コラム・観戦記

【第20期發王戦観戦記】

第20期發王戦の観戦記をどんな形にしようか、けっこう悩んだ。
すでに結果が知れ渡っている観戦記ゆえ、どうしても読み手にハラハラドキドキの臨場感が

伝わりにくいこと。結果論でモノを言ってるように聞こえてしまう哀しさ。そして、

長々と経過を追いながら書き連ねても、読み飽きるのがオチ。
でも伝えたいことは山ほどあって、さてどうしたものかと考えた末、私が気になる局を

1回戦から順にピックアップし、その譜をご覧いただきながら、發王誕生までの物語を

堪能して貰う形にしてみた。
もちろん、どこから読んでも楽しめるよう、譜ごとに完結する話にもなっているので、

読み飛ばしていただいて、興味の湧く譜だけ追っても差し支えない。

譜1.1回戦東1局0本場  ドラ

北家のタカシ(以後佐藤崇プロをタカシと呼称させていただくことをお許しいただきたい)が

オタ風のをイチ鳴きし、17巡目という深さで山に3枚残りの和了牌のひとつである

をツモった。
このときタカシは、いつになく力強い仕草で和了牌の白を引き寄せ、戦いの狼煙を上げたのだった。
タイトル戦決勝の開局に和了できる快感と安堵感は経験した者にしかわからないもので、

それが何点のアガりであろうと<格別>な和了に思えるのである。
開局のアガりだろうが、南1局のアガりだろうが、アガりはアガり、騒ぎ立てるほうが

どうかしてるよという醒めた打ち手もいるが、タカシは熱い男だった。
この局気になったのは、最高位(以後石橋伸洋プロを敬意をもって最高位と呼称させていただく)の

ポンでの打
をポンして残された手牌は、

 


ドラが
なので、親満~親倍まで望める素晴らしい手牌。がフリテンなので、

ワンズ部分さえうまく捌ければぐっとアガりが近づくと踏んでの打なのだろうが・・・

巡目も深く場況も変則場なので、切りと踏み込んでも良かったのでは。
次巡の
をツモ切りしてくれたならば、切りの意図もよく理解できるのだが、

ツモでもうひとつを河に並べてしまった最高位を見て、

『今回は苦戦しそうだな』と正直思った。


いつもの最高位ならば、初戦の開局の親番で高得点が見込めるイーシャンテン。

タカシの一色手牌に怯えることなく、一歩も退かずにをツモ切りしていたはず。
と踏み込んでいく最高位の勝負への入りを見たかった。

譜2. 1回戦東2局0本場  ドラ

キヨマサ(以後佐藤聖誠プロをキヨマサと呼称させていただくことをお許しいただきたい)が噴いた。
10巡目に美味しい
をアンコにしてのリーチとなるのだが、その前巡、

北家の最高位がペンをチーしている。

 

 

ドラがスッと入れば良し、ピンズが伸びれば一色手へというチーなのだろうが、

最高位のハイレベルな麻雀能力をもってすれば、キヨマサが同巡に切ったの手出しから、

本手のリーチが入りそうなことくらい容易に察しがついたはず。
だからチーしたと言えなくもないが、となるとリーチがかかった後の、
そして

アンコの中切りがどうにも解せない。
タカシの追いかけリーチがあったにせよ、せめて
の次にくらいは河に置いて、

ファイナルを戦い抜くファイティングポーズをとって欲しかった。  
まだ眠りから覚めていないのか。

譜3. 1回戦東3局0本場  ドラ

たけさん(以後竹内孝之プロをたけさんと呼称させていただくことをお許しいただきたい)は

用心深い打ち手である。滅多なことでは軽率なプレーはしない。
この局も半ば受け気味に手を進めていたが、抑えていた生牌の
が重なり、

怖いキヨマサの親リーを受けた同巡カンを引き入れると一転して「リーチ」の声。
この「リーチ」の声を聞いたとき、初めて目にするたけさんの麻雀に惹き込まれていく自分がいた。
高目イッツー片肺飛行のカブセ親リーを打ってきたキヨマサの頭をコツンと叩く、

実に小気味いいアガりであった。

譜4. 1回戦東4局0本場  ドラ

 

 

 

どうも最高位のピントが合っていない。
たけさんの先制、タカシの追っかけ親リーを受けて、一発消し兼456の

三色テンパイを目指したわけだが、親の5巡目、西家の4巡目を見て、

にも勝機アリと踏んだのだとしても、相当無理がある。
このチーによってたけさんのツモアガり牌
は喰い流れ、親満炸裂図になったわけだが、

ピントを修正するにはかなり時間がかかりそうに思えた。

譜5. 1回戦南2局0本場  ドラ

 

 

タカシの運命を変えた1局である。
『油断大敵』、『好事魔多し』を地でいくような放銃劇。
タカシ3巡目の手牌がこれ。

 

ピンフと234三色の含みを残して北を切る、誰もがそのように打ち、次巡がアンコになり

完全イーシャンテン形に。

 

そして6巡目にツモ
せめて、ツモ
だったりだったりすれば、もしかすると切りのヤミテンも

あったかもしれない。
ところが皮肉にもタテヅモの

3巡目のツモ
、4巡目のツモに引き続いてのタテヅモ。
恐らくタカシの脳裏のどこかで、「あれ?これリーチでいいのかな?」

という疑問符が付いていたはずで、けっこうな違和感を覚えながらの

リーチだったのではないだろうか。
断定はできないが、この放銃を機にタカシは不遇な道を歩くことになり、

ドラ待ちをヒットさせたキヨマサは發王位への階段を昇りはじめるのである。

譜6. 1回戦南3局0本場  ドラ

 

譜7. 1回戦南3局1本場  ドラ

 

キヨマサが噴くと場は荒れ場になる。そんな先入観をもってしまうのは、私だけだろうか?
今まで最高位戦や決定戦において、そんなシーンを数多く見てきた身としては、

キヨマサが発する得体の知れぬエネルギーが、1本場の最高位の倍満を誘発したような

気がしてならない。
言ってみれば、震源地がキヨマサの場合、強い余震が他家にも波及するという形が多く、

卓を囲んでる者だちにとって、何とも厄介なエネルギーなのである。

1回戦成績  キヨマサ +53.3
最高位  +12.7
タカシ  ▲12.3
たけさん ▲53.7

譜8. 2回戦東1局0本場  ドラ

 

起家を引いたタカシがトイトイを仕上げ、1回戦に続いて開局を制している。

ダントツから3番手まで転げ落ちた1回戦のダメージを払拭するには十分の感触があったはずで、

タカシの巻き返しを誰もが疑わなかった。

譜9. 2回戦東2局0本場  ドラ

 

 

 

力まかせの親リーに最高位が手詰まりして放銃した。
親リーがかかった時点での最高位の手牌はこう。

 

     

親リーの前巡、生牌のを引いて安牌のを打っている。
また、9巡目にキヨマサが
を切ってきたのにポンの声をかけていない。
やはりピントが合っていないようだ。

譜10. 2回戦東3局0本場  ドラ

 

キヨマサのキヨマサらしい強引なリーチがまたまた成就してしまった。
狙いは明らかなリーチだったが、それにしてもこううまく嵌ってしまうとは・・・。


リーチは11巡目で、それを受けたタカシの手構えはこう。

 

よくある三色手のイーシャンテン形。
リーチの同巡3枚目の
が見え、123の目が消えかかり、同じくタカシの目からは

4枚目のが打たれ、しかもワンチャンスとはいえ無筋のを親が

スパッと切ってきた不運が重なり、があぶり出されてしまった。
不運と書いたが、配牌から孤立し続けてるドラ
へのくっつきテンパイに加え、

親と北家が7巡目のをツモ切りしていることから、が持たれていることくらい

タカシは見えていたはずだ。
ロンされる確率はかなり低いとはいえ、自分の手牌にゴールが見えないときは、

やはり<受け>に入るべきではなかったか。
せっかく立て直しのトイトイをモノにしたタカシだったが、

この一発放銃で元の木阿弥になってしまった。

譜11. 2回戦東4局1本場  ドラ

 

たけさんがひょっこり顔を出した。
ドラの
が出てきた6巡目のたけさんの手牌は、

 

ポンしてを切り、カンとペンのイーシャンテンになったが、いかにも心もとない。
では、ドラ東をツモ切りした親の最高位はというと、

 

私は我が眼を疑った。
最高位ほどのハイレベルな打ち手が、ここに引いた東をツモ切りするとは・・・。
これがファイナルという舞台が作り出す業なのか。
最高位もやはり人の子。どうしても卓に入りきれぬ時間帯があるのだろう。

ハタから見れば珍プレーに映る一打でも、その舞台に立たないとわからぬ一打もある。

贔屓目で庇うわけではない。前半戦の最高位は明らかにいつもの最高位ではなかった。
『だって人間だもの』
望外のアガりを手にしたたけさんは
をツモアガった瞬間、ホッとすると同時に、

ようやくスタートラインに立て、戦いに参加できる喜びに心が熱くなったはずである。

譜12. 2回戦南1局0本場  ドラ

 

それまで静かな闘志を心の内に秘めていたたけさんだったが、この局は違った。
リーチ一発で
をツモったとき、パシッ!という快音が会場内に響き渡っていた。

譜13. 2回戦南3局0本場  ドラ カンドラ

トップ街道をひた走るたけさんの親リーに怯むことなくタンキをツモり上げたタカシの

絶品チートイツをご覧あれ。
を残したチートイドラドラのイーシャンテン形になったのが9巡目。
親リーの同巡、
を重ねテンパイしたタカシは、親リーの入り目をぶん投げた。

そして次巡の無筋もノータイムでツモ切った。
この気迫、この執念、この歯切れの良さ、タカシらしさが全開になった1局であった。
タカシ、この意気だ!!

 2回戦成績と総合成績

  たけさん  +40.9 → ▲12.8
  キヨマサ  +18.2 → +71.5
  タカシ   ▲14.1 → ▲26.4
  最高位   ▲45.0 → ▲32.3

譜14. 3回戦東1局0本場  ドラ

 

キヨマサのキヨマサ流リーチが捕まった1局である。
捕まえたのは最高位。
リーチの同巡、タカシが次の手で動く。

 

 

1枚切れの北後付けの仕掛けなのだが、4枚目のゆえ、

ドラ周りの処理という必然性からも自然に映る。
もちろん、キヨマサが何かを感じてヤミに構えれば、14巡目の最高位のテンパイ牌、

ドラを引き込んで切りリーチとなったはず。
ただその前巡、最高位に
が入るので、リーチと打っていると、恐らく一発で

キヨマサから打たれ、同じマンガン決着になっている。
ただし、キヨマサの揺れはかなり違ったものになったかもしれない。
ついに韋駄天キヨマサが捉えられてしまった。このあとの展開が楽しみになった。

譜15. 3回戦東2局0本場  ドラ

 

キヨマサが崩れた。
親の最高位がカン
をチーした後の10巡目、キヨマサはをツモって次の手格好になった。

ここからドラのを手放していくのだが、前局の揺れが収まってなかったか。
ドラを鳴かせた後、いかにも中途半端な
引きで役無しテンパイを渋々とって、

次巡本来ならピンフテンパイになるはずのを引き放りしてマンガン連発放銃。
をツモった一瞬、わずかにキヨマサの手が止まりかけたところに、

揺れと迷いが見てとれ、本格的な崩落が始まったように思えた。

譜16. 3回戦東4局1本場  ドラ

 

たけさんが本流に入った。
最高位のリーチを受けた13巡目、たけさんの手はまだこのレベルだった。

 

ピンフドラ1のイーシャンテン、しかもドラ表示牌のが埋まらないとピンフにならない

苦しい形だった。
ところがリーチがかかってからドラ
を2枚も引き入れての追いかけリーチ。
この時点で最高位の待ち
は山に2枚ずつ計4枚も生きている脅威の数。

対するたけさんの待ちは1枚ずつの2枚。
残りツモ2回の15巡目であれば、リャンメン待ちとしてはたけさんの残り枚数が普通で、

最高位が異常な状況といえる。
ところが・・・こともあろうに最高位が一発で
を掴んでしまう。

しかもそのが裏ドラに乗ってのハネ満放銃。
偶然と考えるか必然と考えるかは、それぞれの<麻雀観>や<麻雀哲学>によって異なるだろうが、少なくともここまでピントが合わずにチグハグな戦いを続けてきた最高位の眼には、

必然と映ったかもしれない。

譜17. 3回戦南2局0本場  ドラ

 

キヨマサの生命力を見せつけた1局。
リーチをかけた16巡目といえば残りツモ1回の絶壁巡。にもかかわらず、

安目のが空テンで高目が山に3枚丸生き。
そして一発でその
を手元に引き寄せたキヨマサは、死の淵から生還したような顔になっていた。

譜18. 3回戦南3局0本場  ドラ

 

前局のキヨマサに引き続き、悲壮感漂うラス目から這い上がった最高位の和了譜。
3巡目に何とツモり四暗刻イーシャンテン形になっている。

 

6巡目に2枚目のをポンした直後、七対子に向かったタカシからあっさりが打ち出され、

ラスが入れ替わった。
ソーズが安くピンズが高い場況から、
切りを選択したタカシの手筋は当然に思えたが、

当然の一打が悲劇の一打になってしまう日はあまりに無惨だ。

前半戦を打ち終えて、たけさんの充実ぶりが光る。

韋駄天キヨマサの健脚に若干の翳りはあるが、並外れた生命力を持っているだけに、

優勢は動かしがたい。
問題は最高位。後半戦のキーパーソンになるのは間違いなく、

ズレていたピントが休憩を挟んでマッチし始めれば、三つ巴の戦いになる可能性が高い。
タカシはかなり厳しい。
数字上では、トップ2回、2着1回で優勝の目があるのだが・・・

1人が走っているレースならいざ知らず、2人が浮いて3番手が最高位である。

かなり厳しい展開になるだろう。

 3回戦の成績と総合成績

  たけさん  +48.9 → +36.1
  最高位   +5.5  → ▲26.8
  キヨマサ  ▲15.5 → +56.0
  タカシ   ▲38.9 → ▲65.3

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