「ガラパゴス」
36年の歴史を誇る最高位戦。
その最高峰のリーグAリーグの打ち手たちは、固定メンツ・限られたメンバー【孤島】の中で独自の進化を遂げてきた。
12節48回戦を打ち「12名中3名が決定戦へ進出、2名が降級、残りの7名が残留」というシステムは下位に落ちず残留さえしていれば、いずれ決定戦に進出できる。
「極力マイナスしないようにし、プラスは大きく得る必要が無い」
この思考にたどり着いた選手は、リーグ戦においてリスクを取りにいかない安定感のある打ち方を求めることになる。
多くの打ち手たちは、常に危険信号に対するアンテナを張りめぐらせて、
場に動きがあった場合は敏感に対応、「放銃」の可能性が高まる「(安い、遠い)仕掛け」「(あがれなそうな愚形や役あり)リーチ」を嫌い、
その元から高い雀力、特に守備力でリーグ戦で安定した結果を残し、そしてそれが多くの打ち手にとって最強のバランスであると考えられた。
しかし10年前、現最高位である村上淳がAリーグ入りした頃に状況は一変する。
村上の考えは「マイナスを恐れる選手の敏感な対応を逆手にとり自分の上がりを増やすこと」
「外来種」である村上は待ちに関わらず先制リーチを多用しリスクと引き換えにリターンを得ていった。
この「外来種」は時が経つとともに「在来種」と入れ替わり徐々に増加、生き残りがかかった「在来種」の一部もまた違った進化を始めていき環境は一変。
時は経ち現在・・・打ち手それぞれが、不特定多数と対戦するネット麻雀やフリー麻雀と同様、または異なるバランスで最適戦略を模索し「ガラパゴス」での独自の進化を続けていく。
11月20日(日)に最終戦を迎える第36期最高位決定戦で私が対戦中の選手は下記の3名。
村上淳(現最高位)
佐藤聖誠(Aリーグ1位)
曽木達志(Aリーグ3位)
いわゆる現代的な麻雀を打つ3名が相手だ。
過去、愚形を含んだリーチを多用し異端扱いされた村上らがベテランを破ってきたように、
今度は自分がそのスタイルを打ち破れるように進化していかなければならない。
村上を筆頭とした先制攻撃を多用するスタイルの打ち手相手に勝ち切るにはどうしたら良いか。
今回の記事では、3選手のそれぞれの思考や特徴を踏まえて対策を考えて行こうと思う。
まずは最高位・村上淳。
3人ともに「先制攻撃」を重視しているがその中で最もメンゼンでの先制リーチを重視する村上の麻雀に対して、どのように対応すべきか。
たとえ先制リーチをかけられても
・プラスを取りに行った結果のマイナスを恐れないこと
・冷静に(鈍感にと言ってもいいかもしれない)状況と自分の手牌を見つめ、得だと考えたところでしっかり攻め返すこと
村上に対してはこの2点が重要だと考える。
冷静に強い心で立ち向かわなければ、好き勝手にやられてしまう。
ただ、今回の村上は全員にこの戦略を取られた上に、運もなく追いつかれた後に自分がアガることができずに沈んでいってしまった。
しかし去年の決定戦で前半は大きくマイナスだったが最終節で逆転した結果を見ればわかる通り、
もともとのフォーム(メンゼン)に爆発力があるので最後まで絶対に油断してはいけない。
次に佐藤聖誠(キヨマサ)。
彼については、せっかくの機会なので以前ツイッターやブログで話題になった
「キヨマサの何鳴く」を紹介させていただきたい。
最高位戦日本プロ麻雀協会☆佐藤聖誠の*–MJ TEXT–*
「VS研究会第2節」
http://blog.livedoor.jp/hibikim/archives/1647436.html
要約すると4巡目に親でリャンメンをチーしてリャンメン以上待ちのチーテン12000テンパイを取るか、取らないか、という話なのだが、
これを「スルーして我慢するほうがアガりやすい」、という考えはとても普通に麻雀をやっていたら思いつきもしないだろう。
この思考のウラには「ガラパゴス」である最高位戦Aリーグの特殊なシステム、そして選手の思惑、そこに飛び込んで行く若い打ち手が、それに対応しようとしていく心理が見えてくる。
(ちなみに自分は鳴くのだが、一昔前のAリーグだったらどっちが良いのか未だにわからない)
彼の持ち味はこのような柔軟な思考をもとにした対応力、そして対応が必要な局面がどのような場面であるかを理解しているので、自分で相手に対応を強いる局面を作ることができるところ。
たとえばブラフ気味の遠い仕掛けをランダムに入れて相手の手を止めようとしたりする。
この点ではキヨマサと自分は非常に考えが似ている。
メンゼンと仕掛けを織り交ぜている点でのアプローチが違うだけで
対策としては村上と同様に先制攻撃に惑わされないように、冷静な強い心で対処が必要だ。
最後に曽木達志。
今年のAリーグ第11節で曽木と同卓した際に強烈に印象に残った1局がある。
この時の開始前のスコアはこうだった。
1 佐藤 聖誠 758.4
2 曽木 達志 319.1
3 水巻 渉 121.9
4 石橋 伸洋 80.7
5 佐藤 崇 4.4
6 石井 一馬 -44.2
7 大柳 誠 -121.9
8 上野 龍一 -158.3
9 近藤 誠一 -186.0
10 張 敏賢 -195.2
11 平賀 聡彦 -273.3
12 太田 安紀 -311.6
残り半荘8回。メンツは(曽木、石橋、上野、張)
3位までが決定戦進出なので曽木としては、私(石橋)と今回は別卓で最終節に同卓の水巻2人に捲くられなければ安泰。大きなマイナスさえ背負わなければ、そして私にさえ勝たれなければ決定戦が濃厚。
このような状況の場合は誰もが「守り」を強く意識して臨むのではなかろうか。
そこで迎えた1回戦東3局2本場。
曽木の視点からだとこのような状況。
トイメン(私)親はをポンして打。
前巡にを切っているのでカンチャン落としである。
はツモ切りで、それ以外は全て手出しである。
場にはハンパイが全て2枚切れていてアンコも否定されているので、
役があるとしたらチャンタ・ホンイツ・チンイツ・トイトイくらい。
(三色とイッツーは場に出ている数牌の枚数からほぼ消去される)
のポンがブラフであるとしたら、とダブは相手が切りにくい牌であるのでギリギリまで離さないはずでおかしい。
少なくとも役のあるイーシャンテン以上でイーシャンテンの場合は高い手であるチンイツ、またはホンイツトイトイ。
そこで自分はドラドラとは言え2枚切れのペン待ち。
トータルポイントを考えたら高い手で待ちが絞れる親を相手にリーチをするのはリスキー。
・・・と、自分だったらこのように考えてのヤミテンを選択するのだが、曽木の選択はリーチ(!)
トータルポイントと私の仕掛けを考慮したうえで完全に無視し自分で立ち向かう選択をしたのだ。
曽木の「相手に対応を強いる打ち手に引かずに対応しないところ」は大きな脅威である。
曽木自身の自戦記で平賀のことをエヴァとか言ってたが
トータルスコアを考えた上で恐れなく一歩も引かない攻撃性は私にとっての外来種・・・エイリアン。
この節は運よく大勝し、曽木を捲くって2位になったのだが、
この局が本当に印象に残る局となったせいで今でも曽木への対策については
「基本に忠実に打つこと」・・・?くらいしかぼんやりとしか思いつかない。
曽木は自分とは全く違ったバランスで予想もしないような勝負をしてくるので、
下手なブラフは全く通じない、常にマイペースで打たれることを覚悟し、
普段の感覚で下手な先制攻撃をすると返り討ちにあってしまうということを頭の片隅に常に入れておくのが最低限の対策だろう。
と、まあ直前なのになんだか不安を残す記事となってしまったように見えるが、
対策を全て書くわけにはいかないので悪しからず。
(と、まぁ強がっておこう・・・)
最終日を残した決定戦の現在のポイントはこうなっている。
1 石橋 伸洋 108.4
2 曽木 達志 104.4
3 佐藤 聖誠 -62.7
4 村上 淳 -150.1
決定戦でこのような対策を考えているのはもちろん私だけでなく、
他の3名もそれぞれへの対策、そして優勝へ向けた様々な思惑があり、
普段の麻雀では決して見られないような面白い局面が生まれるはずだ。
皆さんにも、そのへんを楽しんでご覧頂ければ幸いである(´・ェ・`)
*最高位決定戦最終日はニコニコ動画にて生中継されます!是非ご覧下さい!
会場URL:http://live.nicovideo.jp/watch/lv70738119?ref=ser
石橋伸洋