コラム・観戦記

第35期最高位決定戦・2日目観戦記

 

初日を終えて、佐藤が100Pアップ、村上が100Pダウンと、戦前の予想を覆す大味な開幕戦となった。残り16回戦あるとは言え、少なくとも村上には何らかの変化が無いと、猛者相手の決定戦ゆえ、厳しい展開になるであろう。
 <オッ!>、村上の雰囲気が明らかに違う。会場入りしてくる選手の雰囲気を細かくチェックするのが好きな私は、その村上の異変に2日目への期待を増幅させていた。
 恐らく村上は前日あたりに床屋に行ってきたのだろう。ゲンをかつぐタイプとは思えないが(いや、私と同じB型だから、会場入りする道順や、家を出る第一歩を右からではなく左から踏み出し始めたかもしれない)、サッパリと初日の悪夢から解き放たれたような雰囲気で、実に頼もしく映った。

 そして2日目が始まった。

≪5回戦 東4局≫ ←牌譜はこちら

 大魔神健在の譜をとくとご覧あれ!
 速報版でも少し触れたが、今局までがアヤになっていて、そのに村上が1枚目から飛びついたために大噴火が起きてしまった。

 村上にしては珍しく第1打からソーズのリャンメンターツを払って、ピンズ一色手に爆進する準備をしていたのだが・・・
 ちょっと早かったかもしれない。
 ポンの直後から、ツモ牌5枚中4枚が有効牌という離れ業で8000オールを決めてしまう飯田も引きが若い。
 よく「トシをとると引きが弱くなる」などと嘆くムキもあるが、飯田のこのツモを見るかぎり、まったくそんな心配はいらない。

≪5回戦 東4局3本場≫ ←牌譜はこちら

 飯田が快調なスタートを切った。
 その大魔神のアオリを食らったのが水巻。彼のような<バランス型>が東場のうちに箱割り寸前になるのは珍しく、恐らくこの局の水巻はフラフラ状態だったのかもしれない。
 大魔神からの親リーが4巡目に入ると、意識がすぐ<受け>に入ったしまったのだろう。8巡目のをツモ切りしている。

  ツモ

 大魔神の第3打牌をアテにして、前巡を勝負(と言っても安全牌がなかったからかもしれないが)しているのだから、ツモもワンチャンスで勝負して欲しかった。
 普段の水巻であれば、さして考えるふうもなくが打てるはずなのだが、やはりここまで持ち点が無くなると、踏ん張ろうとする力まで無くなってしまうのだろうか。
 を勝負できないまでも、いったんを連打しておけば、次巡のツモでやる気になれたのではないだろうか。

  ツモ

 ここでを切れれば、次巡スンナリが引けるので勝負の追いかけリーチが打てていたはずだ。あとは大魔神とのめくり合いになるのだが、いくら運気が強い時間帯でも、軽さのある先制リーチは、本手の追いかけリーチには負けやすい。
 今期の決定戦は、今局のようなリーチが飯田には多く、力のある若手3人への処方箋として用意してきた戦略だった可能性もあるが、どうも空回りする局面が多かったように思う。
 今局も水巻の精神状態さえフラットであったなら、17巡目に高めを掴んでマンガンの放銃となっていた。

≪5回戦 東4局4本場≫ ←牌譜はこちら

 前局、水巻が正常な状態であったなら、今局は親移動していて、大魔神のこのアガりは発生していない。ホントにマージャンは恐ろしいゲームである。
 5巡目に大魔神はペンをチーしているが、その時の形がこれ

 前巡ドラのを重ねてこの3シャンテン形になったのだが、大魔神は迷わずチーを入れている。
 をチーさせた水巻の手牌はこう

 水巻は2巡目に、3巡目にを手の中から打ち出し、を温存している。
 大魔神の初手から3打目までの捨て牌が、だったので、前局の弱気から更に後退した弱気が生んだツモ切りだったのである。
 私は水巻を責めているのではなく、誰しもが陥るこの状態にならぬ手立てはないものか?そこが打ち手に与えられた命題のような気がしてならないのである。

≪5回戦 東4局5本場≫ ←牌譜はこちら

 大噴火が続いているさなか、村上が5巡目という早さで七対子のテンパイになる。そして即リー。タンキ。
 「エッ?!」これが村上のフォームなのだろうか?
 確かに自分の手牌にが2枚あるので、は使いづらい牌になっている。でもだからと言って、この嵐の中で子方2人がおいそれとロン牌を切ってくれるのだろうか?
 そもそも<トイツ系の場>においては(そのような場は存在しないと語る方々もいるが、ま、それは思想の違いと御容赦いただいて)、数牌タンキの良否が早い巡目ではわかりにくいところがある。
 牌理的に端牌は余りやすいのだが、それは<シュンツ系の場>での理。<トイツ系の場>においては、理不尽な中張牌のほうに軍配が挙がるケースも多い。
 なので、次巡引いてくるや、その2巡後ののほうが、リーチをかける信頼度は増す。
 そんなことはわかってるよ、村上が承知のうえで勝負をかけたなら、それはそれで評価できるリーチになるのだが、テンパイまでのリズムだけでかけたとしたら、少々危ういタンキ待ちリーチに映る。
 そんな村上のリーチに対し、今度は腹をくくって押し返し、トイトイのみのテンパイで無筋をブンブン切り飛ばす水巻。
 欲を言えば、もうツモ番が無く三暗刻の可能性が消えた17巡目、ツモってきたをもツモ切りして欲しかった。
 リスクだけが広がるこの1枚、この1枚をもノータイムで切り飛ばせるようになったとき、水巻はワンランク上の強者になっていることだろう。

≪5回戦 オーラス≫ ←牌譜はこちら

 とても気になる1局だった。
 大魔神の持ち点は9万点超え。子方2人は箱に近い状態。
 7巡目にを切った大魔神の手牌がこれ

 は生牌、は1枚切れ、は2枚切れという状況。打牌したは生牌だった。
 いわゆる手なりで目イチに手牌の幅を広げての切りだったが、私には「えっ??」という感じの切りに映った。
 あたりを切って、をポンし、を雀頭にしたピンズの一色手を基本線に、七対子を保険にした攻め筋をとるものと思っていたからである。
 大魔神の思考は常人の及びもつかないところにあることは承知している。でも、切りの同巡が出てこれをポンし、打とした真意は図りかねてしまう。
 メンゼンであれば、まだの受けの良さ等を手離す意味は理解できるのだが、仕掛けを入れて平面的に打つ意図がどこにあるのか、私にはわからなかった。
 カンという急所を抱えながらベタ打ちするよりは、9万点超えの威光を借りて、ピンズの一色手へ向かう大魔神が見たかった。
 断トツで迎えたオーラスの幕引きが、3フーロでのマンガン放銃という結末に、飯田の前途への懸念を抱いたのは私だけだろうか。

≪6回戦 東1局≫ ←牌譜はこちら

 水巻の親満和了図である。
 4巡目ツモで、手牌はこうなった

 ピンズの伸びをとるのか、ソーズへの伸びをとるのか、こういう二択を水巻にさせるとほとんどと言っていいくらい正着打を放つ。
 場を読むか、相手の狙いや手牌構成を読む力に優れていて、今局も迷うことなくソーズへの伸びを断つ切りとしている。
 これは村上の序盤の切り出しと、飯田の第1打を見てのもので、ピンズが良く見えるもののどっちつかずの切りなどとしていると、親満は逃げていた。
 水巻は5回戦の前半で著しいダメージを受けてフラフラになっていたが、この一発ツモで息を吹き返した。

≪6回戦 東3局≫ ←牌譜はこちら

 村上が4巡目に佐藤が切ったドラのにポンの声をかけている。

 ポンして3シャンテン。もちろん、ドラでなければ仕掛けるはずもない形。そしてドラを切ったときの佐藤は、こんな手牌だった。

 盤石のイーシャンテン。でも引いてくれば更に楽しみの深まる形である。
 このクラスの戦いになると、役牌のドラを序盤で切り出す打ち手の手牌は、今局のような好形イーシャンテンになっていることが多い。従って、ドラをポンした側より、させた側の手牌に注意が注がれることになる。
 案の定、ドラ切りの2巡後、佐藤はをアンコにしてリーチをかけてくる。
 下家にドラをポンしている村上がいるにもかかわらず、リーチ表示牌のを中ヌキする水巻。
 共通安全牌になるであろうドラ表示牌の中には目もくれず、村上にチーされてもいいから、1巡でも先まで共通安全牌をキープしにいく水巻。
 この打法は、<受け>だけを考えた場合、かなり有効な打法と見られているフシもあるが(終盤の手詰まりが怖いため)、1万点近くプラスしているトップ目の打ち方として、果してどんなものなのか?
 マージャンは、ミクロ経済とマクロ経済を複眼的に思考していくゲームである。
 ミクロ的な成果を得ても、マクロ的な成果に結びつくとは思えない手法に映るのは、私の思考が間違っているからなのか?
 このあたりについては、平成の世を謳歌している優れた若手プロたちにインタビューしてみたい気持ちが充満している。
 今局は、その合わせ打ちのがチーされた動きにより、高めのを佐藤がツモり、望外のハネ満成就となるが、このツモ和了を見て、水巻と村上は何を思っただろうか。

≪6回戦 東4局≫ ←牌譜はこちら

 佐藤の望外のハネ満が出た次局の譜である。
 飯田がハネ満を逃してハネ満をアガった絵図なのだが・・・村上の15巡目のチーに注目。
 飯田は9巡目、迷うことなく生牌のタンキで曲げた。東家~西家までの序盤捨て牌から、は全て生きていると読んだのだろう。
 村上は11巡目のあたりから、リーチを受けている佐藤や水巻からは、実に怪しげな牌をソロリソロリと通している。
 水巻の頭の中では「ズンタン、もしかしてテンパってるの?」という疑心暗鬼が生まれていて、いま通ったばかりのドラに手をかけざる得なかったような気がする。
 そのときの下家村上の手牌はと言うと

 なるほど、怪しいだけのことはあるイーシャンテン形であった。
 「チー」。そうだろうな。チーしてテンパイをとれば、リーチ者の飯田が5巡目にを切っているので、再び掴んでくれる可能性があったからである。
 打。<エ~っ??>どうしてなの?
 村上はテンパイとらずの切りとしたのだが、チーするならを勝負する一手だったろうし、を勝負できないのであれば、チーすべきではなかった。
 いかにも中途半端な動きで、前局に引き続き、望外のハネ満が生まれてしまった。

 5回戦は、飯田の大爆発のゲームで、水巻と村上は箱テン近くまで失点。
 6回戦は、奇っ怪な展開を村上が制し、ラスは不運な展開負けで飯田が引き受ける。
 7回戦は小場回りとなり、待ってマシタ!とばかりに水巻がトップを奪う。ラスはたったの4千点沈みの飯田。
 初日から、どうも飯田には巡り合わせの悪さがつきまとっている。ただし、5回戦の大爆発が効いていて、2ラスを引いてもまだこの日はプラス組にいる。
 めまぐるしく点棒が動いた割には、四者のポイントが接近する2日目となり、勝負はこの日の最終戦に持ち込まれた。

≪8回戦 南2局≫ ←牌譜はこちら

 飯田が東3局の親番で爆発し、大魔神と化してしまった戦いは、南場を迎え、もはや焦点は2番手争いというか、ラス抜け合戦の様相を呈していた。
 そんな中、村上の大エラーが出てしまう。
 大魔神が佐藤の仕掛けに対し、9巡目にドラをツモ切りしている。これはもう90%以上テンパイのサインである。
 そもそも村上は、をポンされた時点から、トータル首位を走る下家佐藤へのケアをするべき立場にあったわけで、7~9巡目のソーズ並べ切りは、疑問符の連続だった。

 南を下家にポンされたときの手格好がこれで、ここに2枚切れのをツモりを切り、次巡を切っていく村上。
 もし彼がここで、苦しい手牌ゆえ、佐藤に安く流してもらえるのなら恩の字、とばかりにソーズを連打したのであれば、私はその手法に拍手する気になれない。
 こういう脂汗がしたたり落ちるような闘いの場において、そのようなミニマム戦略を使うと、自分の首が絞まるだけである。そのような構えで打っているから、飯田のドラツモ切りに反応できなかったのではなかろうか。
 飯田は5巡目に次のイーシャンテンから

冷静にを打っている。を切っていれば恐らく佐藤からポンの声がかかるだろうし、1枚切れ同士の選択でではなくを打っていると、村上のを捕えていない。
 アガった形だけを見れば、勢いのある時は違うな(ポンでドラを喰い流されても、再びドラが入ってテンパイするあたりを見て)くらいで終わってしまう譜なのだが、永世最高位に就く打ち手は、この精密さが備わっているのである。

≪8回戦 南3局≫ ←牌譜はこちら

 またも無惨な村上の放銃譜である。
 ツモり四暗刻のイーシャンテン手牌とはいえ、がすでに2枚場に出ている追い込まれた形である。
の4枚壁を頼って、ノーチャンスのを切ったつもりがカンへの放銃劇。ラス目によくある放銃風景とはいえ、村上クラスの打ち手であれば、歯を食いしばって止めて欲しかった。
 実はこの放銃を見た瞬間、今期の決定戦は、四者ではなく三者の闘いになってしまったなと思った。

≪8回戦 オーラス≫ ←牌譜はこちら

 前局の5200放銃で死んだはずの村上が息を吹き返す1局をご覧いただきたい。
 なぜこうなったのかは、一目瞭然、水巻のポンにある。2番手の佐藤との差は2800。ホンイチか、ドラ1の点パネ狙いの仕掛けなのだろうが、あまりにも強引だ。
 親の村上が弱ってるからという計算も働いてのものだろうが、それにしてもである。
 そしてリーチがかかったときの水巻の手牌は次のようになっている。

  ポン

 そもそも2番手狙いであれば、生牌のは切らず(まだ2~3巡目なので)、ピンズのリャンメンを払って次の形が面白かった

  ポン

 こうしておけば、ドラ表示牌のだけが勝負牌で、まだまだ押し返せる形だったように思えるが、水巻には水巻なりの計算が働いての最終形だったのかもしれない。
 村上は3巡目にを引いて七対子のイーシャンテンになる。

 ここからを切っていくのだが、ここまで追い込まれた状況で、の選択ミスをしないあたりが、村上の凄さだと思う。
 前のめりになり過ぎるとを切ってしまい、次巡のの選択で迷うところだが、その前段階でを切っているので一本道でゴールに達している。
 この3200オールは、3日目以降につなげる意味でも、村上にとっては大きな財産と自信になったことだろう。
 それに対し、水巻のこの動きと結果は、彼自身にとって、3日目以降の戦いに不安を残すものになったような気がする。(了)

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