第5期最高位戦Classic 予選 1・2・3組 第1節レポート
とある日、雨の銀座一丁目駅。
「おまたせ、カズくん。今日は銀座で待ち合わせなんてどうしたの?」
「おはよう、葉月ちゃん。今日は最高位戦Classicのリーグ戦なんだよ。」
そう、4月28日水曜日。GWも目前の平日。
第5期最高位戦Classic 1・2・3組の予選リーグ第1節が銀座「柳」にて行われたのでした。
「最高位戦のリーグ戦なら私も見たことあるけど、水曜日は神楽坂でしょう?」
「今日は最高位戦のリーグ戦じゃなくてClassicのリーグ戦だよ。」
「Classicって最高位戦以外のプロ団体所属選手も出場できるタイトル戦でしょ?
今年はClassicもリーグ戦なの? リーグ戦に他団体のプロも出るの…? なんだかすごいね!」
この大会では、最高位戦の設立時から第22期まで採用されていた、「旧最高位戦ルール」を採用しています。
最も古くからある競技プロ団体である最高位戦。
以前は競技麻雀の原点とも言える「一発・裏ドラ・ノーテン罰符なし、アガリ連荘」を特徴とするルールで戦っていました。
現在では、一般ファンとの融合を目指し「一発・裏ドラあり」のルールにてリーグ戦が行われていますが、最高位戦の伝統と歴史を伝えていくべく、旧最高位戦ルールを用いた「最高位戦Classic」が2006年よりスタートしたのでした。
その5年目となる今年、ホームページにもすでに告知のあったように、大会のシステムが大幅にリニューアルされました。
最大の特徴は、他団体からの豪華出場選手も含め、実績ごとに1~5組までに組み分けし、1~3組までの予選は、3節計12回戦のリーグ戦で行うという点です。
昨年までは、最高位戦選手と外部の選手は別の組でそれぞれ予選を戦って勝ち上がっていくというシステムでした。
しかし、今年は予選リーグから計12回戦にわたって、各団体からの強豪選手がガチンコで戦うのです。
さて、カズくんに連れられて会場に入った葉月ちゃん。錚々たるメンバーに興奮です。
「すごい豪華な顔ぶれ…! これが予選なんて信じられない!」
1組は、おなじみ最高位戦のトップ選手11名に加え、井出プロ、土田プロの計13名。
2組は24名のうち過半数を超える14名が、3組も26名のうち16名が外部招待選手であり、この異種交流戦は必見と言えるでしょう。
「じゃあ葉月ちゃん、始まる前にルールをもう一度確認しよう。」
抜粋して現在の最高位戦ルールと大きく異なる点をあげると以下のような感じになります。
・順位点が4-12
・一発裏ドラ、カンドラカン裏ドラ無し
・ノーテン罰符無し
・アガリ連荘
・現物食い替えあり
・リーチ後のアンカン禁止
「…ざっと挙げてみるとこんな感じだけど、なんとなくルールを把握したつもりでも、実際に見てみると驚くくらい普段の最高位戦ルールと戦い方が変わってくるのがわかるよ。」
「アガリ連荘でノーテン罰符なし、一発も裏ドラもないってことは…リーチってあまりしないものなのかしら?」
「そうだね、リーチのメリットは確かに少ないね。リーチが空振りした場合、他家にアガリが出る場合は通常と同じだけど、流局した場合、ノーテン罰符がもらえないから単純に1000点損してしまう。この1000点は勝敗を分けるくらい大きいね。」
そんなレクチャーの最中、対局の開始されている会場内からは「リーチ」の声が。
「カズくん、リーチしてるヒトいるよ?」
「鈴木たろう選手だね。彼はリーチをしてもこのルールで勝てる強い選手かも…。」
今大会注目のリーチファイターとして挙げるならば、鈴木たろう選手(協会)と多井隆晴選手(RMU)でしょう。
先に述べているようにリーチ棒の重みが増す中でも、ひるまずに攻撃をし、なおかつ高打点で上がりきるチカラを見せつけてくれる選手です。
ちなみに鈴木たろう選手のリーチはこんな形
2回戦東4局0本場 南家 40100点のトップ目 ドラ
7巡目
場に切れているソーズはが3枚と、が各1枚。
「を引いての手変わりを待ってダマ、っていうヒトも多いかもしれないね。でもを引いてリーチをすると出アガリで何点になるかな?」
「メンタンピンドラ…7700点!」
「そう。手変わりして7700点になるのを待つより、リーチタンヤオドラの5200点を十分な形とみて、即座にリーチを決断するってヒトも少数派ではあるだろうけどいると思うよ。」
このルールではアガリ以外に収入がないので「アガリにくそうだけど、とりあえずテンパイ」というような手は、高い手の場合以外はあまり意味がなくなってしまいます。
リーチも先ほどカズくんが教えてくれた通り、打点が十分な場合か、そこそこアガリが見込めそうな待ちでないと、なかなか打てません。
「なんだか難しいわね…。このルールに強いヒトってどんなタイプのヒトなんだろう?」
「ここでは押し引きのバランスと主導権の取り方が上手なヒトが特に有利だと思うな。」
押し引きも他のルールと異なる独特なものです。
アガリにくそうで、しかもリターンがあまり見込めなさそうな手で押しすぎるのはあまりよくありません。逆に早い段階でオリてしまうと終盤に手詰まりしてオリ打ちしてしまう可能性もあります。
押しすぎると相手にやられやすくなるし、引きすぎては点数が増えない。このバランスを上手に取れるように工夫するのがポイントと言えるでしょう。
「カズくん、質問です。この場合の主導権をとるってどういう事ですか?」
「その局の主役になることっていうとわかりやすいかな。例えば、誰かがリーチと宣言することで、周りがオリたりまわったりしてその局の主役と脇役が決まるような展開になることがあるよね。」
リーチのメリットが少ないと言われているClassicルールでは「リーチをしなくても主導権を取れて、かつアガリに結びつける」というのが重要とされています。
「リーチをしなくてもその局の主役になるってことは、仕掛けてアガるのもいいってこと?」
「うん、そうだね。リーチ以外で主導権を取る方法っていうのも意外にたくさんあってね。仕掛けもそのひとつだけど、仕掛け方にもいろいろあってなかなか奥が深いんだよ。」
まず「速い仕掛け」
通常ならば「たかが1000点」だとしてもClassicルールだと、その1000点ですら勝負の行方を決める場合があります。
そのため、速くてそこそこアガリが見込めそうな手であれば、仕掛けた方がよいでしょう。
手が遅い人はそこで手仕舞いして防御、つまり脇役にまわることになります。
次に「高い仕掛け」
そこそこの高得点が見込めそうならば、手牌進行がそれほど早くないとしても仕掛ける場合があります。
そして「高く見せる仕掛け」
高い仕掛けを逆手にとった、いわゆるブラフに近い仕掛け。仕掛けることで相手の反応を伺い、対抗者がいなければ、ある程度までは攻めればよいし、対抗者がいたらその人をマークするという戦い方ができます。
こうしたさまざまな仕掛けを駆使し、手役との絶妙なバランスで攻めるタイプの選手は、
小林剛選手(麻将連合)、忍田幸夫選手(麻将連合)、大脇貴久選手(協会)、須田良規選手(協会)
などがあげられます。
「仕掛けが有効に働く場面は確かにあるけど、相手が警戒するような仕掛けじゃないとあまり意味がないんだよね。それに、上手に仕掛けないと周りがすぐに手仕舞いして何も出さなくなっちゃうから、今度はアガリに結びつけるのが厳しくなってしまうんだよ。」
「仕掛け方もいろいろだから、ひとくちに仕掛けが得意な選手って言っても、いろんな攻め方が見られるかもしれないわね。」
「じゃあ葉月ちゃん。ひとつの戦略を理解したところで次にいこう。仕掛けず、かつリーチもせず主導権を取るためにはどうする?」
「リーチしないでもアガれる形をつくる?」
「そう。手役と打点重視の手組ってことだね。」
Classicはルールの特質上、アガリの頻度が低くなります。そのため、かわし手や早くアガれそうな時以外はなるべく高い手にしたいのです。
手なりの高得点は別として、高い手にするためにはスピードを犠牲にするという危険もありますから、強い意志をもって臨むことになります。
意志のある高い手作りをしてくる打ち手というのは、当たれば一発の恐怖があるホームランバッターのようなものです。対処を間違うと手痛い一撃が待っています。
そのような恐怖を感じさせる典型的な打ち手に該当するのが根本佳織選手、馬場裕一選手(フリー)でしょう。
「河野プロや阿部プロも過去のタイトル歴からみてこの手役&打点重視型の選手と言えるかな。あと、土田プロ、井出プロは仕掛けてもメンゼンでも大きい一発を出してくるイメージだね。」
土田プロは1回戦なんと7万点越えのトップ。そのうちの最高打点はひとつ仕掛けてのチンイツドラ、18000点でした。
井出プロは昨年の予選で国士無双をアガるなど、ここぞの力強さは実証済みです。
「萩原さんもホームランバッタータイプかもしれないわね。このルールだと流局時に手牌を伏せちゃうから、せっかくの高い手作りが報われないーって、休憩中嘆いているのを聞いちゃった。」
今大会では、MONDO21などでもおなじみ、芸能界一麻雀の強い男・萩原聖人選手も2組に参戦中。
テレビ対局などでも数多くの名勝負を演じており、女子プロ育成企画「DIVAリーグ」のプロデュースも行っています。
単純な勝ち負けだけではなく、いかに勝つかという演出をも見据えた、魅せる麻雀が期待されます。
2回戦では古久根英孝選手と萩原聖人選手が同卓。結果だけでは伝えきれない、手に汗握る攻防にギャラリーがいっぱいで会場内がヒートアップしていました。
「なんだかみんなのオーラがスゴくて熱が出そうだよー。」
「オーラって(笑)。そのつど状況に見合った押し引きがなされているから緊張感を肌で感じられるんだよね。」
仕掛けるとスピードは早いけれど打点は落ち、周りに警戒されやすくなります。逆に、手役を作るとリーチしなくても十分な形を作れるけれど、スピードは遅くなってしまいます。このバランスを保つため、常に状況に見合った押し引きができる選手というのは、やはりオーラがあるというのでしょうか。
仕掛けを多用せずとも、いざという時に強い牌を押すことで空気を変えることがあります。
「この人がこの牌を切ってきたのだから、ここは一歩引かなければ」
と思わせるような場面を作ることで主導権を取れるようになるのです。
このような押し引きのバランスで主導権を獲得するタイプには最高位2連覇の飯田正人選手、名翔位2連覇の萱場貞二選手(101)などがいます。
「偶然性を極力排除するためのルール、とか謳っているから見てるほうは退屈かと思ったけど、聞いてると結構面白いね!」
「実際にどんな手をアガったか、というところよりも、むしろどんなところでオリたのかとか、攻撃と防御のバランスをどのように切り替えるかという点を見所にするとすごく興味深いと思うよ。」
「…となると、結果を伝え聞くよりも現場で直接選手たちの闘牌をみることでドラマの目撃者になる事の方が多そうね。次節も絶対見逃せないわね!」
「しかも、通常のタイトル戦だとシード選手は後から出てくるのが普通でしょ。でもClassicは前評判で強いと注目されている選手が先に予選リーグに出てるのが面白いところ。これらの強豪プロと実際に対戦できたら…なんて思う若手選手もいるんじゃないかな。」
今月下旬に行われる、予選4,5組を勝ち抜けば、この強豪プロたちと対戦するチャンスです。
エントリーはまだまだ間に合います!
今後の日程は以下の通り
1・2・3組
第2節 5月19日(水)
第3節 6月9日(水)
4組 5月23日(日)
5組 5月30日(日)
まだまだ熱い戦いは続きます。お楽しみに!!
文:葉月たまみ
取材協力:下出和洋プロ(麻将連合・第3期最高位Classic)