コラム・観戦記

【36期Aリーグ第5節自戦記】近藤誠一

水曜日が多い最高位戦Aリーグも、今年は日曜日が3回ある。

蒸し暑い乗換駅で、いつもならないはずの待ち時間ができた。・・・どうしたのだろう、

梅雨入りして間もない6月5日、第5節。そうか、今日は日曜日か。

神楽坂に着いたものの、いつものお店も休日はモーニングがないとか、そば屋にいたってはお休み。直前の食事なので、必要最小限の軽いものがいい。そうだ、昔よく行ったあのお店にしよう。
店内に入ると、今日対戦する上野龍一氏が新聞を読んでいる。

誰と同卓か、あえて見ておかない日もあるけれども、見ておく日もある。

挨拶しようかと思いながら、こちらには気付いていない様子だったので、そのまま少し離れた席に・・・こういう時、少しばかり気を使う。

私は22期に入会、今年は36期だから15年目、上野さんとは同期だ。

今日の対戦相手はあと2人、昨年決定戦に進出した佐藤崇氏と、

何年も京都から通い詰めたパワー溢れる太田安紀氏だ。
お店を出て、会場に向かう途中で数人の後輩に挨拶をされ、自然と士気も満ちてくる。

ただ会場に入ると、すでに選手やスタッフなど十数人が準備を始めていて、

これもいつもとは違う光景だった。

配牌をとる・・・なんとも雲行きが怪しい。

上野の2000オールから始まり、太田がいとも簡単に連続での2000・4000ツモ。

私はというと・・・それは無残な配牌とツモ、国士もイーシャンテン止まりで実ることもなく、

18100のラス目で南3局へ。
すると、やってきたのは降って湧いたようなピンフ手。
北家近藤7巡目 

 

 ツモ ドラ
すでに
が3枚切れだったので、ここではイーペーコーも残せるを嫌ったところ、

9巡目にツモで聴牌即リーチ。2巡後、高めイーペーコーのツモ

1300・2600となった。単純な見た目だけの選択だったが、これで2着目とは1500差の3着目、

幸運の扉が少し開いた。

そして1回戦オーラス。
西家近藤配牌

 

 ドラ


ここに
と引いて、4巡目に軽い手のイーシャンテン。

8巡目にが切られたが、上野直撃でなければ逆転できなくなるのでポンテンはとらなかった。

佐藤の4巡目や上野の捨牌からすると、スピード的にこれは失着かも知れない。

しかし、誰の安全牌もほとんどない状態にすることにも嫌気がして、

メンゼンでの聴牌に期待をかけた。
そうこうするうちに10巡目、ラス目の佐藤からリーチ。逆にこれでポンテン2着も狙えるのだけれども、まだイーシャンテンの上に佐藤の情報も比較的少ないので、
のトイツ落しでまわる。

すると15巡目にとドラのシャンポン待ちで聴牌、上野は聴牌の可能性が低そうな様子で、

流局2着という期待が高まった。ところがそこへ引いた牌は

西家近藤16巡目【全体牌譜はこちら】

 ツモ ドラ


狐に騙された話はわりと有名だけれども、そんな1匹の狐に遭遇したのだろうか。

が4枚見えたのでここのリャンメンはない、佐藤はリーチ直前に手出しがあるので、

これよりはいい待ちなのだろう。もちろんカンやシャンポンの可能性を完全に消去できたわけではないけれども、4巡目のも考慮すると尚更リャンメン待ちであることに期待は増すばかり。
ここは残り1巡、安全牌のツモを期待して
を勝負。・・・と、誰の発声もなかった。

するとどうだろう、次巡のツモ牌は安全牌どころかなんと!狐にも騙されてみるものだ。

結果的に、山にあったアガリ牌はこれ1牌だった上、佐藤の手は567のサンショクで待ちはなんと

ペンだっただけに、この上ない幸運を感じさせられた。

2回戦、まず太田が先行する。そして東3局、佐藤が3000・6000でトップ目に。

そのまま大きな動きはなく、むかえたオーラス。
東家 上野 17300
南家 太田 37500
西家 佐藤 40400
北家 近藤 24800
ソーズに寄せて進めていたところ、7巡目に私が切った
を下家の親・上野がポン、

そして流れてきた牌は、さらにはドラまで引いてきた。上野はホンイツまである上に、

点差から言っても、もう絞って手仕舞いという場面。
北家近藤10巡目

 ツモ どら

 

佐藤が前巡に、上野のツモ切りを見てを切る。チートイツにしてもを残す手はない。これを上野がチーして、

東家上野11巡目【全体牌譜はこちら】

 

    


すると次巡、私は
を引いて打で聴牌。リーチをかけるとツモで2着、

まずないけれども太田か佐藤からの直撃でも2着、さらにツモでウラが乗るとトップまであるが、

これはとらぬ狸。待ちのは、あと3枚見えていない。これが山にあると読めるならまだいい、

しかし私のソウズも警戒する佐藤や太田の手にあれば、私はまな板の上の鯉。
普通は、このまま危険牌を引いたら
と振り替え、さらに別の危険牌を引いたら

安全牌のトイツ落しだろう。好牌振り替えの可能性も確認したが、それももうあと

せいぜい
は太田か佐藤がまとめて持っているなら、そろそろ安全牌として打ち出されてきても

いいころなので、山の可能性は高い。ただ、のこり6巡で振り替えたい牌が2種とは、

なんとも夢物語。
・・・と、次巡のツモが
、なんという巡り合わせなのだろう。

例の狐がちょっとニヤけた顔に見えたのは気のせいだと思うことにして、もう1度騙されてみよう。

ここで一転、ラスも覚悟してリーチに打って出た。そして2巡後、ツモで3000・6000となった。

1回戦に続き、またしても幸運に恵まれた2着で2回戦を終えた。

3回戦は、東3局に簡単な2000・4000をツモ、そして私の点数はあまり変化しないまま、

トップ目でオーラスをむかえた。ところが競った2着目の上野に、オーラスの親で大連荘を許し、

かろうじて2着を確保する格好になった。

そして本日最終となる4回戦、私にとっては試練というか、はたまた鬼門と言うべきだろうか。

実はここ数年、4回戦の成績が異常に悪い。しかも最後に負けるとなおさら疲れが残るという悪循環のおまけつき。体力の消耗による集中力の減退や、血の巡りが怪しいので、

見苦しいとは思いながら対局中でも脹脛を揉む。

さらには3回戦まで、体力の消耗にも少しばかり気を使う。

上野と佐藤がそれぞれ太田からのアガリでリードし、私は原点付近の3着目でむかえた南2局。


南家佐藤8巡目

 

  ドラ カンドラ


リーチをして2巡後にツモ
、ウラドラこそなかったものの3000・6000で

、とりたて親の私はダメージが大きかった。

次局、佐藤の500オールでむかえた南3局1本場。
東家 佐藤 50500
南家 上野 37600
西家 太田  9900
北家 近藤 22000
4巡目に太田がドラ
を切ると、これを上野がポン。役牌は以外見えていない。

北家近藤5巡目【全体牌譜はこちら】

 ツモ ドラ


上野の現物は
、太田も考慮するとどちらかというとを残したい。

かといってのトイツ落しでは間に合わないかも知れない。の不安もあるので

手仕舞いする手もある。しかし黙って見ている気にはならず、打でイーシャンテンを維持した。
このとき上野は、
南家上野5巡目

 

  ドラ


すると私は次巡、ツモ
でヤミテン。リーチをすると、私と満貫直撃圏内にいる上野は、

まわる可能性もある。しかしドラ3を見せつけられて、このカンでは弱すぎる。
10巡目、ツモ
で待ちがに変化した。この間、上野に手変わりはない。ポンテンだったのだろうか、いやまだかもしれない。私はリーチに迷いがあって、ここもヤミテン。すると次巡、上野が手出しで。ここで聴牌か?いやにずれただけか。

私はなにやら吸い込まれるように、ツモで結局リーチ。

しかしこれは、なんとも中途半端な感が否めなかった。
2巡後、3枚目の
をツモ切ると、上野がロン!太田が10巡目に2枚目のを切った直後、

上野のツモ牌は3枚目ののノベタンから地獄単騎への待ち変えだった。
仮にリーチをしていなくても、おそらく私はこの
を切っただろう。

しいて言うなら、最初の聴牌でリーチをすると、はたして上野はを切り飛ばしただろうか。

いずれにしても、私自身に迷いがあったことが一番の反省点だろう。

これでオーラス、なんとか3着を死守したいところ。
東家 上野 46900
南家 太田  9900
西家 近藤 12700
北家 佐藤 50500
西家近藤5巡目

 

 ツモ ドラ


南家の太田に対し、できれば
を絞りたいので、は先に切ったけれども、ここで打。すると、私が最も望まない太田からポンの声がかかった。
そして次の私のツモは
、これがまたなんとも悩ましい。のくっつき期待も、

とりたててピンズがいいわけでもなく、ドラ待ちやカンなどもあまり嬉しいものではない。

仮に打としてツモなら、むしろ打でリーチ。

しかし、それなら今このまま待ちのリーチでいい。頼みの綱のまわりも、

この時点ですでにが3枚切れで頭が痛い。結局、打でリーチ!

ちなみに、一発目のツモ牌は、さらに2巡後にとはなんともはや。。。
ところで太田はというと、
ポンで、
南家太田6巡目

 

  どら

この後とツモ切りしたところで、なんとツモ

そして太田の選択は打だった。太田はツモ切り後、私が切ったをポンして聴牌。

すぐに私がを掴んだ。

終ってみれば、着順2・2・2・4で△17.9とは素点でやられ過ぎか。幸運もそうそう続くものではないけれども、狐さんはいったい何処へ行ってしまったのだろう。

さて、今回はオーラスの攻防に焦点を絞っているけれども、

実際にはそこに至るまでの過程にも多くの分岐点がある。

そして1手の違いで大きく展開が変わることもよくある。

大切な事象は、あちらこちらに山ほどころがっている。

これからも、先人に教えを請うて鍛錬し、牌譜なども参考にしながら反省の日々を送ろう。

ところで、上野さんは50歳を過ぎてからも、さらにレベルが上がっているように感じる。
ふつう五十路ともなれば、技量の向上は難しくなるであろうはずなのに、だ。

はたして自分はどうだろうか、今年48歳を迎える私も是非そうありたい。

今の自分を受け入れ、そして必要なことをしっかり見つめよう。

そのことに全精力を注ぎ、取り組んでいこう。
木を見て森も見て、狐さんを・・・くどいか。

文責 近藤 誠一(文中敬称略)

コラム・観戦記 トップに戻る