コラム・観戦記

第40期最高位決定戦最終節観戦記 新津潔

第40期最高位決定戦最終節観戦記 新津 潔

 

最終節開始前ポイント

近藤 誠一 +257.3
宇野 公介 +122.3
村上  淳 ▲103.4
設楽 遥斗 ▲278.2

 

「飯田組若頭」、そう自称する男は、開始前のインタビューでこう言い放った。
近藤「暫定トップではあるが、少しでも緩むと危うい点差であるのは間違いない。なので、もう1人自分より上にいるつもりで打とうと思う」
なるほど、もう1人上に。
若頭の上ならば、組長をおいて他にいないだろう。

 

17回戦

起家から設楽、近藤、村上、宇野

 

東3局 ドラ

村上281 宇野317 設楽295 近藤307

拮抗した状況で、近藤が4巡目リーチを放つ。

この近藤のペンリーチに対する村上の13巡目。

 ツモ

村上は、スーアンコイーシャンテンのこの手牌から、ピンポイントでを止め、フリテンのカンターツを残し、打で粘る。
そうこうしている間にヤミテンを入れた宇野が、近藤から1000点をアガった。

 ロン

近藤に対する包囲網を感じる。

 

南2局 ドラ

近藤266 村上324 宇野316 設楽294

3者がここまで近藤をラスに押し込めている。
勝負所となる近藤のオヤ番。
設楽が9巡目にこの手牌。

 ツモ

ここから特に多く切られているわけではないターツをノータイムで払っていく。
ドラのを活かし、最低打点を高める打法である。
これが、大正解。
最速テンパイを果たすと、カンのリーチ。

 ツモ 裏ドラ

一発でを引き当て、裏2の3000・6000とし、近藤にオヤかぶりさせながらトップ目に浮上していった。

 

南4局 ドラ

宇野326 設楽414 近藤196 村上264

前局に宇野がアガり、オーラスを迎えた。
近藤のラスが濃厚になってきており、少なくとも3着には抑え込めそうな点数状況である。
そして、設楽がこの4巡目テンパイ。

これはさすがに近藤のラスかと思ったが、このが深く、引けども引けども出てこない。
すると、第1ツモでドラがアンコになっていた近藤が、6巡目にをポンしてイーシャンテンに。

 ポン

なんと次巡にあっさりを引いて追いつき、テンパイ。ところがはヤマに1枚だけだ。
7巡目には、村上もリーチ。

さすがに万事休すかと思われた近藤だったが、すぐにを引いて2000・4000にしてしまった。

 ポン ツモ

村上リーチの供託があるため、近藤がこのアガリで宇野と同点2着まで浮上。追いかける3者にとっては厳しい結果となった。

 

17回戦成績

設 楽 +39.4
近 藤   ▲1.4
宇 野   ▲1.4
村 上 ▲36.6

トータル

近 藤 +255.9
宇 野 +120.9
村 上 ▲140.0
設 楽 ▲238.8

 

18回戦

起家から設楽、村上、宇野、近藤

 

東1局 ドラ

近藤を追いかける一番手宇野が8巡目リーチをツモって2000・4000。まずは先制する。

 ツモ 裏ドラ

 

東2局 1本場 供託1000点 ドラ

そう簡単には追いつかせまいと、近藤がドラ単騎に振り替わった5巡目にリーチ。

これに対して設楽がをポンして追いつく。

 ポン

村上も9巡目リーチで応戦。

しかし、一発で引いたのは無情にもラス牌の

 ロン 裏ドラ

8000は8300。あろうことか、これで近藤がトップ争いに加わってしまう。

 

東3局 ドラ

宇野385 近藤368 設楽245 村上202

これに焦ったか、オヤの宇野が14巡目という終盤にこの抑えつけリーチをかける。

実はこのとき、ドラアンコでヤミテンに構えていた設楽。

同じくヤミテンに構えていた近藤。

 ツモ

宇野のリーチのおかげでを止め、打とする。
宇野のリーチが、ヤミテンに構えた設楽のファインプレーを潰した格好だ。
すると、こうなってはヤミテンに構えている意味がなくなった設楽がリーチ。
宇野が一発でを掴んで12000となった。

 ロン

 

東4局 ドラ

近藤368 設楽375 村上202 宇野255

前局に宇野が失速したことで、より伸び伸びと打てるようになった近藤。
1巡目のダブから積極的に仕掛け、ホンイツに向かう。

 ポン

他家をけん制するには十分な捨て牌で、途中まで粘った他家にもテンパイを崩させ、狙いどおり終盤勝負に持ち込むと、最終手番でツモ。

 ポン ポン ツモ

この4000オールで突き抜ける。

 

東4局 1本場 ドラ

近藤488 設楽335 村上162 宇野215

こうなると、上にいるはずの仮想1位に向かって一人旅となる予定の近藤が、6巡目にをアンカンしてリーチに出る。

 アンカン

しかし、ここでも歯を食いしばって設楽が止めにいく。
11巡目にこのメンホン追いかけリーチ。

 ロン ドラ 裏ドラ

近藤が一発でを掴んで8000は8300。
設楽が執念で近藤をまくり返す。

 

南2局 ドラ

村上136 宇野241 近藤395 設楽428

 ツモ

宇野が3巡目にこの手牌からを打ってテンパイ取らず。
ところがこれが仇となり、宇野がテンパイを外している間に近藤から先制リーチがかかってしまう。

すぐに宇野も追いかけリーチを放つが、近藤がを一発でツモり、1300・2600。

 ツモ 裏ドラ

これで近藤が設楽を再逆転していった。

 

南3局 ドラ

宇野218 近藤457 設楽415 村上110

そして、今日一番の勝負所を迎える。
宇野がこのオヤ番で息を吹き返し、近藤をまくることができなければ、残り2回で200ほどの差が付き、ほぼ投了となってしまう。
そんな状況であるため、村上の7巡目リーチに宇野が無スジを何枚も勝負してテンパイを果たすが、ラス牌のを掴んで村上に8000。

 ロン 裏ドラ

これで宇野はかなり厳しくなった。

 

南4局 ドラ

近藤457 設楽415 村上190 宇野138

2着と4200点差であるため、流局ノーテン宣言が可能な近藤だが、目一杯に構えていく。
そこに、村上の11巡目リーチが襲い掛かった。

すると、打点が足りずにヤミテンに構えていた設楽が、待ってましたとばかりにツモ切りリーチ。

同巡の宇野。

 ツモ

安全牌なら多くあるが、自らの逆転が難しいため、近藤の着順を落とすことに狙いを定めた。
すなわち、村上の安全牌で、かつ設楽に無スジのを切っていく。
すると、手が止まったのは、宇野の想定外、近藤だった。

近藤としては、設楽にアガられると高確率で1着順落ち。放銃しても2着順落ちはない。
このをチーし、双方に無スジの打で斬り込みを敢行。
すぐに設楽がを掴み、近藤が5800をアガり切った。

 チー ロン

これで勝負あり。
ここからは、近藤が純粋に「自分がなりたい最高位」に向かい、さらに上の仮想1位を追いかける戦いである。
対局後、近藤は私に語った。
「ポイントを消化しながら、守備を固めて無難に勝つ戦略ももちろんある。しかし、私はそういう最高位にはなりたくなかった。私は、とにかく力強い最高位になりたかった」と。

 

南4局 1本場 ドラ

近藤535 設楽347 村上180 宇野138

その言葉どおり、近藤がここからさらに躍動する。

7巡目のこのイーシャンテンから、近藤はあたかも「これは当然ポン」という自然な感じでをポンし、打とした。
確かにが2枚切れなのだが、流局ノーテンが可能なこの状況で、これを自然に鳴ける者が、果たしているだろうか。
すると、すぐにもポンできてテンパイ。

 ポン ポン

これに捕まったのは、再逆転を目指す設楽。

 ツモ

イッツーが見えたため、で当たるならドラでない方ということでを打ち出し、5800は6100。

 ポン ポン ロン

確かに力強い。
私もリーグ戦に参加していた時分、このような力強い最高位たちを、憧れの眼差しで眺めたものである。

 

18回戦成績

近 藤 +53.8
設 楽   +8.6
村 上 ▲16.2
宇 野 ▲46.2

トータル

近 藤 +309.7
宇 野   +74.7
村 上 ▲156.2
設 楽 ▲230.2

 

19回戦

起家から設楽、宇野、近藤、村上

 

東1局 ドラ

設楽が11巡目リーチをツモって2600オールで先制する。

 ツモ 裏ドラ

 

東1局 1本場 ドラ

しかし、ここでも近藤がノータイムで8巡目リーチをかけてくる。

ツモったときの打点が変わらないため、ヤミテンという考え方もあるが、そういうことではない。

 ツモ

2000・4000は2100・4100。
リーチがなくても点数は変わらない。
ただ純粋に、近藤は、この手をツモったときにリーチをかけている最高位になりたいのだ。

 

南1局 4本場 ドラ

設楽434 宇野236 近藤287 村上243

南入し、設楽が連荘して点数を積み重ねた直後、まだ諦めない宇野がアンカンし、新ドラ4枚を乗せて12巡目にスーアンコリーチ。

 カン カンドラ

ヤマには合計3枚も残っていたが、王牌に寝た3枚を掘り起こすことはできなかった。

 

南4局 2本場 ドラ

村上381 設楽403 宇野165 近藤251

オーラス、少しでも着順を上げたい宇野が7巡目リーチ。

勝負するしかないオヤの村上が、打で宇野に12000は12300を放銃し、全20回戦中の19回戦が終了した。

 

19回戦成績

設 楽 +40.3
宇 野   +9.1
村 上 ▲14.5
近 藤 ▲34.9

トータル

近 藤 +274.8
宇 野   +83.8
村 上 ▲170.7
設 楽 ▲189.9

 

20回戦(最終戦)

起家から宇野、近藤、村上、設楽

半荘1回で190ポイント差。これは、実質的に逆転不可能な数字だろう。
しかし、そんな半荘だからこそ、プレイヤーの本質が見える。

 

東4局 ドラ

設楽200 宇野353 近藤237 村上410

 ツモ

近藤は、今まで見たこともないようなスムーズな打牌で、3巡目にを曲げた。
ドラ単騎のリーチである。
近藤「今日はこういう風に攻撃すると決めていたので、この選択自体は今日の自分にとって普通だが、それを象徴する局になったと思う。ドラ単騎なら最も気持ちよくリーチがかけられるため、イーシャンテン時にはドラ単騎になれ!と思っていた」
設楽の追いかけリーチを振り切り、ヤマに3枚残っていたを近藤が12巡目に引いた。

 ツモ

「このハネ満ツモでまくりましたね、飯田組長」
私には、近藤がそう言っているように見え、少し笑った。

 

最終戦

村 上 +51.0
設 楽 +23.0
近 藤 ▲17.9
宇 野 ▲45.9

最終結果

優勝 近藤 誠一 +292.7
2位 宇野 公介   +37.9
3位 村上  淳 ▲119.7
4位 設楽 遙斗 ▲212.9

 

 

近藤は、飯田永世最高位が亡くなってから、理で考えないように打つことにしたのだと言う。
飯田組若頭として、飯田のような、感覚派の右脳プレイヤーとしてトップに上り詰めるためだ。
「理を突き詰めることはもちろん大事だと思うが、理で全部は説明できない。説明できることは、あくまで説明できるレベルのことでしかない。ならば、自分の右脳を信じて、感覚で打とうかなと。もうその段階に来たのではないかと思ったので」

自分の経験を信じ、感覚で打てるよう精進する。
その結果、2度目となる最高位を自身の目標とする力強い最高位として戴冠した。
もう、近藤は、紛れもなくトッププレーヤーである。

実は、そんな近藤が羨ましいと思う選手がいることをご存じだろうか。
当協会B1リーグの石井一馬である。

この観戦記に関するインタビューの終盤で、昨年Aリーグから降級した石井について、近藤はこんなことを語った。
「一馬を見ているといつも羨ましい。頭の柔軟性がすごい。彼自身、今は頭に理を詰め込んでいる時期なの(で、リーグ戦で結果が出ないの)かなと思うが、それでも王位と最高位戦Classicを取ってしまうのだからすごい。あの若さで3つもタイトルを取っている選手は今までいない。次世代のエースであることには間違いない」

近藤とは付き合いの長い私であるが、これは意外なことを聞いたかもしれないなと思い、さらに耳を傾けた。

「そして何より、真摯な面がすごい。金子研究会を(佐藤)聖誠とともに立ち上げて、本当に金子さんをリスペクトして研鑽を積んでいる姿とか。もしかしたら、そこで得た知識を噛み砕いているところだから、今は思うような結果が出ていないのかもしれない。だからなおさら、これを乗り越えたときには怖い。できれば乗り越えないでほしい(笑)」

私は近藤の話を聞きながら、こうして最高位戦の魂が受け継がれていくのかもしれないな、と入会してからの35年に思いを馳せた。
思えば、諸先輩方から麻雀について、麻雀以外の振る舞いについて、様々なことを教わった。
そんな先輩方もいつしか少なくなっていき、今では自らが代表を務めている。
愛すべき後輩たちに、自分が何かを伝えられているのか疑問に思うこともあるが、それでも進んでいくしかあるまい。

そんな決意を固めたところで、近藤が言った。

「新津さーん、もっと飲みましょうよー」

わかったよ、うるせえな!
そう言って、私たちは盃を干した。

おめでとう、誠一。
これからも、よろしくな。

私の記憶は、気持ちよく、そこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

第40期最高位決定戦DVD 発売中!

 

コラム・観戦記 トップに戻る