コラム・観戦記

村上コラム -part1-

最高位戦のHPがリニューアルされたということで、
最高位戦13年目、もはや若手とは言われなくなって来た村上淳(34)が何かしら書いてみようと思います。
近代麻雀の連載では少しおちゃらけキャラなので、少しばかり真面目テイストに書いてみます。

え~、おととし7年間在籍したAリーグから陥落し、昨年奇跡的に1年で復帰することができました。
今年はこの勢いで三度目の決定戦に…なーんていわゆるデジタル派の私的には勢いとかあるわけもなく、
開幕前はどちらかと言うと2年前の二の舞だけは勘弁だという気持ちでいっぱいでした。
これは弱気になっていたとか自分の麻雀に自信がなくなっていたとかそういうわけではありません。
リーグ戦において序盤にマイナスを重ねると、その後ベストの麻雀を打つのが難しくなる、ということを2年前に学んだからです。
Aリーグのメンバーは当然強豪揃い、ベストを尽くしてもまた大きくマイナスするかもしれません。
ただ自分のベストを尽くせずにまた降級、それだけは嫌だなと…そんな気持ちが気負いになったのか、
前半は明らかなミスを数回おかしてしまい、またもや降級ポジションを行ったり来たりすることに。
ただ2年前のようにズルズルとマイナスすることはなく、マイナス200付近で勝ったり負けたりしておりました。

8節目を終えた時点でマイナス233Pの最下位でしたが、
11位の佐藤がマイナス227P、10位の大柳がマイナス194Pとかなり接戦だったので、まだ焦りはありませんでした。
ところが9節目、尾崎、冨澤、佐藤を相手にまたマイナスを重ね、この日半荘三回終えた時点でマイナス272Pの最下位。
別卓で10位スタートの大柳が大きくマイナスしていたのが救いでしたが、同卓の佐藤、冨澤とも100以上離れてしまいました。
正直、次の半荘で連対できないようだと今年も危ないな、そんなふうに考えて迎えた半荘36回戦。
今年一番印象に残った一局を紹介します。

オーラスを迎えて点棒は次の通りでした。
南4局 東家村上31800 南家佐藤36100 西家尾崎32200 北家冨澤19900
降級争いの相手である冨澤がラス目だけに、このまま三着で終了してもまだ首の皮一枚繋がります。
だがしかしこの半荘が終われば残りは半荘12回、残り回数が少なくなればなるほど無理に前に行かなければならなくなり、
ベストの麻雀を打つのが困難になります。
この親番でなんとか連荘し、トップを取って残り12回を迎えたい、当然ですがそんな想いでサイコロを振りました。

そもそも「どうしてもトップが欲しい」「なんとしてもアガりたい」こういった「感情」は麻雀においては無益、というより有害ですらあります。
常に相手三人の捨て牌から三人の意志、手牌構成などを読み、それに冷静に対応してこそ良い結果が得られるものであり、
そこには自分の欲や恐れといった「感情」は入れるべきではないのです。
気持ちで配牌やツモが良くなるのなら別ですが…ところが自分は麻雀、というか最高位戦への思い入れが強過ぎるせいか、どうしても感情が表に出てしまいます。
きっとこのサイコロをふっている時も「神様、この一局だけはアガらせてください、お願いします!!」そんな顔をしていたと思います。でも自分の息子が不治の病にかかったとして、無駄だと知っていても治るように祈りますよね!?
打牌選択は完全にデジタル、でも人としてはちっともデジタルじゃないんです…。

どんどん脱線するようですが、いまだに「デジタル」な打ち方というものを勘違いしている方が多いようなので軽く説明しておきます。
少なくとも私が言い続けて来たデジタルは「脱オカルト」という意味でしかありません。
「牌の並びは絶対にランダムである」この真理さえ理解していれば良いのです。
ランダムである以上、局と局に繋がりなど(対局者の心理面以外には)できるわけがないですし、
「ツモをずらす」というコトバ自体戦術としては全くナンセンスであると気付くはずです。
麻雀というゲームは山を積まずに136枚の牌をブラックボックスに入れて(鷲巣麻雀みたいに)、
配牌を取るトコロから始めてもゲーム性は全く変わらないはずなんです。
少しでも「そうかなぁ」と感じた人はデジタルではない、ということになりますね。
牌効率重視であろうと打点重視であろうと場況重視であろうと、考え方が同じであれば「デジタル」なのです。
少なくとも自分はそう理解しております。

すっかり横道にそれましたが、配牌は次の通り。
 ドラ
良い配牌とは言えませんが、リャンメンターツが3つあって、字牌は二枚だけ、ツモ次第ではアガりがありそうです。
自分は親番では基本的に多少無理目でも先制ができればリーチする戦術をとることが多いのですが、
今回はラス目の冨澤、2着目の尾崎の動向を見ながら判断するしかなさそうです。
押さえつけがきくようであれば、流局狙いのリーチも打つつもりですが。

2巡目、二着目の西家尾崎がドラのを手出し。
対局中、普通これだけではなんとも判断できないのですが、尾崎だけに「十分形のリャンシャンテン以上」と読みました。
石橋選手あたりが切ったのであれば「二着狙いにしぼってバラバラからの先打ちもあるな」と考えるのですが、
尾崎選手はファンパイのドラをかなり大事にするタイプ。しかもトップまで3900差、重なれば鳴けるはかなり重要です。
実際にものイーシャンテンが入っています。
同じ状況で同じ打牌でも、切る人間によって読みは変わるのは当然ですよね。
「早い」と読めたところで尾崎に対する対応は特に変わらないですけどね。
リーチが来てもマンガンまで打てますし(自分にとっては佐藤二着のほうがまだマシ)。
この先などのションパイをつかんでも、ツモ切るつもりでいました。
鳴かれた場合はポンテンの可能性大ですが、しぼって自分がアガり逃しするのが最悪ですからね。
ファンパイ泣かれてアガられたら仕方なし、とにかく真っ直ぐ打ち進めるだけです。

さてラス目の冨澤ですが、第一打に続いて、二巡目手出し。
マンガンツモで三着、ハネマンツモで二着ですから、全くタンピン形ではないと読めます。
ほぼピンズかソーズの一色手かチートイツですね。
これからの捨て牌次第では、ダマテンのドラタンキなどには警戒が必要となります。
ま、しばらくは無視するしかありませんが。3巡目、自分がようやくひとメンツ完成。
冨澤がをツモ切りしたことで、ピンズとチートイのみ警戒にかわりました。
3巡目、4巡目と尾崎がツモ切り。早いと思っているだけにホッとします。
後2、3回手出しでほぼテンパイが入ると思っていました。ま、だからなんなんだって話ですがね。

5巡目、ツモで2メンツ完成。

尾崎、冨澤ともに手は進んでいません。
トップ目の佐藤は全くわかりませんが、4巡目に自分の現物で二枚切れのを合わせて切っていますから、
安全牌を持たずに真っ直ぐ打っているな、ということだけはわかります。
たった一枚を切るだけでも、打ち手の意思はちゃんと伝わってくるのです。

7巡目、最初の分岐点が来ました。

 イーシャンテンにとるなら、ゆったりと構えるなら切りです。
この段階では尾崎はリャンシャンテンかイーシャンテン、冨澤はそれ以下だと思っていたので、
役なしドラなしペンでもリーチを打つつもりでいました。
トップ目の佐藤は降りる可能性が高いですし、尾崎もイーシャンテンなら「次局勝負」と考えて降りるかもしれないからです。
冨澤は不気味ですが、前に来た場合はは切る牌ですからね。まあリーチ後冨澤に押し返されたら生きた心地がしないと思いますが…。
とゆーわけでの選択ですが、ここはかなり悩みました。
456のサンショクは見えていますが、先にを引いた場合は即リーチになるのでサンショクになるパターンは引きのみです。
冨澤に対して先にを処理しておきたい気持ちもありましたが、結局単純にくっつきを比較して打としました。
ソーズが山にごっそりいる、という情報があれば切りを選択していましたが、捨て牌からは判断できなかったのです。

同巡佐藤が三枚目のをツモ切り、かなり厳しくなったなと思った矢先、尾崎がツモ切ったを佐藤がポン!
トップ目の佐藤がポン、捨て牌がおとなしいとは言え、アガりへの自信があるに決まっています。
実際には

 

こんなリャンシャンテンでしたが、対局中は悪くてもイーシャンテンだと読んでいました。
佐藤がをポンした後、尾崎はを手出し。尾崎は佐藤に打てば3着だけに、佐藤の無筋を打つ以上アガりに向かっているのは明白です。
ずっとツモ切りだったのでテンパイかどうかは微妙ですが、ドラの切りでイーシャンテンであれば可能性はあります。
とはいえ尾崎に対して降りる選択はないので、まだシャンテンであってくれと祈りつつ全ツッパするだけです。
同巡、冨澤がようやく手出し、四枚目の
手のうちから三枚目、四枚目になった端牌が出てくるのは典型的なチートイツの捨て牌、
冨澤はホンイツよりはチートイツ本線と読めます。テンパイまではまだ遠いと感じました。

9巡目、自分のツモは
も佐藤に鳴かれる可能性はありますが、
佐藤の第一打、第2打を見るとどちらも持っていて鳴かれないパターンも多そうです。
のくっつきも魅力的ですが、を切っていることと、切りによってますますペンリーチが打ちやすくなるため切りとしました。
佐藤、尾崎ツモ切りの後、冨澤が手出し。三枚目の牌ですから、冨澤も苦しそうです。
とはいえ二回手出しが入って少し怖くなってきたのも事実です。1巡でも早くリーチしなくては…。

10巡目、ツモ

が四枚切れになるまではを外すつもりでしたが、2巡前には四枚切れに。しかも前巡佐藤がをツモ切ったばかり。
形だけ見ると6000オールの可能性も残る切りもありそうですが、自然とを切っていました。
同巡、佐藤が手出しでをポンした後ほぼ安全牌の、ほぼテンパイでしょう(実際はイーシャンテン)。
そこへ同巡、尾崎が無筋のツモ切り。これはけっこう強烈です。
とはいえ佐藤の河も端牌ばかりで安全牌が少ないので、仕方なく押している可能性もあります。
どちらにしてもかなり煮詰まって来てしまいました。
自分がリーチをかけない限り、流局でもう一局、の可能性はほぼなくなったと感じていました。
冨澤、手出しで四枚目の。チートイツと読んでいたので不自然なんですが、切りの時に持って来た牌だろうと思っていました。
実際には配牌からあったんですね。

11巡目、を持って来て切り。
先ほども軽く触れましたが、二巡目にを切っていることから、の筋よりも の筋のほうが嫌だったのです。
を軸にしたターツがありそう、ということですね。
実際にはのくっつきイーシャンテンの形だったのでこの読みは全く外れていたのですが、対局中はこう思っていました。
同巡、佐藤が手出し。絶対に関連牌か必要牌ですから、大きなヒントです。
対局中はでテンパイだろうと思っていたので、を引いて自分の現物のを切ったんじゃないかな、と思いました。
のまたぎ()はなさそうです。を鳴いた直後、自分のを鳴いていないので。
いずれにせよ、マンズ待ちだとしたらカン、待ちはマンズ以外が濃厚…そう、いま余っているはかなりの危険牌です。
対局中は「であってくれ…」と願った記憶があります。
同巡尾崎がさらに無筋のをツモ切り。実は尾崎も役ありテンパイなのでは、と思い始めました。
12巡目、をツモ切り。同巡尾崎がまたもや無筋の切り。これは手出しだったので、さすがに尾崎も100%テンパイです。
理論上は100%なんてことはあり得ないのですが、この状況、この捨て牌でテンパイしていない尾崎は想像できないのです。

もう間に合わないか…と思い始めた13巡目、待望のを引きました。

 こうなったらもちろん勝負です。「リーチ!」という発声もいつも以上に大きかったと思います。
は山にもしかしたら二枚、たぶん一枚かゼロ、といった感じですが、
切りの後にピンズを三枚手出ししてのリーチ、は手づまって場に打たれる可能性もあると思っていました。
とにかく佐藤、尾崎が危険牌をつかんで降りてくれれば…。

決着は意外とすぐにつきました。トップ目の佐藤が一発でをつかみ、そのままノータイムで河に放ったのです。
「ロン!!」いつもの倍くらいの音量でした、佐藤くんスミマセン…。
改めて牌譜を見直してみると、最後に引いたは7枚目でしかも佐藤のアガり牌、佐藤が一発で掴んだはやはりラス牌でした。
さらに言うと、尾崎は自分のリーチの前巡、をアンコにして切り、役なしリャンメンテンパイを闇テンにしていました。

もしリーチをしていたら、自分の追いかけリーチが入った二軒リーチに対して佐藤がを押したかは微妙です。
二人に現物のを抜いたかもしれません。
その場合は自分のペンは純カラ、尾崎のは山に三枚…。おそらく自分が三着で終わっていたでしょう。

本当にすべてがかみあって奇跡のようなトップがとれ、次の節に大きくプラスし、
最後まで降級ポジションに戻ることはなく無事残留できたのでした。もしこの半荘が三着だったら…本当にゾッとします。
来年はこんな思いをしなくて済むよう、序盤からプラスできるといいなと思いつつ、この自戦記を終わりたいと思います。

思ったことを書きなぐった文章のため、途中読みづらいところもあったかと思いますが、
対局中の心理をなるべく伝えたいなと考えてこのような形となりました。

最後まで読んでくださった方々、ありがとうございましたm(__)m

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