第1日 10月29日

第2日 11月5日

第3日 11月12日

第4日 11月19日

最終日 11月30日


(全5日間20回戦)



11月5日

第33期最高位決定戦二日目(5〜8回戦)観戦記
神楽坂「ばかんす」にて

最高位決定戦は全五日間、20回戦で行われる。

4回戦までのトータルポイント
佐藤 崇 +48.6
金子 正輝+20.5
張 敏賢 △25.1
飯田 正人△44.0


10月29日に行われた初日では上記の通り、今期Aリーグを首位で決定戦に上りつめた勢いそのままに、佐藤がトップに立った。
とはいえ4位飯田との差は100Pにも満たず、二日目以降も決定戦にふさわしい熾烈を極めた闘牌でファンを魅了してくれることだろう。

では、早速対局へ移らせて頂くことにする。


5回戦
起家から佐藤・金子・張・飯田の順。

東一局
まずは南家の金子が11巡目リーチ。
 ツモドラウラ
ツモあがり2000・4000。幸先の良いスタートを切った金子。
東二局の親では1500を飯田から出あがる。

東二局一本場
金子に続いたのは張。
 ツモドラウラ
12巡目のリーチの2000・4000。

東三局、金子の一人テンパイで流れた次局、初日トップの佐藤に大きな分岐点が訪れる。

東四局一本場
14巡目に南家佐藤にペン待ちのテンパイが入る。
 ツモドラ
捨牌は以下の通り。(↓はツモ切り)

東家飯田
        ↓ ↓    ↓ ↓ ↓ ↓    ↓ ↓

南家佐藤
        ↓       ↓      ↓      ↓

西家金子
           ↓    ↓ ↓      ↓ ↓ ↓

北家張
        ↓ ↓         ↓ ↓    ↓ ↓


が場に3枚。一見待ちとして良さそうにも見える
しかし、佐藤自らを暗刻にしているにもかかわらず、1枚も切られていない事が気にはなる。
他家にを固めて持たれている可能性も…。
また、この時佐藤は別の懸念も抱いていた。
直前に親の飯田が切ったにテンパイの危険を感じていたのだと言う。
それでも佐藤はリーチの道を選んだ。

果たしてこれを隙と言えるのだろうか。
佐藤をめがけて飯田が突如牙を剥く。次巡ツモ切りリーチ!

佐藤は一発でを掴んでしまう。裏ドラが東の18000。

4回戦まで首位で迎えた佐藤のポイントは、この一瞬で消えた。
麻雀とはつくづく残酷な競技である。そのことを再認識させられた一局であった。

南場に移ると張・金子が小刻みに点棒を増やし、勝負は三つ巴の争いとなりオーラスへ。

南四局
東家飯田38400
南家佐藤1500
西家金子38800
北家張 41300

先手をとったのは金子。9巡目でこの形。
 ツモドラ
場にはが1枚、が1枚、が1枚。トップとの差は2500点。
金子の選択は切りリーチ。切りダマも捨てがたいが…。

このリーチに降りるわけにはいかない飯田は当然追撃に向かう。
無筋を3発切り飛ばした13巡目に強引な追っかけリーチ!


決定戦初日に続き、静寂の中に観戦者の息を飲む音が聞こえてきそうな緊迫感。
この雰囲気がたまらない。

飯田のリーチ棒が置かれた後、「ツモ!」の声をあげたのは、佐藤だった。
 ツモドラ
一牌もトイツの選択ミスをすることなく引きあがった2000・4000。
順位こそ変わらないものの、価値ある満貫であった。

5回戦結果
張 +39.3
金子+15.8
飯田△6.6
佐藤△48.5

トータルポイント
金子+36.3
張 +14.2
佐藤+0.1
飯田△50.6



6回戦
起家から金子・張・佐藤・飯田の順。
東一局
北家飯田が10巡目にリーチ。
 ドラ
西家佐藤が13巡目に確定三色で追いつきダマテン。

この時東家金子はまだリャンシャンテン。しかし2巡後にはテンパイを入れ、見事に捌き切った。
  ロン

同一本場
ピンチを凌いだ後にはチャンスが待っていた。
連荘した金子は11巡目にテンパイ。
 ドラ
456・567の三色、あるいはタンヤオへの手変わりが見込める。
3巡後にを引きタンピンでリーチ。17巡目にツモあがる。
 ツモドラウラ
裏が乗っての4000オール。5回戦と同様、金子が先頭を切る。

またも二番手として追駆するのは張。東三局に2000・4000で金子との差を縮める。

そして東四局、勢いに乗った張は西家で4巡目にこのイーシャンテン。
 ドラ
あっさり金子を捉えると思われたが、東家飯田が6巡目にリーチ。

張のは飯田の手中に。
だが9巡目に張から掛かったリーチの牌姿はこのように変化を遂げていた。
 ドラ
ツモれば跳満。しかも待ちはいかにも山に眠っていそうである。
事実、この時点で飯田のは山に2枚。対して張のは山に4枚残っていた。
しかし、麻雀はそう単純には出来てはいない。
ほどなく飯田がで1000オールをツモあがる。
張はこの日唯一と言って良いだろう、その表情に落胆の色を滲ませていた。

同一本場は飯田・金子の二人テンパイ。

同二本場
佐藤が再びチートイツで8000。この局は飯田からの出あがりとなった。
 ロンドラ

南一局は西家佐藤が張から2600。

南二局
調子が上向いた佐藤はここでも主導権を握る。
 ツモドラ
待ちはそう悪くない。8巡目南家の佐藤は切りで先行リーチ。
これを受けて10巡目東家の張。
 ツモドラ
4者の捨牌は、

東家張
     ↓            ↓

南家佐藤
   ↓ ↓ ↓    ↓       ↓

西家飯田
     ↓    ↓ ↓       ↓

北家金子
                ↓ ↓ ↓


親の満貫を目指してピンズをはらうか、打でテンパイをとるのか。
そのどちらかかと思われたが、意外にも張は現物のに手を掛けた。

その後、マンズを引き入れ佐藤からで討ち取る。
 ロンドラ
ピンズを嫌っていれば振り込み。打でいったんテンパイをとっても、
その後引いてくるマンズは通しづらい。おそらく回らざるを得なかったのではないだろうか。

結果、6回戦は金子が逃げ切ったのだが、このあがりで張はしっかりと2着をキープした。

6回戦結果
金子+42.4
張 +12.3
佐藤△14.4
飯田△40.3

トータルポイント
金子+78.7
張 +26.5
佐藤△14.3
飯田△90.9


7回戦
飯田正人は親で積む。
私の勝手な大魔神像だが、観戦していてしばしばその場面に出くわす。
ふと飯田の卓に目を移すと、積み棒が幅を利かせ6万点、7万点と叩き出しているのである。
強い。そして、その重厚な攻めがとりわけ親番で炸裂するのがちょっとずるい、と思ったことも正直ある。

さて、7回戦は起家から飯田・金子・佐藤・張。

東一局から起家の飯田がリーチ攻勢に出る。
 ドラ
流局し、一人テンパイ。

同一本場
東家飯田10巡目リーチ。
 ツモドラウラ
一本場で1400オール。

同二本場
飯田7巡目に三たびリーチ。
 ドラ
実らず一人テンパイ。

同三本場
飯田13巡目に四連続リーチ。
 ドラ
ただしこの局は他家も黙ってはいなかった。
南家金子は飯田のリーチ後に手を進め、
 ツモ
からドラのを切ってリーチ。
しかし、このに「ロン!」の声。
 ロン
西家佐藤がこの5200で、金子を、そして飯田を止める。

東二局
東家金子は5巡目に2枚目のを食い仕掛ける。
  ドラ 打
続く7巡目にをポンしてテンパイ。9巡目にはを加カン。
   ドラカンドラ
ダブをツモれば4000オール。しかしこの時、は飯田の手中に2枚。
は佐藤に1枚。あがり牌はがあと1枚を残すのみであった。
13巡目に南家佐藤が追いつく。
 ドラカンドラ
ダマテンでで出あがり12000の大物手。しかも山にはが2枚、は3枚!

そして15巡目、意外な形でこの局の決着を見る。
「カン!」
金子がを暗カン。王牌から手繰り寄せたその牌は金子の手によって振り上げられ、卓上に叩きつけられた。
「ツモ!!4000オール!」
 ツモ    ドラカンドラ
何という豪腕。二度のカンで最後のを掘り当ててしまった。

同一本場
一気に並びかけられた北家飯田だったが、10巡目に東2局にして五度目のリーチ。
 ツモドラウラ
今度は一発ツモで、2000・4000。再び金子を突き放す。

東三局は佐藤・張の二人テンパイ。

同一本場
4巡目に北家金子がドラドラで仕掛けてこの形。
  ドラ
11巡目に親の佐藤がリーチ。

多少リスキーに見えたが、ここは親番につき勝負か。
14巡目西家の飯田の切ったを金子がチーしてテンパイ。
   ドラ
17巡目。
飯田のツモ切ったに下家の金子の身体がピクリと反応した。
そう、大明カンするか否か。
一拍おいた後、金子の眼光はリンシャン牌に向けられた。はいるのか。しばしの沈黙…。
金子は無言のままツモ山に手を伸ばした。

次巡―。
「ツモ」
静かに重くを引き寄せた。
 ツモドラ
あがったのは、飯田だった。

「何やってんだ!!」
金子は自分を激しく責めた。
をカンしていればを食い流し、金子がツモあがっていた。
鳴けばよかった、ではなく「何やってんだ」。
身体が反応していた金子にとって、この結末は結果論ではなかったのかもしれない。


南二局一本場
それでも金子はトップに立つ。
 ロン  ドラ
捨牌にピンズを余らせることなく佐藤から18000。

同二本場
この日の金子の麻雀について、私が最も印象深く感じたのは実はこの局である。
10巡目、金子は場に4枚目となるをチーしてこのテンパイ。
  ドラ
10〜12巡目に下家の佐藤が続けざまに3枚有効牌を引き入れ、以下の捨牌でリーチ。
           ↓ ↓

このリーチに金子は一発でを無造作にツモ切る。
佐藤は予想外だったのか一瞬間が空き、「ロン」の声とともに手牌を倒した。
 ロンドラウラ
「12000は12600」。

金子に安全牌はあった。全20回戦の内、まだ7回戦目とはいえトップを走り、
この半荘も5000点差のトップ目。が通ると読んだのだろうか…?

半荘終了後、金子は次のように語った。
「(あの)チーはリーチ」
自分のあがり牌である以外はすべて切る。そういう意味である。
しかし、片あがり1翻の手。そして、何よりあの状況。

そんなことは金子も百も承知なのである。

「降りるくらいなら鳴かない」
腹はくくっている。
金子正輝とはそういう打ち手、そういう「プロ」なのである。

7回戦結果
飯田+44.7
金子+16.7
佐藤△15.7
張 △45.7

トータルポイント
金子+95.4
張 △19.2
佐藤△30.0
飯田△46.2


8回戦
起家から張・飯田・金子・佐藤。
東一局
東家の張が2600オール。
 ツモドラウラ

同一本場
金子が佐藤から3900は4200。
 ロン  

東二局
北家張が9巡目にテンパイ。
 ツモドラ
捨牌は、
東家飯田
     ↓    ↓       ↓

南家金子
        ↓ ↓

西家佐藤
        ↓    ↓ ↓

北家張
        ↓       ↓ ↓


待ちでリーチをすべきだろうか。
飯田はのターツ、と切り出している。
イーシャンテン?その手格好は?
張の牌姿はを引けば2翻アップなのは言うまでもないが、
を引くのも、待ちより優秀な待ちに変化するのも難しいように思える。
ほとんどの人はリーチを打つのではないだろうか。張もリーチとした。
次巡東家飯田が切りリーチ。
 ドラ
ジュンチャンのペン待ち。打点は十分。というかあの捨牌でジュンチャンだったのか。
は山に3枚。は2枚。
2巡後、飯田が張から12000!

同一本場
さらに飯田は手を弛めない。8巡目のリーチを一発ツモ!
 ツモドラ
ウラウラで6000は6100オール。大魔神、恐るべし。

同二本場は南家金子の一人テンパイ。

東三局は西家張が1300・2600をツモ。

東四局は親の佐藤が二局テンパイ維持で連荘し、何とか二本場へ突入。
ここでの佐藤の8巡目リーチは、ラスから2着へと浮上する一発ツモへと導く。
 ツモドラウラ
この2600オールにフーッと息をつく佐藤。

同三本場は子方の3人リーチを飯田がまたしても勝負強さを見せツモあがり。


南場に入ると一転小場となり、重苦しい空気に包まれた。

正午に開始された対局であったが、気が付けば時計の針はすでに午後七時を回っていた。
この重圧の中、選手達に要求される体力・精神力は並大抵のものではない。
最高位決定戦という場での七時間。戦った者にしかわからない、余りに過酷な消耗戦である。

その決定戦二日目もついに最終局を迎えようとしていた。

オーラスまでの点棒状況は、以下の通り。
東家佐藤25100
南家張 20100
西家飯田58200
北家金子16600

南四局
東家佐藤が好配牌を手にする。
 ドラ
じりじりと形を整え、7巡目にはこの形。


2着と5000点差の張も同巡カンをツモり、このイーシャンテンに。


9巡目佐藤がようやくテンパイを入れる。
 ツモ
待ちで当然のリーチと思われたが…。

南家張
      ↓      ↓

西家飯田
           ↓ ↓

北家金子
        ↓    ↓ ↓


上記のように他家の河にマンズが極端に少ない。張の4巡目のみ。
佐藤は打でヤミに構え、すぐさま張がツモ切ったでタンヤオ・ピンフの2900。

大半の打ち手はリーチを掛けるであろう。
なるほど、いかにマンズが場に高くとも、この手を出あがり2900、ツモあがり1300オールではいかにも寂しいではないか。
しかし、佐藤崇は全ての状況を加味した上で、「あの局面はダマ」と言い切った。

7回戦を終えた時点で、トータルトップは一人浮きの金子。
その金子の持ち点は16600。20100持ちの張から2900を出あがっても差し引き17200…。
連荘した次局があるにせよ、佐藤は金子をラスのままにしておきたかったのである。

無論、ダマテンにした最大の理由はあがりにくい待ちになってしまったからである。
実際のところ、は他家に4枚使われていて、河に1枚、自分で1枚使っているので、
張が切ったを含めて残されていたあがり牌は2枚のみだった。
さらに念のため付け加えておくと、待ちではなくもし待ちになっていたら?
「さすがにリーチ(笑)」だそうである。


南四局一本場
東家佐藤の配牌
 ドラ
この手が5巡目には

のチートイドラドライーシャンテン。7巡目にはが暗刻に!

対する南家で3着死守といきたい張は11巡目にをポンしてテンパイ。
 

そして、西家飯田は12巡目に上家の張が切ったに少考。飯田の手牌が

で、は自ら2巡目に切っている。鳴けば当然ドラのを押すことになるのだが、
をトイツにしている佐藤にはこの時すでにテンパイが入っていた。

飯田は意を決し、をチーし、を強打!!

佐藤の牌姿は、

まさに紙一重の打牌。これも飯田の勝負勘のなせる業なのか。

飯田のチーによって下家の金子に流れた牌は佐藤の当たり牌である
 ツモ
金子も飯田に続きを切ってテンパイ。
3着目の張との差はわずか600点。問答無用のリーチ!

四人とも一歩も引かない勝負局となった―。




七時間半にわたる死闘にで終止符を打ち、その最終局を制した飯田は、
開かれた佐藤の手牌を見るなり「は暴牌だったかな」と最後に笑みを湛えた。

8回戦結果
飯田+60.6
佐藤+7.4
張 △23.2
金子△44.8

1〜8回戦トータルポイント(カッコ内は5〜8回戦の結果)
金子+50.6(+30.1)
飯田+14.4(+58.4)
佐藤△22.6(△71.2)
張 △42.4(△17.3)


8回戦で金子がラスを引いたことにより、再び混戦模様となった第33期最高位決定戦。
三連覇を狙う張敏賢は現時点で4位に甘んじている。

私は今まさにこの観戦記を作成し終えつつあるが、激闘の第二日目に思いを馳せながら、最後にひとつ疑問に感じたことがあった。
『5〜8回戦の結果 張△17.3』

この日の張は調子が良いとは決して言えなかった。むしろ牌の巡り合わせに苦しんでいたように見えた。

勝負局は逃さず攻め切った飯田。
幾度となく豪腕で捻じ伏せた金子。
悔やまれる放銃もあったが後半踏みとどまった佐藤。

最強の挑戦者三人を相手に本来の力を発揮出来なかった張。

対局を終えた帰り際に、普段と変わらない柔和な面持ちで「今日は全然ダメだったね」とコメントを残していた。
「全然ダメ」
その結果がわずか△17.3??私の背中に一筋の冷気が走り抜けた。

先日、並み居る強豪を抑え、最強位をも獲得した張。
初日、二日目と沈んではいるが、このまま終わるとは到底思えないのである。


私はこの観戦記の最後をあえてこう結びたい。

『張最高位、三連覇に向け黄信号…未だ灯らず!』


文責・日向太
(文中敬称略)