コラム・観戦記

FACES - “選手の素顔に迫る” 最高位戦インタビュー企画

【FACES / Vol.12】多喜田翔吾 ~「麻雀星人よ、おれが地球代表だ」イマドキ25歳お調子者の見栄と打算~

(インタビュー・執筆:鈴木聡一郎)

 

取材日に多喜田と最初に交わした会話は、なんとも気の抜けたものだった。

緊急事態宣言が発令されている中、休業日の『禁煙麻雀BAR“R”』を取材場所として貸していただいた。そんな店に私が到着してまもなくドアが開く。入ってくる者は多喜田以外に考えられず、私は急いでドアに向けてカメラを構えた。

すると、中に入ってきた多喜田が笑いながら言う。

この写真、使います?ちょっと入り直していいですか?めちゃめちゃ見栄っ張りなので、やり直したいです。

そう言うとマスクを外し、1度外へ。

こうして撮れた写真がこちらである。

カメラマンが悪くて申し訳ない気持ちになった。

 

多喜田 翔吾(たきた しょうご)

選手紹介 https://saikouisen.com/members/takita-shogo/

Twitter  https://twitter.com/maid_LD

 

こんな気の抜けた若者が、ここから実にアツい話を繰り広げていくとは想像もしていなかった。それは自らの麻雀に対する考え方であると同時に、既存の競技麻雀に必要な変革への思いでもあったように見えた。

 

麻雀プロは「〇〇さんが強い」って簡単に言い過ぎ

おそらく多井(多井隆晴・RMU)が言い始めたのではないかと思うのだが、Web上でたまに交わされる会話に、「もし麻雀星人が地球に攻めてきたら、誰が地球代表として戦うのか?」というSF設定の「誰が麻雀強いのか」論がある。多井、村上(村上淳)、たろう(鈴木たろう)といった名前が挙がっているのを目にしたことがあるが、多喜田はそれについてこう言い切った。

もし麻雀星人が地球に攻めてきたら、将来的には自分が地球代表として戦いたいです。将来的には、ですよ。今はまだまだだけど、そういう気持ちがなければ麻雀プロなんてやっていけないですからね。

これは裏を返せば、現状では自分より強いと思っている打ち手がいるということ。では、現状どういうプレイヤーが自分より強いと思っているのだろうか。

自分より強い人って実際にはたくさんいると思いますけど、ここ1年で衝撃を受けたのは、シンワキさん(岩崎啓悟・日本プロ麻雀協会)と森田さん(森田朝日・日本プロ麻雀協会)ですね。

2選手ともネット麻雀『天鳳』(※天鳳については【FACES / Vol.11】山田独歩参照)の有名プレイヤーで、数年前にプロ協会に入会した強豪だ。多喜田は、1年ほど前に岩崎から誘ってもらい、一緒に練習をしているのだそう。そこで多喜田は衝撃を受ける。

麻雀して話を聞いて、自分より強いのかもしれないなと思ったんですよね。森田さんはけっこう年上なんで、自分より強いのは仕方ないところもあるかなとは思ったんです、それでも悔しいですけど。でも、シンワキさんは自分と同世代なのに、そんなはずないって思うじゃないですか。そしたら、確かめたくなりますよね。

それを確かめた方法が興味深い。岩崎が打った天鳳の牌譜を250半荘ほど、森田の牌譜を500半荘ほど、時間をかけてじっくり検討したのだという。検討して彼らに話を聞く。それを繰り返してようやく、多喜田は認めることができた。この2人は自分より強いのだと。

よく、「〇〇さんは強い!」とかって麻雀プロの人が話したりするじゃないですか?でも、短期の成績と内容じゃ本当に強いかなんて判断できないはずなんですよね。だから、ちゃんと検証しようと思って、2人の牌譜を見まくりました。で、悔しいけど確実に自分より強いと思えたのが250半荘とか500半荘とか見終わったところだった。2人が自分より強いことを確かめるのに結局1年かかりました。認めたときにはめっちゃヘコみましたね。トッププロというわけではない2人ですら、自分より強かったわけですから。

それとともに、多喜田は既存の選手たちに少し疑問を持っているようにも見えた。

ぼくなんて、500半荘見てようやくその人が強いかどうかわかったぐらいなんですよ。だから、そんなに簡単に強いかどうかなんてわかるわけないんじゃないかと思うんです。昔からいる人は長年やってるからわかるかもしれないけど、若手はそんな簡単に「〇〇さんは強い」なんて言ってはいけないと思いますね。麻雀は短期成績で勘違いしやすいゲームなので、実力の検討もしっかりしていきたいです。

多喜田がこのように言うのには、麻雀について数字にこだわりたいという気持ちがあるからだ。例えば、この取材の3日前からずっと、天鳳のとあるデータを漁っていたと言う。

数字は全く好きじゃないんですけど、必要だと思って最近データ分析を始めました。例えば、平均順位が良い人って、平均順位と局収支とか他の要素との相関係数がどれぐらいなのかって検証してみたんですよね。前提が粗すぎて外に出せるようなものではないんですけど。

そう言って、検証途中のデータを見せてくれた。

検証方法は、天鳳を2000戦以上打っている安定段位(※現在の順位取得回数が無限に続いた場合に到達することができる段位)上位100名の中で、安定段位と最も相関係数が高い項目が何かを調べるというもの。それを進めていくと、ラス(4着)だけがマイナスする天鳳において、平均順位を少し悪くしてでもラス率を良くするという方針よりは、巷の麻雀と同じように回数が多い方から1→2→3→4着の順になる方針を採った方が良さそうということがわかってきたのだそうだ。

天鳳だともちろんラス率の影響は一般的な麻雀より大きいんですけど、ラス率を重視した方がいいとまでは言えないぐらいに留まりそうなんですよね。まだ仮説ができただけなんで、今度はこれを裏付けていかなくちゃいけないんですけどね。

これはあくまで多喜田の見解であり、この仮説に対する結論もまだ出ていないようだが、多喜田のnoteに後日こんな記事「安定段位は一体いつになったら本当に安定するのか?」がアップされていた。数字を大事にすることは麻雀プロとして必要なことだ。というより、麻雀プロを名乗るのなら、本来は団体や選手全員がこういう分析に興味を持ち、おカネや時間をかけてでも検討すべきだとさえ思う。この意見については、多喜田と一致するところだった。

なので、さっきの誰が強いと思うか?っていう質問なんですけど、石井一馬さんも強そうだなと思いますね。数字に明るいのにそれに依存することなく、読みも使うし細かいアガリも拾える。価値観が似ていて、自分より強そうな存在だと思っています。

「強い」ではなく、あくまで「強そう」という言葉を使うところが多喜田のプライドなのだろう。石井もネット麻雀『東風荘』出身の打ち手であり、確かにデータも好きだった。それを競技麻雀用にアレンジしているところが、こういう若者に刺さっていることは非常に納得感がある。

 

良く言えば効率的、悪く言えば打算的な人生の選択

前述のデータ分析をする前提として、多喜田には数学や統計の知識が全くなかった。そのため、統計学を一から勉強した上でデータ分析をしている。数学の知識がないことについて、話は高校入学時まで遡った。

地元横浜の高校に入ったんですけど、器用な人間じゃないのは自分でもわかってたんで、入学時に「5教科7科目やるのは無理だ」と思ったんですよね。それで、高1の時点ですでに私立大学だけに受験校を絞り込んでいました。結局進学することになった慶應経済(慶應義塾大学経済学部)って日本史と英語だけで受けられるんですよ。だから、それ以外は全くやらなかった。でも、今になって数学だけは本当にやっておけばよかったって後悔してます。

高校入学時に科目を絞り込むことは、効率的で悪くない選択に見えるが、一方で目先の利益を見すぎた打算的な選択ともいえる。こういった打算的な面は、もう1つ聞いた高校入学時のエピソードでも見えた。小中学校で野球をやっていた多喜田は、高校でなぜかハンドボールに転向したと言う。

野球がうまくなかったんですよね。これじゃ高校で続けても活躍できないなと思って、野球をやめることにしました。で、何やるかって考えたときに、自分はスタミナがあったんですよね。だからまず、サッカーやバスケみたいに動き回るスポーツを考えたんですけど、その2つは経験者との技術差が大きすぎる。じゃー、ラケット競技はっていうと、それも経験差がエグい。ということで、高校から始める人が多いハンドボールをやることにしました。

やりたい競技ではなく活躍できる競技を選択する。なんとも打算的な考え方に映るが、この選択がピタリとはまった。そもそも運動能力が高く、スタミナがあった多喜田は、シュート精度の高さを武器に点を取りまくっていく。自身では「バカなんで司令塔みたいなことは全然できないんですけどね」と笑ったが、シンプルに1つのことを突き詰めて神奈川県選抜に選ばれそうなところまで行ってしまう。様々なところで効率化が進む現代社会に照らせば、実に効率的で効果的な選択ということになるのだろう。

 

上司からの人事評価コメントは「仕事はいいけど、麻雀負けすぎ」

効率化といえば、多喜田は人事業務を効率化するシステム会社に就職し、2年が経とうとしている。取材後に気づいたが、FACESの取材時に名刺交換したのは初めてだった。これまでの取材対象は旧知である選手が多かったからだ。似たような会社に勤務する身として、多喜田の勤務先がどんな会社かと興味が湧いた。受け取った名刺には「コンサルタント」の肩書とともに、私が当然聞いたことのある社名が並んでいた。この会社に就職した決め手はどんなところだったのだろうか。

決め手は中規模の企業っていうところですね。もちろん大企業に就職することも考えましたよ。でも、それだと配属される部署によって仕事が限られちゃうし、裁量を持たせてもらえる役職に上がるのもなかなか時間がかかりそうじゃないですか。だから、入社当初から裁量を持たせてくれる会社が良いと思っていたんですよね。でも、会社の規模が小さすぎると、今度は社会に与えるインパクトが小さくなる。だから、今の会社みたいに中規模の会社に就職しようと思いました。

中規模といっても数千人規模なのだが、確かに大手のシステム会社と比べれば中規模といったところだろう。

会社にはすごく評価してもらってて、ありがたいですね。上司からもらう人事評価には、「仕事は良いけど、麻雀がダメ」ってコメントされてて(笑)。まあ、去年のリーグ戦(2020年、第45期最高位戦B2リーグ)は負けすぎましたからね。

 

麻雀プロは、ツイてないときにはちゃんとツイてないって言うべき

上司が触れざるを得ないほどに、昨年のB2リーグで多喜田は負けすぎた。その結果、新設されたルール「通年リーグの途中降級」の餌食になってしまう。

B2リーグ全12節の半分が終わった段階で、既定数の下位者はその時点で降級となってしまう。昨年初めて適用されたルールのため、適用実績は現在多喜田1名だけである。つまり、現時点では「最高位戦で途中降級した唯一の選手」という不名誉な称号を手にしている状態だ。この結果について、多喜田はツイていなかったと語る。

たった24回で450も負けたんですよね。これはツイてなかったですね。ぼくは、麻雀プロがツイてなかったときにツイてなかったって言わないのは良くないと思っています。ツイてないと思ったときには適切にツイてないと言うべき。選択の後に抽選というフェーズがある以上、不運が結果に直結しやすいゲームなので。そうしないと麻雀のゲーム性を正しく理解できずに過剰に反応してしまうと思いますしね。そういった考えを持った上で、去年のリーグ戦については、上手い人ならマイナスを300ぐらいには減らせていたかもしれないと思ってます。ツイてないし、ぼくも下手でした。

麻雀観が近いこともあってか、私はこの考え方に非常に共感するし、負けたときにツイてなかったと言いづらい環境になってしまっていることに対しても申し訳なく思う。もしかしたら、多喜田のような世代が新たな環境の創り手となっていくのかもしれない。

そんな次世代の打ち手・多喜田は、今から5年前、20歳のときに麻雀と出会う。大学の野球サークルに入った多喜田は、そこで麻雀を覚え、1年後には大学近くにある日吉の『ジャンナック』で雀荘スタッフのアルバイトを始めた。

(写真:野球サークルの仲間と)

ジャンナックで働き始めて、当時の店長のことめっちゃ強いと思ってたんですよね。なんであんなに強いんだろって。で、当時店長が天鳳をやってて、五段だった。だから、天鳳五段ってすごいんだろうなって思ってたとき、嵯峨くん(嵯峨寛彬)がバイトで入ってくるんですよ。そしたら、嵯峨くんが天鳳七段(※七段以上が最上位卓で打つ資格を持つ)って言うんで、店長も含めみんなで「すげえ!」ってなったんですよね。

そのとき天鳳で成績を上げれば注目されることを理解した多喜田は、すぐに天鳳を始める。この選択には、ハンドボールを選んだときと共通する自己プロデュースのマインドが活きているように見えた。天鳳を始めた多喜田は、わりと早く七段までは到達するのだが、わずか50戦で六段に降段。そこからなかなか抜け出せず、六段を合計3000東風もやったのだそう。その辺りで、周りに競技麻雀に参加する者が出てきて、競技麻雀に目が向き、周りに負けたくないと最高位戦受験を決断した。

受験を決めた多喜田は、『アリス』に相談しにいく。アリスとは白楽にある麻雀店で、当時は立花裕がマスターをしていた。実は多喜田、2店舗目のアルバイト先にアリスを選んでいたのである。

マスターは時間とかマナーとかに厳しい人で、働いてるときには、遅刻してはいけないとかそういう当たり前のことをきちんと教えてもらいました。で、プロテストについても聞きにいったら快く教えてくれましたね。

このとき最高位戦に合格したのが大学4年生の終わりごろ、卒業間近の出来事。その前年、2回目の3年生のときには3店舗目として渋谷の『クエスチョン』でも働いていた。そのときに店を切り盛りしていたのが坂井秀隆である。

坂井さんには感謝しかないです。ぼく、自分が意図しない伝わり方をしちゃう良くない言い方するとこがあったんですよね。今までもそれに気づいた人はいたと思うんですけど、ちゃんと言ってくれた初めての大人が坂井さんでした。「そういう言い方は直した方がいいよ」って。お店で麻雀は死ぬほど負けましたけど、人として成長させてもらいました。坂井さんには頭上がんないです。

奇しくも入会前に最高位戦選手たちに人間性を育てられていた多喜田だったが、麻雀はさほど強くならなかった。最高位戦入会が決まったときには、天鳳はついに五段まで落ちていた。そこで多喜田が考えた策が『たま子軍団』だった。たま子軍団とは、天鳳ネーム『たま子』の多喜田を団長にしたチームであり、私もWeb上で何度か名前を目にしたことがある。

たま子軍団って確かにぼくが団長なんですけど、団長がみんなを導くっていう一般的な団長と役割は逆で、団長であるぼくを強くしてもらうために集まってもらった感じなんですよね。

麻雀の成長に行き詰まった多喜田は、自分が強くなるために話を聞ける強者を6人集めた。それがたま子軍団だというのだ。いつでも麻雀のことを聞けるLINEグループを作り、彼らに麻雀の話を聞き始めた多喜田は、そこから息を吹き返し、天鳳でも高段位と言われる九段まで到達した。これ以降、多喜田は常に自分の周りに強者がいるように環境作りをしている。

 

人生を100回繰り返してもたどり着けないかもしれない朝倉康心の今を見るのが辛い

多喜田はすぐ調子に乗るところがあるそうだ。これまでの話を踏まえても、本当にイマドキ20代のお調子者という感じである。若いときなど誰でもそんなものなのかもしれないが、天鳳で結果を出した多喜田は、調子に乗らざるを得ないほどに最高位戦入会初年度でも結果を残しすぎた。

リーグ戦ではD2リーグスタートで2連続昇級。特別昇級リーグでも2位に入ってさらに2段階昇級し、1年目にしていきなり現B2入りを果たす。これだけでも十分すごいのだが、新輝戦ではベスト8、そして飯田正人杯・最高位戦Classicでは決勝に駒を進める。

完全に上振れですけど、初年度にこれを持ってくるのがスターだな、とか思ってましたね。何でも勝てるなって完全に調子に乗ってました。もしClassicで勝ってたら、調子に乗ってそのまま帰ってこれなかったかもしれない。Classicで負けたのは本当によかったですね。

これに加え、多喜田にとってもう1つよかったことがあった。

麻雀プロのみなさんが想像以上に論理的に麻雀を検討しているし、モチベーションも高く、強そうだなとわかった。これは本当によかったと思いました。麻雀プロが本当に強いかどうか見極めたいっていうのも麻雀プロになった動機だったんで。

こういう少し生意気な発言も、言いたいことをまっすぐに言ってくれる多喜田が言うと嫌な感じがしないから不思議だ。そして、そんな麻雀プロの中でも、多喜田には特に思い入れのある選手が2人いる。1人は浅井裕介

浅井さんとはよくセットしてもらってるんですけど、浅井さんは麻雀勝ってるときでも全く図に乗らないんですよね。それは、5年ぐらいずっと勝てない時期があったからだと思うんですけど。そういう期間があったからこそ、麻雀を正しく捉えようとしているように見えますね。

こないだ浅井さんから意見を聞かれたんですよね。局面見せられて、「おじさんたちに聞いたらみんなオリだったんだけど、どうする?」って。身の回りの強いと思う人たちに聞いて、みんながオリって言うならそれでいいじゃないですか、普通。浅井さんはそれでもぼくらに聞いてくるんですよ。「おじさんたちより若い子の方が合ってることも多いと思ってるから」と言われて、この人はもっと強くなっちゃうなと思いました。早く追い越さなきゃいけないのに困りますよね。誰よりも負けを知っている浅井さんは、強そうだなと思いますね。

そして、もう1人は、天鳳プレイヤーなら当然なのだろうが、2度も天鳳の頂点『天鳳位』に到達しているASAPINこと朝倉康心だ。多喜田の朝倉に対する思いは、本当にアツいものだった。

アサピンさんの天鳳の成績は人外ですよ。もちろん上振れは引いてるはずなんですけど、それでも『トトリ先生19歳』(※朝倉が2回目の天鳳位を獲得したアカウント名)の成績は今のぼくが人生を100回やり直してもたどり着けなさそうだと思っちゃったんですよね。

そう言うと、多喜田は少しうつむきながら続けた。

そういう人外に強いアサピンさんを知ってるから、今の(自信を失っていそうな)アサピンさんを見ているのが辛いです。ぼくの目からは、正直今のアサピンさんより、トトリ先生の方が強いように見えます。Mリーグ見てても、トトリ先生だったら勝ってたんじゃないかとか、そういう風に思っちゃうんですよね。

子供がヒーローに憧れるように、多喜田は朝倉に憧れた。そのヒーローが新天地でピンチを迎えている。それがたまらなく悔しいのだろう。

アサピンさんは本当に麻雀に命を懸けている人だと思うんですよ。セットしてもらったこともあるんですけど、検討のときにアサピンさんたちが話してることが全然わからなかった。ぼくもかなりやってきたはずなのに、会話に混ざることすらできないなんてことあります?あれを見たら、「ツカない」なんて言えないと思っちゃいました。麻雀は適切に「ツカない」って言った方がいいゲームだと思ってるのはさっき話した通りなんですけど、まだまだできることはたくさんあるなって。

好きな食べ物がフライドポテトであることを「子供っぽくてなんか恥ずかしくて」と隠すぐらい見栄っ張りな多喜田のことだから、本当はこのエピソードを言いたくなかったのだと思う。相手の方が強いと認めることがどれだけ悔しいことか。それでも多喜田はこの話を絞り出した。それほどに、朝倉に対する思いは特別なのだろう。

うまくいかなかった対局について、「なんかできたんじゃないか?」って無理に考え出そうとしちゃうときってあるじゃないですか。たぶん今、朝倉さんはそういう状態なんじゃないかと思うんですよ。でも、それを突き詰め過ぎると、過度にダマテンをケアしたりとか、損することになると思うんですよね。その(ダマテンに放銃する)リスクを回避しようと思ったら、代わりに色んなものを失うはずなんで。朝倉さんぐらいの天才が、鍛錬もちゃんと積んで試合に出てるんだから、どうか自信持ってやってほしいです。そのためにも、「ぼくが勝ってるとこを見てください!」って言えるぐらい強くなりたいですね。ほら、大丈夫でしょ?って。

負けを認めた上で、将来は越えることを誓う。簡単なようで、それを実現するのは難しい。ただ、多喜田はおそらくそれを実現できる人間だ。この歳で、この話を絞り出せただけで十分な素質があると直感した。それと同時に、成績が振るわなくても後進のヒーローであり続ける朝倉のカリスマ性には驚かされた。

 

おわりに~見栄と打算が持つ意味~

多喜田とはあまり話したことがなかったが、今回の取材を通じてわかったことがある。多喜田翔吾とは、やはり見栄っ張りで打算的なお調子者だということだ。

見栄の定義は「人の目を意識して、うわべや外見を実際よりもよく見せようとすること」。つまり、見栄とは「実際」という「自己」を分析できて初めて効果的に張れるものである。

一方、打算的の定義は「何事をするにも損得を考えて行うさま」。つまり、打算とは、損得を真剣に考えられるということだ。

であるなら、見栄っ張りで打算的とは、「実際に自分がどう見えているのかを把握し、損得をしっかりと考えられる」人間のことを指す。これはつまり、「自分がどう見えているのかを考え、自分の損得を判断する」麻雀というゲームで勝つために必要な個性ではないか。

その個性的な若者の目標は、麻雀星人と戦う、麻雀の地球代表。麻雀星人と試合前に交換する名刺には、おそらく「第〇〇期最高位・多喜田翔吾」と書かれていることだろう。

〇〇にどんな数字が入るのか、〇〇がいくつ増えるのか、そのときを楽しみに待っておくことにする。

多喜田が次に調子に乗ったときがきたら、おそらくそれがそのときだ。

 

【辞書の引用】

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E8%A6%8B%E3%81%88/

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%89%93%E7%AE%97%E7%9A%84/

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