これまで20回の歴史がある發王戦で、連覇を達成したのは3名。
現行の制度になってからの連覇はわずかに1名と、その道は深く険しい。
今回の決勝で、連覇という偉業に挑戦する1人の男がいる。
現發王位 佐藤聖誠(最高位戦Aリーグ)
31期前期入会
29歳と若手ながら、このビッグタイトルを保持する。
本場所のAリーグに於いても2年連続1位で決定戦に進出と、もはや最高位戦が誇る看板選手の1人である。
そして佐藤の連覇を阻止し、自身の優勝を目指すのはこの3人。
水巻渉(最高位戦Aリーグ)
23期入会
第17期の發王位を獲得。
最高位戦随一の技巧派は、4年ぶりに返り咲くことが出来るのか?
平賀聡彦(最高位戦Aリーグ)
29期前期入会
リーグ戦をノンストップで駆け上がり、現在はAリーグ在籍6年目。
意外にもタイトル戦の決勝は今回が初。
いつも通りの強気なスタイルで攻めきれるのか?
山田昌和(招待選手)
元麻将連合のツアー選手。
最高位戦のタイトル戦は相性が良く、過去にも發王戦とClassicで決勝に残った実績もある実力派。
念願の初タイトル獲得なるか?
守備型の山田、バランス型の水巻、超攻撃型の佐藤、超超攻撃型の平賀と、
それぞれタイプの違う打ち手が揃った今回の決勝戦。
果たして最後に勝つのは誰なのだろうか?
1回戦 (水巻→山田→佐藤→平賀)
1回戦から平賀が存在感を見せつける。
東2局 ドラ
水巻から4巡目にこの先制リーチ。
このリーチに平賀がを仕掛けてて攻め返す。
ポン
ここから無筋の打
親でもないしドラドラとはいえ仕掛けてまだリャンシャンテン、もも無筋で、ここから安全牌を2枚消費させてまでリーチに向かって行くのはとても得とは思えない・・・
理屈で語るならこんな感じだろうか?
しかし、彼にとってみればこれはいつも通りの仕掛け。
当然、平賀もそんな事は百も承知の上でのこと。
なんてったって超×2攻撃型ですから。
この後ポン打、チー打と攻め続けて高目8000のテンパイを入れる。
この局は山田→水巻2600で終わるが、平賀は初めての決勝でも萎縮せずに伸び伸び打ててるようだ。
東3局は親の佐藤が会心の6000オールで抜け出す。
ドラ
こんな配牌が11巡目には
ポン
こんなテンパイをしてまでツモるのだから、麻雀は本当に恐ろしい。
東4局2本場 ドラ
南家水巻が好配牌をゲット。
と引き入れて、上家から出たをチーして5巡目にしてイーシャンテンも、劇的なツモをみせた親の平賀が、ドラを2枚引き入れてすぐにリーチで被せる。
水巻がピンズに寄せてるため、あまりアガリまでの感触はないだろうが、何と水巻は1枚も持っておらず、山にはまだ3枚生きている。
水巻もカンテンパイを果たし押し返すも、終盤に平賀がをツモり6000オール。
トップ目佐藤に肉薄する。
続く同3本場、まずは全体牌譜を見ていただきたい。
ドラ
水巻が平賀の仕掛けに12000放銃。
平賀は遠い仕掛けや安い仕掛けも織り交ぜてくる打ち手であり、舐めてしまったのか?
この–待ちは意外と盲点になりやすいとは思っていたが、水巻がこのイーシャンテンからノータイムで切ったのには少々驚いた。
は喰い伸ばしのケース以外はまずロンと言われる事がなく、一見通りそうではある。
しかし、マンズの単純両面待ちとカン待ちも考えにくい上にが通ったこと、平賀のこの仕掛けはあまり安く見えないこと、現状の安牌は豊富に持ってること、そして何より自身のアガリがあまり期待できないことを考えると、普段の水巻なら絶対に切らないのではないか?と思ってしまう。
まだ勝負の土俵に上がれていないのか?
東4局5本場 ドラ
やはり水巻がおかしい。
ツモ
ここから切りリーチ。
南が役牌なら当然のリーチだと思う人も多いだろうし、この選択の良し悪しを問うつもりも無い。
ただ、いつもの水巻ならこれは闇テンに構えてるだろう。
打点効率、アガリやすさ、他家との速度感。
何年も水巻の麻雀を観てきた私からは、闇テンにする要素は揃っているように思えたが、ラス目という現状が焦りを生んでしまったのか?
自分のフォームを崩してる様な気がしてならない。
結果は、追っかけられた山田に一発で放銃し、ついに箱を割る。
そしてなんとか挽回したい南1局の親番も、佐藤があっさりアガリこの半荘のラスがほぼ確定した。
南2局、ここまで我慢の展開が続いた山田が1000オールで連荘に成功。
向かえた1本場でついにチャンス手が来た。
3巡目に打として下記のイーシャンテン。
ドラ
ドラはないが充分に打点が見込める上、他家はまだ形すらできていない。
流石に連荘は固いかと思ったのだが、先制したのはなんと佐藤。
山田が追いついたのは15巡目
ツモ
三色にならないどころか、タンヤオも確定していない。
ましてやテンパイ打のは佐藤の間4軒。
待ちは優秀だし当然勝負をするのだが、やや不満気に感じたのは気のせいではないだろう。
完全に1対1の勝負だと思っていたが、結末は意外なものであった。
終局間際の16巡目、リーチに対して1牌も押していない平賀が手牌を倒す。
ツモ
トップを揺ぎ無いものにする会心の2000・4000.。
結局、1回戦はこのまま平賀の独壇場で終了した。
1回戦終了時スコア
平賀+67.3
佐藤+17.0
山田△20.0
水巻△64.3
2回戦 (平賀→水巻→佐藤→山田)
最高の滑り出しの平賀だったが、2回戦は苦しいスタートとなる。
まず西家佐藤が7巡目に先制リーチ
ドラ
このリーチの1発目に南家の水巻がサラッと無筋のを河に置く。
そして平賀の手牌は
ツモ
とが打てるので、大抵の人はどちらかを選択すると思うが、平賀の選択はなんとドラの切りっ!!!!
これが水巻へ8000放銃となってしまう。
ロン
私からは流石にやりすぎに見えてしまうのだが、平賀曰く、
「あの切りは全く後悔していない。このを切るのはAリーグでおれだけだが、おれは絶対に切る!!」
流石は超×2攻撃型、この選択の是非はともかく、自分の麻雀はしっかり打てているようだ。
東2局 ドラ 裏
1回戦目のマイナスを少しでも戻しておきたい親の水巻が先制リーチで攻め立てる。
このリーチを受けた山田の選択が面白い。
10巡目
ツモ
ドラ対子で簡単におりたくないので、まずは通りやすい切り。
次巡にツモ、水巻のリーチのピンズに関する情報は宣言牌ののみ。
これは難しい、切ってやめるか筋のかで粘るのか?
少考後、山田が選んだのはなんと無筋の。
数巡後、を重ねた山田が切りで追っかけるも、宣言牌が捕まり12000の放銃になる。
山田は下目の三色をケアした為このような選択になったとのこと。
確かにマンズは下の方を持ってそうだし、ソウズも、の切り順で上よりは下の方を使ってる事が多そうだ。
事実、入り目次第では234の三色になる形であった。
結果は最悪であったが、山田の思考がよく表れた1局であった。
この半荘の勝負を分けたのは東4局4本場。
ドラ 裏ドラ
先制したのは佐藤、6巡目に平和のみをリーチ。
供託1本の4本場となれば闇テンでも良さそうだが、おそらくに自信があったのだろう。
すぐに水巻も追っかける。待ちは同テンの-。
こちらは打点もあり、是が非でもアガリたい。
そして親の山田もすぐに追いつき、ついに3軒リーチ。
山田の―待ちは2枚残り、水巻・佐藤の-は何と5枚残りである。
熱く激しい3者の捲り合いは水巻に軍配があがった。
力強くをツモりあげ、大きく抜け出した。
東場を終えて
平賀 17800
水巻 55200
佐藤 33900
山田 13100
初戦トップの平賀が3着目、一方ラススタートの水巻のトップ目と、このまま終われば平たいポイント状況になりそうだ。
南1局は佐藤が全力で1000点をアガリ、平賀の親を落とす事に成功。
その佐藤が南3局の親番をむかえ、主導権をとるべく1巡目から積極的に動く。
ドラ
ここから2枚目のをチーしてチャンタへ向かう。
上家はトップ目の水巻で、簡単に鳴ける牌は下ろさないだろう。
佐藤としても牽制的な意味合いの方が強いだろうから、それでも一向に構わないといった感じか?
思惑通りかは定かではないが、水巻はすぐに受けにまわる。
佐藤は最終手番でドラのを重ね執念のテンパイ。
連荘に成功する。
続く一本場、ようやく山田に手が入る。
途中3連続で有効牌を引き入れ、6巡目には以下の形になる。
ドラ
現在ラス目の山田は、三着目の平賀と7100差。
この半荘、最低でも平賀だけは捲っておきたい。
そしてすぐに決着はついた。
親の佐藤がタンヤオのイーシャンテンだった事もあり、7巡目にツモったをそのまま河に置き、これを山田がポンテン。
間髪入れずをツモリあげ、この半荘の初アガリで3着目に浮上する。
オーラス、親番をむかえた山田に続けて手が入った。
ドラ
ドラと役牌が対子で他の部分も悪くなく、仕掛けて攻めるにはちょうど良い。
これをお手本のような丁寧な手順でアガリに結びつけ、2600オール。
ポン ポン ツモ
これで2着目の佐藤まで僅か3000点差まで肉薄する。
結局次局は水巻がアガリ、山田は3着で終わるが、粘り強さを存分に見せつけてくれた。
2回戦(カッコ内はトータル)
水巻 +51.7(△12.6)
佐藤 +9.6(+26.6)
山田 △14.2(△34.2)
平賀 △47.1(+20.2)
3回戦(平賀ー山田ー水巻ー佐藤)
細かいアガリが続き、大きく動いたのは東3局。
親の水巻の配牌がズルイ!!
ドラ
切りのダブリーとなるも、アガリ牌のは佐藤に1枚と山田に2枚で、残りは既に1枚。
これは長引きそうだと思ったが、7巡目にあっさりとツモアガリ。
2回戦同様、水巻が東場から頭一つ抜け出す。
1本場は佐藤から水巻に2900は3200でさらに連荘。
続く2本場、ようやく水巻がらしさを発揮し始めたか?
まず4巡目
ドラ
ツモ
かを切ればイーシャンテンだが水巻は打。
いくら速度重視の親とはいえ3対子のイーシャンテンに受けるより、との中張牌2種類を残して、対子をほぐした方がアガリには近いと言う事だろう。
7巡目には
ツモ
ここでもの対子落としでタンヤオへ向かう。
そして9巡目、
ツモ
さて、どうするか?
・切りリーチ。
・切り闇テン
・切りテンパイとらず。
ほぼこの3択。
ここまでの水巻の経過を見れば、切りのテンパイとらずだと思うのではないだろうか?
しかし選択したのは切り闇テン。
理由はいくつかあるが、最大の理由は他家の捨て牌にある。
南家 佐藤
西家 平賀
北家 山田
あくまでも憶測ではあるが、この3者の捨て牌を見た水巻は全員イーシャンテンくらいに見えたのではないだろうか?
シンプルに字牌からの切り出しにも関わらず、既に~の中張牌が余っている。
テンパイとらずの打では間に合わないと判断し、
かつ先制リーチしても、全員がそれなりに整ってる手牌なら大体誰かには押し返される。
そうなった時にはかなり分が悪いと判断したのだろう。
実際に水巻以外の全員がイーシャンテンであり、相手との距離感もピタリと合っている。
しかし次巡のツモは、裏目とも思える。
ここで水巻はを空切り、リーチを宣言した。
ここで空切りリーチするくらいなら、足止めの意味も込めて先制リーチをした方が良いと思う人もいるだろう。
だがこの空切りによって、水巻の河がさらに強烈な事になっている。
との対子落としの後に、の両面ターツを外してリーチ。
これだけターツを選んでるので、普通に考えればこのリーチはタンピン形で待ちも万全。
相手はイーシャンテンや安手の愚形テンパイ程度では戦いにくい。
佐藤は同巡に七対子のみのテンパイを果たすが、わずか1巡で撤退。
山田だけはドラのを引き入れ追っかけリーチときたが、マッコー勝負が信条の平賀でさえ、タンピンを闇テンに構え次巡に撤退する慎重ぶり。
結果は流局だが、前半戦の山場の1つとなった局だろう。
続く3本場は佐藤が軽快に仕掛けて供託と積み棒を回収し2着目に浮上。
東4局 ドラ
南家の平賀にチャンス手が到来。
鳴きやすい対子が3組あり、ツモ次第で色にも寄せれそうで今後が楽しみな配牌である。
早々に2、3巡目にとをポンしてこの局の主導権を握る。
4巡目
ツモ ポン ポン
チャンタの保険もかけず、このもツモ切りトイトイ一直線。
6巡目にツモ、打でイーシャンテン。
が、平賀はこれ以降全くツモが噛み合わず、全てツモ切りとなってしまう。
この局を制したのは、大胆かつ慎重な選択をした佐藤。
平賀の2フーロに対し4巡目
ツモ
ここからドラの切り。
やる気満々である。
しかし平賀の河に3色の中張牌が並び、さらにの手出しが入ると途端に慎重になった。
生牌のを掴むと、これを打ち出さずに手の内に入れる。
8巡目に
ツモ
ここでもを打たずに打。
とても2フーロにドラのを被せた人と同一人物とは思えない選択である。
その後ツモ 打
ツモ 打
ツモ打
ツモ切り
ツモ 打
と、たいして危険牌を切らずに13巡目にテンパイを入れる。
実際には、このは平賀に鳴かれる牌ではないのだが、相手にテンパイが入ってないと読んだ時は強気で攻め、一手進んだと判断したら慎重に粘る。
この1局に佐藤聖誠の強さが凝縮されてるように見えてしまうのは私だけだろうか?
前述の通り、この局の結果は佐藤の粘り勝ち。
東をツモりあげ、700オールで連荘に成功。
その後、佐藤はさらに700は800オールで連荘するも、2本場で水巻が満貫をツモアガリ。
水巻が大きく抜け出して南入する。
南場はアガリが1300と1000・2000のわずか2局と、大きな動きもなく終了となり、初戦ハコラススタートの水巻がポイントを早くもプラスにして前半戦が終了した。
3回戦(カッコ内はトータル)
水巻 +42.9(+30.3)
佐藤 +13.1(+39.7)
平賀 △13.7(+6.5)
山田 △42.3(△76.5)
第21期發王戦決勝観戦記 後編 に続く