コラム・観戦記

第34期最高位決定戦2日目 その①

【最高位決定戦 2日目】

相変わらず空気も澱みなく、それでいて穏やかなままだった。

初節は尾崎が頭一つ抜け出したが、一発・裏あり、馬は10-30。実際100Pのリードも1半荘で危うい。

―今回も誰より気合いが漲るように見えていた尾崎は、同じように会場の片隅で観戦記を手に取り、雑談もそこそこに静かに開戦を待っていた。

飯田は、いつもと変わらず楽しそうに談笑しながら、真っ先に卓に就いて牌を愛しそうに触る。

金子は、ゲン担ぎの前回と同じネクタイを締めながら、国士無双を放銃したことを思い出していた。

3ラスの痛い洗礼を受けた石橋。引き締まった顔つきで、挽回を誓う。

それぞれの想いを乗せて―

10月30日。
最高位決定戦2日目の、幕が開けた。

【5回戦】

起家 尾崎
南家 金子
西家 石橋
北家 飯田

【東1局・ドラ

金子が好配牌のメンツオーバー。―まるで今日の1日を示唆するかのような―、早くまとまりそうな形だ。

《金子・配牌》

第一ツモで打とし、3巡目、のポンテンを入れて、聴牌一番乗り。

《金子・3巡目》

上家である親の尾崎は、6巡目に早々とオリに向かう。一方の石橋、飯田は、前向きに手牌を進める。

《石橋・6巡目》

《飯田・6巡目》


13巡目、石橋は小考した後に、2巡目の打のフリテンを嫌い、ドラのを切った。

《石橋・13巡目》
ツモ

金子は少し驚いたように、上ずった声でロンと一言。

2日目は、金子が石橋から2600を打ち取るところから始まる。

【東2局・ドラ

開戦早々、和了からスタートで親が回ってきた金子、好形で前に出たいところ。

《金子・6巡目》

すると8巡目、尾崎が軽く頷きながらドラのを河に放つ。

《尾崎・8巡目》

ツモ

12巡目にツモで聴牌。小考してリーチ。

《尾崎》

金子は、尾崎のリーチ後に捨てられた、フリテン解消となるを仕掛けるかどうかを悩み立ち止まる。

《金子・13巡目》

しばし悩むも、鳴かずに後のツモでオリに向かう金子。

最後に形式聴牌を入れた石橋と2人聴牌で流局。金子は手牌の萬子をふと見やり手を伏せた。

【東3局1本場・ドラ

4巡目にを重ね、9巡目にを重ねた親の石橋。一気に萬子に寄せ高打点を目指す。

《石橋・9巡目》

ツモ

金子はこの局も好手から、6巡目に役なしだが聴牌1番乗り。

《金子》

役ありの手変わりを伺うも、手牌が変化しない。

石橋がメンホンの一向聴になったところで、尾崎からリーチが飛んでくる。

《石橋・12巡目》

《尾崎》

尾崎はドラのを暗刻にしての勝負手。

これを受けた金子、山にそっと手を伸ばすと、まさに絶好のタイミングでツモ

上気する気持ちを隠すかのように、小さく、落ち着き払った声で和了を告げた金子。

―本当は安堵に満ちていたのを逆に悟らせるほどの、低くか細い声だった。

【東4局・ドラ

リーチが2連続で空振り。ここで尾崎が初めてボードに目を向ける。

ここまで出番のない飯田、順当にツモが噛み合い9巡目に先制聴牌。

《飯田・配牌》

ツモ

《飯田・9巡目リーチ》

ツモ

リーチをかけると必ずツモるイメージすらある大魔神。11巡目に難なくツモ和了で1000オール。

裏は乗らずも心なしか普段より嬉しそうにアガリを決めた飯田。急に迎えたアガリ番に、素直に喜びを見せる。

【東4局1本場・ドラ

飯田、前向きに手を進める。ドラのを重ねてペンを埋め、勝負手の一向聴に。

《飯田・10巡目》

ツモ

ここで真っ先に仕掛けたのは、先ほどボードを眺めていた南家の尾崎だった。金子の打をポン。

《尾崎・10巡目》

ポン

しかし掛かったのは石橋。序盤から内側にめいっぱいに受けていた石橋。

《石橋・11巡目》

ここでツモで打の強気のフリテンリーチに出るも、このが尾崎に捕まり、3900は4200の痛手を負う。

フリテンの3面張だがは3枚見え、は1枚ずつ河にあった。更に仕掛けた尾崎は完全に索子の河で、ドラのは場に1枚も見えず、飯田、金子共に変則手の河。尾崎は、打のあと引き打と手出していて聴牌濃厚とあれば、石橋の攻撃が掛かり気味に見えるのも無理はない。

が皆が攻撃に出たところで尾崎が和了をさらっていったのが残された事実だった。

そしてこの和了が、尾崎を更に固く、堅実に進ませる。

【南1局・ドラ

金子が3巡目にをポン。

《金子・3巡目》

ポン

やる気が伝わってくる仕掛けだが、聴牌まで漕ぎ着けたところで打とし地獄待ちの単騎に受けた金子。

《金子・12巡目》

ツモ

さらに途中ツモで待ちを単騎に変えるも、後にツモでとする、この待ち変えの打が石橋のドラ待ちの七対子に刺さってしまう。

これでも金子はさして悔しくもなさそうに点棒を取り出して、発声すら掛かり気味な石橋に支払った。

続く南2局は、親の金子を置いていくためのような、飯田の早い仕掛けに尾崎が2600の放銃。

南3局は、尾崎が飯田からピンフのみを和了。

1、2着目の2人が、親を蹴るために局を連携して進めているように見えるほど、動きは小さいままだった。そして、1時間も経たずに、1回戦はオーラスを迎える。

【南4局・ドラ

東家 飯田 32700
南家 尾崎 33300
西家 金子 24500
北家 石橋 29500

僅差のままのオーラスは、尾崎が先手仕掛けで聴牌。

《尾崎・6巡目》

チー

この鳴きで石橋に聴牌が入る。

《石橋・7巡目》

ツモ

ツモれば2着、もしくは出アガリ裏1でトップの石橋、ラス目の金子の条件を軽くするがここは当然のリーチに出る。

そしてすぐ次ツモで飯田にも聴牌。

《飯田・8巡目》

ツモ

肩を透かされたようにがっくりと落とし小考した飯田。仕方ないかとばかりにリーチに出るも、この打が尾崎に当たる。

尾崎の1000点に放銃するも、2着はキープで微笑んだ飯田。

一方腑に落ちない表情の石橋。逆転のチャンスが未だに巡ってこないまま、マイナスだけが増えていく。

南場を急速にまとめて今日もトップスタートの尾崎は、途中から観戦に来ていたファンに話し掛けると、今日初めて笑顔を見せる。

そして石橋への6400で痛恨のラス落ちした金子は、この半荘終了時に、笑顔が消えた。

 

【5回戦】

 

尾崎 35300 +35.3
飯田 31700 +11.7
石橋 28500 △11.5
金子 24500 △35.5

 

【5回戦終了時】

 

尾崎 +110.5

飯田 + 17.0

金子 △  3.2

石橋 △124.3

 

 

 

【6回戦】

起家 尾崎
南家 飯田
西家 石橋
北家 金子

【東1局・ドラ

尾崎、手牌に素直に進め5巡目の生牌のダブ切り、しかし次巡ツモと被り河に並べながら首を傾げる。

《尾崎・5巡目》

ツモ

石橋は索子寄せがうまく噛み合う、9巡目にドラのをツモ切り、10巡目、ツモで聴牌。

《石橋》

ツモ

親の尾崎は、まだ諦めない姿勢でピンフドラの一向聴からを叩き切るも、13巡目、ツモで一際大きな溜息を肩でつき、最終ツモを残して撤退。

石橋、反撃の一手も実らず流局。無事流れた瞬間に、また尾崎が溜息を一つ、小さく吐いた。

【東2局・ドラ

親の飯田に好配牌も、先に聴牌は先ほどから顔つきが変わった金子。

《金子・8巡目聴牌》
ツモ

場には2枚見え。1巡ダマるも、次巡ツモはドラで、三色ではなくともこれならとリーチを打って前に出る。

ここに攻め込んだのは、親の飯田ではなく尾崎だった。

《尾崎・13巡目リーチ》

ツモ



捲り合いもすぐに終了。金子が尾崎に裏1の5200は5500を放銃。金子は前半荘のマイナスを引きずったまま、この半荘も後退からスタートする。

【東3局・ドラ

先制聴牌からリーチと出たのは、未だに手が先にまとまる金子だった。

《金子・10巡目リーチ》

そして、このリーチに被せたのは再度、先ほど5500のリードを受けた尾崎だった。

金子のリーチの前巡にを引き一向聴の尾崎。金子のリーチの一発目に、をツモ切り、次巡ツモのを暗カン。新ドラは。そのままリーチに出る。

《尾崎・11巡目》

暗カン ツモ

前局に引き続き、勝ったのは尾崎だった。
金子から6400を打ち取った尾崎、5回戦のトップを味方につけて、今度は攻め立てて上に立つ。

【東4局・ドラ

やっと親が回ってきた金子。ここは何とかしたいと逸る気持ちが伝わってくるようだったが、なかなか手牌が進まず。

これを知ってか飯田が金子を煽るかのような先手仕掛けに出る。

《飯田・2巡目》

ポン

は二鳴きだった。すると、リーチを打ってきたのは完全に波に乗った尾崎だった。

《尾崎・4巡目》

ツモ

ここは飯田がさらに自風のも叩き、高め5200の聴牌となり尾崎を捕らえるべく果敢に攻める。

《飯田・13巡目》

押し続けた大魔神がをツモ切ると、大きな声でハッキリとロンと告げたのは、またしても尾崎だった。

飯田、8000の痛い放銃で尾崎は50000点超の大きなリードを得て南場に足を踏み出した。

【南1局・ドラ

2巡目、飯田がダブのポンテン。

《飯田》

ポン

なかなか出てこない。実はこの鳴きで尾崎にピンズが押し寄せていた。

《尾崎・7巡目》

《尾崎・捨て牌》

ピンズはどこを引いても聴牌、は対子落としているが河は一色手にはさすがに見えない。また尾崎が叩くのかと息を飲んだ瞬間に、手変わりが放銃となる聴牌をしていた石橋がツモ。

《石橋・7巡目》

三色も、ピンフもないままの300・500が、放銃回避、そして清一色をも吹き飛ばしていたことを、石橋は知る由もない。ただ、尾崎のこれ以上の親での加点を阻止した石橋は、何食わぬ顔で和了を手に前だけを見据える。

【南2局・ドラ

先制聴牌は、親番を迎えた飯田だった。

《飯田・8巡目》

ツモ

慎重にダマに受けるも、次巡ツモで打。これを下家の南家・石橋が長考し、チー。

《石橋》

チー

これを見てか、飯田がツモで待ち変えせずにツモ切りリーチを敢行する。

さらに石橋、ボードを見ながら飯田のリーチ後のをポン。

《石橋・10巡目》

このポンで飯田のツモ牌だったを食い下げることに成功した石橋。結局その後はを打ち出さずに丁寧に回りオリて流局に持ち込む。

出番が少ないながらも存在感を感じさせる好攻守でダメージを最小限に躱した石橋。

次局も続いた大魔神の親は流れ、熾烈な2着争いは残り2人の親番を残して更に加速していく。

【南3局・ドラ

親の石橋はドラトイツの七対子二向聴。形で七対子に決め打つ。

《石橋・3巡目》

ツモ

10巡目に聴牌。ダマに構え、次巡1枚切れのをツモ切り。

するとこのを飯田がポン一向聴に取る。

《飯田》

次巡、単騎のままツモ切りリーチに出た石橋。

《石橋・捨て牌》

が自分から3枚見えの生牌。そこまで七対子には見えないにしても、リーチに出た石橋。尾崎との15000点の差をひっくり返す6000オールを狙いに勝負に出る。

ここに、金子も役あり聴牌で石橋に攻め込む。

《金子・12巡目》

この時点では尾崎が対子の1枚生き、は3枚生きと差がかなりある。

しかしリーチにツモらせることもなく局を終わらせたのは、飯田だった。

金子のリーチ後に3枚目のドラを、顔を引きつらせながら河に並べた石橋。尾崎が瞬間に合わせると、回っていた飯田がチー。次巡に難なくツモで500・1000、さらにリーチ棒2本に2本場、供託1と、完璧なまでの躱し、和了を披露する。

《飯田・14巡目》

ツモ

石橋が単騎に受け変えてリーチ、もしくは即リーを打っていたら、恐らく飯田は仕掛けず、飯田から打ち取る可能性さえあった。

トップを果敢に狙いにいく決心までのほんの少しの間があったことが、局を大きく変え、石橋の立ち位置すら危ぶませる。口を少し開けて息を荒く吐き出す石橋。まだ、頂点が遠い。

【南4局・ドラ

東家 金子 12100
南家 尾崎 48700
西家 飯田 28300
北家 石橋 30900

先制一向聴は、3着目の飯田。

《飯田・6巡目》

2600点差の点棒、静かに手変わりを待つ大魔神。

次巡、ポンで打、ここで石橋が仕掛ける。

《石橋》

チー

飯田は次巡ツモで聴牌。

《飯田・9巡目》

石橋はツモで聴牌。打で索子引きに備えての単騎に受ける。

さらに親の金子からもリーチ。

完全に煮詰まったオーラスは、をツモりのノベタンに受け変えた石橋の打で終局となる。

親の金子の河が強く、待ちを良くしての打は仕方のない放銃だが、飯田が切りの金子のリーチの一発目にを強打。索子での聴牌が濃厚だったことを考えると、8000の素点と1着順は、かなりの大打撃だった石橋。

2着は目前だったこの半荘にまたマイナスを増やした石橋と、手はそこそこ纏まるのに和了に結び付かない金子。2人の回りに、少しずつ暗雲に立ち込めて来た。

【6回戦】

尾崎 48700 +48.7

飯田 37300 +17.3
石橋 22900 △17.1
金子 11100 △48.9

 

【6回戦終了時】

 

尾崎 +159.2

飯田 + 34.3

金子 △ 52.1

石橋 △141.4

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