強い風の中、集合時間ギリギリ会場に駆け込む。
対局開始まで、乱れた呼吸を気取られないように落ち着いた素振りで一服。
すると近藤新最高位の色紙が目についた。
「龍の宝もの 一は微笑み 正しかろうと なかろうと 人は生きる」
去年、惜しくも亡くなられた2人のAリーグ選手の名前を織り込んで、一筋縄ではいかないものを持ちながら、表面には穏やかさをたたえた氏らしい色紙。
そして視線をずらすと、35期最高位村上氏の、対局態度をも彷彿とさせる色紙
「真実は一つ!」
対称的だ。
自分自身の優柔不断で、「真実」や「正論」と遠い日常をやり過ごしがちな性向から、麻雀というゲームにおいても、二元論的な観点に立ってしまう。勝ちと負 け、結果と経過、見えている部分と見えない部分、そして牌の機能的な面でも、横への広がり縦の連なりと、あらゆる相反する二項対立で成立している、奥深い 迷宮・・・
このコラムを引き受けたものの、きちっとした経過報告とはならず、以上に延べた個人的主観から、敗者が勝者を逆転し、経過が結果を凌駕するような観戦記になってしまう恐れも。
さて、第3節、採譜を担当したのは、C卓金子、石井、新井、土田、張の五人打ち。
まずなんといっても目玉は、今期から参入した土田だろう。
もう何年も前になるが、四暗刻を完成させた牌譜を見せられ、何人もで一打一打を追って検証したが、その最終形にたどり着くことは出来なかった。
今節でも、
ドラ
の配牌に第1ツモで打!
その後とツモって、
このリーチ。三対子あっても第一打にを選ぶ打ち手は、まずいないだろう。局後、「状態の良くない時など、ドラを引き込めるような身分じゃないでしょ?」とのセリフを思い出して、問いただしてみると、
「あのは重ねられそうな牌として残しただけで、それがたまたまドラだっただけです。」との答え。
誰もが経験あるだろう、それぞれの分岐点では正しかったはずの選択肢によって残された捨て牌と手牌での単なる絵合わせによる、ありえないアガリ形。多分土田はそれらを切り捨てず、見えない領域へ足を踏み出したのだろう。
そして、今回取り上げて見たいもう一人は、今期Aリーグ3年目を迎えた、石井一馬。
初めて彼を採譜した時の驚きは今でも鮮明に頭に焼き付いている。遠い仕掛けを多用しなかなか理解不能!?な選択を繰り広げてみせてくれるのだが、何故か焦りや切迫感とは逆に、ゆったりした安心感を感じさせる。
たぶんネットマージャンで培った牌の機能的な追及の上に、場に対する対応力がプラスされて総合力になって来ているのだろう。(余談だが、これは前最高位の石橋の持つ「味」にも共通している。)
真っ直ぐな基礎力だけで押し切ろうとしない彼の麻雀は、まだ危なっかしさもあるが、この持ち味が、いつかは「風格」にまで昇華されるのだろうか?楽しみである。
また張も、スケールの大きさ、出てくる時の圧倒的な迫力ではまだかなわないものの、最高位戦史上最高峰「飯田正人」の茫洋とした「風合い」に近づきつつある。次回以降ゆっくり取り上げてみよう。
最高峰といえば、もう一方の巨人、金子も細やかな各論と、大局的な総論がうまくマッチした時の強さは健在で、たっぷり紙面を使って検証してみたい。
最後に、全体牌譜を取り上げてみよう。
人柄も麻雀も好青年、新井の育ちすぎてしまった手牌、そして金子のきちっとした対応と、それによって選ばざるを得なかった苦汁の放銃。またこの局面での石井のリーチという選択。はたして、この局の勝者は石井なのだろうか・・?
第一回目了。 (文中敬称略)
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