コラム・観戦記

【第38期最高位決定戦第4節観戦記】鈴木聡一郎


「配られたカードで勝負するっきゃないのさ」

かの有名なスヌーピー大先生、いや「犬」先生は、「なんであなたが犬なんかでいられるのかと、時々思うわ」というコメントに対し、上記のように答えたそうだ。

麻雀というゲームも似たようなもの。
配られた13牌、順番通りに引くことが決められた牌、それで勝負するしかない。

勝負の仕方も人それぞれ。
結局のところ、配られたカードを使い、持っている個性をぶつけ合う場所、それが麻雀だ。

ここにも強烈な個性を持った打ち手が4名。
この4名が、麻雀というリングで個性をぶつけ合う。

12回戦終了時ポイント 

新井 +207.5 

近藤 +59.6 

村上 ▲85.9 

佐藤 ▲165.4


残り8半荘。
新井が1日目に首位に立つと、その後も強烈な攻撃で圧倒し続け、3日目終了時点までで150ポイントほど2着目を離して首位をキープ。
その姿、正に戦闘神。

こんな状況下に置かれながら、4日目開始前に2着目の近藤はこう言い放った。
「ポイント差があるとは特に感じていない。思い切りぶつかっていく」

13回戦
起家から近藤→佐藤→新井→村上

東3局 ドラ
新井27900 村上36900 近藤26900 佐藤28300
2度のアガリで村上が一歩抜け出した展開。
ここから、近藤が切り込んでいく。
まずは、「自然」な手順でリーチをかけてツモ。1300/2600。


   ツモ   ウラ

南1局 ドラ
近藤32100 佐藤35000 新井17300 村上34600
南入してオヤを迎えた近藤は、村上のリーチに対して「堅実」に対応し、苦しい形ながら粘ってテンパイ流局。佐藤をかわして2着目に浮上すると同時にオヤ権を維持。


   ポン

 

短期戦では、オヤ権の維持が重要になる。
近藤も当然それをわかって抜け目なくテンパイを入れていった。

話が脇に逸れるが、ここでニコニコ生放送の画面にとあるコメントが流れる。
「ちゅーれん」
一瞬何のことかわからなかったが、流局時に映った村上の手牌と捨て牌を見て理解した。
手牌


 

捨て牌




つまり、手牌と捨て牌のピンズを合わせると下記チュウレンポウトウのリャンシャンテンになっているという意味である。


 

なるほど、面白いことを考える視聴者の方がいるものだ。
麻雀の楽しみ方は人それぞれ。
純粋にそう思い、無邪気にうれしくなる。
ただ単にそれだけのできごと。
このときは。

南2局 ドラ
佐藤32900 新井19100 村上35500 近藤32500
追いかける3者としては、新井以外の三つ巴となる理想的展開。
すると、近藤がここを勝負どころと捉え、果敢に仕掛けていく。
その仕掛けがすごい。
なんと4巡目にこの形から、オヤの佐藤が切った1枚目のをポン。



さきほどまで「自然に」「堅実に」打っていた打ち手がこのような不安定な形からをポンするのだから、近藤という打ち手は本当に掴みどころがない。

   ポン


を仕掛けてピンズのホンイツに向かった近藤の手は、12巡目にはここまで伸びたのだが、このタイミングでオヤの佐藤からリーチが襲いかかる。


佐藤のリーチを受け、西家村上が佐藤の現物を打つと、北家近藤が手を止める。


   ポン

 

「本当にこのを鳴いていいのだろうか」
そんな逡巡の後、ゆらゆらとゆっくりを脇にさらす。
そして、すっとに手を伸ばしての横に置くと、
鋭く真っ直ぐに無筋のが打ち出された。
佐藤の河は、両面ならほぼかマンズしかないという河。
もう近藤に迷いは感じられない。
確かに形は悪いが、自分の感覚を信じて前に出る。
この打という近藤の決意を見たとき、私は強烈に近藤のアガリをイメージした。
2巡後、近藤の左手が最高位連覇への道を手繰り寄せる。


  チー   ポン  ツモ

 

遠いところから果敢に仕掛けた1300/2600で、トップをもぎ取った。

自然なリーチ、堅実な受け、勝負どころでの大胆な仕掛け。
これは正に、七色に輝く変幻自在な近藤の半荘。
これで新井との差を80ポイントまで縮める。

13回戦スコア
近藤 +38.7 佐藤 +14.5 村上 ▲8.4 新井 ▲44.8 
13回戦終了時トータル
新井 +162.7 近藤 +80.5 村上▲94.3 佐藤 ▲150.9

ところで、この半荘の東4局、トータルトップの新井がミスを犯していた。
南家佐藤のリーチを受け、終盤となった17巡目。


   ツモ   ドラ

 

佐藤の河はこちら。





なお、は村上と近藤が1枚ずつ切っており、2枚切れ。
は村上と新井自身が切っていて、2枚切れ。
が当たるのは単騎待ちしかなく、も最後のを持っていた場合のカン待ちのみあり得る。
ここは、テンパイの可能性を残してひとまずを打っておき、次巡の最終手番でテンパイしたらを打つのが良さそうな局面。
新井もそのような思考であったが、打ち出したのはではなく
確かにどちらから打っても大差のなさそうな局面ではあるが、丁寧に打つべき局面でこのような小さな優劣をしっかりと追っていくのが競技麻雀の選手ではなかったか。
そして、それが新井ではなかったか。
ノータイムで打ち出されたに、佐藤の手牌が倒れる。


   ロン   ドラ   ウラ

 

これでラス目に落ちた新井は、そのまま浮上することなくラスに甘んじた。
この結果、4日目開始時には150ポイントほどあった点差が一気に80ポイントまで詰まってしまう。
しかも、自らのミスが引き金とあらば焦る。
普通なら。

14回戦
座順は村上→新井→近藤→佐藤

東2局ドラ

村上29000 新井30000 近藤28700 佐藤32300


前半荘では致命的なミスでラスに終わった新井。
挽回すべく、5巡目にカンを引いてドラ切りのオヤリーチ。


ここに真っ直ぐ向かっていった南家近藤がすぐに追いついて7巡目リーチ。


 

一気に緊張が走る。
仮にこの戦いで近藤が勝つと、トータルで一気に新井に並びかける。
どちらが勝つのか。


   ツモ   ドラ  ウラ

 

ここを制したのは新井。
逆に一気に突き放す2600オールで、トップ目に立つ。

南2局2本場 供託2000点 ドラ
新井40600 近藤21600 佐藤26900 村上28900


このまま新井がトップかと思われたが、やはり3者の照準は新井のオヤ番。
ここでは北家の村上がドラを引いて8巡目リーチ。


   ツモ  ドラ  ウラ

 

これをツモって2000/4000は2200/4200。
新井にオヤ被りさせ、村上が新井をかわしてトップに立つ。

南3局 ドラ
近藤19400 佐藤24700 村上39500 新井36400


村上にかわされて迎えた南3局。
この勝負どころで新井が授かった配牌がこれ。



ドラトイツのイーシャンテンである。
この配牌から、5巡目に佐藤が放ったをポンすると、あっさりテンパイ。


  ポン

ドラを切った佐藤は、次巡にタンピン三色のイーシャンテン。


オヤの近藤もイーシャンテンとなっていたが、10巡目にツモで少考。


   ツモ

 

新井捨て牌



 

近藤は新井のテンパイを確信し、を止めて打とする。
テンパイまでは危険牌を打ち出さない構えである。
そして、次巡にを引くと、が4枚切れで一気通貫にならないこともあり、シャンポンでリーチといった。


 

近藤はをツモ切ってアガリを逃した後、で新井に放銃となる。


   ポン   ロン

 

結果的には、近藤がイーシャンテン時にを勝負していれば、で先にアガっていたことになる。
近藤の、他家のテンパイ速度に対する正確な嗅覚が仇となってしまった形。
これで近藤はトータルでも大きく後退してしまう。

逆に新井はこれで再びトップ目に返り咲いてオーラスをむかえる。


南4局 ドラ
佐藤24700 村上39500 新井45400 近藤10400


西家新井の8巡目


   ツモ

 

ここから完全イーシャンテンを崩して打とする。


が3枚、が1枚切れており、いずれにしてもが残らないと勝負にならないと踏んだのだろう。
この手牌では役がつかないため、リーチにいくことが前提となっており、リーチにいくのであれば、ぐらいにならなければ不満。
実に冷静。
かつ、傲慢だ。
すると、Arayの選択に牌が呼応する。
次巡にツモ


   ツモ

 

は生牌で、ソウズの下が良さそうなため打としてピンズに見切りをつけると、次巡に狙い通りのツモでリーチ。
これを一発でツモると、ウラがで2000/4000。


   ツモ  ドラ  ウラ

 

終わってみれば、トップ争いをしていた村上に対し、さらに10000点差を一瞬で上乗せしてあっという間に大トップまで突き抜けた。

傲慢な攻撃の嵐。
天変地異のような、戦闘神Arayの破壊的半荘。

新井が再びポイント差を200近くまで押し返す。

 

14回戦スコア
新井 +53.4 村上 +17.5 佐藤 ▲19.3 近藤 ▲51.6
14回戦終了時トータル

新井 +216.1 近藤 +28.9 村上 ▲76.8 佐藤 ▲170.2

 

 

15回戦
座順は村上→新井→佐藤→近藤

東1局 ドラ
オヤ村上の3巡目。


   ツモ

 

通常であれば両面になりにくいのペンチャンを外すところだが、たった2巡の河情報が加わると、選択が生まれてくる。
村上

新井

佐藤

近藤

村上はを切ってソウズのカンチャンを外しにいく。
近藤の1巡目2巡目が手出しのであり、を持っている確率が非常に低い。
検証したわけではないが、近藤がを持っている確率は1%以下だろう。
1人がほぼ確実に持っていないという情報を軸に、カンチャンからの両面変化を捨ててまで、村上は変化の乏しいペンチャンを残した。

 

6巡目にも分岐点。


    ツモ

 

と同様に新井が1巡目にを打っており、持っている可能性がわりと低い。
また、4巡目という早い巡目に佐藤がを打っており、若干ながらを持っている可能性が低くなっていそうである。
そのため、、ドラであるの受け入れを嫌ってでも受けを残す打
すると、これがピタリとはまり、わずか3巡後に一発ツモで4000オール。


   ツモ   ドラ  ウラ

 

村上らしい門前のアガリが炸裂した。

東1局1本場 ドラ
しかし、ここで黙っていないのが前半荘で目を覚ました戦闘神Aray。
新井はわずか4巡でこのリーチ。


 

流局間際に最後のをツモって3000/6000は3100/6100。
たった1局でまくっていく。

しかも、流局を挟んで迎えた東3局1本場で、北家新井はあっという間にマンガンのテンパイ。


    ポン   ドラ

 

またこのまま突き抜けてしまうのかと思っていると、近藤からリーチ。


 

マンズの下が安く、この1枚切れのがヤマに2枚残っている。
新井も全く退く気はなく押していくが、すぐに近藤がをツモって3000/6000返し。
新井との直接対決を制して近藤がトップ目に立つ。

東4局 ドラ
近藤36500 村上30800 新井34500 佐藤17800


前局の近藤のアガリで3者が12000をツモって混沌としてきたトップ争い。
その争いから1人だけ取り残された感があるのが、今決定戦で不運の続く佐藤だ。
今回も佐藤が貧乏クジを引かされてしまうのかと思いきや、ここから駆け上がったのは意外にも他ならぬ佐藤であった。

北家佐藤の8巡目。


   ツモ

 

目一杯に構えるのであれば打だが、が3枚が1枚切れてしまっているため、マンズは受けより縦のトイツ・トイツとして使いたい。
また、ソウズはを自分で切っているものの、ドラの重なりやを引き戻してのを引いてのフリテンなどの変化を求めたい。
ドラが1枚入ったことで打点的にも十分である。
佐藤はこれらを総合し打を選択する。
これは実に優れた一打。
自分でを切っていないのであれば自然な一打にも見えるが、自分でを切っている状況でもなおを選択できる辺り、常に変化を探究する佐藤らしさを感じ、心が躍る。
次巡にを引いてリーチを宣言。


 

佐藤の河にはが切られており、は狙い目。
結果的に前巡を打って目一杯に構えていればイーペーコーも付いていたが、そんなイーペーコーより、こちらのテンパイの方が価値がある。
前巡の河にが落ちていてイーペーコーが崩れていることに、佐藤がここに座っている意味があると思うのである。
佐藤のリーチに対し、チートイツをテンパイした近藤がリーチ宣言牌で飛び込み、ウラ1で8000。


    ロン  ドラ  ウラ

 

佐藤、まずはトップ目近藤を討って持ち点を回復させる。

南2局1本場供託2000点 ドラ
新井34400 佐藤26300 近藤27000 村上28300


トップ目新井が13巡目にオヤリーチ。


 

同巡、2着目の村上が追いかけリーチ。


 

どちらも打点のある本手リーチで、しかも供託が4000点あるため、どちらがアガってもこの半荘の決め手になるだろう。

2人の戦いになるかと思いきや、ここでスッと割って入ったのが佐藤。
新井がツモ切りしたをチーすると、次巡にを手元に滑り込ませた。


   チー  ツモ

 

アガリに対する嗅覚と瞬発力。
打点は300/500だが、供託を含め佐藤は持ち点を30000点に戻して2着浮上する。

南3局 ドラ
佐藤30700 近藤25600 村上27900 新井34400


持ち前の瞬発力で、じわりじわりと差を詰め、ついに2着目まで上がってきたオヤの佐藤。
チートイツで待ち頃の牌を探っていたが、10巡目に2枚切れのを引いたところでリーチ。


 

これといった特徴のない河で、ちょうど全員にとって嫌なタイミングでのリーチ。
この辺りの間合いの取り方は佐藤の得意分野。
しっかりと相手がイーシャンテン~リャンシャンテンの間にリーチをかけていく。
また、村上が同卓である点も2枚切れ字牌単騎を少し後押ししているのではないだろうか。

村上は一発で放銃することを極端に嫌い、1~2枚切れの字牌を1枚抱えながら手を進めるケースが圧倒的に多い。

そのため、村上がいる卓では2枚切れ字牌単騎のアガリ率が若干高くなっているのではないだろうか。

この時点では誰もを持っていなかったが、佐藤の読み通り、テンパイしていない3者はここからオリていく―はずだった。
しかし、佐藤の読み通りイーシャンテンであった近藤に、不運にも同巡テンパイが入ってしまう。


   ツモ

 

が4枚が1枚切れているが、持ち点が少ないため近藤も追いかけリーチに出る。
こうなってしまうと佐藤としてはかなり嫌な感じだが、終盤に近藤がを掴んで決着。
ウラが乗っての12000で、佐藤がついにトップ目に立つ。


   ロン  ドラ  ウラ

実は今局、佐藤のリーチが1巡でも遅れていたら、おそらく手をまっすぐに進めた新井がこんなアガリを拾っていた。


   ツモ

 

倍満のオヤ被りだったところを、間合いの取り方一つで逆に12000のアガリを取ってトップ目に立ってしまう。
この辺りの切れ味がいかにも佐藤らしい。

鋭い攻撃を繰り出し、いつの間にか卓上のアガリをさらっていく。
静かに躍動する、華麗なる佐藤の半荘。

 

15回戦スコア

佐藤 +43.9 新井 +21.6 村上 ▲18.4 近藤 ▲47.1
15回戦までのトータル

新井 +237.7 近藤 ▲18.2 村上 ▲94.9 佐藤 ▲126.6

 

 

16回戦
座順は村上→新井→佐藤→近藤

東1局 ドラ
佐藤が引き続き好調を維持し、仕掛けて1000/2000。


   ツモ  チー  ポン

 

2連勝へ向けて好発進を決める。

東3局1本場 ドラ

佐藤35500 近藤27500 村上29500 新井27500

 

8巡目に西家村上からリーチ。


 

これに対して正面から殴り込んでいった新井が下記手牌からツモ切りで3900は4200を放銃する。


   ツモ

 

すると、この直撃から、村上の代名詞でもある「門前」による攻撃が決まり始める。

東4局 ドラ
近藤27500 村上33700 新井23300 佐藤35500 


南家村上は8巡目に門前でホンイツのテンパイを果たす。


   ツモ

 

1枚切れのを使ったアガリを目指すのであれば、いったんカンに受け、引きでシャンポンに受ける手はある。
手役的にもイーペーコーが付いてマンガンになるため、それが良さそうである。
しかし、その変化の種が2枚切れ、が1枚切れという状況を考えると、有力な変化はになる。どうせを待つのであればでアガれる方が良い。
また、が3枚、が4枚と枚数的にもの方が多い。
さらに、変化を待つのであれば1枚切れのを待つ方が良さそうである。
村上はイーペーコーを拒否してカンに受けると、近藤がツモ切りしたできっちり最速の5200に仕上げた。


   ロン

南2局1本場供託2000点 ドラ
新井23500 佐藤33700 近藤21900 村上38900 


村上を追いかける佐藤が、6巡目に

 

 

からをポンして打
すると、このに村上が静かに手牌を倒す。


   ロン

 

ピンフのみだが、佐藤の大物手を潰し、供託も獲得してトップの地盤を固める。

南3局 ドラ
佐藤32400 近藤21900 村上42200 新井23500


しかし、ここで佐藤が再び逆襲。
ホンイツを見ていた北家新井が下記から7巡目にドラ切り。


   ツモ

 

このドラをオヤの佐藤がポン。
さらに次巡、新井がすでに2枚切っていたをツモ切りすると、佐藤がの両面でチー。
その直後、新井が自ら4巡目に切っているをツモって手の内に入れる。
2巡後には佐藤の捨て牌はこう。



 

のチー出しがで、その後2巡ツモ切りしている。

ここで新井がツモ


   ツモ

 

佐藤はタンヤオの可能性が高いだろう。
というより、相当疑っても私にはタンヤオにしか見えない。
新井も、やや打牌が強めにはなったものの切り。
すると、佐藤からポンの声が聞こえるのだから驚く。


   ポン  チー  ポン

 

そして、ポンと同時に佐藤の手の内からが打たれた。
ここで人はようやく斬られたことに気付く。
この
このをテンパイまで引っ張ったのはファインプレーだ。


仮に、佐藤の河が下記ならどうだろう。




チーの後、を連続手出しされれば、それなりに翻牌の存在が匂い立つ。
また、チー出しの後ツモ切りを続けることで、タンヤオのテンパイに見せ、他家の打牌をかなり制限することができる。
制限するとはすなわち、打牌をヤオチュー牌と現物のみに縛るということである。そのような縛りを入れれば、当然の切られる確率も上がる。
不要なを懐に忍ばせ、相手をコントロール。
そして、大きなアガリをものにした。


   ツモ ポン  チー  ポン

 

この4000オールで佐藤がトップ目に返り咲く。

南3局1本場 ドラ
佐藤44400 近藤17900 村上38200 新井19500


このまま佐藤と村上の一騎打ちになることを想像したが、この男が黙っているわけがない。

3着目に甘んじていた新井だ。


新井は6巡目にチートイツをテンパイする。


   ツモ

 

この半荘こそ3着目だが、トータルではダントツ。
ドラ切りで単騎に受け、局を進めることに徹しても何の不思議もない。
が、新井は当然切りのドラ単騎を選択。
しかも、当然のようにリーチを宣言。
この時点でヤマには残り1枚。


   ツモ

 

その1枚をツモって3100/6100に仕上げてしまうのだから強い。
これでこの半荘でも新井がトップ争いに加わってきた。

南4局 ドラ
近藤14800 村上35100 新井31800 佐藤38300 


そしてオーラスをむかえると、新井が6巡目にリーチを宣言するのであるから、観ている方からすると、否が応でも新井のトップが頭をよぎる。


 

しかし、これはオーラス開始の合図にすぎなかった。

新井のリーチに対し、村上が一発目にノータイムでドラのを投げる。
一瞬、時が止まった気さえした。
一発放銃を極度に嫌う村上が、守備の堅いあの村上が、一発目にドラ切りで、しかもリーチを宣言しない。
この状況は、はっきり言って異常。


ふと、本日1回戦目に流れたコメントを思い出す。
「ちゅーれん」
村上の手牌を見る。



ここまでくれば、誰もが思う

―「ちゅーれん」。
コメント欄がチュウレンポウトウを匂わすコメントで埋め尽くされる。
解説席も大興奮。
村上が無筋をいくつも切り飛ばす。
しかも、リーチをかけずに。
誰が見ても明らかにテンパイしている。
だが、ダマテンで、ノータイムで全ツモ切り。


新井は嫌だろう。
私なら逃げ出したくなる。
異常事態を察知し、佐藤も静かに2人の現物待ちでテンパイを入れる。


 

しかし、佐藤の素早い太刀が届く一歩前、村上の大きな一振りが決まった。


   ツモ

 

紛うことなき8000/16000で、紆余曲折あった半荘を村上が制した。

超絶門前派の村上が、門前でのアガリのみを積み重ね、門前でしかアガることのできない最高打点の手役で締めくくった。
一つの太刀で王道を切り拓く、荘厳な村上の半荘。

 

16回戦スコア

村上+68.1 佐藤+10.3 新井▲17.2 近藤▲61.2
16回戦終了時トータル
新井+220.5 村上▲26.8 近藤▲79.4 佐藤▲116.3

 


四者四様の色を出し切り、各々1回ずつトップを分けた4日目。
しかし終わってみれば新井が差を広げていることに気付く。
なんという攻撃力なのだろうか。
戦闘神Arayの攻撃力はハンパじゃない。
攻め切って、結果的にリードを守っている格好だ。

しかし、対局が終われば戦闘神の顔はどこへやら。
丁寧にインタビューに応える優しい新井がいるだけだ。

 

 

どこか似てませんか?

「ぼくは犬以外のものになりたいなんて思ったことないな」byスヌーピー

持った個性を信じてぶつけ合う最高峰の戦い、最高位決定戦も残すところあと1日。
「おれはおれ以外の打ち手になりたいなんて思ったことないよ。そして、おれが最高位だ」
4者とも、一切の疑いがない。

文 : 鈴木聡一郎

 

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