コラム・観戦記

【第21期發王戦決勝観戦記 後編その1】坂本大志

第21期發王戦観戦記 前編はこちら

半分の3回戦が終わってのポイント状況は
佐藤 +39.7
水巻 +30.3
平賀 +6.5
山田 △76.5

4回戦(水巻―佐藤―山田―平賀)
東1局 ドラ
(全体牌譜)

四者共に配牌が良く、後半戦早々から手がぶつかりそうな予感。

最初に動いたのは佐藤。
第1ツモで役牌が3種類対子となり、すぐに東ポンから動く。

3巡目に以下の形になると打とする。

  ツモ  ポン

あがれば満貫確定、効率優先なら孤立の字牌から切り飛ばす方が良い。
敢えて先にを切る事によって、ソウズのホンイツの匂いを消そうとする意図が見える、佐藤らしい選択だ。
その佐藤は10巡目にを引き入れテンパイにとれるのだが…

   ツモ   ポン

のどれを切ってテンパイにとるか?

が佐藤から3枚見えなので、切りとはしないだろう。
既に打点は満貫が約束されている。
セオリーならアガリ易く枚数優先の切りか?
だが、切りはトイトイの他にツモったら三暗刻のオマケも付き、打点倍増の倍満。
そして使い辛いはずのが未だ生牌なのが気にはなる。
は一応筋に掛かった牌でもあり、非常に難しい選択だ。
佐藤は少考することなくを河に置き、最高打点を追い求めていく決断。

同巡、山田もドラ単騎のテンパイで追いつき闇テン。

そして親の水巻も追いついた。

とし、こちらも闇テン。

高打点のぶつかり合いとなったが、佐藤の待ちは全て平賀の手牌にあり既に純カラ。
山田の待ちも、水巻が1枚、平賀が2枚使っており純カラ。
水巻の待ちだけは、河に1枚と平賀が2枚で1枚だけ残ってる。

長引きそうな予感がしていたが、決着は早かった。
七対子イーシャンテンの平賀が、既に対子にしているをツモ切り、水巻に12000放銃。

ちなみに佐藤は待ち選択で打を選択していれば、残りのは全て山に残っていて、先に山田からを捕らえていた。

結果論であり仕方ないかもしれないが、これは痛い。

水巻はさらにアガリ続ける。

1本場は山田から3900は4200。
2本場は2000は2200オールをツモアガリ、早くも点棒は50000点を越え、2・3回戦同様に序盤から抜け出す。

そして東1局3本場 ドラ
(全体牌譜)

全員がそれなりの配牌。
特に佐藤と山田は、役牌対子のリャンシャンテンと水巻の親を落とすには絶好である。

山田はすぐにが鳴けて4巡目に待ちのテンパイ。

   ポン

打点は1300だが、まずは水巻の親を蹴って反撃への足掛かりとしたいだろう。

しかしこのテンパイが一向にあがれない。

9巡目には佐藤が追いつき、リーチ。

そして10巡目、子方の3者が最も恐れていた水巻のリーチもやってきた!!

それぞれの残り枚数は
山田6枚
佐藤0枚
水巻2枚

押しきれれば流石に山田に分がありそうな勝負ではあったが、勝者は水巻。

トータルトップ目の佐藤からの直撃は、裏3のオマケ付きで18000。
東1局ながら、早くもこの半荘のトップを決めてしまったか?

続く4本場も、平賀とのリーチ合戦を制して2600は3000オールで水巻の持ち点はついに70000点オーバーとなる。

5本場は、山田の一色手の仕掛けに水巻がリーチで被せるも、山田が押しきり8000は9500を水巻から直撃。
長かった水巻の連荘をついに止めた。

親番で反撃といきたい佐藤も、流局連荘の後に2000オールを2回ツモり、ラス抜けに成功。

ラスに落ちた平賀はというと、次局も水巻に満貫を打ち上げ残り100点にまで落ち込んでしまう。

 

東3局 ドラ
(全体牌譜)

佐藤の5巡目に注目していただきたい。

何処かの何切るに出てきそうな牌姿である。

候補としては、

形優先ならドラの切りで、ハネ満クラスの最高打点までみるならの対子落としもある。
はそれの中間といったところか?

佐藤の選択は、次に最も好形のリーチが打ちやすいドラの切り。

しかし次の有効牌は想定外の
ドラを残せていれば待ちのリーチとなっていたが、これは仕方ない。
佐藤は仮テンにも受けずにこのをツモ切る。

結局二を引いて待ちの平和ドラ1でリーチするも無情の流局。

牌譜を見てもらえればわかるが、佐藤は5巡目に何を選択してもツモアガリが無い。
まるで、今の佐藤の苦しさを物語っているようである。

東場を終えて
水巻 75100
佐藤 15000
山田 21800
平賀  7100

水巻以外はなんとしても2着にはなっておきたいところ。

流局が続き、南場での初めてアガリが出たのは山田が親番の南3局3本場。
(全体牌譜)

2着になる為に、この親には連荘させじと佐藤と平賀が積極的に仕掛け始める。
ドラ

 

平賀
   ポン

佐藤
   ポン

平賀はともかく、佐藤はかなり遠いとこから動いた。

これだけだと、佐藤は流石に焦りすぎか?と思えてしまうが上家はトップ目の水巻。

局を潰したいという利害関係が一致してるこの局に関しては、水巻は鳴かれそうな牌を切って佐藤のアシストをしてくれる事が期待できる。

それを加味すれば一概に悪手とは言えない仕掛けではある。

その後西家の水巻にもドラのポンが入り、山田は3者の仕掛けに挟まれたが、9巡目にテンパイを果たす。

   ツモ

最高の入り目、そのリーチ動作には今までより少しだけ力が入ってるように感じた。

山にはが7枚残りと圧倒的有利。
数巡後に高めのをツモりあげ、裏ドラがの6000は6300オールと山田にとって今日一番のアガリとなった。

続く4本場は山田が2つ仕掛けて水巻から2900は4100を直撃。
(全体牌譜)

山田はマンズのホンイツっぽい捨て牌と仕掛けではあったが、ドラがという事を考えれば、水巻らしくないやや淡白な放銃にも見える。

こうなると山田は何としてもトップを取りたい。
しかし粘りに粘るも大きな加点には至らず、8本場で佐藤のホンイツに放銃し親落ちする。
(8本場全体牌譜)

オーラスは親の平賀が粘り3着に浮上するも、最後は佐藤が捲り返してラス抜け。

全26局という壮絶な4回戦が終わった。
水巻渉、3連勝で發王位再冠へ一歩抜け出す。

4回戦(カッコ内はトータル)
水巻 +59.6(+89.9)
山田 +17.5(△59.0)
佐藤 △27.2(+12.5)
平賀 △49.9(△43.4)

5回戦(平賀ー佐藤ー水巻ー山田)

残り2半荘あるとはいえ、既に各々のやることは決まっている。

平賀、山田はもう後がない。
自身のトップはもちろんの事、水巻も沈めなければならない。
佐藤に関しては、水巻よりも上の着順で終わる事が絶対だ。

逆に言えば、水巻は以上の条件をクリアされなければ、最終戦を待たずにほぼ勝負を決めてしまえるのだ。

東1局 ドラ カンドラ

 

(全体牌譜)

後がない平賀がガムシャラに攻める。
重ねたばかりのダブをポンするとチー、チーと3フーロ。

   チー   チー   ポン


最後のチー出しがで、その前にの両面ターツを払っているので、普通に考えればの両面待ちが大本線。
後はカンのノベタン形くらいだろう。

水巻は早々に撤退し、他2人はテンパイを組みに行くも中々テンパイが入らず。
流局濃厚ムードが漂うなか、平賀が残り2回のツモ番でを持ってきて加カン。
カンドラを1枚乗せてから最終手番でをツモり、2600オールと先制した。

水巻以外3者の共通のテーマ


「水巻をラスにする」

これを実行する為に、水巻以外が親の時は他の二人はあまり積極的に親を流しに行かない。
逆に水巻にとってみれば1局を潰す事に神経を使い、厳しい展開になりやすい。

東1局1本場 ドラ

 

(全体牌譜)


まずは水巻が一局潰す事に成功した。

東2局 ドラ

 

(全体牌譜)

河の情報から水巻が早いと判断した親の佐藤、8巡目にオタ風の1鳴きから仕掛け始める。

   ポン

 

とし、チャンタのイーシャンテン。
出来る事なら門前で打点も追いたかったが仕方なし。

その後、と引き入れ片アガリのテンパイ。
これに水巻が飛び込み微差ながらラス目に落ちるも、

続く1本場では逆に仕掛けて1000は1300で佐藤の親も流す。

東3局 ドラ

 

(全体牌譜)

まずは水巻が9巡目にポンテン。

   ポン

 

ツモれば決定打となり優勝まで決めかねないテンパイだ。

同巡の山田


   ツモ

 

既に闇テンの山田はここから打でイーシャンテンに戻す。

次巡のツモはドラの
平和ドラ2ならリーチに行くかと思ったが、一旦闇テンに構え次巡にツモ切りリーチ。

両面待ちながら既に4枚見え。
これが1巡躊躇した理由だろう。

そして水巻が一発目に持ってきたのが

これは判断が難しい。
単独した半荘なら押す一手だと思うが、今回は6半荘の頭取りと、ちょっと事情が違う。

一発目であり、ロンと言われれば最低でも5200。
通ってはいないが、
を切ってオリの選択肢もある。

難しいところではあるが…
「ドラ跨ぎの
待ちなら、まず即リーチとなるはず。」
やはりツモ切りリーチというのが決め手になったのだろうか?

水巻はノータイムでを河に置いた。

山田にとって、いや、水巻以外の3者にとって僥倖とも言える8000直撃。

これで並びは出来た。
3者としては、後は水巻の着順を変えないように自身がトップを取るだけだ。

 

 

ここからは細かいアガリが続き、南3局を迎えて以下の点数状況。

水巻 15700
山田 34900
平賀 40100
佐藤 29300

ドラ

 

(南3局全体牌譜)

まずは山田がポンして捌きに行く。

   ポン

かなり苦しい形なのは重々承知の上での仕掛け。
ここは水巻の親落としに全力を尽くす。
水巻も9巡目の山田のテンパイ打牌である
をポンして応戦するが、こちらもかなり苦しい形だ。

   ポン

親を落としたいのは山田だけでは無い。
平賀も連荘させまいとリーチで攻める。

こちらは高め三色の本手リーチ。

佐藤も黙っていなかった。
をポンして

   ポン

 

ここから切り。
これは凄い。
全員テンパイでもおかしくない状況で、安牌になる南をポンして全員に無筋の
を勝負して1000点のテンパイ。

果たしてこの南を鳴ける者がどれだけいるだろうか?

これだけだと、佐藤が只攻めるだけの下手な人に思えてしまうが、そういう訳ではない。

ここで1000点でもアガリを物に出来れば、オーラスは満貫でトップ。
2着になる条件も緩和される。

そして水巻以外になら放銃しても親を落とせる。
その場合は3着キープを目指し、水巻よりも上の着順で終わるという最低限のミッションを達成させ、最終戦勝負に持ち込むことができるのだ。

もちろん水巻に放銃は最悪だが、それ以外の結果で終わるなら、まぁ良しという事なのだ。

結果は、すぐにトップ目の平賀が佐藤に1000点放銃。

結局この半荘はこのまま終わり、佐藤は3着なのだが、「絶対に自分が勝つ」という強い意思を感じさせてくれた半荘であった。

5回戦スコア(カッコ内はトータル)
平賀 +38.1 (△5.3)
山田 +16.9 (△42.1)
佐藤 △12.9 (△0.4)
水巻 △42.1 (+47.8)

大まかではあるが、各自の優勝条件は以下。

佐藤は水巻とトップラスなら無条件、2順位差なら素点で8300点差、1順位差なら28300点差必要になる。
平賀も佐藤と条件は似ている。
水巻とトップラスなら無条件、2順位差なら素点で13200点差、1順位なら33200点差が必要。
山田はトップが必須。に水巻ラス、佐藤3着、平賀2着なら、
水巻と30000点差、平賀とは16900点差が必要。

以上の条件を誰も満たせなければ、水巻が優勝となる。
5回戦目のラスは痛いが、依然として水巻が有利である。

後編 その2へつづく

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