コラム・観戦記

【第6期最高位戦クラシック予選1日目レポート】鈴木聡一郎

まず、キョロキョロ。
次にニヤニヤ。
会場に着いてからの行動がどう見ても変態なわけだが、そんな変態が今回レポーターの鈴木です。

「予選」ですよ?
何ですか、この会場は。
みんな大体何らかのタイトル獲得者じゃないですか。
そりゃ、誰の麻雀を見ていいか迷ってキョロキョロしてしまうし、楽しみで楽しみでニヤニヤもしてしまいますよ。

毎年書いていることですが、最高位戦クラシックはルールがちょっと浮世離れしています。
対局開始前に、立会人であるディフェンディングの村上淳から説明。
その説明によれば、現在の最高位戦ルールと違うところは主に以下の通り。
一発ウラドラカンドラなし。
アガリ連荘。
テンパイ料なし。
順位ウマが4000点・12000点。
食い替えアリ。
リーチ後のアンカン不可。
そして、予選は1半荘60分+1局で行われる。

村上の説明によれば、予選通過率は1組で50%、2組で40%、3組で30%程度であり、4、5組予選の開催で参加者数が確定する次節に正確な通過人数が確定する。
ちなみに、この振り分けは過去のクラシック成績をポイント化したものに基づいて上位から順に1組、2組・・・となっている。
なお、予選は1日4回戦×3日間。

1回戦
あれだけキョロキョロしておきながら、筆者に迷いはなかった。
最初に観戦すべきプレイヤーは決まっている。
土田浩翔だ。
土田の強さが最も発揮されるルールは、土田が以前所属していたプロ連盟のAルール(一発ウラなし、テンパイ料あり)であると筆者は思う。
しかし、それと同じぐらい、この最高位戦クラシックのルールも土田の強さが発揮されやすい土俵だと思う。

土田の強さを語るとき、目が行きがちなのが土田の代名詞である「トイツ手筋」だが、そんなものは強さの一端にすぎず、実は土田全体の強さからしたら大したものではない。
では土田の強さって?
筆者が思う土田の核は以下の3つ。
・攻めこまれにくい河作り
・字牌の扱い
・回りながらテンパイに持ち込む技術(テンパイ料ありのルールの場合)

例えば、東3局3本場ドラ
西家の土田は2巡目にをツモる。

 ツモ

さて、何を切ろうか。
か?
か?
を切る人なんてのもいるのかもしれない。
他方、土田はノータイムでをツモ切り。
なるほど。利点が多い優秀な打牌だ。
まず、678の三色になったときの出アガリやすさ。

 


 

次に、守備的な意味もあるが、字牌の重なりに期待できる。
さらに、そのような利点を残しながら、マンズに好形を求めやすいという利点を損なっていない。
これをノータイムで打てるのだからすごい。
そして、次巡ツモTで間髪入れずにまた打

 

 ツモ 打

このときの土田の河はこうなっている。


いきなりのトイツ落としで場の注目を一身に集め、あっという間にこの局の主役になってしまった。
筆者なら、こんな河に対してまっすぐ斬り込む気はあまり起きない。

さらに、主役になった後も丁寧。
を引いたあと、すぐにをポンして切りでイーシャンテン。

 

 ポン 打

しかし、は、その後終盤にテンパイするまで土田の手牌から打ちだされることはなかった。
の直後にを切ってしまう方もいるだろう。
しかし、これでは「ソウズの下を持っていないので、ソウズは上だけ警戒してくださいね」と言っているのと同じである。
ではどうするのか?
でテンパイしたときの出アガリやすさを1%でも上げたいなら、を引っ張ることだ。
が切られた後、何度か手出しがあってが手出しされれば、他家はを引いてと入れ替えたのではないかと考え、は若干ながら出アガリやすくなる。
そして、実際に、終盤にテンパイを果たした土田の待ちが
この段階で土田に立ち向かえる者がいなかったため、出アガリとはならなかったものの、丁寧に打ったご褒美と言わんばかりのツモで300・500は600・800のアガリとなった。

 

 ポン ツモ

このルールでは高打点を作りづらいため、積み棒付きアガリの価値は非常に大きい。しかも、3本場=900点ともなれば誰もがアガリたいところである。
土田はそんな気持ちをぐっと抑え、丁寧に字牌を温存し、攻められにくい河を作って相手を抑え込み、悠々とアガリをさらった。

すると、次局も同じように主役になった300・500で東場を終わらせ、南1局、自身のオヤ番をもってくる。

 

南1局ドラ

 

この配牌から何を切るか?
筆者の中では、この何切るは一択。
特に、座っているのが土田ともなれば、切る牌はもうほぼ100%あれしかない。
当然のことながら、土田も打
チャンタや三色、字牌の重なりをみた一打だ。
ここから思惑通り高目123の三色に仕上がり、6巡目にを引いてリーチ。

 

 

ちなみに河はこう。
(リーチ)


対して、字牌から切り出した場合の河はこうなるのではないだろうか。

(リーチ)


どちらの河でリーチされるのが嫌だろうか?
このルールでは、筆者は断然土田の河の方が嫌だ。
第1打で手役が絡んでいる可能性が高いし、普通に早かっただけの順子手という考えも捨て切ることはできない。
手役絡みなら、仮にリーチ後にスジになった牌でも切りづらい。
この男、やはり攻めにくい河を作ってくる。
結果としては安目のツモだったが、この1000オールで2着の地盤を固めた。

 

 ツモ

この後も攻めにくい河と仕掛けで土田が場を制圧し続け、早々に大物手をアガった嶋村には届かなかったものの、危なげなく2着をキープした。

ちなみに、この卓は時間いっぱいの戦いとなったため、この卓が南場に入ったぐらいで1半荘終わった卓も出始めた。
その卓にいたのがRMU代表、現日本オープン覇者の多井隆晴である。
多井は自分の卓が終わると、一目散に土田の観戦にやってきた。
その向上心、さすがである。
そして、「1回戦では土田を観る」という筆者の考えを肯定してもらったような気がして、うれしくなった。

そういえば、1回戦の最中、別卓でいつもやたらと手牌を短くしているプレイヤーが目についた。
どんなルールでも、いつも通り手牌の短い男―現雀王の鈴木たろう。
2回戦目は鈴木たろうを追うことにした。

2回戦
たろうの卓には河野高志、木原浩一、そしてさきほどの多井。
たろうは起家を引くがあっさりオヤ落ちし、続く東2局ドラ
たろうは、そこそこ形が整ったら目一杯に構える打ち手だ。
今局もと切って目一杯のこの形。

 


ここから8巡目にリーチ。

 ドラ

実にたろうらしい打ち筋で、さきほどの土田とは対照的だが、この両者がどちらもトッププロなのだから麻雀は面白い。
たろうのリーチにノータイムで何枚も無筋を打ち出していったのはオヤの多井。そのノータイムぶりはさすがである。
多井は中盤にテンパイし、たろうに追いつく。こちらは超大物手だ。

 

  ドラ

これをダマテンに構えるが、すぐにを掴んでしまい、たろうに2600の放銃となった。

そして、そのたろうは東3局に木原に3900を打ち上げる。
なにやら撃ち合いの様相。

たろうは、東4局にもさきほどと同様にまっすぐ字牌から連打して9巡目リーチ。

 

 ドラ

たろうの現物であるが場に3枚見えたところで、これに飛び込んでしまったのはまたしても多井。
で5200をたろうに献上。
誰よりもよく振り込んでよくアガる。それが鈴木たろうの強さだと思う。

これで2着目になったたろうは、南1局のオヤ番で、ここから2巡目のをチー。

 

 ドラ

さらにすぐをポンしてこう。

 ポン横 チー*

やりたい放題である。
これまた土田とは違う主導権の取り方だが、強引に主役を奪いにいく。
その後、を引いてと入れ替えたたろうだったが、たろうの遠い仕掛けを見越し、中盤に多井が打で押してくる。
すると、たろうは以下の牌姿からノータイムで打とし、多井を牽制しにいく。

 

 ポン横 チー ツモ 打

この辺りの駆け引きは見物だ。
このの後、多井を制圧できたような気はしたが、思わぬ形で二の矢が飛んでくる。
河野からリーチがきたのだ。
たろうは一発でをツモる。
そのままをツモ切ると河野のカンチャンにストライク。

 

 ドラ ロン

これで5200を失ったたろうは3着に転落。
少々やりすぎたか?

いや、鈴木たろうの攻撃はこんなものではなかった。

 

南2局ドラ
オヤの多井と南家河野がそれぞれ2フーロ。
オヤの多井はをポンして、単騎を探りながら以下のテンパイ。

 

  

河野は先に仕掛けた多井に対応したタンヤオで、ほぼマンズの下が待ちになっているのではないかという感じだ。
そんな状況で迎えた14巡目のたろう。

 

 

これをテンパイに取るプレイヤーはいないだろう。
マンズの下は多井にも当たるかもしれないし、元より河野の大本命がだ。
たろうの手が止まる。
えっ?オリの一択じゃないの?
そう思った次の瞬間、たろうの口から信じられない言葉が発せられた。
「リーチ」
放たれる
そしてこのに声をかけた者はいなかった。
試合後、たろうに話を聞いた。
「ああ、あのリーチね。河野さんは前巡の手出しで手を崩したと思ったんだ。あのがなければリーチしないよ。あと、こんなリーチで1000・2000引いたら相手に与えるインパクト強いでしょ?(笑)」
よく見ているなと思ったと同時に、この人は麻雀というゲームをよく知っているなと思った。
麻雀は「対人」ゲーム。
とにかく、何でもやるイメージを植え付けた者勝ちなのだ。
特に、今日のような上級者ばかりの卓組では、そのイメージの増幅効果は大きいと思われる。
結果、どうしてもアガって連荘したい多井が3m*を一発で掴み、ツモ切りでたろうに2600の放銃となった。

たろうの攻撃は続く南3局でも止まらない。
オヤの河野が2000オールを引いてトップを固めた次局の1本場。

西家のたろうはまたと切り出し、10巡目リーチ。

 

 ドラ

おそらく、この会場中で最もリーチと発声しているプレイヤーだろう。
そんな姿勢から、たろうの心意気というか信念みたいなものが聞こえてくる―「みんなオリすぎじゃない?これぐらいのルールの変化でそんなに打ち筋変える必要あるの?悪いけど、おれはいつものこれで勝つよ」
本人が本当にそう思っているかどうかは知らないが、少なくとも筆者にはたろうの麻雀こそが「魅せる麻雀」なのではないかと思えた。
ちなみに、今局のリーチは流局。

さて、南4局2本場供託1000点ドラ
オヤから順に持ち点は木原31400、たろう27300、多井19600、河野40700。
まずはオヤの木原が10巡目に先制リーチ。

 


対するたろう、ここに無筋のと押して14巡目にまたまたリーチ。

 

 

今日、何回目のリーチだろうか。まったくもって惚れ惚れする。
しかし、ここも木原にを引き負ける。

あと一歩のところでアガリに結びつかず、たろうはこの半荘3着。
1回戦が4着だから、雀王たろうは逆連対の厳しいスタートとなった。
しかし、1日が終わってみるといつの間にやらプラス36.1で2組の5位。
「3、4回戦で2連勝したのに見ててくれないんだもんなあ」とはたろう談。
完全に見るタイミングを間違えた筆者の記者センスを呪った。

この半荘で連対した河野、木原はその後も好調を維持し、1日を終えて2組の2位と3位に食い込んだ。

ここで、別卓をのぞきにいくと、明らかに卓の点数表示機能が壊れている卓があった。
最高位戦Aリーガー平賀聡彦の点数表示が81000点を示しているのだ。
さらに、そこから子方のリーチにツモ切り追いかけリーチでこんなのをアガり切る。

 

 ツモ ドラ


この3000・6000で点数表示は94000を示す。
なんだ、リーチ棒も含めてちゃんと13000点増えているじゃないか。卓が壊れているわけではないんだな。
どうやら、その原因はオヤでのこんなアガリだったそうな。

 

 ツモ


試合後、「高目三色だったんだよ!」とは平賀。
平賀とは最高位戦の同期入会なのだが、この男も相変わらず規格外の攻撃力だ。
平賀はなんと2回戦を終わってプラス100。
最終的には少しポイントを減らして87ポイントで1日目を終えるが、堂々の2組暫定首位で初日をまとめた。

3回戦
2回戦で苦戦を強いられ、ラスを引いた多井。
1回戦トップで築いた貯金もだいぶ放出してしまったため、ここでなんとか挽回したいところ。

そんな多井は3回戦を北家でスタートする。
ちなみに座順は起家から福井仁、冨澤直貴、依田暢久、多井隆晴。
福井から依田に8000横移動して迎えた東2局、多井はダマテンで冨澤からこの7700をアガり、トップ争いに加わる。

 

 ロン ドラ

筆者なりに多井の強みを分析すると、多井の強みは「余剰牌の持ち方」ではないかと思う。
押すのか引くのかに応じた余剰牌の持ち方、相手の進行に合わせた余剰牌の持ち方が実に的確で、中途半端になんとなく手を広げるということがない。
これが多井の強みであると思う。
例えば、この東3局。
南家の7巡目に以下のような牌姿になった多井。

 

 ドラ

ここから打を選択する。
確かに、ソウズはドラを使っての2メンツを期待したいところであり、そう考えると将来的にから下に伸ばすことになる可能性が高い。
さらに、他家とのスピード差も考えて(現在他家より遅れているという予測)の先打ちだろう。
実はこの直後にオヤの依田がのピンフをテンパイする。
そして、多井が終盤に辿り着いた最終形がこれである。

 

 

無計画に手を広げていたなら、で放銃となっていた。
アガリには結びつかなかったものの、この辺りが多井の強みだと思ったので紹介させていただいた。
その後、多井はオヤ番で3フーロの1枚切れ単騎を冨澤からアガり、この7700でトップを決めた。

 

 ポン チー ポン ロン ドラ

さて、ここで別卓に目を移すと、第3期最高位戦クラシック覇者の下出和洋と、先ほどスーアンコをアガった絶好調の平賀が対戦していた。
南4局を迎えて持ち点はオヤから順に宇野公介27900、下出37400、曽木達志21700、平賀33000。

平賀は中盤に以下のテンパイ。

 

 ドラ

下出との点差が4400だから、このままの牌姿でトップになるにはリーチが必要となる。
結論から言うと、筆者はリーチをしない。
リーチをしても条件を満たすのはツモか直撃のときだけであり、リーチをかけて下位者のカウンターを食うのが嫌だからだ。
ここは2000点の素点を上乗せすることができるだけで十分と考える。
また、という手替わりも魅力的だ。
他方、このとき筆者は「平賀はリーチするだろう」と思っていた。
しかし、筆者の意に反して平賀はダマテンを選択し、すぐに曽木からで2000をアガって2着を確保する。
試合後、平賀は「トータルトップだしね。もしトータル負けてるならリーチするよ」と言っていた。
まあ、そうなんだけどさ。
何はともあれこれで平賀の連勝がストップ。
止めたのは元最高位戦クラシック覇者の下出。
さすがである。

4回戦
元クラシック覇者の下出と同じ麻将連合に所属し、共に昨年度の決勝に進出した小林剛は4回戦を西家でスタート。

すると、東1局の開局早々に手が入り、わずか5巡で以下のテンパイ。

 

  ドラ

このクラシックルールにおいて、リーチをしやすい牌姿というのがあると思う。
そのうち1つがこれだ。
・ドラが待ちに入っている。
・打点が3900~5200ぐらいに上昇する。
どうせ出ないドラならツモ狙いのリーチで5200を獲りにいく。
小林の判断はリーチ。
そして、9巡目にドラをツモり、目論見通り1300・2600で先制。

小林はこのリードを保ちつつ、南1局にもドラツモ。

 

 ツモ ドラ

さっきと同じドラ待ちだが、これはダマテンだ。
リーチをしても2000・3900が2000・4000になるだけなのだから。
100点のためにリーチ棒を出すのは得点効率が悪い。

これで持ち点が4万点を超えた小林は、この半荘をトップで締め、トータルプラス26.8ポイントの2組6位で1日目を終えた。

とにかくメンツが豪華でまだまだ観たい卓があったのだが、体は1つ。
この日ほど体が1つしかないことを悔いた日はない。

こんな豪華なメンツが一堂に会する最高位戦クラシック、観戦無料ですので次節以降もぜひ会場にお越しください!

鈴木聡一郎

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