コラム・観戦記

採譜者フミさんの『迷宮を歩く』 ②

 

4月半ばに行われたAリーグ第4節。この時期になると、昨年他界された二人のAリーガーの事を

思い出さずにはいられないー。上野龍一選手と飯田正人永世最高位。長年最高位戦を支えてきた

二人である。

 

 

 

 

さてここから何を切る?

上野はすかさず、打。ぼくは打、ピンズは触らない。

上野の選択の方が受け入れ枚数、種類とも少ないが、ほぼ両面以上のテンパイをとることができる。

反対にぼくの選択は受け入れこそ多いが一抹の愚形テンパイを含んでいる。

意外と実戦ではツモテンパイになることもある。

 

これは、連盟の滝沢プロの実戦譜で、彼は打とした。そしてすぐ、観戦していたぼくを振り返り、

「あれ、フミさん何切る?」

 

上野とは、こんなたいして意味のない話を喫茶店の隅っこで、2時間も3時間でもよく話したなぁ。

Aリーグの対局後は二人で必ず一緒に過ごした。その日の対局上での疑問点、以前の整理牌譜での打牌など延々と…

そして不思議なことに上野との対話は、笑えない冗談やそういった『各論』に限られていて、

何故、何を目指して、どういう姿勢でマージャンに取り組んできたか、といった『総論』には決して触れなかった。

上野はぼくとは正反対に理数系で、マージャンだけでなく日々の生活にまでその思考パターンは見られた。

そしてどこかでは、『各論』を寄せ集めても極めても、『総論』には至らないと、しっかり自覚していた気がする。

 

「ねぇ、フミさんだったら、これ第一打は何かな?」

楽しそうにぼくの顔を覗いてきたあの笑顔……もう一年経つ。淋しい。

 

そしてもう一人、飯田。

ここまでマージャンそのものと一体となり、かつおおらかさ、優しさを損なわなかった人はもう現れないだろう。

係わり方の密度では上野との方が濃かったが、共に過ごした年月は飯田の方が遥かに長い。

披露しきれない数々のエピソードが、ぼくの頭に刻み込まれている。

 

彼がある決定戦で、手牌12枚のピンズを13枚にする、ただそれだけの為としか思えないチー!!

そして絶好のテンパイ牌を食い流してしまうのだが、このチーからでの変化でしかインパチをあがり切れていなかった。その対局後にあの笑顔で、

「オレ何であんなチーしたのかな?」

こっちが聞きたい!?

 

飯田には『各論』は似合わない。存在自体でノシノシと向かってくる彼は、あきらかに『総論』の打ち手だった。

二人とも、マージャンと共に生きたね。また顔を見たい。話し込みたい。本当に淋しい。

 

 

 

 

さて、Aリーグ第4節B卓は、水巻、新井、佐藤、平賀の四人。まずは全体牌譜を見てもらおう。

1回戦のオーラス、佐藤に見本のようなきれいな手が入り、きっちりアガリきって逆転トップ。

ラス目からトップ目新井にドラで放銃して2000点献上するなど、苦しい展開からのトップ。

いままで勝手に、もらった手牌を最大限に活かしきってくるような、硬質で剛なイメージを持っていたのだが、丹念に見ていくと、苦しいときにより彼の特色が出ているのかもしれない。

いけるラインを探ったり、もうひとつのクエスチョンを場に提出してみたりといったような。

イメージでは水巻、村上の中間に位置するタイプかと思っていたので、誰に似ているかとの失礼な質問をしてみると、「石橋さんかなぁ」との答えが。

今節たっぷりと観戦出来て、その答えに納得。ただし、この取り上げた牌譜は彼”らしさ”からは遠いのかも。

 

もうひとつ取り上げた理由としては、7巡目の新井。

 

 

 

ぼくは七対子が嫌いなので、シャンテン数を落としても打

最終形はポンポンで

 

   ポン   ポン

 

となるだろう。あるいは何も仕掛けずに様子見からオリるか。

 

実戦の譜では、新井が高目満貫のトイトイテンパイまで持ち込み、ツモ切りで打

これは単なる結果で、満貫を目処に考えるならば親に通っているならばもしもが起きても2着は確保、という計算もあっただろう。

長いリーグ戦を戦うならば、この最終形を残しての放銃も姿勢が見えていいと思う。

 

ぼくの選択の方が、『各論』優先の 「点」 的な思考なのだろう。 

コラム・観戦記 トップに戻る