コラム・観戦記

採譜者フミさんの『迷宮を歩く』 ⑧

 前回に続いて、もう少し第38期決定戦を追ってみよう。

その終わりに村上の九連宝燈を取り上げたのだが、
コラムの原稿を提出した直後に、自分自身にある出来事が起きた。
(最大のイベント決定戦を取り上げる文中で私事を持ちだすのも気が引けるが…)

南2局 ドラ

となったのが4巡目。

点棒状況はトップ目が約30000点。ぼくは23000点の3着目。
勿論、最低でもチンイツドラ3狙いで決めてしまおうという気は確かにあった。
ところが次巡ツモ、 打で実利を得てしまいたくなる。
とはいえ、チー聴だけは取るまいとは決めていた。
そして、次巡そのツモで一瞬手が止まるが、
自分の前のヤマにめくれているドラ表に目がいく。
手が打を選んでいた…
ピンフイッツードラ3、と呪文のように頭の中で繰り返す。
自分自身にいいわけしてるのだろうか?
そして次巡なんとツモ。純正九連宝燈のテンパイ逃し。
準正(※1)は何度かあるが、純正はサンマでも1回しかない。
 すぐに出和了で、12000点を手に入れたが、
ぼくも含めて四者の目が捨て牌に連続で並んだに注がれてる。
「これでいいのか、いやいいに決まっている」と言い張る2人の自分がいる。
これは皆に聞いてみたい。どっちを選択するのか?

 さあ本題の決定戦に戻ろう。
前回では「最高位」の栄冠を手にした新井、自分のマージャンを貫いて2位まで追い上げた村上を

 中心に据えたが、今回では共にこの決定戦を盛り上げた(これは建前でない)近藤、佐藤を取り上げたい。

 まず、前最高位となってしまった近藤だが、細かく牌譜を追っての検証の前に、

 その表情、人柄に触れてみたい。(ぼくのもうひとつの趣味、読書においてもそうなのだが、その作者の生き方、人柄や伝え聞く表情なども含めて、作品全体に惹きつけられてゆき、堪能することになる)

 

 近藤も一見、冷徹ともとれる眼差しで、コツコツと牌の構成と、場への洞察を見極めていく。
金子や村上、新井などの表情の豊かさはかけらもない。その無表情さは張のそれとはまた異質だ。
張の持つ、遠くを見つめているような、我ここにあらずともとれる(失礼!)無表情さではない。
熱く込み上げてくるモノを、押し込み、自制心で鎮めたような感触を持っている。
 近藤は、Aリーグからの陥落を経験しても必ず復帰してきた。
地味ながらもマージャンへの想いは誰にも負けないという自負はあったろう。
事務局を束ね、対局以外にも裏方としても最高位戦全体を支えてきた。
そしてとうとう38期に念願の「最高位」を手にする…。
 その時の新津代表の近藤への賛辞には、内心驚かされた。
普段のシャイでクールさを装ったような(?)言動からは考えられない程、喜びを隠さなかった。
Aリーグを退いて代表を続ける彼は、事務方の大変さ、苦労をいやという程知っていたので、
彼の片腕として底辺から「最高位戦」を支えてきた近藤の戴冠を心から喜んだのだろう。

 さて今期の決定戦でも、

2日目までは手役をしっかり狙い、きっちり高目で仕上げ、好位置につけていた。
3日目にはトップなしでトータル+20ポイントとし、新井の背中が遠くなる。
そして4日目の初戦で上出来の新井とのトップラスを決め、順調なスタート!

だがこの好機を残念ながら次戦で手放してしまう。

(全体牌譜14回戦南3局0本場)

 

 

 ラス目で迎えた親番、現在2着の新井が5巡目ドラポン。
ここを落としたら、せっかくのトップラスが意味を無くしてしまう。確かに直接放銃だと大きく水をあけられるが、

10巡目

からののワンチャンスのを残し、現物の打
前巡、無筋のまでを押しながら、山に6枚残りのを見切ってしまう。
次のツモで運良くを重ね、

  でリーチ!

どうせ新井にアガリを決められたら、トップ目の村上をかわしてしまい、初戦と真逆のトップラス!
元も子もない。

ふんばってと勝負にいけてたら、のピンフリーチ。
新井にで放銃直前ので2600オールをモノにできていた。
この逸機で最悪の結果。
それ以降、防戦一方となり、勝機を見い出せないまま決定戦を終えることに…悔やまれる。

 さて、もう1人。佐藤だが、近年台頭してきた若手の中でも、發王位タイトルの連覇など評価は高い。
ところがどういうわけか、最高位決定戦に3期連続進出も。苦戦が続く。
かなり深く牌理を理解し、金子の研究会にも参加。研究熱心なのだが、決定戦では表情が硬い。
ひとつひとつの結果に顔が曇ることが多い。彼の牌質としては導入しにくいだろうが、もう少し、ノンシャラン(※2)な選択を取り入れられると、もうひとつ違う領域に進めるかも知れない。
まぁ、曖昧さといいかげんさで、日々事に対応してきたようなぼくからの見方は、相容れないかもしれない。こんなに短期間に安定して成績を残してきた佐藤。これからの活躍も間違いないだろう。

 最後に新最高位新井、本当におめでとう。
これがフロックではなく、トップに立った自覚を持って、これからを迎えるだろう正念場を乗り越え、
真の強者である事を証明して欲しい。

 

 

 ※1 純正九連宝燈ではないテンパイの形。
※2 無頓着でのんきなさま。なげやりなさま。

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