コラム・観戦記

【第20期發王戦観戦記・後半】

譜19.4回戦東1局0本場  ドラ

 

約45分の休憩後、後半戦が始まった。
タカシはこの間合いをうまく利用して、フレッシュな状態にリセットできただろうか。

後半戦開局の4巡目、タカシがカンチャンのドラを埋めて待ちという

絶好のピンフリーチを打った。
この時点で裏ドラのが3枚、4sが2枚山に生きているタカシにとっては

これ以上望めない最良のテンパイであった。
ところが6巡目に起家をひいた最高位が追いかけリーチをかけてくる。待ちはカン
リャメン対カンチャンの対決となったが、最高位のが山に4枚丸生きという

恐ろしい現実の前に、タカシの絶テンは崩れ落ちていった。
なんと哀しい結末。
『ヨシ!これで後半戦はイイ戦いができるゾ!!』というタカシの熱い想いは

ものの見事に砕け散った。
ほんとに麻雀は正直なゲームである。

譜20. 4回戦南1局1本場  ドラ

 

なんてステキな配牌、なんてステキなツモ、なんて美しい最終形。
最速最強のリーチを最高位がかけた。
やはり牌神に選ばれている男は違う。
この4巡目の鬼リーに敢然と立ち向かうタカシを見るにつけ、

麻雀の理不尽な側面に打ちひしがれてしまう。
2巡目の時点で
は空テン、高目のもたった2枚しか山に生きていない。
対するタカシの待ち
は、が3枚、が1枚生きている。
結果は少し時間はかかったものの、対局者はもちろんのこと、

最高位の手牌が視界に入っていなかったギャラリーがのけ反る鮮やかな6千オール。
今一度、最高位のリーチ後の捨て牌をご覧あれ。

美しい旋律に奏でられたツモまでの数牌ツモ。
数牌が27種、字牌が7種ゆえ、5巡に1枚くらいの確率で字牌を引いてくる計算になるが、

最高位は高目ツモに至るまでの10巡、1枚も字牌を引いていない。
これぞ最高位!という和了であった。


譜21. 4回戦南1局3本場  ドラ

 

この男も最高位に負けず劣らず凄い。
テンパイした8巡目まで、三色関連牌を5枚も引いている。
ところが三色高目の
は、4巡目の時点で空テンで、

辛うじて安目のが1枚だけ生きているという厳しい状況だった。
気合乗りが良すぎるきらいのあるキヨマサであったが、

すでにが2枚出ていたことと、ドラまたぎの待ちであったこと、

ヤミテンでも安目でマンガンあったことが重なり、冷静にヤミに構えた。
たけさんの放銃は責められるものではないが、ドラそばの
ゆえ、

2人に通っているとはいえ、5巡目にキヨマサが捨てたに反応できていれば

(早いテンパイが入るのでは?という)、を放すところでが置けたような気もする。
キヨマサの「ロン」の声にシマッタと思い、開けられた手牌を見て

思わず目を閉じてしまったのではないだろうか。

譜22. 4回戦南3局0本場  ドラ

 

たけさんはたくましい。
前譜の放銃で心が折れる打ち手も多いなか、この
タンキで即リーが打てている。
七対子のリーチを見ていると、序盤であればあるほど、より端に近い牌、

できることなら1枚切れの字牌か生牌のオタ風でかけたくなるのが普通である。
と手出ししてリーチをかけると、七対子の匂いがプンプンしてしまうからなのか、

親の第1打牌、仕掛けを入れている最高位の4巡目のツモ切りを見て、

山にある待ちと読んだからなのか、ではなく待ちでの即リーチ。
心が折れていたら恐らく
待ちにしているはず。しかもとりあえずのヤミテン。

揺れているから、もっと安心できる待ちにならないとリーチに踏み込めないものだ。
最高位の仕掛けは、明らかにキヨマサをマークしたもので、

子方のハネツモは願ったり叶ったりというところだろう。
たけさんの英断を讃えたい。
譜23. 4回戦オーラス0本場  ドラ

 

最高位の17巡目のチーに注目していただきたい。
ダブ
をアンコ落とししてオリている最中の終盤にチーを入れ、

親リーを打っているタカシにハイテイを回している。
最近の風潮は、残りツモ1~2巡でそのハイテイをズラす意図での仕掛けを入れる、

それがトータルでは<得>になるという。
モダンの最先端をいく最高位がその風潮に逆らう動きを入れたことに、

私は最高位の真骨頂を見て嬉しくなった。
この
チーによって、2フーロしてテンパイを組み替えたキヨマサが

ノーテンに追い込まれている。
16巡目に放ったキヨマサのテンパイ打牌の
に最高位は敏感に反応したのだった。
あと筋とはいえ、この
はドラそばの牌であり、親リーゆえペン待ちは大いに有り得る。

にもかかわらずキヨマサは切ってきた。そしてそれが通過したということは、キヨマサに分がある。
キヨマサにハネマンをツモられてもトップで終われる最高位だったが、このチーの意味は大きい。
最高位はキヨマサ1人にマークを絞ったようである。

 4回戦の結果と総合成績

  最高位   +51.5 → +24.7
  キヨマサ  +10.2 → +66.2
  タカシ   ▲20.2 → ▲85.5
  たけさん  ▲41.5 → ▲5.4


譜24. 5回戦東1局0本場  ドラ

 

最高位のエンジンが全開になってきた。
さしてイイ待ちとは判断つきかねるテンパイであったが、

4回戦の好内容から即リーにいきやすい環境にあった。
この五分五分リーチを一発で仕留める結果となり、最高位の發王連覇も見えてきた。
もちろん、放銃したたけさんは、真っ向勝負に出て悔いのないイーシャンテン形ゆえ、

マンガンの一発くらい覚悟のうえのツモ切り放銃だったはず。
こういう殴り合いはたけさんの望むところでもあったはずで、

パンチを喰らって闘志が再点火された気がする。

譜25. 5回戦東4局0本場  ドラ

 

親のタカシの9巡目の手牌がこう。

 

ここに1枚切れのを引いてドラのを放している。
実はこのとき南家のたけさんはこんな手だった。

 


8巡目に4枚目の
が来たが、何食わぬ顔でツモ切っている。

ドラがゆえ、このツモ切りはさすがの1打である。
ただ、123又は234の三色を狙って4巡目にツモ切りした
を10巡目に

再びツモ切りしなければならない状況だったので、恐らくタカシが2枚目のをツモ切っても、

たけさんは鳴かなかった(鳴けなかった)ような気がする。
タラレバは禁物だが、もしタカシが気持ちを弱めることなく
をツモ切りしていれば、

14巡目のツモ

 

 

というテンパイを果たし、ヤミテンに構えていたはずである。
すると、17巡目の最高位のチーは当然なかったのではないだろうか。
形テントラズのこのチーは、ハイテイを下家のキヨマサに回す戦略的な仕掛けで、

その戦略がタカシの和了を殺しキヨマサのマンガン和了を生むのであるが、

最高位の心の中を思わず覗きたくなる1局であった。

譜26. 5回戦南1局1本場  ドラ

 

たけさんの逆襲が始まった。
7巡目にテンパイし、前がかりになっていると待ちも悪くなく、

つい即リーしたくなる手牌であったが、たけさんの長所である2枚腰のヤミテン。
8巡目以降、いつ
が飛び出してもおかしくないキヨマサであったが、

ついに11巡目手牌から押し出されてしまう。
1巡目から11巡目までオールツモ切りという珍しい譜を残した最高位も、

ツモの来かたによってはが出ていく形になっている。
<ムダヅモ>という幸運も麻雀にはある。
 
 
譜27. 5回戦オーラス1本場  ドラ

 

最高位のマンガン確定リーチに親のタカシがドラで放銃した図である。
前局必死の思いでリーのみを成功させ、なんとか首の皮一枚つながったタカシであったが、

この淡泊な放銃はいただけない。
いずれ出ていったかもしれないが、この巡目では
のワンチャンス頼りで

を放しておいても良かったのではないか。
リーチ表示牌が
だっただけに、早いリーチの表示牌と待ちの関係から、

くらいはスッと行って欲しかった。
何の制約も無ければ(ドラでも無ければ)平面効率で
切りで問題ないと思うが、

この状況での切りにはクエスチョンマークを打たざるを得ない。
こういう淡泊さが抜けてくると、タカシの手にタイトルが渡される日も近い。

 5回戦の結果と総合成績

  たけさん  +46.0 → +40.6
  最高位   +22.8 → +47.5
  タカシ   ▲19.8 → ▲105.3
  キヨマサ  ▲49.0 → +17.2

ついに最高位がキヨマサを捕えて首位に立った。

後半戦に入ってから徹底マークした成果が花開いたようである。
ただし誤算もあった。それはキヨマサとの一騎打ちではなく、

たけさんとの三つ巴の勝負になってしまったこと。
渋太く2番手に張り付いているたけさんの意外性ある戦いぶりに、

最高位は一抹の不安を抱いていたのではないだろうか。
譜28. 最終戦東1局0本場  ドラ

 

たけさんの3巡目リーチに、親のタカシがツモ切り放銃した図であるが、

<親だし、しょうがないよな>で片付けてよいものなのか?大いに疑問の残る譜である。
麻雀センスにあふれ、勉強熱心なタカシだからこそ、敢えて苦言を呈したい。
99.9%優勝の目が無い身であるならば、もう少しスリムに序盤から構えたほうが

よかったのではないか。
第2打の
、第3打ののところで、(もしくはツモ切りなど)を並べるくらいの

謙虚さがあってもよかったように思う。
手元に置いた
がロン牌になることだってあるが、

超一流の域を目指すプロであるならば、<しょうがないよな>で済ます譜を

残さぬように打って欲しいものである。

遠い昔、石原慎太郎氏が『太陽の季節』で芥川賞を受賞したとき、

詩人の佐藤春夫氏が選評に書いている。

<この作者の美的欠如を見て最も嫌悪を禁じ得なかった>と。
しかるに、才能とはいつの世も、先輩たちの苦言と渋面のなかで磨かれていくものなのである。

譜29. 最終戦東2局0本場  ドラ

6巡目までに3フーロしたキヨマサの手にドラがアンコ。
3フーロ目の
をチーしたキヨマサの手牌はこう。

 

 


タンキかタンキに受けざる得ないわけだが、チーの次巡、

場に3枚枯れのをツモ切らずにフェイクしている。
でもどう考えても
をチーしてと外してきた手牌がノーテンだったとは

誰も信じるわけがなく、素直にツモ切りしてよかったのではと思う。
更に生牌とはいえ、ドラ表示牌の
タンキに組んだわけだから、

北家タカシの変則捨て牌に惑うことなく、そのまま押し切って欲しかった。


譜30. 最終戦南1局0本場  ドラ

 

 

 

たけさんが先制リーチをかけ、次巡キヨマサが追いかけ、

その次巡タカシも最終親番で追いかけてきた。3人リーチ。
制したのは一発カン
ツモのキヨマサ。
恐らく、全6回戦の中でもキヨマサにとっては一番嬉しい和了だったはず。
牌神がキヨマサを發王に選ぼうとしているように見えた。
事実、このマンガン和了で、このゲームに躍り出たキヨマサであった。

譜31. 最終戦南2局2本場  ドラ

トップ目に立ったキヨマサに残された仕事は2つ。
今局の最高位の親番と、オーラスのたけさんの親番を潰すことが使命となる。
3巡目に親の最高位が捨てた
をチーしたときのキヨマサの手牌がこれ。

 

ちょっと前がかりすぎる仕掛けに見えたが、次巡あっさり急所のカンが鳴ける。
最高位の3巡目の手牌はこう。

 

ここに引いてきたをツモ切りしているのだが、私は牌譜ミスかと思った。
でも現実にその
から仕掛け始めているキヨマサがいるわけだから、

最高位の真意はヤブの中である。
をチーされた次巡、最高位はを引いてを切る。

当然の一打なのだが、前巡の不可解な一打をチーされているだけに、

このを喰われてしまっては、最高位の形勢はかなり悪くなった。
キヨマサの3フーロを見て、たけさんも仕掛け返すが時すでに遅し。
キヨマサが新發王に近づく大きな千点和了となった。

譜32. 最終戦南3局0本場  ドラ

最高位のマンガン仕掛けと、キヨマサの親リーとの手に汗握る勝負となった。
キヨマサの
待ちは、が4枚、が山に生きていた。

対する最高位の待ちは、が3枚、が1枚生きていた。
最高位がマンガンテンパイを果し、キヨマサとの真っ向勝負の初巡、

あっさりとを掴んでしまう。しかもこのが裏ドラ。
勝負あったか。会場内にそんな空気が流れた。

譜33. 最終戦南3局1本場  ドラ

最高位とキヨマサとは、この最終戦が始まるとき、3万点ほどの差があった。

なので、キヨマサが最終戦でトップを取っても、1万点差以内の2着で終われば、

最高位の優勝となる。
そして今局を迎えて、トップのキヨマサは1万8千5百点差。
つまり最高位がここでマンガンをロンするとほぼ並ぶ。

ツモ和了すれば、逆に4千点ほどリードしてオーラスを迎えられる。
8巡目、最高位は次の手牌になった。

 


七対子のリャンシャンテンでもあり、最高位は
をツモ切りした。
11巡目、
をツモってきた。

 

はすでに2枚出ている。
もしここで七対子のリャンシャンテン形を崩さずに
を切っていると・・・

14巡目のツモで分岐点が訪れ、ソーズが安いので、をトイツ落としすると、

ハネマンツモとなっている。

ツモ 


でも所詮それは後付けの結果論に過ぎず、あのときあの場にいて、そんなふうに打てるのか?

と問われれば、答えはノーである。
麻雀とはかように難解なゲームなのである。

譜34. 最終戦オーラス0本場  ドラ

最高位がツモれば發王連覇となる乾坤一擲のリーチを打った。
この時点で和了牌の6pは山に1枚。
そのリーチを受けたときのキヨマサの手牌はこうだった。

 

 


ゴールを目指しての懸命の仕掛けであるが、いかにも心もとないリャンシャンテン形。
ツモ
で打と少し前進するが、まだ光明は見えない。
ただ、マンガンまでは放銃できるので、案外攻めていける状況にあった。
そして、10巡目に
、11巡目にを引き込み、ついにテンパイを果たす。
ただし、この時点でキヨマサのアガり牌である
は、1枚しか山に残っておらず、

依然として1枚が生きている最高位と五分五分の勝負となった。
ここまでくれば、どちらが發王になっても誰もが納得する。
いっぽう、もう1人の候補たけさんも12巡目にカン
を引き、

親ッパネのイーシャンテンに構えている。
息詰まる摸打が続く。
14巡目、最高位が
をパーンとツモ切ると、

キヨマサの少し震え加減の「ロン!」という声が会場内に響いた。

表彰式の後のインタビューで、キヨマサはこんなコメントを残している。
 「發王の名に恥じぬ、發王の位にふさわしい麻雀を身につけていきたい」
この謙虚さと素直さがあるかぎり、キヨマサには輝かしい未来が待っているはずだ。

爽やかな新發王が誕生した。

石橋最高位の連覇はならなかったが、4回戦からの怒涛の追い上げは、

最高位の資質の高さとハートの強さを見せつけるに十分な内容だった。
恐らく、戦い終えて時が経てば経つほど、悔しさが頭の中を覆い尽くしたであろうが、

この敗戦を糧に、ひと回りもふた回りも大きくなる最高位の麻雀が楽しみである。

たけさんは、1回戦から最終戦まで、ムラのない丁寧かつ豪胆な打法を駆使し、

新發王・最高位と互角に(時にはそれ以上に)渡り合っていた。
昭和の時代を想い出させてくれる味わい深い麻雀で、一緒に卓を囲んでみたいなと思わせる

打ち手である。

タカシは、大いに反省しているだろうから、ここでカブせて書くつもりはない。
自身の<麻雀観>を洗い直し、初心に還ってじっくりと見つめる時間を作って欲しい。
大器と言われて久しいが、真理に近づくことを優先させ、

スケールの大きな打ち手になって貰えたら嬉しい。

最終戦の結果とトータル成績

  キヨマサ  +43,2 → +60.4
  たけさん  ▲15.5 → +25.1
  最高位   ▲39.3 → +8.2
  タカシ   +11.6 → ▲93.7

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