたとしたら、はツモ切る以外の選択肢が無い。ここは限られた半荘回数で1年の勝負を決める場所なのだ。

…結果裏ドラはのらず、この瞬間井上の昇級が確定した。

■最終結果
34期B2リーグ最終結果は以下の通り。
1 坂本 大志 416.4
2 佐藤 聖誠 398.6
3 石井 一馬 322.1
4 井上 慎司 252.3
(以上、4名がB1リーグへ昇級)
5 中嶋 龍太 219.5
6 谷口 竜 212.9
7 宇野 公介 142.6
8 三ヶ島 幸助 102.4
9 森川 健太 39.2
10 松田 猛 21.7
11 川端 美雪 12.4
12 齋藤 敬輔 -4.5
13 根本 佳織 -83.2
(以下、11名がC1リーグへ降級)
14 嶋村 恭介 -122.7
15 中村 英樹 -130.6
16 野口 洋貴 -135.7
17 清水 昭 -161.8
18 平林 佑一郎 -171.0
19 津田 博愛 -178.2
20 阪元 俊彦 -301.4
21 佐藤 かづみ -339.4
22 秋田 大介 -411.8
23 中邨 光康 -449.7
24 田中 巌 途中休場

昇級者4名を少しずつだが紹介させて頂こう。
1位昇級:坂本 大志
第1節、2節と大きいマイナスを背負う苦しい出だしとなるも、中盤7連勝を含む怒涛の巻き返しで見事トップ昇級の座を掴み取った。
入会当初よりタイトル戦では数々の好戦績を残してきた彼だが、昨年までCリーグに3年間在籍していたことからも、リーグ戦では決して結果に恵まれてきた訳ではない。それだけに初のB2リーグで一発昇級という結果は尚更嬉しいことだろう。
最高位戦クラシックでの初タイトルにB1昇級と、この1年で大きく花開いた最高位戦1の「努力の男」。来年以降その花がどんな実を生らすのか、今から楽しみである。

2位昇級:佐藤 聖誠
昨期B2での佐藤聖誠は大きくポイントを叩く半荘があったと思えば次の半荘はすぐに箱を割るなど、とにかくムラの激しいイメージがあった。今年は終始昇級圏内で安定したポイントを重ねての勝利、本人も自信になったことだろう。
レポートの中でも触れたが私と佐藤聖誠は同期であり、彼をプロテストで初めて見た日からもう4年近い歳月が流れている。同期の中でも落ちこぼれ的存在だっ た筆者とは対照的に、デビュー当初から”優等生”だった彼は同期最速のB2リーグ昇級を皮切りに各タイトル戦でも着実に実績を積み重ねてきた。周囲の評価 も次第に高まっていく中で、昨年のB2リーグでは彼を昇級候補として推す期待の声も多かったと記憶している。
しかし私の考えは違った。
昨年彼と同じリーグを戦った中で、私が羨望の眼差しで見ていた同期佐藤聖誠の姿はそこにはいなかった。
確かに実績は増え評価も高まったのかもしれない。ただ結果とは賞賛につながり、賞賛は時に驕りにもなる。4年前に見た全ての人から何かを吸収しようとする 顕著さは色褪せ、彼は気負いと負けん気の強さだけが次第に前に出る選手になっていた。そして自身のスタンスを大きく崩してしまったことが昨年の不振に繋 がったのではないだろうか…
謙虚さが麻雀の結果を直接左右するとは思わない。ただ勝ったプレイヤーにこそ謙虚であって欲しいと私は願う。
今年の結果は本来の姿を取り戻しての、いや更なる変化を遂げて掴んだ収穫となったに違いない。

3位昇級:石井 一馬
「今年を逃したら2度とチャンスはない位の気持ちで臨みました」
平素物静かな彼だが、昇級が確定した後こう力強く語ってくれた姿が印象に残った。
石井の麻雀は一言で”シンプル”というイメージが強い。先手を取る為に手役よりもスピードを優先し、自分が不利な場合はどれだけ手短にしていようが潔くオリに回る。
ただこの”潔くオリる”という行為が普通の打ち手にとっては中々難しい。手狭になれば当然オリにくくもなるし、心理的にも勝負をしたくなってしまうことが多いだろう。
近年ネット麻雀や東風戦ルールの普及でよく見られる様になったタイプの打ち手だが、最高位戦のB1以上で同じ様な類の選手は私の知る限り現在はいない。
今年B2リーグで最も手を狭めながら、最もよくオリた男石井一馬、堂々のB1昇級である。

4位昇級:井上 慎司
最後の3節で250ポイントを叩き出して見事最後の椅子を掴み取ったのがこの井上。
対局終了後に本人にそのことを話したところ、「後半戦強いのはいつものことだからね、予定調和だよ。」とあっさりと返答してきた。ちなみにリーグ戦の最終戦でトップが取れなかったのは、何と在籍7期目となる今年が初めてのことだったらしい。
石井同様普段リーグ戦で話す際は物静かな人物なだけに、どこまで本気でどこまで冗談かは分かりづらいが(笑)、打ち上げの席であんなに嬉しそうな表情を見せる井上は初めて見た。悲願の年間リーグ昇級に喜びもひとしおだったに違いない。

そして昇級者の名前が発表され周囲の緊張が解けだした頃、一人の選手が筆者にこう尋ねて来た。
「僕今日のレポートで出番ってありますか!?」
声の主は齋藤敬輔。最終節開始時の順位は11位、今日昇級ラインと降級ラインの両方から最も遠かった選手である。
今期B2第1節のレポートを読んでいただいた方ならご存知かと思うが、筆者は当時齋藤の麻雀を見て「この内容では勝ち切れない」という旨の厳しい文章を残している。
https://saikouisen.com/kansenki/sai34b2-1.htm
そんな酷評を覆すかの様に彼は前半戦400近いポイントを叩き出し、一時は独走態勢すら匂わせていた。しかし後半戦が始まると別人の様に大失速、よもやのトータルマイナスで今期を終えることになる。

「昇級争いの選手にほとんど焦点を当てていたから、多分出番は無いよ。」
齋藤へ冷淡に切り返した後、一つ付け加えた。
「第1節のレポートを書いた経緯があったから…齋藤さんには最後まで目がある戦いをして欲しかった。」その言葉を聞いた齋藤は自身の敗北の悔しさを少しだけ語り、足早に会場を去って行った。
筆者はおそらく今年のB2リーグを最も多く観戦したギャラリーの内の一人だが、多くの選手の中で一番印象に残っていたのは齋藤の姿だった。おそらく今期の齋藤の戦いだけをレポートにしてもこの文章の倍以上の量を書き上げることができる。

リーグ戦というのは昇級した選手が一番輝く存在であることは疑い様が無い。
ただその傍らで昇級争いに敗れた選手、残留争いに勝った選手、降級してしまった選手にも目が向いてしまうのは筆者だけではないだろう。各選手の思いがそれぞれある様に、観戦者にもそれぞれの応援の仕方や思いがあってこそ、選手の戦いも映えるものになるのではないだろうか。
当然の話だが、今回書いたレポートというのは当日の会場で起こった出来事のほんの一部に過ぎない。これから先より多くの選手や競技ファンの方が会場に足を運び、より多くのことを感じていただける様願いつつ、このレポートの締めとさせて頂きたい。

改めて昇級した方々、おめでとうございます!
また12節に渡り素晴らしい戦い見せて下さった23名の選手の方々、本当にありがとうございました!!

最後に独り言↓

・24人目の選手へ
再来年またこの場所に戻って来い、待ってるぞ!!!

文責 竹中 誠(文中敬称略)

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