コラム・観戦記

第35期最高位決定戦④

3日目の朝。首位まで300以上離されたラス目。

2日目が終わった後は飯田への8000オリ打ちを思い出しては頭を抱えていたのだが、

対局までにはすっかり気持ちの整理はできた。

冷静に考えて、ここから優勝できる確率は2%くらいだろうな、と思っていた。

残り半荘12回、自分が正直に強いと思える対戦相手、約320ポイント差…

今思っても、同じシチュエーションで50回チャレンジしても1回勝てればラッキーくらいの差だ。
とはいえ1ミリたりとも諦めてはいなかった。

可能性がある限り、諦めないのがプロだと思う。このへんは美意識などいろいろあるので

賛否両論だと思うが、自分は最後の親が終わるまで絶対に諦めない。

役満直撃が逆転条件なら必死にそれを狙う。役満直撃条件なんてそれこそ10万回狙っても

1回できるかどうか(相手だってそうそう打ってくれるわけない)の確率だとわかってはいるが、

それを狙う姿を自分は滑稽だとは思わない。それを狙い続けることで無理をして優勝者が

変わってしまったとしても、それが麻雀というゲームの性質なのだと理解している。

4人が4人とも「自分のためにできる最善を尽くす」これが麻雀というゲームなのだと思う。

自分以外三人の誰かのために打ったら…


またまた話が逸れてしまったのでもとに戻す。

最後の最後まで諦めることはないが、今日はまだ3日目。「どうせダメもとで全ツッパしてやる」なんて

考え方はしない。自分が14年間ゆっくりと成長させて来た自分の麻雀をしっかり打つだけだ。

攻める所は当然攻めるが、やはり守るべき局面のほうが多いのが麻雀だ。

しっかり集中して、自分のバランスは崩さないようにしなくては。そう思っていた。


結果から先に言うと、この日は1113でプラス146.5ポイント。

初日、2日目が嘘のように大勝した。
何か特別なことをしたわけではない。アガれる手はなるべくメンゼンで仕上げてリーチ、

そうでない時は一生懸命オリる。そう、初日、2日目と同じことを丁寧に繰り返しただけなのだ。
多くの人が気付いていると思うが、自分の麻雀は決して器用ではない。

水巻のような反射神経はないし、崇のような切れ味もない。

ただそれでも14年間彼らと対等、もしくはそれ以上に戦えて来たのは、とにかく集中して

相手の進行状況や手牌を読み、相対的に勝負になると思えばリーチ、そうでない時は

さばきに行くよりも放銃を避ける、この作業を徹底して来たからだと思う。

アガり率はAリーグの中でも下から数えたほうが早いだろうが、

平均打点は1位か2位なのではないだろうか。

そんな単純なことで勝ち切れるわけがないと思うかもしれない。

単純な戦術だからこそ、相手をよく知り、相手の手牌をかなり読む必要があるし、

自分の最高打点のアガり手順を決して間違えてはいけない。

どんな打ち方をしようと、最低限の雀力と、かなりの集中力が必要なのだ。
3日目ひとつも牌譜がないのもなんなんで、ひとつだけ。


10回戦東2局 ドラ

 

親リーチに対して無筋を切ってテンパイ外し、次順追いつくと4枚切れの現物待ちながら

追いかけリーチ、高めのドラをツモって30006000。単なる全ツッパのバカヅキ野郎にも見える

譜だ。バカヅキであったことは否定しないが、この時考えたことだけ解説しておく。


まずは崇の手牌にはピンズは1メンツであるということは読んでいた。

なぜなら7巡目の手出しはほぼとの入れ替え。からの切り出しの可能性はあるが、が一枚切れなので親ならから切るだろう。

この瞬間はいい待ちなのでまず間違いない。よって待ちはマンズかソーズが濃厚。

そう読みながら、自分がこの形で追い付いた

 

 ツモ
高めのは二枚、安めのが一枚。崇がとあるので、

残りのは山にある公算が高い。

たった三枚ではあるが、崇はピンズ待ちではないので掴めば切る牌。

崇の待ちは絞り切れないが、高めツモハネマンという打点も加味すれば、

オリを見据えたヤミテンよりもリーチが得策であると踏み切ったわけだ。

実際には崇は二五待ちで山4枚、かなり不利な勝負を挑んだわけだが、

日本オープンの自戦記でも書いた通りこれが放銃になっても後悔はない。

リスクなくしてリターンはないのだ。
かくして最高の結果を出し、この半荘飯田の8000オールが出るもその後また30006000、

さらにはオーラス6000オールで連勝。11回戦もトップで三連勝。
いま思えばこの日一回でも選択を間違えたら絶対に最高位にはなっていないわけだが、

牌譜を見る限り今でも全て同じ選択をする自信がある。
最後に一つ、3日目の速報で吉田光太プロがこんなことを書いていた。

「ファンパイの先打ちと、裏ドラの乗り方に因果関係はあるのだろうか?」答えはただ一つ。

ダブ東から切ろうがオタ風から切ろうが、裏ドラの乗る確率など変化するわけがない。

光太とはプライベートでも仲が良く、次世代のエースとして期待しているのであえてきつく書くが、

本気でそう考えてしまうなら中学3年生の数学からやり直したほうが良い。

村上がアガるとたまたまで、飯田がアガるとタメが良かったからだ、

こんな考えも早く止めたほうがよい。もっと真実としっかり向き合うべきだ。

これに反論してくるようではこれ以上何も言わないが…強くなるために必要なのは

目に見えないことではないのだ。
2日終了時に320近くあったポイント差は、3日目を終えてなんと70ちょいに。

ほぼ横一線となって4日目に突入する。続く

 

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