コラム・観戦記

第34期B2リーグ最終節観戦記その②

 

■最終戦

現状までの上位成績は以下の様になっている。

1 坂本 大志 379.3

2 佐藤 聖誠 362.7

3 石井 一馬 309.0

4 井上 慎司 267.7

( ここまで昇級 )

5 中嶋 龍太 230.6

6 宇野 公介 185.6

7 三ヶ島 幸助 154.6

8 谷口 竜 152.0

 

坂本、佐藤聖誠はほぼ昇級確定。

石井はかなり有利だが、他の卓の結果に関係なく昇級を決めるには連対条件といったところか。 4 位井上と 5 位中嶋の差は 37.1 ポイント、中嶋はなるべくトップ、最低でも連対に絡むことがほぼ必須となる。

6 ~ 8 位の選手も条件は残ってはいるがかなり厳しい。宇野は同卓している石井を、同じく谷口は井上をトータルポイントで捲くることが実質的な条件になりそうだ。

全卓4回戦まで終了の後、一斉に最終戦が開始された。

 

まず5卓は坂本が安定した内容でトップを取り首位昇級を決める。この半荘トップを取れば繰り上げ残留が濃厚なトータル 15 位に食い込めた野口、清水だったが、無念の敗戦となった。

そして結果 15 位に入ったのは3卓の嶋村。オーラスにリーチタンヤオチートイツをアガって会心の逆転トップとなった。昇級へ大トップ + 別卓結果条件の三ヶ島だったが大きな見せ場無く終局。

 

[ 1卓 ] 根本、松田、宇野、石井 ( 抜け番 : 秋田 )

東4局に松田が 3000 ・ 6000 をツモり抜け出した南1局、 3 番目の昇級者を決定づける和了が生まれた。

南1局 ドラ 裏ドラ

  ツモ

石井一馬 8 巡目リーチの 11 巡目ツモ、最後も彼らしい (!?) 先制愚形リーチで自身の2着を決める。宇野は結果ラスとなり昇級への夢は潰えた。

 

[ 4卓 ] 平林、谷口、佐藤かづみ、井上

谷口が南2局の親番で執念の連荘。持ち点を 60000 点オーバーまで上乗せするも、これを止めたのはやはり井上。

南2局 2 本場 ドラ

 ロン

今日幾度となく見せてくれた息を殺すダマテンで、谷口の最後の望みを断つ。

しかし南3局、平林がリーヅモチートイドラドラをハイテイでツモり、2着に浮上。連対していればほぼ昇級確定だったが、3着に落ちてしまい2卓の結果次第となる。

 

[ 2卓 ] 中嶋、中村、佐藤聖誠、森川

最後の椅子はやはり井上と中嶋の争いとなった。

井上の最終戦終了後のポイントが +252.3 。中嶋はトップなら無条件、2着なら 41800 点以上の素点を叩けば昇級となる。

実際には 2 つの卓は当然同時進行で行われているので、中嶋に具体的な条件は分からない。とは言え井上がラスだとしてもこちらは連対がほぼ必須となる、本人もそのことは承知しているだろう。

東3局 ドラ 裏ドラ

中嶋が 5 巡目にリーチ

 

宣言牌がドラの 。愚形リーチを割合多く打つ筆者の感覚から見ても、正直これはやり過ぎの感が否めない。案の定と言うべきか森川がドラ色のメンホンのイーシャンテンまで詰め寄るも、後筋になった を掴んで放銃。

今日の中嶋は何度も危険な目には遭っているが、とにかく致命傷を負わない。最後に笑うのはこの男なのだろうか。

 

東4局に佐藤聖誠が 8000 を森川から和了した後は、淡々と局が進みオーラスを迎える。

ラス親の森川が 2900 は 3200 、 1300 は 1500 オールをアガって迎えた南4局 3 本場、 4 人目の昇級者を決める1局がついに訪れた。

南4局 3 本場 ドラ 裏ドラ

森川 30900

中嶋 26000

中村 26400

佐藤聖誠 36700

中嶋は2着まで 4500 の出アガリか 700 ・ 1300 ツモ、トップになるには跳満出アガリか満貫ツモ条件となる。

できれば確定の満貫手を作りたいところだが、幸か不幸か 5 巡目にあっさりとカンチャンが埋まり、高目タンヤオの聴牌。

 ツモ

は出たら見逃しますが、ツモってきたら最初からアガる気でした。」

中嶋はネット麻雀を下地に最高位戦の門を叩いた打ち手である。彼が今日まで培ってきた麻雀は、ネットでの膨大な対局数で築いてきたシステムマチックな戦術がベースとなっている。確かにこの手、打てる回数が無制限の勝負であれば、即リーチして出場所や着順に構わず和了することが最適な判断に違いない。

しかし中嶋には最高位戦の同期として、また今年筆者が参戦を断念した B1 で来年戦うかもしれない選手としてあえて苦言を呈したい。

この手、即リーチをするかしないかの判断はまだ意見が分かれるところだと思う。仮に をツモってきて裏がのらなかったとしても、それが間違っていたと筆者には言い難い。

しかし現実の世界で起こった中嶋の 7 巡目 ツモ和了、これは正直自分に課された条件を甘く見過ぎているのではないだろうか。

 ツモ

裏ドラがのれば2着で井上のラス待ち、のらなければ3着のままで自身の 5 位以下がほぼ確定する。

少なくとも筆者はこのポイント条件下でこの手をリーチしたとしたら、 はツモ切る以外の選択肢が無い。ここは限られた半荘回数で 1 年の勝負を決める場所なのだ。

 

… 結果裏ドラはのらず、この瞬間井上の昇級が確定した。

 

■最終結果

34 期 B2 リーグ最終結果は以下の通り。

1 坂本 大志 416.4

2 佐藤 聖誠 398.6

3 石井 一馬 322.1

4 井上 慎司 252.3

( 以上、 4 名が B1 リーグへ昇級 )

5 中嶋 龍太 219.5

6 谷口 竜 212.9

7 宇野 公介 142.6

8 三ヶ島 幸助 102.4

9 森川 健太 39.2

10 松田 猛 21.7

11 川端 美雪 12.4

12 齋藤 敬輔 -4.5

13 根本 佳織 -83.2

( 以下、 11 名が C1 リーグへ降級 )

14 嶋村 恭介 -122.7

15 中村 英樹 -130.6

16 野口 洋貴 -135.7

17 清水 昭 -161.8

18 平林 佑一郎 -171.0

19 津田 博愛 -178.2

20 阪元 俊彦 -301.4

21 佐藤 かづみ -339.4

22 秋田 大介 -411.8

23 中邨 光康 -449.7

24 田中 巌 途中休場

 

昇級者 4 名を少しずつだが紹介させて頂こう。

1位昇級:坂本 大志

第 1 節、 2 節と大きいマイナスを背負う苦しい出だしとなるも、中盤 7 連勝を含む怒涛の巻き返しで見事トップ昇級の座を掴み取った。

入会当初よりタイトル戦では数々の好戦績を残してきた彼だが、昨年まで C リーグに 3 年間在籍していたことからも、リーグ戦では決して結果に恵まれてきた訳ではない。それだけに初の B2 リーグで一発昇級という結果は尚更嬉しいことだろう。

最高位戦クラシックでの初タイトルに B1 昇級と、この 1 年で大きく花開いた最高位戦 1 の「努力の男」。来年以降その花がどんな実を生らすのか、今から楽しみである。

 

2位昇級:佐藤 聖誠

昨期 B2 での佐藤聖誠は大きくポイントを叩く半荘があったと思えば次の半荘はすぐに箱を割るなど、とにかくムラの激しいイメージがあった。今年は終始昇級圏内で安定したポイントを重ねての勝利、本人も自信になったことだろう。

レポートの中でも触れたが私と佐藤聖誠は同期であり、彼をプロテストで初めて見た日からもう 4 年近い歳月が流れている。同期の中でも落ちこぼれ的存在だった筆者とは対照的に、デビュー当初から ” 優等生 ” だった彼は同期最速の B2 リーグ昇級を皮切りに各タイトル戦でも着実に実績を積み重ねてきた。周囲の評価も次第に高まっていく中で、昨年の B2 リーグでは彼を昇級候補として推す期待の声も多かったと記憶している。

しかし私の考えは違った。

昨年彼と同じリーグを戦った中で、私が羨望の眼差しで見ていた同期佐藤聖誠の姿はそこにはいなかった。

確かに実績は増え評価も高まったのかもしれない。ただ結果とは賞賛につながり、賞賛は時に驕りにもなる。 4 年前に見た全ての人から何かを吸収しようとする顕著さは色褪せ、彼は気負いと負けん気の強さだけが次第に前に出る選手になっていた。そして自身のスタンスを大きく崩してしまったことが昨年の不振に繋がったのではないだろうか …

謙虚さが麻雀の結果を直接左右するとは思わない。ただ勝ったプレイヤーにこそ謙虚であって欲しいと私は願う。

今年の結果は本来の姿を取り戻しての、いや更なる変化を遂げて掴んだ収穫となったに違いない。

 

3位昇級:石井 一馬

「今年を逃したら2度とチャンスはない位の気持ちで臨みました」

平素物静かな彼だが、昇級が確定した後こう力強く語ってくれた姿が印象に残った。

石井の麻雀は一言で ” シンプル ” というイメージが強い。先手を取る為に手役よりもスピードを優先し、自分が不利な場合はどれだけ手短にしていようが潔くオリに回る。

ただこの ” 潔くオリる ” という行為が普通の打ち手にとっては中々難しい。手狭になれば当然オリにくくもなるし、心理的にも勝負をしたくなってしまうことが多いだろう。

近年ネット麻雀や東風戦ルールの普及でよく見られる様になったタイプの打ち手だが、最高位戦の B1 以上で同じ様な類の選手は私の知る限り現在はいない。

今年 B2 リーグで最も手を狭めながら、最もよくオリた男石井一馬、堂々の B1 昇級である。

 

4位昇級:井上 慎司

最後の 3 節で 250 ポイントを叩き出して見事最後の椅子を掴み取ったのがこの井上。

対局終了後に本人にそのことを話したところ、「後半戦強いのはいつものことだからね、予定調和だよ。」とあっさりと返答してきた。ちなみにリーグ戦の最終戦でトップが取れなかったのは、何と在籍 7 期目となる今年が初めてのことだったらしい。

石井同様普段リーグ戦で話す際は物静かな人物なだけに、どこまで本気でどこまで冗談かは分かりづらいが ( 笑 ) 、打ち上げの席であんなに嬉しそうな表情を見せる井上は初めて見た。悲願の年間リーグ昇級に喜びもひとしおだったに違いない。

 

 

そして昇級者の名前が発表され周囲の緊張が解けだした頃、一人の選手が筆者にこう尋ねて来た。

「僕今日のレポートで出番ってありますか !? 」

声の主は齋藤敬輔。最終節開始時の順位は 11 位、今日昇級ラインと降級ラインの両方から最も遠かった選手である。

今期 B2 第 1 節のレポートを読んでいただいた方ならご存知かと思うが、筆者は当時齋藤の麻雀を見て「この内容では勝ち切れない」という旨の厳しい文章を残している。

https://saikouisen.com/kansenki/sai34b2-1.htm

そんな酷評を覆すかの様に彼は前半戦 400 近いポイントを叩き出し、一時は独走態勢すら匂わせていた。しかし後半戦が始まると別人の様に大失速、よもやのトータルマイナスで今期を終えることになる。

 

「昇級争いの選手にほとんど焦点を当てていたから、多分出番は無いよ。」

齋藤へ冷淡に切り返した後、一つ付け加えた。

「第 1 節のレポートを書いた経緯があったから … 齋藤さんには最後まで目がある戦いをして欲しかった。」その言葉を聞いた齋藤は自身の敗北の悔しさを少しだけ語り、足早に会場を去って行った。

筆者はおそらく今年の B2 リーグを最も多く観戦したギャラリーの内の一人だが、多くの選手の中で一番印象に残っていたのは齋藤の姿だった。おそらく今期の齋藤の戦いだけをレポートにしてもこの文章の倍以上の量を書き上げることができる。

 

リーグ戦というのは昇級した選手が一番輝く存在であることは疑い様が無い。

ただその傍らで昇級争いに敗れた選手、残留争いに勝った選手、降級してしまった選手にも目が向いてしまうのは筆者だけではないだろう。各選手の思いがそれぞれある様に、観戦者にもそれぞれの応援の仕方や思いがあってこそ、選手の戦いも映えるものになるのではないだろうか。

当然の話だが、今回書いたレポートというのは当日の会場で起こった出来事のほんの一部に過ぎない。これから先より多くの選手や競技ファンの方が会場に足を運び、より多くのことを感じていただける様願いつつ、このレポートの締めとさせて頂きたい。

 

改めて昇級した方々、おめでとうございます !

また 12 節に渡り素晴らしい戦い見せて下さった 23 名の選手の方々、本当にありがとうございました !!

 

最後に独り言↓

 

 

・ 24 人目の選手へ

再来年またこの場所に戻って来い、待ってるぞ !!!

 

文責 武中 真 ( 文中敬称略 )

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