コラム・観戦記

第9期女流最高位決定戦2日目観戦記

女流2日目観戦記

11月15日。休日の買物を楽しむ人々で賑わう神楽坂。そんな穏やかな空気をよそに神楽坂ばかんすでは熱い戦いが繰り広げられていた。
女流最高位決定戦第2日目。

初日の結果は以下のとおり
和田  +111.1
根本  +63.2
いわま ▲58.5
涼崎  ▲115.8

トップを走る和田に約50ポイント差でぴったりとつけている4連覇中の根本。独走を許さずプレッシャーを与えてくる。初日3連勝を飾った和田はこの追撃を振り切り根本の連覇を阻止することができるのか?

5回戦 決戦の時、迫る!

起家から順に根本、和田、涼崎、いわまの順

初日不振だった涼崎が積極的に攻め、前半細かくあがって少しずつリードを作っていく展開。
大きなあがりが出ないまま淡々と局が進んでいくが、ちょうど折り返しのあたりで根本に絶好のチャンス手が入る。

東4局 ドラ
根本配牌

配牌キタコレ。と思いきやなかなか有効牌を引かない。
しかし4巡目にをポン、6巡目にをチーして確実かつ最速のテンパイを入れ、涼崎よりで8000は8300を打ち取る。
ここぞというチャンスは絶対逃さず、確実にものにする。これぞ女王の貫禄か。

しかし和田も負けてはいない。和田にめぐってきたチャンスは南1局。

南1局1本場 ドラ
和田に配牌からダブ南アンコ、第1ツモでイーシャンテンというチャンス。
和田がをアンカンした直後の8巡目、いわまからリーがチ入る。
親の根本が、リーチの直前に切られているゲンブツのドラ()をリリースすると下家に座る和田がそれをチーして満貫のテンパイを果たす。

和田
 

直後涼崎がでリーチを打って追うも、一発目のツモでをつかんで和田に放銃。ダブ南ドラ、8000は8300と供託を合わせて4本のリーチ棒つき。一気にトップに躍り出た。

南2局 ドラ
親番を迎えてリードを広げたい和田が6巡目、メンホンチートイのイーシャンテン。
和田

しかけてテンパイに向かうもよさそうだが、も場にゼロ。
実際涼崎が9巡目にを打ったのはこの形から
涼崎
 ツモ 打

和田がこのに動いていたら涼崎に満貫放銃もあったかもしれない。
そしてもうひとつのキー牌であるは根本がアンコにしており
テンパイの次巡即をツモり700・1300とし、根本が再び逆転。トップ争いはオーラスにまでもつれ込むことに。

南4局 ドラ

点棒状況
いわま 27900
根本  40400
和田  39200
涼崎  12500

トップ目根本と1200点差の和田が、ツモタンヤオの500・1000をツモりきって自力で勝利を掴み取る。これで和田は初日より4連勝!
しかし根本はしっかりと2着につけ、和田にプレッシャーをかけ続ける。
勝負の行方はまだまだわからない。

5回戦結果
和田   +41.2
根本   +19.9
いわま  △13.1
涼崎   △48.0

6回戦 麻雀運も大切です

ばかんすに飾られている色紙に根本佳織が記したコメントである。
ここで我々は「星の根本」たる所以を垣間見ることになる。
根本は強運に守られ最後まで快進撃を遂げることができるのか?

起家から順に涼崎、和田、根本、いわまの順

東1局 ドラ
7巡目いわまが三色確定となるカンを引いて力強い先制リーチ。
これに対し親の涼崎がで追いかけようと打
しかしこの宣言牌が直前にテンパイした和田の当たり牌。
和田
 ロン
和田が見事に3900を打ち取とり、好調なスタートを切った。

着実にポイントを重ねていく和田。しかし予断を許さない状況は続く。

東3局 ドラ
親番を迎えた根本、配牌ドラドラの状態から7巡目にこの形
根本

ここからずっとツモ切りが続くが、13巡目にが入って打とし、タンヤオイーペーコドラドラのテンパイ。
そこで同巡和田からリーチ。
和田

なんと根本のテンパイ打が和田にギリギリで間に合う。
そしていわまより2軒目のリーチが入る。

いわま

なんとなんと根本、いわまのリーチ直前に連続してとツモ切っている。なんという強運か。

いわまの待つのうちはこれで場に3枚。は1枚根本が切っており、残り3枚は涼崎と和田の手の内。
流局かと思われたが、和田がラス牌のを一発でつかみ、いわまに放銃。
しかも和田のリーチ後のアンカンでカンドラとカンウラドラが乗り、リーチ一発ドラウラの8000。和田にとってはとてつもないダメージ。

南2局1本場 ドラ
その後も根本のナチュラルファインプレイは続く。
8巡目いわまのリーチに対し、ドラを重ねた南家根本がトイトイを目指してをポン。
親の和田もドラを重ねてチートイのテンパイ。
すると根本の鳴きにより、最終的にハイテイはいわまのもとに。
するといわまがそのハイテイを見事ツモって、メンタンピンハイテイツモ。2000・4000は2100・4100。
ハイテイがまわってツモられるも当面の敵が親かぶりするという強運再び。

南3局 ドラ
根本の親番、そしてここは根本自ら決めにいった。
序盤下家のいわまに2つしかけられるもピンフドラを力強くリーチ。
いわまから5800を出あがり、着順をひとつ上げて和田にプレッシャーをかける。

南3局 ドラ

和田はこの半荘で本手を何度もテンパイするが確実にあがりきれずラスを抜けることができない。
この局も和田は2つしかけながらもドラをアンコにして満貫をテンパイ。
粘るが、根本からいわまへの1600は1900の放銃で点差を詰められないままオーラス突入。

点棒状況
いわま 40000
涼崎  30300
和田  18600
根本  31100

和田としては根本から1000点でもあがって並びをつくりたい状況であったが、オーラスも全員ノーテンで静かに終了。
全体として根本の強運が結果を大きく左右した半荘といっても過言ではなかった。

6回戦結果
いわま  +40.0
根本   +11.1
涼崎   △9.7
和田   △41.4

ここで根本が50ポイントを詰める猛追。
トータル
和田  +110.9
根本  +94.2
いわま △31.6
涼崎  △173.5

残り2回戦で差はわずか16.7ポイントにまで迫った。


7回戦 嵐再び!!

5回戦、6回戦と連続して2着をキープし、非常に安定している根本。
初日のような爆発力は見られないが着実にポイントを重ね、追われる和田も大きなプレッシャーを感じているに違いない。
緊迫した時は続く。

起家から涼崎、和田、根本、いわまの順

東2局 ドラ

開局早々根本の満貫が炸裂し、続く東2局。
親番を迎えた和田がふたつ仕掛けて早々にテンパイするも
涼崎がリーチ後一発で高め三色のをつもり、3000・6000。決勝初ともいえる会心のあがりを見せる。
涼崎
 ツモ

このときの和田の待ちも、涼崎と同じ。和田いきなり痛恨の跳満親かぶり。

東3局 ドラ
早くも根本との和田の差が12000点。そして親番は根本に。緊迫した事態は続く。
放銃はないものの大きく出遅れた和田。丁寧にドラを重ねて高めタンヤオイーペーコーをテンパイしてリーチ!
和田

しかし南家いわまに即追いかけられ、めくりあいの展開にもつれ込む。

いわま

13巡目和田がいわまの当たり牌をつかんで、いわまに2600放銃。
少なくともは山に生きていそうだっただけに残念。

東4局 ドラ

10巡目根本イーシャンテンからテンパイとなるを引き入れて少考
 ツモ

根本が取った選択は打リーチ。
実際に次巡ツモで役アリのダマテンを取れる可能性も残されてはいた。
しかし、追えないない手順についてあれこれと振り返らないのが根本の長所だろう、リーチは潔い選択だといえる。
ここで配牌からをアンコで持っていた和田がチートイのテンパイからを1枚リリースして1300を放銃してしまう。
チートイに決め打つならばリーチ前に合わせ打ちが可能な場面があった。点差が気になるだけに、せめてテンパイはとろうと魔が差したのか!?

南2局 ドラ
気がつけばトップの根本と2万点近い差をつけられた和田。迎えた最後の親番

8巡目でこの形

マンズの形は配牌よりずっと動かず。ドラへのくっつきか両面になる形なら迷わずリーチに行くだろう。しかし和田の8巡目のツモは
まだ8巡目? それとも、もう8巡目?
テンパイだけはとるか、それともリーチにまで踏み切るか。
または希望する形になるまでテンパイ取らずか…。
和田の選択はテンパイをとってダマ。一通の手がわりも見込める上での選択だろう。
しかし何も有効牌を引かないまま巡目は深まり14巡目根本が300・500ツモ。和田の親番は流されてしまう。

リーチを打っていたら他家の手は進まなかったかもしれない。
そして、ドラを残していれば次巡ドラが重なりシャンポンの形でテンパイしていた…。
麻雀にたらればはない、とはよく言われるが、そのような材料が残ることは、打ち手にとっては大きな重圧となってのしかかるに違いない。

南3局 ドラ

トップで親番を迎えた根本。早速ポン、ポンと快調に仕掛ける。
根本だからこうなるのか、とさえ思わせるような好形ピンズホンイツの3面待ちになり、和田から5800を打ち取る。

南3局1本場 ドラ

ねもねもキター!
3巡目。わずか2回のツモで早くもタンピンのテンパイ。ここは最速の恩恵にあずかり、三色の手がわりを待つことなくリーチ!
9巡目和田も手が整い追いかけるが先にあがりを手にしたのは根本。
ツモでメンタンピンツモ。2600は2700オール。
根本と和田の差が素点で6万点を超える。和田ピンチ。

南3局3本場 ドラ

気づけば根本独走。
最終戦に望みを繋ぐべく諦めずに前に出る和田。

点差をつめるにはそれなりの打点が必要。
ピンズのメンツを落として行き、一気にマンズに寄せる。
10巡目ポン。その2巡後涼崎のリーチ宣言牌のをポンしてテンパイ。
和田
  

これをいわまより高めので出あがって8000は8900。
長いラス前が終わる。直撃によりわずかな差ではあるが着順をひとつあげ、和田はオーラスで2着を目指せるところまで何とか持ってくることができた。

南4局2本場 ドラ

しかしこのオーラスも長丁場となる。
ラス親のいわまが粘り、再び和田の上につけ微差の3着目に。
各選手の位置は以下。

点棒状況
いわま 22400
涼崎  23400
和田  18400
根本  55800

7巡目和田がをポン。同巡で根本がテンパイしてリーチ!
根本

このリーチに対し、会場内の多くの人がドキッとしたに違いない。

現在2着と4着の差が5000点、3着と4着の差が4000点。
脇から高めが出るだけで、もしくは裏ドラが乗るだけで和田の着をあげてしまう可能性がグッとアップするのだ。

ひそかにテンパイを取りで打ち取るのがセオリーと考えるものが圧倒的多数だろうか。
しかし彼女の麻雀の中にそのセオリーはなかった。
残り少ない片割れのすら見逃さない。たとえそれで和田の着順をあげて最終戦への条件を変えてしまったとしても、それこそ彼女にとっては「ちっちゃいことは気にしない」心意気なのだ。

もし根本がそこでダマに構えてしまうことがあろうものなら、彼女の中でのバランスが崩れてしまうだろう。
彼女の強さはそのメンタルにある。たった2日間見ただけでもその驚異的な強さの秘訣がわかる。
むしろこのリーチに踏み切った瞬間がその強さの最たるものといえるだろう。

結果、終盤リーチで追いかけたいわまからが出る。
2600は3200にリーチ棒がつきいわまと和田の着順が入れ替わり終了。

7回戦結果
根本  +60.0
涼崎  +3.4
和田  △21.6
いわま △41.8

トータル
根本  +154.2
和田  +89.3
いわま △73.4
涼崎  △170.1

和田は200点差で3着に浮上したため100ポイント差のところを80ポイント差として最終戦に望みをかけることとなった。
これが吉と出るか、凶と出るか?

8回戦 強さの秘訣は揺れない心にあり

麻雀打ちは一貫性がなければダメだ、という恩師の言葉がある。
揺れてはいけないのだ。
この2日間の対局を見た者の中で根本の揺れるシーンを見たものがいたろうか。
そして最終戦、和田はその牙城を崩すことがきるのか。

起家からいわま、涼崎、根本、和田の順

ラス親の和田、サイコロに恵まれたか。
トップラスなら4900点差、2着順なら24900点差が条件になる。

東2局1本場 供託1.0 ドラ

静かに迎えた開局から動きがあったのはここ。
根本が9巡目リーチ。

ドラのないこの形からこれ以上ない高めツモでメンタンピンツモ三色の3000・6000は3100・ 6100。
怒涛の跳満ツモで並びが必要な和田にとって苦しい立ち上がりとなった。

東3局 ドラ
根本親番で11巡目リーチ。
和田ピンズ一色手に向かっていたが進められず。
根本がツモってリーチツモドラ、2000オール。着実にリードを広げていく。

東3局1本場 ドラ
和田がふたつ仕掛け、満貫のテンパイ。
  

そこへ親番中根本も15巡目で以下のような形に
 ツモ

ここで根本がリャンカンからをはずし和田の満貫にドスン。
8000は8300。会心の直撃で一気に差が詰まった。

東4局 ドラ
この親番でなんとかしたい和田、これを蹴って進めたい根本。
いわまが5巡目リーチと早くも手が整うが、根本も先にテンパイしており、いわまのを捕らえる。
ピンフのみ1000を出あがり、和田の親番を蹴ることに成功する。
いわまが2000点失点したことにより和田が2着目に浮上し後半戦へ折り返した。

南1局 ドラ
親番のいわまに手が入りリーチ。しかしここも根本が先にタンヤオチートイドラドラをテンパイしている。安全牌は一枚もなし。
どうせ安全牌がないのならば、通りそうだと思うところをトイツ落としして延命するより、テンパイを維持しながらいくしかない。
勝負の行方は早く、わずか2巡で根本がつかまりリーチピンフドラ5800放銃。ウラドラが一枚でも乗っていたら大事件に発展しかねない場面であった。
ここで根本と和田の差が3900点に詰まった。

そしてここからあがりが出ないまま流れ流れてオーラスにもつれ込む。

オーラスは4本場から。根本が親番であったラス前に何とか並びを作りたかった和田だが、テンパイは果たすもののなかなかツモあがることができず。ノーテン罰符のみで差を広げていく形になり、勝負はオーラスにもつれ込んだ。

南4局6本場 供託4.0 ドラ

点棒状況
和田  41100
いわま 29100
涼崎  15800
根本  30000

根本2着の状況では4万5千点差をつけてのトップが必要な和田。
根本から1500点でも出あがって並びを作りたい場面、迎える6本場。

11巡目和田がドラを頭にして以下のテンパイ
和田

は場に4枚、も2枚きられているのでダマに構える。
しかし根本の手も整っており和田のテンパイ時にはイーシャンテン。
根本にがまわってきたら出てもおかしくない。
観客が息をのんで見つめる瞬間だった。
根本にもテンパイが入る。
どちらかがつかんだら出る。和田はテンパイをはずした時点で終了してしまうので根本有利は変わらないが、もしかしたら…。
手に汗握る勝負は流局。

南4局8本場 供託4.0 ドラ

粘る和田。こらえる根本。
ひとりテンパイであと1本積めば次は6000オールで変わる。
とにかくテンパイはとりたい和田。
しかし先にテンパイを入れたのは根本。
チートイのテンパイから見事ツモり、800・1600は1600・2400!
山とたまった積み棒とリーチ棒をがっつりとお掃除。
自力で勝利を勝ち取った!!

長い緊張の時から開放され対局者、観客ともにほっとした空気が流れ、勝負は幕を閉じた。

8回戦結果
根本  +42.6
和田  +21.7
いわま △15.5
涼崎  △48.8

最終結果
根本  +196.8
和田  +111.0
いわま △88.9
涼崎  △218.9

表彰式での根本選手の言葉
「5連覇したら何言おうかなーっていろいろ考えてたんですけど…」
の言葉に場がワッと和む。さすがです。

麻雀の強さは心の強さに通じている。
「今年の根本はこれまでで一番強かった!」
観戦に来ていた方からこのような言葉をいただいた。
まだまだ女王は進化を遂げるのだろうか。
これから先も目が離せない。

「天皇のお茶会に呼ばれるまで連覇しようと思います」
そんな意気込みの根本選手に対抗できる猛者は現れるのか!?

そんな白熱の舞台が再び訪れるまで
まずは根本選手、5連覇おめでとう!!

レポーター 須藤珠水

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