コラム・観戦記

最高位戦関西Classicプロアマリーグ2018 決勝観戦記 阿部 柊太朗

気付けば麻雀は打つものではなく見るものと化しました。
どうも、最高位戦関西の阿部柊太朗です。
2019年1月26日(土)に関西最高位戦Classicプロアマリーグ決勝が行われました。
当日の対局の様子をレポートにてお伝えします。


決勝進出者。左から湯村創、安房嵩朗、西田智彦、曽我友、アメンポてふ

◆システム
最高位戦Classicルール(順位ウマ4-12・オカなし)
全6回戦。各戦抜け番一人。5回戦終了時に、下位1名が敗退。ポイントを持ちこして4名で最終戦。
時間打ち切りなし

◆1回戦 ウノゼロゲーム、果てしなく大きく遠い一牌

最高位戦Classicルールは、多くの方にとって打ち馴染みのないルールだと思う。1回戦を見ながら、併せてルールも紹介する。

1発・裏ドラなし

開局、親の曽我がダブをポン→カンをチーしてイーシャンテン。
最も受け入れが広いのは言わずもがな打だが、そのがドラ。
通常の最高位戦ルールと異なり、Classicルールは1発・裏ドラがないため、打点要素として表ドラの比重が非常に大きい。
ここは打として、を引いての5,800、を重ねての11,600点のアガリを目指したい。
そう、Classicルールは切り上げマンガンを採用していないので、懐かしのピンピンロクをアガることができる。
ただ競技麻雀においては、「イチマンイッセンロッピャク」と申告する方が好ましいのだが。

この仕掛けを受けた安房、のシャンポンでテンパイするもダマテンに構えた。
1発・裏ドラがないので、リーチの効能が通常よりも低い。
親のダブポンに対して、高目2,600程度の打点ではリーチをするに見合わない。

すぐにツモって400・700。
「あちゃー、リーチかけてりゃ一発だったよ!」
と雀荘のおじちゃんみたいなことを言いたくなるところだが、ルール上存在しないので全く後悔に値しない。

テンパイ料なし

東3局、アメンポてふ(以下ポてふ)がカンをチーしてとリャンメンを払ったところでホンイツ・中・一気通貫で7,700点のテンパイ。
この時点で、全員がポてふはピンズのホンイツ濃厚と察する。しかしまだテンパイしていないケースの方が圧倒的に多く、通常のルールであれば「今のうちに」と先切りしたピンズを捕らえられそうだ。
しかしClassicルールではそう簡単にはいかない。

最高位戦ルールよりもアガリ打点が低いことで、放銃によるリカバリーが効きにくい。つまり1度の大きな放銃は致命傷になる。
またテンパイ料がないので、アガリの見込めない手牌は、全ての未練を断ち切ってオリることが出来る。
このゲームの決着はウノゼロ。アガれるか、アガれないかの勝負なのだ。
よって、なまじの手牌からではピンズも字牌も打ってはくれない。その傾向は河の全体図を見るとより顕著だ。

仕掛けているポてふ(河左)に対応して、全員が字牌・ピンズを全く切り出していない。
もちろんこの巡目にテンパイしているケースはレアだが、単純に鳴かせてテンパイに近づけることも損になる。

結果、手変わりもしないまま一人テンパイで流局。
これでも3,000点の収入だし悪くはないか…と思いたいところだが、

前述した通り、Classicルールにはテンパイ料がないので収入はゼロ。
酒豪が飲み会に車で参加してしまったときのような虚無を感じる。
どちらもルールなので致し方あるまい。

南2局、親番のポてふがをポンして打
現状はバラバラだが、ドラを引いたチャンタやトイトイなどになれば高打点が見込める。
尊敬するプロは日本プロ麻雀協会の鈴木たろうと語るポてふ。そのたろうを彷彿とさせるような自由でアグレッシブな仕掛けを見せる。

あの手牌が、気づけばこんなことになった。
マジで鈴木たろうかと思ったが、これも他家に対応され流局。
あと一牌が遠い展開が続き、ポてふはこの半荘を4着で終える。しかしそのアグレッシブな姿勢は、今後に大きく期待を抱かせてくれた。

◆2回戦 デコイで行ってこい

先ほどは他家に対応され、一牌が遠い展開に泣いたポてふ。2回戦はその反省を踏まえ、変化を付けた選択を見せる。

東2局のポてふ、配牌でホンイツがくっきりと見える手牌。しかしポてふの選択は、なんと打西。
このような一打を、私はデコイ(decoy:おとり)と呼んでいる。真の目標を相手に誤認させる効果がある。
ホンイツをぼかして、少しでもアガリ率を上げようという工夫を見せてきた。

しかし手牌は意外な方向へと進んで行く。4巡目、残していたがアンコになってイーシャンテン。
手牌に素直に進めるなら打だが、ポてふの選択は打。チートイツのイーシャンテンを維持しながら三暗刻、延いては四暗刻なども狙える打点派の一打。

終盤にドラを重ねてチートイツドラドラのテンパイを入れるも流局。
またしてもあと一牌が遠いが、手順に変化を付けたことでアガリの匂いがしてきた。

東3局2本場、自風のをポンしてホンイツへ向かうポてふ。も不要なので、危険度だけなら打としたいところ。
しかしポてふの選択は打

次巡、を重ねて打。ここでもまだを引っ張る。
なるほど、これはまたしてもデコイだ。

こうしておくと一手進んだ際の最終手出しがとなり、ホンイツの狙いが大きくぼやける。
・ホンイツ・トイトイ、高め12,000点のテンパイを入れると、このデコイに安房がかかった。

安房も親番でこの勝負手からの放銃は全く責められないが、まさかここまで高いとは思いもしなかっただろう。
ポてふがデコイを駆使して、12,000は12,600のアガリ。
巧みな技術により、あと一牌の呪縛から解放されたポてふが、トップ目の西田を追走する。

南1局、ポてふがさらに畳みかける。5巡目に高目タンヤオのピンフリーチ。

しかし、チートイドラドラの単騎テンパイを入れていたトップ目の西田。
リーチに対して「え?何か?」と言った素知らぬ顔でを静かにプッシュ。

不幸にも捕まったのは、またしても安房。単騎以外に当たらないで単騎に放銃。
西田がアガるために取るべきリスクをしっかりと背負い、6,400のアガリで逃げ切りを狙う。

だが一牌の呪縛から解放されたポてふは止まらなかった。
南2局に2,000・4,000、南4局の親番で1,000オール、1,100オールのアガリで西田をかわしトップ目に立つと

連荘して迎えた南4局2本場。5巡目にをポンして12,000点のテンパイ。誰も止まらない待ち。
恐怖の親満ロシアンルーレットのスタートだ。
「掴んだ誰かが死ぬぞ…。」

しかし、このピンチから全員を救ったのは4着目の安房。
4着を確定させる1,000は1,600点のアガリでポてふの連荘を食い止めた。
Classicルールは順位ウマが1着順につき8,000点とあまり大きくないので、素点の比重も大きい。素点を削られないようにドライに終わらせることも重要だ。

スーパーポてふくんモードを蹴られた当人もこの表情。
決勝は全6回戦、先はまだ長い。

◆3回戦 西田、選択ドンピシャリ

2回戦は終盤にトップをまくられたものの、素点の大きい2着でポイントを伸ばした西田。3回戦も光る判断を見せた。

南2局の西田、6巡目にイーシャンテン。
ドラ含みのを払えばホンイツが狙えるが、西田の選択は打
が既に場に1枚ずつ切れていて、を引いてテンパイできたとしても弱い。
ドラ含みペンチャンを残してチャンタに向かう方が高打点のアガリが拾いやすいという判断だろう。

この手を狙い通りの最終形に仕上げて2,000・4,000のアガリ。

南4局、アガればトップという状況で西田はこの手牌。打ならで、打ならで片アガリだが三色の役アリテンパイが組める。
しかしはドラ、は既に2枚切れで、どちらの選択もダマでのアガリは期待できそうにない。
そこで西田の選択は打リーチ。
・リーチ棒を出しても瞬間の着順降下がないこと
・見え枚数が少ないこと
・自身の河が強く、他家からのロンアガリも十分見込めること
・ドラをツモっての2,000・3,900のアガリは素点的にも大きいこと
などを総合的に判断してリスクを背負う強気の選択に出た。

前に出ざるを得ない曽我からのをきっちり捉えてトップ。
難しい選択をさばき切りポイントを大きく伸ばした。

◆4回戦 西田への挑戦権バトルロイヤル

一人ポイントを伸ばす西田への挑戦権を他三者で奪い合うという展開の4回戦。

開局、気持ちよく先制したのは親の湯村。
これぞ麻雀といった文句のないタンヤオピンフのリーチ。

こちらはリーチを受けた曽我の手牌。
チートイツのイーシャンテンだが、親リーチに押し返すような手牌ではない。をトイツ落としして、一旦は迂回。

しかし、ポン→ポンでリーチに受けながらトイトイのテンパイにたどり着くと…

最終手番でをアンカン。

嶺上に眠っていたアガリ牌を掘り起こした。
曽我が・嶺上開花・トイトイで2,000・4,000のアガリ。
見事な手順で、西田への挑戦権に手をかける。

しかし曽我の伸ばした手はリトルポてふモードにより振り払われた。
1,000点、2,000オール、2,100オールと3連続のアガリでこの半荘もトップはポてふ。

◆5回戦 西田、ポてふの一騎打ちへ

5回戦終了時で最下位の湯村が敗退。西田、ポてふ、曽我、安房の四人で最終戦へ。
曽我と安房は、西田とポてふを3着4着に沈めたうえで、素点の大きいトップを取らねばならず、かなり厳しい条件。
一方、西田とポてふは完全に着順勝負。相手よりも上の着順にいた方が優勝となる。実質的に一騎打ちの様相。
食うか、食われるかのデスマッチだ。

◆6回戦 Road to Champion 勝敗を分けたのは…

この最終戦、西田とポてふに1回ずつの優勝を決める勝負手が与えられた。
しかしその扱いは実に対照的であった。

南1局、親の安房が役牌を仕掛けてイーシャンテン。

そこに勝負手のテンパイを入れたのが西田。
優勝するならばこの手牌はリーチしてマンガンに仕上げたい。しかし親の安房の仕掛けに対応してか、切りダマとした。

こう構えてしまうと、安房に対して危険そうな牌を押すことができない。
切りにくいを持ってきて打として待ち替えすると…

生牌のを持ってきてギブアップ。この本手をアガリに結び付けられず。

これは結果論だが、強く切りリーチと行けていれば、安房のを捕らえて7,700のアガリだった。
ここまで優勝に向けて努めて強気の選択を続けてきた西田だったが、カップを目の前にしてリスクを背負うことから逃げてしまった。

対して南2局、親番のポてふは絶好のを引き入れてピンフドラ1のテンパイ。
2,900は3,200のアガリも大きい。リーチをしての空振りも怖い。ダマにする理由も十分にある。
30秒の長考の末、ポてふが下した決断は――

「リーチ」
ここだ。ここで優勝を決めるんだ。
そんなポてふの意志を乗せてが横に曲げられた。

ポてふの親を蹴ろうと仕掛けを入れていた西田が当たり牌を掴む。
現物は1枚。通っている筋はほとんどない。西田に選択権はなかった。

5,800は6,100の直撃。
一発・裏ドラのないルールで、勝敗を決めるには十分な打点だった。

オーラスもアガり切り、自身の手で優勝を決めたポてふは

天を見上げ、感慨にふけった。

一方、西田はやりきれない思いを隠せないでいた。
二人の勝敗を分けたものはなんだろうか?
実力?運?展開?
私はそのどれでもない「勇気」だったと思う。
遠い仕掛けで放銃を厭わずに手牌を短くする勇気。
デコイのために危険牌を持つ勇気。
そして優勝をつかみ取るためにリスクを背負う勇気。
選択上の優劣の話ではない。勇気を持つことが必ずしも得というわけではないからだ。
しかし、ことこの決勝において、二人の勝敗を分けたのは紛れもなく「勇気」だった。
アメンポてふの背中からは、ほんの少し、ほんの少しだが、勇気のパイオニア、鈴木たろうの匂いがした。

新たなるホープの誕生を予感させ、幕を閉じたClassicプロアマ2018。
2019年も関西プロアマリーグは変わらず開催予定だ。
参加の条件は麻雀が好きなこと。ただそれだけ。
次のスターはあなたかもしれない。

 

 

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