コラム・観戦記

「最高位戦プロアマリーグ2021決勝」観戦記

『それぞれのスタイルと戦歴の間で:威厳vs忍vs若武者vs王道』

 どんな戦いの舞台でも、その頂点が決する場には独特の緊張感がある。
それまで積み重ねてきたものを、最高の形で手にする未来と、一瞬でそれらが崩れ落ちる未来のどちらかを、眼前で見届けることになるから。
最高位戦プロアマリーグ2021。アマチュア選手4名が駒を進めることとなった2年ぶりの決勝の舞台には、感染症の影響で観戦者はいない。今回の決勝進出者4名は、新進気鋭の若手2名vsタイトル歴のあるベテラン2名の構図となった。
四者四様のスタイルを見せる彼らの麻雀は、どのようなぶつかり合いを見せるのか。

採譜担当4名と観戦記者、立会人。

6名のスーツを着たプロに囲まれ、互いに息遣いまで聞こえる静けさの中、戦いが幕を開ける。

 

1回戦

座順は起家から、牧野 卓人-水沼 利晃-小寺 勇輝-小林 大祈(以下文中敬称略)。

 

【東1局:河の圧力】(親:牧野、ドラ

東1局から局面が動く。
2巡目に西家・小寺が切り出したダブTを親の牧野がポン。ドラが使いやすい4とあって、ポンされた時点で周囲はかなり警戒しながら打ち進めることが必要になる。
特に親の牧野は、アマ最高位や日本プロ麻雀連盟主催「麻雀マスターズ」等の戴冠歴のあるベテラン選手。打ち筋は互いに把握していなくとも、重厚な雰囲気が十分な威圧感を醸し出していた。

一方で、親の上家で厳しい立ち回りが予想されていた北家・小林は6巡目にこの形。

 

 

・混一色の満貫から役満・大三元まで見える勝負手である。
南家・水沼から打ち出されたをポンして、打とした。

もちろん自己都合であれば1枚切れのを残し打としたいところだが、親の牧野はこのときすでにポンの他を両面でチーしてこの河。

 

はツモ切り、ポン打チー打)。

 

のターツ落としに加え、中張牌がバラバラと切られており、一向聴~聴牌まであるかもしれない。
等、索子の複合系からの先切りは考えにくいため、この瞬間が当たるのであれば概ね2,900だろうが、自身の手が愚形残りの三向聴ではあまりにも見合わない。
その後中をポンして打。これが親の牧野にチーされチー出し。この時点でが当たる可能性がほぼ消えた。

あるとすれば、からの待ち変えになるが、2巡前に他家から切られたを見逃していることになる。

結局この局は、親の仕掛けにうまく対応しながら進めた小林が、リーチの水沼から8,000を捉えてリードを築く展開となった。

さて、小林の警戒対象であった東家・牧野の手の答え合わせ。
と河に並んで、手牌はこちら。

 

  

 

かなり手狭に構えて、守備力を意識した手組である。想像される中では打点・形ともに最低の部類に入るだろう。このスタイルが吉と出るか凶と出るか。

1回戦東1局終了時(カッコ内はトータル)
小林 39,000(±0.0)
牧野 30,000(±0.0)
小寺 30,000(±0.0)
水沼 21,000(±0.0)

 

 

【東2局1本場:忍!】(親:水沼、ドラ

この局、リードを持った西家の小林が早々に西バックと混一色の二段構えで両面チーを入れるが、そこから局面が動かない。
そんな中、こっそり聴牌を入れていたのは親の水沼。対子1つの配牌からスルスルと牌を重ねていくと、11巡目に聴牌。

 

 

場況は絶好。すぐに小林が掴んで放銃。
闇に忍んだ水沼が、12,000は12,300の大きな加点をこっそりと奪い取っていった。
水沼はこの和了を含め、鋭い嗅覚で手役を作り、ニクい黙聴を使ってくるタイプ。2012年の最強位は、他家の動向を伺いながら、不意によく研がれた手裏剣を投げてくる忍びである。

 

1回戦東2局1本場終了時(カッコ内はトータル)
水沼 37,200(±0.0)
牧野 28,700(±0.0)
小寺 28,700(±0.0)
小林 25,400(±0.0)

 

 

【東2局2本場:若武者の攻め】(親:水沼、ドラ

前局の放銃で一転ラス目となった小林が、5巡目に1枚切れのカン待ちの役無しドラ無しでリーチ。

 

 

このリーチからもわかるように、小林はこの日の対局者の中で一番の攻撃型。初めて触れたのが競技麻雀というサラブレッドは、ここぞで踏み込む度胸を兼ね備えた若武者だ。

しかし、このは南家の小寺の手に暗刻で山に0。リーチを受けた同巡の牌姿がこちらである。

 

  ツモ

 

跳満から倍満まで見える2シャンテン。ただ、小寺は変則手にも見える小林の河に生牌の字牌を警戒したか、ここは現物のを切った。

(小林の河。※はツモ切り。の間に、をツモ切っており、北家の牧野がポンしている。)

 

結果としては次巡ツモで1シャンテン、すぐに小林からがツモ切られ、跳満のポンテンを逃す格好となった。
決勝の短期戦では、1度の放銃が大きな傷となるが、1度の和了が大きなアドバンテージとなるのもまた事実。リーチのみで一人聴牌をもぎ取った小林と、清一色の聴牌を逃した小寺の明暗が分かれる1局となった。

 

1回戦東2局2本場終了時(カッコ内はトータル)
水沼 36,200(±0.0)
牧野 27,700(±0.0)
小寺 27,700(±0.0)
小林 27,400(±0.0)

 

【南1局:僕の我慢がいつか実を結び】(親:牧野、ドラ

その後、牧野のタンヤオのみ、水沼のツモのみの和了で局が進み、点棒は平たいままで南場を迎える。
迎えた南1局、親の牧野がリーチのみカン待ちで勝負。

 

 

これに向かっていったのは、ここまで我慢を続けていた西家の小寺。リーチ前に場風のをポン、リーチ後にをポンして親の現物待ちの満貫聴牌。

 

  

 

ここまで引き気味に打っていた小寺だけに、5枚見えの待ちでその後どこまで押していくのかと見ていたが、残りの3枚はすべて山。
リーチをかけていた牧野からを捉え、8,000+供託1の大きな加点となった。

 

小寺はこの日、最高位戦ルールの基本に忠実な、守備的な打牌選択が目立つ選手であった。
最高位戦のプロアマをきっかけに競技麻雀を始めたという彼は、今年Classicプロアマでも準決勝まで駒を進めた。ルールへの適応能力が高い選手である。

その後、南2局は流局。

南3局1本場に親の小寺がリーチを受けながらも2,000は2,100オールでリードを奪うが、南3局2本場は3着目の小林がトップ目の小寺から5,200は5,800を打ち取る。混戦模様でオーラスを迎えた。

1回戦南4局開始時(カッコ内はトータル)
小寺 36,800(±0.0)
水沼 34,600(±0.0)
小林 30,500(±0.0)
牧野 18,100(±0.0)

 

【南4局:大爆発!】(親:小林、ドラ

東1局の満貫、南3局2本場の5,200と、効果的に和了を重ねてきた小林は、上位に食い込める可能性のある3着目に位置取ると、勝負のオーラス親番でドラの組み込まれた好配牌を手にする。

 

 

ここからドラの重ねるなど順調に手を進め、6巡目に選択。

 

 

上2人が競っているだけに、ドラをポンしてのタンヤオをみてと落とす構想もあるが、ここは素直に両面2つの1シャンテンに取る七の対子落としを選択した。
結果的にこれが功を奏し、リーチ・ツモ・ドラ2の4,000オール。
その後1本場にも2着目小寺から・ホンイツの5,800は6,100を直撃し勝負あり。1回戦は効果的な和了を重ねた小林がものにした。

 

1回戦終了時
小林 +48.6
水沼 +13.2
小寺 △15.9
牧野 △45.9

 

 

2回戦

座順は起家から小林-小寺-水沼-牧野。

【東1局2本場:イケイケドンドン】(親:小林、ドラ

東1局から、1回戦の勢いそのままに小林が6巡目にリーチ・ピンフ・ドラ・さらに高目もドラのリーチを掛けるが、北家の牧野に同じ待ちで追いつかれ結果は流局。
更に1本場も流局で迎えた2本場、小林がオリジナルの手順を見せる。13巡目、ツモり四暗刻の1シャンテンとなっていた牧野からドラのが切られると、小林が動き出した。

 

 チー

 

いわゆる喰い替えの手順(厳密にはここからチー打としているので、もちろん規定において禁止される喰い替えとは異なる)。
シャンテン数は変わっていないが、役ありに受けるとともに他家からの警戒も誘う。
この後、無事に2,900を牧野から出和了したのだが、ここまで積まれてきた供託や本場も含めると6,500点。満貫級の加点となった。

 

2回戦東1局2本場終了時(カッコ内は1回戦のトータル)
小林 38,500(+48.6)
牧野 27,500(△45.9)
水沼 27,000(+13.2)
小寺 27,000(△15.9)

 

【東4局2本場:親番維持へのルート】(親:牧野、ドラ

その後、流局を挟んで東1局4本場に牧野がリーチ・一発・ツモ・タンヤオで意地の満貫を和了すると、そこから煮え切らない展開が続く。
流局・牧野500/1,000ツモ・流局・流局。再び溜まっていく本場と供託。

2本場供託2の状況から、親の牧野が仕掛けだす。2巡目に以下の牌姿。

 

 

素直に手を進めても、リーチのみになる可能性が極めて高く、聴牌できるかも怪しい。それならばと、打ち出されたをポンして打
ホンイツの僅かな可能性よりも、一応のの後々づけと、周りが対応している間に形式聴牌に持ち込めることを優先した。
その後すぐに切られた北をポン。
4巡目にして形式聴牌の1シャンテン…かと思いきや、ここからと両面ターツを払って形を崩す。

さすがに、形式聴牌でここからあと15巡もの間突っ張っていくのは分が悪い。一度見切ったホンイツやトイトイも残しつつ、安牌候補のは手に残した。

 

しかし、これを他家は黙って見ているわけにも行かない。8巡目、西家の小寺がドラドラの聴牌を入れてリーチ。

 

 

これを3巡後にツモりきり、リーチ・ツモ・一盃口・ドラ2の満貫に仕上げた。結果、牧野としては大物手の親被りという最悪の結末で親番を手放すことになってしまった。

 

2回戦東場終了時(カッコ内は1回戦のトータル)
牧野 40,300(△45.9)
小林 30,800(+48.6)
小寺 28,100(△15.9)
水沼 21,800(+13.2)

 

【南1局:強心臓】(親:小林、ドラ

ここまで、1回戦のトップに縮こまらずに勝負を打っている小林にご褒美が訪れた。配牌からホンイツドラドラが丸見え。

 

 

順調にと鳴けたものの、1シャンテンの7巡目に競っている3着目の小寺から平和・一盃口・高目ドラのリーチ。

同巡小林にも聴牌が入ると、一発目に無筋のを真っ向勝負。その後も両無筋のを通す。この親の猛プッシュに対し危険牌のを掴んだのは水沼だった。

 

 

小寺のリーチにはが早い上、小林の待ちは読みきれない。
が当たればドラまたぎ、オタ風のから仕掛けている小林には混一色が濃厚ではあるのだが、かといってピンズの両面待ちと仮定しても残りは4筋ある。

自身は現状ラス目、平和三色の1シャンテン…水沼はをそっとツモ切った。

「ロン」発声の主は小林。

  

 

白・ホンイツ・ドラ2の12,000+供託1を加点し、一気にトップ目に躍り出た。

水沼は終戦後、このを敗着として挙げた。

「あそこで決まったかな。我慢できていればね。」

とはいえ平和三色の勝負手はそうやすやすとおりられないだろう。勝負の神様は、あっけなく、12,000の点棒とともに水沼のもとから去っていった。

 

一方この手を和了した小林は、1戦目トップのあとにも「いつも通りの麻雀が打てた」と振り返る。他3名が守備型なだけに、攻撃派の小林のスタイルは決まったときに大きい。決勝の舞台とうまく噛み合ったと言えるだろう。しかし、23歳の若武者が、決勝の舞台で「いつも通り」というのもすごい。

 

2回戦南1局終了時(カッコ内は1回戦のトータル)
小林 43,800(+48.6)
牧野 40,300(△45.9)
小寺 26,100(△15.9)
水沼  9,800(+13.2)

 

【南1局1本場:食い込む跳満】(親:小林、ドラ

南1局1本場は、南家・小寺が素直な手順で作り上げた10巡目にリーチ・平和・ドラ・高目三色をリーチすると、これを最終手番でツモ。3,000/6,000は3,100/6,100で一気にトップ目。
トップ争いに一気に食い込む跳満となった。

普通、観戦記というのはこういう大物手を丁寧に取り上げるものなのだろうが、いかんせん局数と思考量が多い。

これも決勝の舞台まで登り詰めた4名のなせる技である。

その後は、小寺の1,300オール、牧野の1,000/2,000は1,100/2,100が続きトップ争いは小寺と牧野の熾烈な勝負。
流局の後、牧野が6巡目にリーチをかけ、ツモ・平和・ドラ・裏の2,000/4,000は2,100/4,100で一歩リード。オーラスを迎える。

 

2回戦南3局1本場終了時(カッコ内は1回戦のトータル)
牧野 48,500(△45.9)
小寺 37,100(△15.9)
小林 32,200(+48.6)
水沼  2,200(+13.2)

 

【南4局1本場:後悔のリーチ】(親:牧野、ドラ

南4局にも4,000オールを和了した牧野がこの局のトップをほぼ確定。暫定ではあるが、順位点を含めるとトップの小林と21.2ポイント差のトータル2着目に立った。

 

これでこの半荘の牧野のテーマは、

① 素点を伸ばすこと。1戦目に4着を引いているだけに、なるべく素点でカバーして最終戦の条件を楽にしておきたい。
② 小林の着順を上げないこと。このまま行けば、最終戦はほぼ小林との着順勝負だが、小林が2着に上がると条件が厳しくなる。
特に今局、小林と小寺の差が3,900点であるため、小林の1人聴牌や小寺の1人ノーテンだと順位が入れ替わる。2人の聴牌気配にも気を配りながらの進行が必要。

この2つに絞られた。そしてこの局が、後に開口一番牧野が反省を口にした局となる。

難しい立場に立たされた牧野は、8巡目に平和のみの一四待ちで聴牌。これをリーチとした。
リーチ棒を出すことは小林が着順を上げる条件を軽くする(3,200や700/1,300の和了が条件を満たすようになる)上、流局時に聴牌を宣言するかどうかを選ぶことができなくなる。更に牧野は小林の上家。小林の仕掛けに対し、どこまでも無防備になる可能性もある。

 

その頃小林は勝負手を手にしていた。リーチがかかった3巡後に平和・ドラ2の聴牌。

 

着落ちリスクのない小林が押し切り、リーチの牧野から3,900は4,200を和了。小林が他家に厳しい条件を押し付けて、最終戦を迎えることとなった。

2回戦終了(カッコ内は2回戦までのトータル)
牧野 +56.3(+10.4)
小林 +13.4(+62.0)
小寺 △7.9(△22.9)
水沼 △61.8(△48.6)

<条件>
小林:牧野より上ならほぼ優勝。
牧野:小林とトップラス、2着順差かつ素点11.6ポイント差、1着順差かつ素点31.6ポイント差のいずれか。
小寺:小林とトップラスは必須か。その上で牧野を3着、もしくは素点13.3ポイント差以上の2着に。
水沼:水沼-小寺-牧野-小林の並びは必須。そのうえで小林とは50ポイント以上の素点差が必要。

 

3回戦

座順は起家から小寺-牧野-水沼-小林。

 

【東1局:変わらぬ姿勢】(親:小寺、ドラ

同日に行われた準決勝を含めると、5半荘目。タイトル戦の緊張感の中で、流石に各者疲労が見え始める。
しかし、小林の攻めの姿勢は3戦目に入っても変わらなかった。親の第1打のを北家のこの形でポン。

 

 

最高位戦プロアマリーグでは、自動配牌ではなく取り出しで配牌を取る。
北家が13枚目の配牌を取ると同時に親は第1打を切り出すことができるため、北家には1巡目に出る牌を仕掛けるかを判断する時間の猶予があまりない。もちろんポンして1シャンテンのは鳴いていくのが定石だが、トータルトップ目からいきなり親の安牌を消費して手を短くする選択ができるのは、小林の勇気と準備の賜物だろう。

 

ただ、結果としてはこの選択が裏目に出た。その後首尾よく1,000点の両面聴牌に1番乗りできたところまでは良かったが、親の小寺が8巡目にドラ1のカン待ちリーチ。同巡小林が打ち出したが一発放銃。

小林以外の3人共に嬉しい小寺の7,700が成就した。

 

最終戦東1局0本場終了時(カッコ内は2回戦までのトータル)
小寺 37,700(△22.9)
牧野 30,000(+10.4)
水沼 30,000(△48.6)
小林 22,300(+62.0)

 

【東3局:場況が良くても】(親:水沼、ドラ

東1局1本場は牧野の500/1,000は600/1,100ツモ、東2局は小林の積極的な1,000点の仕掛けで流れた東3局。苦しい条件の水沼だが、諦めてはいなかった。
じれったい展開の中、13巡目にしてなんとかタンヤオ・七対子・ドラ2の聴牌を入れる。選びぬいた、場況絶好の単騎。13巡目にして山に2枚は上等だろう。

 

 

しかしそのは、水沼のツモ山にはいなかった。山にいたって、ツモれなければただの流局。水沼の起死回生のリーチは空振りに終わった。
次局は牧野と小林の早い仕掛けに挟まれノーテン。水沼の親は残り1回になった。

 

最終戦東3局1本場終了時(カッコ内は2回戦までのトータル)
小寺 33,600(△22.9)
水沼 31,400(△48.6)
牧野 31,300(+10.4)
小林 22,700(+62.0)

【南2局:食らいつけ 今再びの タンピン三色】(親:牧野、ドラ

東4局2本場には、小寺がドラドラの水沼から5,200は5,800を和了してトップ目に立つも、その小寺の親番南1局は水沼がフリテン待ちのツモで1,300/2,600の加点。

優勝のために得点を重ねたい小寺の親番があっさりと、しかもちょっと痛い打点で流されてしまう。

南2局、親の牧野から早いリーチが入る。

願ってもない早くて高打点のリーチ。
ただ、は運悪く小林の手に2枚。潤沢に蓄えた安全牌はが流れ出るのを防ぐ。手の悪い水沼もオリに回った。小寺も么九牌を切り、オリに回っている…かと思いきや7巡目にリーチ。

場面はもつれたが、牧野の最終ツモは小寺の当たり牌だった。

 

 ロン

 

裏も1枚乗って、12,000の牧野にとっては手痛い放銃。一方の小寺は、手が入ったときにはきちんと攻めて行ける強さを見せた。

南3局は局を回したい小林がタンヤオ・ドラの2,000をあがっていよいよオーラスを迎えた。

最終戦南3局終了時(カッコ内は現時点での暫定トータル)
小寺 52,800(+29.9)
水沼 27,800(△40.8)
小林 22,400(+44.4)
牧野 17,000(△32.6)

<条件>
小林:親番なので伏せれば(流局時ノーテンを宣言すれば)優勝。
小寺:跳満ツモ or 6,400以上を小林から直撃。
牧野:三倍満ツモ or 役満を水沼以外から直撃。
水沼:役満ツモ or 役満を小林から直撃。

 

【南4局:Winning Run】(親:小林、ドラ

いよいよ最後の局が始まった。各者の配牌は以下の通り。

東家・小林

ほぼ伏せに行く状況。ただ、小寺以外の2人が国士など么九牌の絡んだ手役を狙う可能性があるため、安全牌を慎重に選ぶ必要がある。

南家・小寺

索子の染め手が本線。ドラも絡むので、門前で仕上がれば跳満の可能性は十分。

西家・牧野

萬子の清一色・平和・一気通貫・一盃口など、もしくは清一色・七対子・ウラ2をツモると三倍満条件に手が届く。国士と天秤にかけながらの進行。

北家・水沼

6種7牌だが、国士を見るしかない。

ここからの18巡は、短いようで長い。
特に現実的な条件が残る小寺と、残す牌を間違えられない小林からはこれまでの疲れと緊張感が伝わってきた。

小寺は索子へ、小林は早々にオリ。下家の小寺に索子を1枚も下ろさずに、そして万が一の役満にも振り込まないように。

1巡ずつ、優勝が近づく。

小林に安堵の表情が見られたのは、17巡目、4枚目のが南家の小寺から切られたときだっただろうか。
それまでも、そして最後の1牌まで、気を抜かずに牌を選び続けた小林が手牌を伏せる。続いて他3者も順に、白旗を揚げるようにして、手牌を伏せた。

最高位戦プロアマリーグ2021・優勝は小林大祈

小林は最初から最後まで戦い抜いた。
聞けば麻雀を初めて5年ほどという23歳の小林が、数多の参加選手を倒して頂点に立った。

優勝後のインタビューで小林は、「プロになりたい」と語った。
願わくはその団体が最高位戦であるといいなと思う。

「大」きな「祈」りの名を持つ彼の麻雀は、さらなる高みを目指していることだろう。

 

最高位戦プロアマリーグ2021決勝 最終スコア

順位 選手名 Total 1回戦 2回戦 3回戦
1 小林 大祈 43.4 48.6 13.4 ▲ 18.6
2 小寺 勇輝 28.0 ▲ 15.9 ▲ 7.9 51.8
3 牧野 卓人 ▲ 33.6 ▲ 45.9 56.3 ▲ 44.0
4 水沼 利晃 ▲ 37.8 13.2 ▲ 61.8 10.8

 

写真左より、小寺勇輝(第2位)・牧野卓人(第3位)・水沼利晃(第4位)

 

(文 後藤 悠)

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