コラム・観戦記

第34期最高位決定戦3日目 その②

【11回戦】

荘家 飯田
南家 金子
西家 石橋
北家 尾崎

【東1局・ドラ

飯田が親で国士を狙いにいく。10種になっていると、8巡目に先手と言わんばかりにドラをツモ切り。

これを見た金子。ヤミテンの8000聴牌を入れていたが、いち早く和了でこの局を終わらせるべく、両面のヤミテンに受け代える。

《金子・8巡目》


ツモ

の2000を元気良く石橋から出アガリをすると、次局の自親に確実に繋げる金子。

東2局はタンピンをリーチするも流局。

それでも、今日の金子の勢いは止どまらなかった。

【東2局1本場・ドラ

石橋にも好手が入り、今日はこの2人が順調に良い感じだなあと、外からギャラリーに混ざり傍観していた筆者だったのだが。

《金子・8巡目リーチ》


ツモリーチ

ツモも良かったのだが、金子の絶妙な横受けへのコントロールの結果がこの牌姿だった。

このリーチを受けて石橋、一発目にいきなりを叩き付ける。

《石橋・8巡目》

ツモ

そして次巡ツモで聴牌となるや、現物となるの単騎待ちでさらにを押してリーチ。

今日はプラスの波に乗ってる金子の親リーチ。さすがに現状なら蹴る一手。本手になるメンタンピンや、ピンズのノベタン含む三面張まではヤミテンの仮テンとするだろう。終了後には、このリーチはやり過ぎたと冷静に振り返った石橋。

雰囲気に押されてなのか、また前のめりに掛かってしまう。

石橋は、を勝負せずに切りなら、単騎を12巡目にツモ。
とその前にツモを勝負している可能性が高い。すると次巡を即ツモと、拾えそうな和了を零していた。

が残りの2人から零れることも、実際は山に2枚寝ていたのだが、金子がそれをツモ切ることもないまま、金子が高めのを引き寄せる。さらに裏ドラのを2枚乗せて、1回戦に続き、今日2回目の6000オールツモ。

但しこの6000オールは免れた可能性がかなり高めだったことも含めると、このあとはさらに金子に追い風が吹き続けるのを想像するのは容易である。

まさに順風満帆の船に乗った金子。この半荘もトップ獲りの舵を取り始めた。

【東3局・ドラ

金子の配牌とツモが噛み合うスピードが落ちない。8巡目に手を纏めあげると、先制リーチ。攻撃の手は緩めない。

《金子・8巡目リーチ》

親の石橋は、七対子ドラドラの一向聴でリーチに押す。ようやく12巡目に追いつくと、4筋目の無筋のを切り飛ばして生牌の単騎でリーチ。

この宣言牌を尾崎がすかさずチー。

《尾崎・12巡目》

 チー

この鳴きでも揺るぎない事実は、この局は金子の和了番だったことだった。

次巡ツモる予定だったを石橋に切られてロンアガリの2600。

まだまだ金子への追い風が吹き荒れる。

【東4局1本場・ドラ

尾崎もアドバンテージを生かして前に出ようと、親でリーチするも流局。石橋に追いかけられて、金子にも最終ツモで聴牌を入れられての3人聴牌と、好調の石橋・金子に攻め込まれてしまう。

そしてずっと置いていかれていた大魔神が、ようやく初和了を遂げたのはこの局だった。

4巡目にポンと前に出る。

《飯田・4巡目》

次巡を引き一向聴になると、も仕掛けて聴牌。

《飯田・8巡目》

尾崎がうーんと一言小声で呟くと、前向きな打で飯田に2000は2600の放銃。

《尾崎・9巡目》


ツモ

大魔神がようやく目覚めた。アガリにありつけた飯田は、どこかのスイッチでも点けたかのように、南場に向けて勢いよく前進を始めた。


【南1局】

まず石橋のドラドラ七対子と共に2人聴牌に持ち込んだ飯田は、1本場でも1半荘ぶりの先制リーチと勢いを増す。残りの3人が苦しみながらようやくの流局に安堵を示すと、もう飯田はいつもの大魔神と化していた。

【南1局2本場・ドラ

5巡目に尾崎が一向聴からドラを離す。

《尾崎・5巡目》

ツモ

このを親の飯田がポン。

《飯田・6巡目》

ポン

そして尾崎は、役なしとなる縦ツモので7巡目聴牌。

飯田の河にあるを見てリーチに出た。

ここに石橋、金子が揃ってベタオリ。トータルポイントを見たら、尾崎から飯田の横移動も悪くないし、何よりこのルールでは、リーチへの差し込みはしづらい。

1対1になると、さらに嗅覚が鋭くなる飯田。

《飯田・11巡目》

ツモ

既に2巡目に河に放ったをすぐ2巡後に再度ツモで受け入れていた飯田、打としは打たず。ソーズの下はよく見えての方が山にいそうだったのだが、カン待ちに受けて、ラス牌のをツモ切った尾崎を捕えた。
12000は12600。今日2度目の和了は、尾崎を沈める会心の一撃だった。

続く3本場は、金子が飯田を押さえこむべく打ったリーチによって、大魔神を難なく捕らえる。

《金子・11巡目リーチ・ドラ

《飯田・12巡目》

ツモ

聴牌打で金子に5200は6100と痛い放銃。

―あとで振り返った飯田は、押しちゃいけない牌切っちゃったね、と話していたこの場面。

ようやく手にした2回の和了が気持ち良くて、大魔神らしくない放銃となったのだろう。

しかし親でようやく復活した調子なら、このぐらい押してもと反省できずに思う筆者は、まだまだ大魔神の足元にも及ばないと気付いたと共に、飯田が放銃したことに親近感が沸いてしまった。

神とは、身近な存在のようでそうではなく、絶対的に手が届かないものである。今日は不調に押されていた飯田は、元に戻ればやはり大魔神ということなのだろう、とふと悟った一瞬だった。

【南2局・ドラ

石橋が6巡目に手を仕上げてリーチ。

《石橋》

掛かったり、寄せ付けない強さを見せたりと、決定戦ではアンバランスさを見せながらも必死に食らいついている石橋。

 

流れ、勢い、そういった要素を否定する石橋が時折見せるこの手の高打点が入るのも、石橋の長所なのかもしれない。

10巡目にツモりあげ2000・4000。尾崎にラスを押しつけるべく、11回戦は終盤へと突入した。

【南3局・ドラ

皆の願いを妨げるかのようにこの局、手が入ったのは尾崎だった。

《尾崎・4巡目》

ドラ表示のを無事にポンしての一向聴から、次巡に高めのを先に引き入れてあっさり満貫の聴牌。

《尾崎・5巡目》

間髪入れずに2巡後ツモで2000・4000。

一筋縄では終わらないとオーラスの親にラス回避の望みをかけるも、早々4巡目にピンフのみの聴牌を入れた金子が石橋から1000の出アガリで11回戦を締めくくる。

 

貫禄のあるベテラン、金子が、ここまで2トップ2着1回。上機嫌で休憩に引き上げてくると、美味しそうに煙草を噛んだ。

そして手痛いラスを引いた尾崎。貯金の3分の2を吐き出し、金子に10P差と詰められる。あまり感情を露骨に出さない男の顔には、思わず苦笑が滲んでいた。

【11回戦】

金子 51700 +51.7
飯田 32200 +12.2
石橋 19800 △20.2
尾崎 16300 △43.7

【11回戦終了時】

尾崎 +54.8
金子 +45.6
石橋 △16.8
飯田 △84.6

 

 

 

【12回戦】

荘家 金子
南家 尾崎
西家 石橋
北家 飯田

【東1局1本場・ドラ

開局は、尾崎が聴牌を入れるも、安全策で取った待ち変えで和了を逃す。最終ツモの1つ前に親の金子も聴牌を入れて流局。

尾崎が蹴りあげられなかった金子の親番。1本場は石橋が1巡目からを仕掛け前に出た。

《石橋・1巡目》

ポン

さらにとポンで仕掛けて手牌は4枚に。1枚切れ、北は生牌、ここはさすがに大物手の気配が漂っていた。

これでも金子、ここまでの1日を通せば攻撃一辺倒な姿勢を貫く。11巡目に聴牌を果たすと、ドラも未だ見えずだが果敢にリーチ。

《金子・11巡目リーチ》

即座にアガリに辿り着いたのは、石橋だった。

をツモで2000・4000の1本場。少し前に傾いた姿勢で、石橋がホッとしたように和了を決める。

東2局は8巡目にタンヤオを仕掛けた金子が飯田から1000を出アガリ。

親で手牌を仕上げる前に、金子に一蹴された尾崎、力なく手牌を伏せ軽く唇を噛み締めた。

【東3局・ドラ

7巡目に石橋がドラ切りで前に出るも、なかなか聴牌を入れられずにいた。

《石橋・7巡目》

ツモ

聴牌が入らない石橋、先に12巡目に飯田からリーチを打たれる。

《飯田》

《石橋・13巡目》

一発目のツモで打。飯田に一発放銃の3900。

石橋、目いっぱいの攻撃もうまく繋がらない。

【東4局・ドラ

今日の好調は本物だと思わせるような、好ツモが続く金子。大きく構えて自然にツモを受け入れていく。

《金子・7巡目》

ここに、ドラをあっさりと引き入れ一向聴になる。打と余裕の一打だ。そして次巡をツモ切ると、下家の尾崎が仕掛けた。

《尾崎・7巡目》

チー

第一ツモでドラのが暗刻になったがなかなか進まなず、思い切って仕掛けに出る尾崎。

この鳴きで、高め受けが残り、ドラメンツが確定するで金子に聴牌を入れてしまう。

《金子・9巡目リーチ》

無筋の中張牌を抱えている尾崎は、急展開で追い込まれてしまった。

しかしここは、自分の都合だけ考えて勝負に挑む。

3巡後のツモは安全牌だとツモ切るも、次巡のツモ切り。高めの三色に放銃となってしまう。

相手がドラ1枚あるかないかだと踏んで被せるも、裏が1枚あればまた12000となるきつい場面だった。なんとか裏なしの8000止まりで踏みとどまる尾崎。

勝負手が、勝負手とぶつかり負けると、勝算は格段に薄くなるもの。

貯金が、瞬く間に目減りしていく。熱くなる想いが、尾崎の頬を一層赤らめていった。

【南1局・ドラ

―止めるのは、自分しかいないのを知っているかのように。

大魔神は、対金子には執拗に被せていくように傍から感じる。

6巡目に3枚目のを両面チー。

《飯田》

チー

この鳴きで次々巡、金子にが入りリーチ。

《金子・9巡目リーチ》

飯田は、リーチ後にドラのをそっと切る。現物の筋とは言えドラだ。大魔神が、力強く躱しに賭けると、程なくツモで500・1000。

これを、ただの躱しの一手の結果だと思えないのは、やはりライバル同士の熱き戦いだからなのだろう。

 


南2局は、石橋のピンフに蹴られて、あっさり親が終わる尾崎。

さっきまでの飯田への呪縛は、いつの間にか尾崎へと移り変わってしまったのかもしれなかった。

【南3局・ドラ

先制リーチに出たのは、気付いたら沼から這い出ていて、既に生き生きと蘇った大魔神だった。

《飯田・6巡目リーチ》

一通の手変わりも、両面変化にもこだわらない。このリーチの宣言牌はなのだが、切りでドラ表のカンにも受けない。生き生き、という言葉がまさに当てはまっていた。

ここは12巡目にようやく追いついて尾崎もリーチ。

《尾崎》

この後はいつもの、見慣れた風景が待ち受けていた。

 

 

飯田は闇雲にリーチをしたり、聴牌をとったりはしない。まるで誰かと相談しているかのように、ゆっくりと和了への手順を踏み、アガリ番を知っているかのようにツモアガリをするのが大魔神なのである。

尾崎に追いかけられた瞬間、飯田はどの手巡よりも早かったツモでアガリを得た。

裏1の2000・4000を、また知っていたかのようにそっと告げた。

【南4局・ドラ

東家 飯田 41300
南家 金子 31400
西家 尾崎 16900
北家 石橋 30400

こと麻雀は、何が起こるかわからない。とは言っても、そうそうドラマなど起こるわけでもなく、成就することすら大半が運に左右される。それが、麻雀。だけど最後まで諦めない。

そんな想いが伝わってくるようだったこの日のオーラス。

まず、ひたすら手を育てたのは尾崎だった。

《尾崎・配牌》

これを6巡目に一向聴にする。

《尾崎・6巡目》

この後ツモを残すと、河には3枚のが放たれていたが、4枚目のを執念で引き入れて遂に聴牌を果たす。単騎の純チャンイーペーコーは、12巡かけた尾崎の渾身のリーチだった。

ツモれば2着、金子か石橋からなら3着だ。

ここにそっと聴牌を入れて逆転を狙っていたのが石橋だった。

尾崎が11巡目に一向聴でを切る。すぐ次の一牌で石橋は単騎の七対子聴牌。

どこから出ても2着の七対子の聴牌に息を潜めるも、聴牌気配を感じ取った飯田が、ドラドラ七対子の直撃を警戒、合わせずにを押さえていた。
ドラが3枚見えた瞬間に、石橋は飯田からアガリを手にできると読んでいたらしい。

しかし大魔神は自分の手牌に3枚目のドラが見えても、今通った牌でオリる。

石橋が心待ちにしていた3枚目が飯田に見え、次は恐らく打となるだろうという矢先、先に掴んだのは、手牌に既に対子の、3枚目のだった。

完全に変則手の河だった尾崎に当たるのは、リーチ後にノーチャンスになった為、単騎の場合のみ。尾崎は9巡目にドラを飛ばしているので、暗刻から切っているケースもあるが、七対子の可能性は低めだ。

先に石橋が若干の一考で河に投げる、そして、長かった1日が終わりを告げた。

【12回戦】

飯田 41300 +41.3
金子 31400 +11.4
尾崎 24900 △15.1
石橋 22400 △37.6

【12回戦終了時】

金子    57.0
尾崎    39.7
飯田 △43.3
石橋 △54.4

―全連対で120Pプラス、前節の借りを大幅に返して、さらにポイントリーダーの位置までさらった金子。満面の笑みで喫煙スペースに引き上げると、一際大きな声で、

『飯田さん、復活が早すぎるよー!』

と発した。

自分が絶好調の時には、大魔神を叩いておきたい。それは金子の飾らない本音なのだろう。

 

 

1半荘目に和了を遮られた王者は、手が入らず、長い間1人もがき苦しんでいた。しかしあの何も出来なかった2回のラスから、後半息を吹き返した飯田。

この状態でマイナスは50を切る。余計なマイナスは増やさず、じっと堪える。ラス目の親番ですらオリる飯田、これが強さの後ろ盾なのかもしれない。

 

 

この展開で3着が3回ならツイていると苦笑混じりに漏らしたのは尾崎だった。

ポイントのリードを最大限に生かした無理をしないスタイルも、次は通用しない。100ポイント近く削られてしまっては、次節以降は、多少前に出る場面を強いられることになるだろう。

前半は小気味好く進めていた石橋だったが、後半はまた焦りからか、掛かってしまったことを深く気にしていた。
最後の4枚目のを掴んでしまったのは、何かの布石によるせいだったかもしれない。

この上ない緊張感の中で、普段通りに打つほど難しいことはない。決定戦の舞台とは、そういった重苦しい足枷が常について回るのだ。

4人のそれぞれの不安と希望を乗せて―

まさに『死闘』が、これから更に、熱を帯びて進んでゆく。

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