コラム・観戦記

第34期最高位決定戦5日目・最終節②

【18回戦】

起家 石橋
南家 尾崎
西家 飯田
北家 金子

オーラスの見事な攻防を制した石橋。立場的には攻め込めるラス親を引きたいところだったが、サイの目は無情にも石橋の起家を指していた。

そして、僅か1半荘の刻を経たところで一気に並んだ3者の差を見て、場内はざわざわと色めき立ち始める。

【東1局・ドラ

是が非でも先手を取りたかった石橋。ここだけは譲れないとリーチを打つ。

《石橋・12巡目リーチ》

しかし6巡目にのポンシャンテンを取っていた飯田が、先に聴牌を入れていた。

《飯田・9巡目》

リーチの前、聴牌後にツモってきたは加カンせずにいた飯田。石橋のリーチが入ったあとも無筋のを切って1巡押すと、先にを引き当てた。

大きな声で嬉しそうに牌を引き寄せツモ発声をする大魔神。これを機にするように、18回戦は束の間小場が続いていく。

【東2局・ドラ

10巡目に先制リーチをしたのは、親の尾崎だった。

6~9巡目は特に河が濃く、金子は対応に長考を重ねる。

《尾崎・捨て牌》

同巡に聴牌を入れたのは飯田だった。

《飯田・10巡目》

 ツモ

うーん、とぽつりと呟いた飯田。尾崎には中筋の切りでリーチに出る。は既に1枚切れているので、待ちはは1枚切れ。尾崎の現物にがあるが、が場に4枚切れとあって、こう受ける。

2人揃って息の荒い打牌が暫く続いたが、ここは流局を迎えることになる。

《尾崎・リーチ》

ドラ単騎待ちの七対子。は2枚石橋にしまわれたが、1枚生きていただけに、ここは掴まなかった大魔神も胸を撫で下ろしたか。

これを一発決めれば大リードを奪えた尾崎。因みに、暗刻から落としたで、切りでのシャンポン聴牌も取れていた尾崎。8巡目の切りで両面にはフリテンになる可能性があるので、切りリーチの選択もある。さらに生牌のは12巡目に自らがツモっていた。この局、裏ドラは、だった。

 

ツモ山が変わらなければ、リーチツモ中イーペーコー裏3の6000オール。石橋が国士無双狙いの捨て牌、金子が七対子の気配がかなりあっただけに、字牌の枚数が絞り切れない上、片割れになるに自信が持てなかったことでシャンポンには受けずだったか。

一か八かのドラツモの勝負に出た尾崎は、もう短くなった最高位までの決着に、賭けたようにも、少し焦っているようにも見えた。

続く1本場は金子のポンテン2000に尾崎が飛び込んで東場の親番が終わった。

【東3局・ドラ

6巡目に親の飯田が仕掛ける。

《飯田》

 チー

配牌から1枚引いただけで動かなかったのとが1枚切れだったことで、チャンタとダブの天秤になる生牌のを仕掛けで埋めて打とすると、を仕掛けて聴牌。

ダブが鳴ければ文句ないところだったが、から仕掛けてはは出てきにくい。飯田は、まずは連荘を目指す。

ここに石橋が、

《石橋・9巡目》

でツモ切りとし、飯田の術中に嵌まる。1500と打点こそ低いが、飯田の連荘は避けたかっただろう3者の想いが、皆が各々に示した不快な表情から滲み出ていた。

【東3局・ドラ

この局もダブが重なっていた親・飯田。一向聴だったが、金子からリーチが飛んできてしまう。

《飯田・8巡目》

《金子・8巡目リーチ》


(ツモ)

石橋は河に投げられた宣言牌のを食い入るように見つめる。

《石橋・8巡目》

 ツモ

タンヤオのカン聴牌となるツモだったが、ここは一息ついて聴牌取らず。は宣言牌の側の無筋だが、自らの和了へのこだわりを貫く石橋。これ以上のマイナスはもちろん痛手にはなるが、形のいいメンタンピンに仕上げてツモりあげて打点とトップが欲しい一心が伝わってくる。

結局 10巡目に4枚目ので聴牌を果たした石橋が、リーチに出る。

《石橋》

この2軒リーチには親の飯田もここまでかとオリを選択。

この時点で、金子のは4枚生き、は5枚生きと、山に生きている枚数は2人揃ってかなりの数だったが、先に引き当てたのは石橋だった。

裏は乗らずの1000・2000だが、納得のいく聴牌からの捲り合いに勝ち得て満足気の石橋に比べ、勝負手が実らずの金子は少し気分が落ちたような顔つきになっていた。

【東4局・ドラ

2度目の2軒リーチで場が急に暖まってきたせいなのか、18回戦はこれをきっかけにするように、さらに激しい攻防となる。

前回の17回戦から基本的に手がそこそこ纏まっている飯田、5巡目に打と手広く受けると8巡目に聴牌。

《飯田・8巡目》

 ツモ

《飯田・捨て牌》

気持ち良さそうにリーチと発声した大魔神。

すると9巡目にツモ切ったに金子が仕掛ける。

《金子》

 チー

はリーチ後に回っていた石橋が対子落としをして、4枚目のだった。

軽く発声をしたあと、すぐに口を強く結んでを叩き付けた金子。一通ドラ1の聴牌。

この鳴きでさらに聴牌したのは石橋だった。

《石橋・11巡目》

 ツモ

三色目も残る絶好のツモで、またこの局も打点の見込める聴牌を果たした石橋。は現物だがはドラ。ここは当然と、このままリーチに出る。

しかし宣言牌のは飯田の当たり牌。8000の放銃は、この決定戦で石橋の最後の出番ともなりそうな、痛過ぎる大きなマイナスとなった。

【南1局・ドラ

ラス目に落ちた親の石橋は、必死に連荘を目指したいところ。6巡目にドラを重ねる。

《石橋》

 ツモ

しかしこの時点で残る有効牌は、が山に1枚とが3枚のみ、和了までは遠く苦しい一向聴だった。

石橋が聴牌にたどり着けずにもがいていると、尾崎からリーチが入る。

《尾崎・11巡目リーチ》


(ツモ)

が頭のカンの役なし聴牌だった尾崎が、を引き入れるとフリテンの三面張でリーチに出る。

はすでに自分から4枚見えているので、残る待ちは。石橋がを対子落とししている。はどこかに固まっている可能性は全く否定できなかったのだが、山にも確かにいそうでもある。残り2枚のに関しては、自分からが4枚、が3枚見えだが、は1枚、が2枚見えとなると、石橋以外の2人がメンツとターツで抱えている可能性は低くない。

尾崎は、やはり勝負に焦っていたのだろうか。逸る気持ちは伝わってくるが、ソーズも場には高くないとはいえ、フリテンの要素としてはを切っている。しかし、役ありドラなしのフリテンリーチでは、結果次第では少し怖い感じにも取れる。

実際はこの時点でが僅か1枚の尾崎。しかしこのリーチでタンピン一向聴だった飯田をまず止めることには成功した。

が、長い間一向聴だった金子。12巡目に遂に聴牌。

《金子・12巡目》

 ツモリーチ

金子のは残り2枚。

2巡の間だった。音も立たないような静かな闘牌が続いたあと、また音も立てずに金子がをツモ。

裏1なら満貫になる現張りだったピンフドラ1は、が3枚裏に乗って跳満に化した。

低く、それでいて透き通るように力強い金子の声が響き渡る。

18回戦の後半は、さらに息を荒げて進んでいった。

【南2局・ドラ

前局の勢いそのままに、金子に高打点が期待できそうな配牌が入る。

《金子・配牌》

風牌のとドラのが対子のチャンタが濃く見える好手。また一荒れしそうな一局である。

5巡目にを叩いて一向聴。

《金子・5巡目》

ポン

が1枚切れなのを見て、を1枚外す金子。しかしすぐ下家の石橋がをツモ切るのだが、アガリまで漕ぎ着けるにはマンズのくっつきを優先した結果なので、ここは致し方ないところか。

次巡金子がをツモ切ると、こんどは石橋が仕掛けた。

《石橋・6巡目》

 ポン

石橋の風のは1枚切れだが果敢に仕掛けると、次巡にが鳴ける。ここはソーズに一気に寄せての打

《石橋・捨て牌》

金子は石橋に完全に被せにいく気で、次巡のをツモ切る。石橋は当然のチー、仕掛けてから僅か3巡で満貫聴牌。

《石橋・8巡目》

完全に煮詰まってきた中盤、諦めていないのは親の尾崎も一緒だった。

《尾崎・9巡目》

  ツモ

マンズの下はかなり安い。は一枚切れだが、は実際に6枚生きだった。

残るマンズとピンズの両面は、河からは自信が持てそうなターツで、ソーズ染め手の石橋が三副露とあればここは押し切れる公算がある。

一向聴をめいっぱいに受ける選択をした尾崎が、気持ちを高ぶらせながらドラのを叩き付けた。

大きく響いた打牌の音に呼応するかのように、一際大きな声でポンと叫んだ金子。このポンで一向聴に。

《金子》

ヒートアップしてきた卓内には、想いを懸ける男たちの熱い気持ちが溢れ出していた。

ここは三者が誰1人退かずに真向からの勝負に出る。

次巡に引きで聴牌に辿り着いたのは親の尾崎だった。渾身の想いを乗せてリーチ。

《尾崎》

尾崎のは相変わらず山に6枚。高めのが3枚もある。
捲 り合いになれば有利に見えた絶好の聴牌だったが、そもそもこの絶好の待ちでアガリを待つという所までの布石が大事なゲームであり、結果は神ならぬ、山のみ ぞ知るという運の要素が最後に待っている。これは、麻雀において最も過酷な部分なのだ。いくら分が悪くても、相手の和了に噛み合わずに、自分の最後のピー スとなる1枚に巡り合えれば、アガリは成立するのである。

この局は、リーチ後にツモで、実際は3枚生きていた生牌のを勝負した石橋が、次巡残り2枚だったをツモりあげて勝負あり。

6枚より、3枚より、2枚の待ちが最もアガリまで早かったのは、を誰かが抱えている可能性と、生きていそうに見えたを天秤にかけて、河から山を読み、での自分のアガリに賭けた石橋の緻密な計算の結果そのものだった。

これは実際生きていることとは関係のない、技術と呼ばれる部分である。

最高位決定戦の最終節、場が完全に煮詰まった場面でも、各々が自分の出来るべく最高の思考を凝らし、名の通り最高峰の戦いを魅せるべく邁進している、その姿そのものだった。

石橋が、親のないあと2局、まだ意地を見せて望みを繋ぐ。

【南3局1本場・ドラ

飯田は、終盤に入れた聴牌でリーチと出るもアガリにはたどり着けず。1人聴牌で連荘を得るも、1本場はここでラスになると、残す2半荘が苦しくなる石橋と尾崎が前に出る。

2着目の飯田とは12000点差の石橋に、好配牌が入った。

《石橋・配牌》

の暗刻にドラも暗刻で、打点をあげるには申し分ない。縦のツモが続いて6巡目一向聴。

《石橋》

同巡に聴牌が入ったのは尾崎。

《尾崎》

ツモ

タンヤオのみだが、引きでピンフと三色がつく。3着目の石橋とは9200差。1000・2000ツモだと、供託1本と1本場で石橋とはオーラス2000点差となる。
しかし現状聴牌が3翻上がる手変わりありとあればと、ここはそっと闇に構えた尾崎。

手変わりもないまま、当たり牌もツモることも出ることもなく2巡が過ぎた。

河は飯田が聴牌直前に切っていたが1枚切れのみ。尾崎が8巡目にをツモ切ると、9巡目までの時点で2枚、2枚が切られた。飯田の2枚目の、金子、石橋のは共にツモ切り。ドラはなので、ドラはどこかに固まっている可能性が高くなったが、は使われていそうにない。

9巡目、ふと立ち止まった尾崎は、和了への自信を得ると、ツモ切りで徐(おもむろ)に牌を曲げた。

5枚生きだった尾崎の待ち牌のを即刻掴んだのは、一向聴だった親の飯田だった。

一発目につかまされた、1巡凌ぐも前向きに押してすぐさま放銃となる。裏はなく2600は2900。

そして勝負手をぶつけることもなく終わってしまった石橋は、悔しそうに牌を眺め、静かに手牌を伏せた。

【南4局・ドラ

東家 金子 40600
南家 石橋 24000
西家 尾崎 19700
北家 飯田 35700

オーラスは、ここでラスになると残る2半荘が苦しい尾崎、マイナスを少しでも減らして最低でも2着が欲しい石橋の2人が、最後までぶつかる。

《石橋・11巡目》

ツモ

既に2枚を切って聴牌取らずをしていた石橋。24000点では、3着でもマイナスポイントが16増す。2着となる跳満ツモを目指していると、ラス牌だった引きで聴牌を果たす。

ツモで裏が1枚乗れば跳満になるのは、ドラ単騎の方だ。ピンフのつく手変わりを待つには形が厳しい。

石橋は、打でリーチに出た。変わらず表情は凜としていたが、自分が存分に戦える決定戦の残された時間は、もう少なくなってしまった石橋。胸中は、最高位への想いが駆け巡っていたに違いない。鳳凰の来訪に、最後の望みを賭ける。

このリーチ棒で、石橋との点差が3300と軽くなった尾崎。

《尾崎・10巡目》

12巡目、先に両面のが埋まった。を切れば聴牌だ。

尾崎は今1度ポイントが書かれているボードを確認すると、現物のを切って聴牌取らず。が既に2枚切れでは苦しい。ソーズは、第一打のがフリテンである。とは言っても石橋の満貫以上がほぼ確定している手牌に、ドラ勝負でカンにも取りづらく、出アガリでは3900にならない。

を切った直後、石橋がをツモ切った。

尾崎の手牌しか見えない観客は、音も立てず、動く者もいなかったが、ざわざわと色めいていた。しかし切りのリーチでは石橋に放銃となっていたのだから、ここは尾崎が確実に堪えていたのだ。

石橋が次巡にをツモ切った直後だった。

尾崎はツモで条件を満たす聴牌を果たす。

《尾崎・14巡目》

ツモ

山には残り1枚。だがたった今石橋がを切った。手出しにはなるが対子落としの打での聴牌。

尾崎は、そっと河にを並べた。息を殺して、気配を消す。飯田か金子、どちらかがでもでも抜いてくれればここは勝てるのだ。1牌押さなきゃならなかったら、もうオリ打ちは期待できないだろう。この今の1巡が、勝負の分かれ目だ。

前巡からの対子を落としを始めていた飯田が、尾崎の手出しのにチラリと目をやるも、をそっと切り上げた。

─尾崎が、安心したように手牌を倒した。少しうわずった声をあげる。息を飲んで、音も立てず構えていた若き王者は、ギリギリのところで戦線に立ち止まる。そしてこの瞬間に、石橋の最高位決定戦は、事実上1人終幕を迎えた。

いよいよ3人に絞られた決定戦は、さらなる佳境を迎えていく。

【18回戦】

金子 40600 +40.6
飯田 35700 +15.7
尾崎 24600 △15.4
石橋 23000 △37.0

【18回戦終了時】

金子 + 65.1
飯田 + 38.0
尾崎 +   3.2
石橋 △107.3

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