コラム・観戦記

第34期Aリーグ最終節観戦記

先史の時代、人類は石を擦り合わせる事で火を起こし、その輝き、魔力に魅了された。
 
トッププロの対局も、似たようなものだ。
 
伝統ある最高位戦も新たな節目を迎える。10月7日(水)、34期Aリーグ最終節。
人生の大半を麻雀に捧げて来た選手同士の戦いは、どのような輝きを見せてくれるのであろうか。
 
 
 
卓組みは以下。
 
A卓 石橋、水巻、佐藤、大柳、冨澤
 
B卓 金子、尾崎、平賀、上野、村上、張
 
 
 
開始前のポイントは以下。
 
1 金子 正輝 300.4
2 尾崎 公太 287.3
3 石橋 伸洋 188.7
4 水巻 渉 180.6
5 平賀 聡彦 173.7
6 上野 龍一 -120.2
7 村上 淳 -146.1
8 佐藤 崇 -165.9
9 張 敏賢 -177.0
10 大柳 誠 -235.3
11 冨澤 直貴 -268.4
12 伊藤英一郎 途中休場
 
1~3位が最高位決定戦進出。11~12位がB1リーグに降級(休場の伊藤は自動的に12位となり、降級が確定)。
 
 
 
ご覧の通り、1位~5位、6位~11位と、天国と地獄にはっきりと分かれていて、
なんとタイトルホルダーである佐藤と張が降級争いに加わっている事が、レベルの高さを物語っている。
 
見所としては、やはり石橋、水巻、平賀による、決定戦出場の最後の椅子を賭けた3位争いであろう。
尚、この3人の選手の誰が残っても決定戦初出場で、それぞれが尋常ではない気迫に満ちているに違いない。
A卓の石橋と水巻は、同卓時にはそれぞれの点数、着順を意識しながらの戦いになり、
B卓の平賀は4半荘通して己がどこまでやれるか、正に自分との戦いになる。
 
また降級争いも激しく、大柳と冨澤が苦しい位置にいるが、10000点持ちのラスでマイナス50ポイントとなることを考えれば、
6位の上野も全く安心できる位置ではないだろう。ちなみにこれは1位の金子、2位の尾崎にも全く同じことが言える。
 
 
 
麻雀の神様は誰に笑いかけ、誰に試練を与えるのか。新津代表の合図と共に最終節が開始された。
 
 
 
B卓1回戦(金子、上野抜け番)
 
起家から村上、尾崎、平賀、張の順。
 
 
 
東1局 ドラ
 
中盤、ドラドラの平賀が仕掛けた後、すぐテンパイを果たす。
 

 
幸先いいスタートを切りたいところだが、をツモ切ると、親の村上がこれをロン。

 

 ロン
 
ホンイツ、の12000。平賀いきなりの致命傷。
 
村上、なんと配牌から

 


 
であり、捨牌が

 


 
となっている。第一打のがニクい。
 
 
 
東1局1本場 ドラ
 
9巡目、平賀がリーチ。

 


 
すぐにを払っている村上がを持ってきて一度は止めるが

 


 
になったところで打
 
平賀、これを討ち取ったと思いきや、なんと上家の尾崎が頭ハネ。

 

 ロン
 
ホンイツの6400は6700。平賀、不運が続く。
 
 
 
東2局 ドラ
 
平賀、今度は9巡目に

 


 
と四暗刻のイーシャンテンになるが、村上に軽く蹴られこれも実らず。
 
 
 
平賀は以降、張のハネ満ツモで親被りの後、チートイをリーチしてツモり一矢を報いるが、
南入してからは戦いに加われず、手痛いラスをひいてしまう。
 
 
 
B卓1回戦終了
 
張  +45.4
村上 +17.7
尾崎 -15.5
平賀 -47.6
 
 
 
B卓2回戦(尾崎、村上抜け番)
 
起家から張、平賀、金子、上野の順。
 
 
 
東場は金子と張の二人舞台。南入してこの点数状況。
 
張  39900
平賀 16900
金子 41400
上野 21800
 
 

平賀が苦しい。南1局、南家で11巡目に

 

 ドラ
 
でヤミテンマンガンを入れ、次巡ツモで三色が確定しハネマンに化けるが、一枚切れのがこぼれない。
残りツモがハイテイ牌を残すのみとなった所でカラ切りリーチを入れるが、奇跡は起こらず流局。
以降は見せ場を作ることさえ出来ず、痛恨の2連続ラスとなる。
 
 
 
B卓2回戦終了

金子 +40.8
張  +19.2
上野 -17.8
平賀 -42.2
 
 
 
一方ここまでのA卓の結果は以下。
 
 
 
A卓1回戦結果(石橋抜け番)
 
冨澤 +49.2
水巻 +8.9
大柳 -12.2
佐藤 -45.9

 
 
A卓2回戦結果(水巻抜け番)
 
佐藤 +45.5
石橋 +24.4
大柳 -23.3
冨澤 -46.6
 
 
 
注目の水巻と石橋が、お互いのいないところでポイントを伸ばす。
 
そしてこの時点でのポイントは石橋213.1、水巻189.5。また、大柳-270.8、冨澤-265.8となる。
この4者が決定戦出場及び残留、降級を賭けた本日最大の修羅場とも言える3回戦に突入する。
 
 
 
A卓3回戦(佐藤抜け番)
 
起家から水巻、石橋、大柳、冨澤の順。
 
 
 
東1局は流局。
 
 

東2局1本場 ドラ
 
10巡目、水巻がリーチ。石橋の親に被せてきた。

 


 
を大柳から出アガり、リーチイーペイコードラの6400は6700。これで一歩リード。
 
 
 
東3局 ドラ
 
4巡目、親の大柳がリーチ。

 


 
水巻もドラドラの手から果敢に仕掛けて4センチ。

 

 チー  
 
これは水巻がをツモり上げて、中ドラドラの1000・2000。2連続のアガリ。
 
 
 
東4局 ドラ
 
7巡目、大柳がリーチ。

 


 
ドラ単騎チートイツで勝負を賭ける。
 
すると、石橋が10巡目に追いかけリーチ。

 


 
なんとこちらもドラ単騎のチートイツ。
 
ちなみにこの時点でドラのは山に丸々2枚眠っている。
 
ギャラリーの注目の中、を叩き付けたのは大柳。裏ドラが乗り、リーヅモチートイドラ4で4000・8000の大花火。
当面の敵である冨澤に大きく親被りさせることに成功。このアガりは本当に大きい。
 
 
 
東場が終わった時点での点数は以下。
 
水巻 34700
石橋 25000
大柳 38300
冨澤 22000
 
もしリードしている水巻と大柳が上家下家の関係であれば、
「局潰し」という点で意見が合致している二人にとって非常に有利であるが、あいにく対面同士であり、まだまだもつれそうである。
 
 
 
南1局 ドラ カンドラ
 
石橋、ソーズのホンイツが見える白*の仕掛けから、ペン3p*のドラドラテンパイに移行するもアガれず。

 

 加カン
 
役無しテンパイからソーズを押し切った大柳との二人テンパイ。
 
 
 
南2局 ドラ
 
8巡目に親の石橋がリーチ。

 


 
同巡、水巻もピンフのテンパイを入れる。

 


 
水巻、勝負所とみて無筋を押すが、後に石橋がドラのをツモ。裏ドラもで、リーヅモドラドラの4000オール。一気にトップ目に。
 
 
 
南3局3本場 ドラ
 
石橋、悪配牌から伸びて9巡目イーペイコードラドラのテンパイでヤミテン。

 


 
11巡目、親の大柳がリーチ。

 


 
捨て牌は(リーチ)
 
となっておりが本線であるが、そのがすぐに石橋の所へ。
 
これを打ち切れず切り、次巡ツモ切り単騎待ちのところで水巻から勝負手の追いかけリーチが入るも、
石橋、値千金のツモ。
 
水巻 
 
石橋  ツモ
 
ツモ中イーペイコードラドラで2000・4000は2300・4300。
水巻のアガりも阻止し自分の点数も大幅にプラスしたこのアガリは、石橋にとってさぞかし嬉しかったことだろう。
 
 
 
オーラスは2着争いの大柳と水巻が仕掛け合い、水巻が大柳に中ドラ3の8000を打ち上げ終了。
 
 
 
A卓3回戦終了
 
石橋 +49.7
大柳 +18.4
水巻 -22.2
冨澤 -45.9
 
石橋が水巻を離す。冨澤には厳しい展開だった。
 
 
 
B卓3回戦終了(平賀、張抜け番)
 
上野 +37.5
尾崎 +14.6
金子 -15.1
村上 -37.0
 
 
 
A、Bそれぞれの卓が3回戦を終了し、ここまでの総合ポイントは以下(大柳、冨澤はあと1回戦、他の選手はあと2回戦を残している)。
 
 
 
1 金子 正輝 326.1
2 尾崎 公太 286.4
3 石橋 伸洋 262.8
4 水巻 渉 167.3
5 平賀 聡彦 83.9
6 上野 龍一 -100.5
7 張 敏賢 -112.4
8 村上 淳 -165.4
9 佐藤 崇 -166.3
10 大柳 誠 -252.4
11 冨澤 直貴 -311.7
 
 
 
金子、尾崎はここまで安定して点数を持ち、変わらず1位、2位につけている。
3位の決定戦出場争いは、石橋が水巻を離した形だが、直対があと2回あるのでまだ分からない。
平賀は2度のラスでほぼ絶望的となった。また、降級争いは大柳が優位に。
 
 
 
B卓4回戦(金子、尾崎抜け番)
 
起家から村上、平賀、上野、張の順。
 
 
 
ここでの平賀の決定戦進出条件を敢えて言うならば、残り2回戦で自身が50000点持ちのトップが2回で、
かつ尾崎か石橋のハコ割れ近いラスが2回となっている。
 
 
 
その平賀、ほぼ原点持ちで迎えた南1局にリーチ

 

 ドラ ロン
 
張からメンピンドラドラの8000をアガって親番を迎えるも、早い2軒リーチに流される。以降一度はトップに立つが、結局は2着で終了。
 
 
 
B卓4回戦終了
 
上野 +40.1
平賀 +20.3
村上 -9.2
張  -52.2
 
 
 
A卓4回戦(大柳抜け番)
 
起家から水巻、石橋、佐藤、冨澤の順。
 
 
 
水巻は、自分がポイントを稼ぎ石橋を沈められればまだ決定戦進出のチャンスがある。
また、冨澤はこれが34期Aリーグでの最後の闘牌となる。降級争いをしている大柳に対してどれだけ条件を押し付けられるか。
 
 
 
東場は主に小さな横移動の展開で、南場を迎えてこの点数状況。
 
水巻 29500
石橋 33400
佐藤 27600
冨澤 29500
 
 
 
南1局は石橋がツモ、300・500。
 
 
 
南2局、親の石橋が

 


 
から序盤に水巻の捨てた7s*をチー。アガリは遠いが、水巻への牽制のための仕掛けだ。
これで上家の水巻はうかつにソーズが切れなくなる。
 
石橋、この仕掛けが功を奏し、全員ノーテンで流局。
 
 
 
南3局1本場 ドラ
 
10巡目に冨澤がリーチ

 


 
が1枚切れだが、気迫でハイテイでをツモり、リーヅモハイテイの1000・2000は1100・2100。
 
 
 
オーラスを迎えて
 
水巻 27900
石橋 33400
佐藤 25200
冨澤 33500
 
冨澤、この100点をなんとしても守り抜きたい。親番だから何をツモられても厳しい。
 
 
 
オーラス ドラ
 
3巡目、水巻がダブ南を仕掛け、ホンイツへ。8000点でトップ。出来れば石橋からアガりたいところだ。
 
8巡目に親の冨澤がテンパイ。

 


 
大事にヤミテンでを佐藤からアガる。發ドラドラの7700。
 
 
 
続くオーラス2本場は、石橋が3巡でピンフをアガり、2着を守りきる。
 
 
 
A卓4回戦終了
 
冨澤 +41.2
石橋 +14.7
水巻 -12.1
佐藤 -43.8

 
冨澤、執念のトップ。石橋がまた水巻を離す。
 
 
 
B卓5回戦終了(平賀、上野抜け番)
 
金子 +49.6
尾崎 +14.4
張  -17.1
村上 -46.9

 
金子、尾崎が堂々のワンツーフィニッシュ。張、村上はこれが34期Aリーグラストラン。
 
 
 
東1局に金子はカンチャン待ちで「ツモ番のないリーチ」を敢行し、先制リーチ者の村上から一発で河底でアガり、
その読みの正確さを見せ付けた。
 
金子  ロン(一発、河底) ドラ
 
この回は金子にとってほぼ消化試合ではあるが、先を見据えて全力でトップをもぎ取った。
そう、1位の金子は飯田正人を追っているのだ。
 
 
 
それぞれの卓、残すは1回戦となり、ここまでのポイントは以下(張、村上、冨澤は全対局終了)。
 
 

1 金子 正輝 375.7
2 尾崎 公太 300.8
3 石橋 伸洋 277.5
4 水巻 渉 155.2
5 平賀 聡彦 104.2
6 上野 龍一 -59.4
7 張 敏賢 -181.7
8 佐藤 崇 -210.1
9 村上 淳 -221.5
10 大柳 誠 -252.4
11 冨澤 直貴 -270.5
 
 
 
決定戦争いだが、3位石橋と4位水巻の差は122.3。また二人が同卓の最終戦に、水巻が60000点のトップ、石橋がハコラスで120縮まる。
簡単に言えば役満直撃。水巻、奇跡は起きるか。
 
 
 
また降級争いは、冨澤が全対局を終えての-270.5であり、-252.4の大柳との差はわずか18.1。
大柳の最終戦での条件は、1位は無条件で残留、2着なら計算上1900点以上が必要(つまり2着ならほぼ残留)。
3着だと少し厳しく21900点以上が必要となる。ラスは点数に限らず降級確定である。
ちなみに佐藤も最終戦で、ハコ下400点を越えたラスを引くと降級である。
 
 
 
A卓最終戦(冨澤抜け番)
 
起家から石橋、大柳、水巻、佐藤
 
 
 
東1局は大柳が白を仕掛け、佐藤から1000点をアガる。
 
 
 
東2局 ドラ
 
7巡目に佐藤がリーチして、3巡後にツモ。

 

 ツモ
 
リーチツモ中の1300・2600。
 
これで大柳が親被りして28400点持ちのラスに。まだ東2局、たった300点の違いだが、ラスをひいたら降級の大柳、その心情は筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。
 
 
 
東3局 ドラ
 
佐藤が終盤にツモ。

 

 ツモ
 
ツモドラドラの1300・2600。佐藤、ハコラスは大丈夫そうだ。
 
 
 
東4局は全員ノーテン。
 
 
 
南入してこの点数状況
 
石橋 27400
大柳 27100
水巻 26100
佐藤 39400
 
大柳、このまま耐えられるか・・・。
 
 
 
南1局1本場 ドラ
 
大柳、配牌が

 


 
となり、ドラが暗刻のチャンス。是非ともアガりたいところ。
 
9巡目にをポン。

 

 ポン
 
後にを引き入れ、水巻からでロン。

 

 ポン ロン
 
タンヤオドラ3で待望の8000は8300の収入。これである程度安心か。
 
 
 
南2局の大柳の親番は、水巻と佐藤の二人テンパイで局が進む。大柳、あと2局。
 
 
 
南3局1本場
 
親の水巻が10巡目、ピンフの1500は1800点を佐藤からアガる。
 
 
 
南3局2本場 ドラ
 
親の水巻が果敢に仕掛け、15巡目、中ホンイツドラをテンパイ。

 

  
 
しかしここまで。2フーロの石橋が、ツモ牌を手元へ引き寄せる。

 

   ツモ
 
西の300・500は500・700。これで最後の親が落ちた水巻の決定戦出場の目は、ほぼ無くなった。大柳はあと1局。
 
 
 
オーラスは佐藤が連荘するも、2本場に大柳が自らチートイをアガりきり、残留を決めた。

 

 ロン
 
 
 
A卓最終戦結果
 
佐藤 +49.3
大柳 +14.6
石橋 -13.4
水巻 -50.5

 
 
 
B卓最終戦(張、村上抜け番)では、オーラス1本場、親の平賀のリーチをかわして尾崎がツモアガリ。
これにより34期Aリーグの全てが終わった。
 
 
 
B卓最終戦結果
 
上野 +37.0
平賀 +11.1
尾崎 -12.2
金子 -35.9

 
 
最終成績
 
1 金子 正輝 339.8
2 尾崎 公太 288.6
3 石橋 伸洋 264.1
4 平賀 聡彦 115.3
5 水巻 渉 104.7
6 上野 龍一 -22.4
7 佐藤 崇 -160.8
8 張 敏賢 -181.7
9 村上 淳 -221.5
10 大柳 誠 -237.8
11 冨澤 直貴 -270.5
12 伊藤英一郎 途中休場
 
 

決定戦出場は、安定していた金子と尾崎、そして残る一つの椅子を勝ち取った石橋の3名。
 
降級は、冨澤、伊藤の2名。
 
 
 
以上の結果になった。
 
 
 
決定戦出場を決めた3人に、声を聞かせて頂いた。
 
 
 
金子「リーグ戦はみんな強いから、1節が終わった後も次の節が来るのが楽しみだった。決定戦も自分らしい麻雀を打ちたい。」
 
尾崎「最終節は、捲くられても仕方ないと思ってたので、気負いすることは無かった。決定戦も頑張ります。」
 
石橋「最終節は、別卓の平賀さんの不調もあって展開がよく、気楽に打てた。決定戦は、チャレンジャーとして向かっていきます。」
 
 
 
また、今回は麻雀の神様に大きな試練を与えられた冨澤だが、このまま引き下がりはしないだろう。
今期B1リーグからは近藤が、昨年の33期B1リーグからは村上が戻ってきたように、
更なる飛躍を遂げてAリーグに戻ってくるはずだ。
 
 
 
あと少しで決定戦に残れなかった水巻、平賀、それに無事残留した各選手も、今回の結果においてそれぞれの感情があり、
それを糧に今後も技を磨いていくに違いない。
 
その感情がどのようなものであるか、私は知らない。私なんぞに分かろう筈もない。
 
あと何年努力すれば分かるのか、もしくは一生分からないままか・・・。
 
 
 
偉大な先輩方が生み出した炎は、それほど強く、神々しい輝きを放っていた。
 
 
 
 
 
文中敬称略
文責:志村友基

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