コラム・観戦記

第35期最高位決定戦⑧

18回戦東1局。実はこの局が最高位へのきっかけになったと思っている。

平凡な一局ではあるが、じっくり見てもらいたい。

 

ドラ

4人ともタンピン形の普通の切り出し。4巡目、西家水巻が切ったを親の飯田がポン。

その瞬間自分の手牌は

 


ドラがなのでかなりのチャンス手だ。飯田は切りが早いのでトイツはあり得る。

自分にトイツなので可能性は低いが…ソーズのホンイツもあり得るが、

親だけに1500の仕掛けもするかもしれない。のターツがあってを引けば

2900の仕掛けとか。いずれにせよまだ読み切れないので、次の仕掛けが入るまでは

無視するつもり。もちろん手出しツモ切りはしっかり見ながらであるが。
飯田が2巡ツモ切り後、南家の崇が打
。飯田がを切っているので鳴かれる可能性は

低いが、オリ気味に打つなら切る牌ではない。崇もそこそこまとまっているはず。

実際には

 


ドラが一枚浮いているリャンシャンテン、目一杯に構えただけであった。同巡、を引いて

 


を切っている上にが四枚見え。当然切りでイーシャンテンに構える。

このを飯田がチー。打


からのチー。河は平凡であるが、ほぼテンパイだろうと思っていた。

おそらく他の2人もそう読んでいただろう。今までの飯田であれば、1500ならリャンメンテンパイ。5800ならカンチャンもあり得るな、そんな印象である。

佐藤が現物の手出し、水巻が現物の手出し。明らかに対応を始めている。

これを見て「やはりドラドラもあり得る」と思い直した記憶がある。

自分のツモは。ドラドラであればピンズかソーズ待ち、仮にカンがあるとしたら

の形からだが切りからほぼない。

ツモ切り。
次巡、飯田が手出しで。これには三人とも激しく反応せざるを得ない。

テンパイからだとすれば本線はカンからの待ち変え。を引いて待ち、を引いて待ち、を引いて

のシャンポン待ち等。

カンへの受け変えもあり得るが、飯田の打ち方であればカン続行するように思う。

鳴いてからの手出しは嫌うタイプだからだ。待ちが他の部分であれば、

ソーズはひとメンツ確定だ。を引いたくらいしか説明がつかない。これは「テンパイだったとしたら」と仮定した上で、飯田だからそう読むのだ。

もっと言えば、「飯田だからだいたいテンパイだろう」と読むのであるが。

ここまでは三人共通の読みなはずである。
佐藤が手出し、水巻が手出し。明らかに飯田テンパイと読んで打牌しているように見える。この局は飯田と自分の一騎討ちになりそうだなと思っていた。

そして、自分の手が十分形ではないので、おそらく飯田のアガりであると読んでいた。
次巡、崇が手出し。これは手出しを見てのものだろう。

自分もソーズ待ちがあるとすればだと読んでいた。

手づまりで打った可能性はあるが、普通に考えれば崇も前に来ている。実際は

 


このイーシャンテン。
水巻、自分は安全牌のツモ切り。次巡、飯田が驚愕の打牌を見せる。


手出し。飯田の麻雀を知っている人間からすれば、「マジで!?」という打牌だ。
場のマンズの見え方からして、絶対に関連牌ではない(自分からは六四枚見え)。

とすれば100%チーの後すぐに持って来た牌であり、安全度の比較でを先に切っただけ、

ということになる。総合すると發ポンでリャンシャンテン、チーでイーシャンテン、

手出しと入れ替えただけ、切りでやっとテンパイ、

もしくは安全牌を持ち変えただけ、となる。

さすがにリャンメン3つのリャンシャンテンであっただろうから、

待ちはソーズかピンズのリャンメン、もしくは両方残ったイーシャンテン。

これでがトイツでなかったら違和感しかない。1500点もあり得ると読んだが、

その場合は2フー ロでリャンメンテンパイしていなければ飯田ではない。

もちろん、飯田だからこそこーゆー遠い仕掛けが有効な場面もあるだろう。

しかし前の半荘で素晴らしい大トップを取ってトータル首位になったばかり、東1局親番。

そんな仕掛けをする飯田は正直見たくはない。飯田は態勢論者なのだ。

さすがにトイツの5800仕掛けだろう、そうであってくれと思った。
その後4巡、飯田のリャンメンに当たる可能性がある牌は誰も切らない。

その間飯田がをツモ切り。ソーズなら

ピンズならの7点となった。
15巡目、飯田がツモ切ったをオリていたと思っていた西家水巻がポン!!を勝負した。
この辺は同じデジタルでも自分と水巻の違うところである。

水巻からすればリャンメンがあと7筋もあって当たる確率は低い、飯田は打

ノーテンの可能性もある、1500の可能性もある、ノーテンバップの支払いを考えたら

一枚くらい勝負してテンパイを取るほうが得、そんなところだろう。

正直崇と自分のノーテンは読めていたはずだ。

雰囲気読みも得意な水巻のことだから、飯田の変調に気付いていたのかもしれない。
同巡、自分がツモって来たのは

 


水巻も間違いなくテンパイだ。オリるならマンズだが、水巻は高いように見えない。

ホンイツなら3900かもしれないが、ソーズが一メンツもないとは思えない。

飯田残り6筋のうち、6巡目のツモ切りがあるは一番通りそうだ。

水巻になら打ってもよしと打とした。
次巡水巻がをツモ切り、チーして打ならテンパイだ。
だがしかし、は大本線だ。もかなり危なくて、

が一番なさそう。理屈では放銃率が25%を超えることはなく、

テンパイ料も考えれば勝負しても良い。
だ が自分はノータイムでツモ山に手を伸ばした。この感覚は日本オープンの決勝東2局、

親で9600のテンパイを取らなかった時と似ている。ほぼアガりがない と思っている時、

テンパイ料のために危険牌を勝負するのは損だと思っているのだ。当たる確率は低くとも、

仕掛けた相手に対して真摯に対応する。テンパイ料 は犠牲にしてもその方が勝ちに近づくと

思っている。かわし手をなるべく使わない、というのと感覚は似ているかもしれない。よ

うは1000点、2000点の ためでは少しでも危険は犯したくないのだ。
結局は鳴かず、はツモ切り。やはり水巻には当たってもよいと思って切っている。

飯田の5800のみ警戒していたわけだ。
飯田、崇、水巻とツモ切りの後、信じられない牌を引いた。ドラのだ。

 


飯田は1500のポンリャンシャンテンだったのだ。自分の中の飯田正人像がガラっと崩れた。

確かに親だしを鳴くなら一鳴きの方が良い。リャンメン3つならすぐひとつ引いてすぐひとつ鳴けてテンパイすることもあるだろう。理屈はわかるのだが、まさか飯田正人が…
飯田には飯田にしかわからない勝負勘がある。飯田には飯田の狙いがあったのかもしれない。

しかし、この局はDVDで土田さんの解説もあった通り、飯田の「敗因」となった気がする。もちろん、周りの三人がしっかり打ったからこそこの結果となったわけだが。

さえアンコになれば止める牌など何もない。自分のこの終盤での切りを、

飯田はどんな風に見ていたのだろうか…
ちなみに、テンパイだった水巻は自分がを引く直前に


このテンパイにを持って来てを切ってオリている。残りスジはスジ、

どこまで押すかは理屈よりも経験によるところが大きいのだろう。

自分が水巻の立場であれば飯田の仕掛けは間違いなく5800あると読むので、

もポンできずオリに回っているだろう。
かくしてトータル首位の飯田から8000直撃、という最高の形で18回戦は始まった。
以 前に「仕掛けはかなりのところまで読める」といったくせに全く読みが外れていたわけだが、

読みが外れている仕掛けということはイコール「対応する必要がな い仕掛け」ということだ。

今局のように本手の人間が前に来た時に対応を間違えてはいけないのだ。百戦錬磨の飯田ですらつい魔が差したようにをツモ切ってしまうのだ、本当に仕掛けは難しい。

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