コラム・観戦記

第10期女流最高位決定戦・初日

最高位戦が近代麻雀主催の誌上企画として端を発してから今期で35期目。

そして史上初の女流プロリーグとして誕生したこのタイトルも、今期で記念すべき10度目の決定戦を迎えることになる。

 


~第10期女流最高位決定戦・観戦記~

 

 

 

今更説明も不要かもしれないが、現女流最高位を紹介させて頂こう。
目下同タイトルを5連覇中の「永世女流最高位」根本佳織。
根本佳織

 


定義の解釈はいくつか分かれる部分もあるだろうが、競技麻雀界では1970年代初頭から今日に至るまで多種多様のタイトルが催されてきた。
その歴史の中で従来の同一タイトル連覇記録は、現日本プロ麻雀連盟会長・灘麻太郎氏の王位(10~13期)、及び現最高位・飯田正人選手の最高位(14~17期)の4回が最高となる。

 

大会システムや時代背景は違えど、昨年根本が成し遂げた記録は偉大なる先人達を超える偉業と言って良い。

 


その女王に立ち向かう今年の挑戦者は以下3名。

石井あや
鳥越智恵子
いわますみえ

 

いわま、涼崎、和田と全員が女流最高位決定戦のリピーターであり、歴代最強レベルと言っても差し支えの無かった昨年の挑戦者3人。
その中から唯一今年も決定戦まで辿り着いたいわま、経験値的にも打倒根本の最右翼となる存在である。

 

共に入会歴が浅く、初の女流最高位決定戦進出となる残りの2名だが、既に他のタイトルで大きな戦績を残している石井。
対してこれまでほぼ無名の鳥越と、両者が対称的に思える点も興味深い。

 

※決定戦前インタビューはこちら

 

 

8半荘という短期決戦。誰が優勝してもおかしくはないが、やはり焦点は「根本が勝つか否か」。

 

孤高の秀峰を行く絶対女王の戦い、いよいよ今年も幕開けとなる。

第10期女流最高位決定戦・初日

 

☆1回戦☆

起家から石井-いわま-鳥越-根本

 

誰もが欲しい先制弾を決めたのはいわま、10巡目に根本との2軒リーチに手詰まった石井から一発で和了し5200スタート。
東1局 ドラ

いわま(南家、11巡目)

 ロン

 

 

いわますみえ。23期入会、現B1リーグ所属。

いわますみえ

 


今回で4度目の女流最高位決定戦進出、これは歴代女流最高位を除けば川端美雪と並ぶ最多タイの記録となる。
根本は女流最高位戦で頂点に君臨する打ち手だが、男女混合となる最高位戦リーグの中で一番上の期首順位を保持している女流がこのいわま。
経験値という点では挑戦者3名の中で抜けた存在であり、根本が最も警戒すべき相手だろう。

 

その最大の持ち味はやはり攻撃力、勢いに乗った時のいわまは本当に手がつけられない。
昨年の決定戦では不完全燃焼気味に思えたそのエンジンだが、今年は1回戦早々に着火した。

 

東2局 ドラ

迎えたいわまの親番で先制リーチをしたのは、根本。
根本(西家、11巡目)

 

役もドラも無いリーチだがは場況的にかなり良く見える、現にヤマに3枚残り。
も3枚切れており少ない手変わりを待つよりは、先手を取って他家を降ろす意図もあるのだろう。

しかし13巡目にいわまも牌を横に曲げて応戦、根本の一発で掴んだに手が開かれた。
いわま(東家、13巡目)

 ロン

 

2局連続の一発和了、裏は載らずも12000で早くも点棒は五万点近くに膨れ上がる。

 

続く1本場は根本の本日初和了となるリーチピンフ一発ツモであっさり流れるも…
東2局1本場 ドラ

根本(西家、11巡目)

 ツモ

 

東4局根本の親番ではいわまの倍返し。
東4局 ドラ

いわま(西家、10巡目)
 ツモ
8巡目リーチで2巡後強烈なド高目ツモの3000・6000。この親被りで根本の持ち点は早くも一万点を割ってしまう。

 

 

1回戦南入時点で点棒は以下の通り。
石井   19700
いわま 54300
鳥越   36500
根本   9500

 

トップを直走るいわまを追うのは、東3局に冷静なダマテンで4000オールをツモった鳥越。
更に南1局では石井もこの争いに名乗りを挙げてきた。

 

まず平場では8巡目先制リーチ、既に役牌ドラ2のテンパイが入っていた鳥越から出て7700。
南1局 ドラ

石井(東家、11巡目)

 ロン

 

続いて1本場でも10巡目に先制リーチ、いわまから2000は2300。
南1局1本場 ドラ

石井(東家、12巡目)

 ロン

 

圧巻は2本場、いわまと根本の2件リーチを掻い潜っての高めツモで2600は2800オール。
南1局2本場 ドラ

石井(東家、17巡目)
  ポン ポン ツモ

 気が付けば持ち点は40000点を超え、あっという間にいわまを射程圏内に収めている。

 

しかし次局、石井が大魚を逃す。
南1局3本場 ドラ
 裏ドラ

またも9巡目に以下牌姿で先制テンパイした石井。
石井(東家、9巡目)

 

特に悩むことなくダマテンを選択した様に見えたが、これは正直微妙に思える。
は決して場況的に良い牌でも無ければ、引いた所で三色が確定する訳でもない。
かと言ってダマテン2900で満足できる待ちと点棒状況でもない。

先制5800以上確定のリャンメン待ちであれば、最高位戦ルールではやはり即リーチが正着ではないだろうか。

 

次巡石井はを引くと、河にを置いてリーチを宣言。
石井(東家、10巡目)


ダマテンにした以上即を引いたのなら、このフリテンリーチも当然といった所か。
だが結果は一人テンパイで流局、即リーチしていれば一発と裏で跳満ツモとなっていただけに尚更悔やまれる。

次局の4本場はいわまの満貫ツモによって石井の連荘は終了。

 

迎えた南3局、今度は鳥越に微妙な選択。

南3局 ドラ

10巡目に、11巡目にをポンし、以下牌姿となった親番。
鳥越(東家、11巡目)

ポン ポン


鳥越はここから打
とし、トイトイに受けたが既に純カラ。

2着目の石井でも既に15000点離れており、最高打点で仕上げたい気持ちはよく分かる。


しかしリャンメンでも7700確定となり、ピンズが高い場況。シャンポンよりもリャンメン待ちで確率性の高い加点を目指した方が良いのではないだろうか。
仮に
を引いて裏目となっても、今度は親満以上確定の好形テンパイを維持することもできる。

結果根本に、石井にを切られ、自分もを持ってきた直後に石井のツモ和了。
こちらも手痛い和了逃しとなった。

 

南4局はいわまが1000点を和了し、1回戦終了。

 

 

 

1回戦終了
いわま+56.9  石井+21.4  鳥越▲20.7  根本▲57.6

 

訪れた好機を逃すことなく最高のスタートを切ったいわま。
チャンスを十分に活かせたとは言えず、悔いが残る立ち上がりの様に思える石井と鳥越。

 

そして何より一番心配なのは、殆ど見せ場無くハコ寸前のラスを引かされた根本。
残り7回戦あるとは言え、次にラスを引けば6連覇に早くも黄色信号が点滅してしまう。


心配な面持ちで根本の様子を眺めるが、当の本人は気落ちした様子もなく笑いながら一言。

 

「点棒借りなくて良かった~」

 

気丈に振る舞っているのか…それとも本当にまだ余裕なだけなのか!?
真意は本人のみぞ知る所だが、続く2回戦早々にそんな周囲の心配を吹き飛ばす事件が発生した。

 

 

 

☆2回戦☆

起家から鳥越-根本-石井-いわま

東1局 ドラ

この局最初に動きを見せたのは石井。ポン、チーとした形のままツモ切りを繰り返す。

2回戦・東1局

 

傍から見てる分には安い仕掛けなのだが、注目すべきは石井の河。

6巡目チーの打からは全てツモ切り、並べられた牌によってインパクトが非常に強くなっている。

 

もう張っているのか!?
打点は高いのか!?
役牌絡みなのではないか!?

 

そんな疑心暗鬼に襲われ鳥越は早々に撤退。
いわまも粘るが
を切りきれず、ドラを重ねた時には半ば手遅れな状況に追い込まれていた。

 

では根本はどうか!?
序盤は無筋を飛ばしてきたが、途中からは
のトイツ落としを入れるなどこちらも引き気味に見える。
前々巡の打
は石井がずっとツモ切りなので、チーはあってもロンとは言われない。
又その次の
もノーチャンスであり、現物が無ければ出てきても不思議な牌ではない。

 

石井本人もこの仕掛けはテンパイ、和了する目的と同時に、他家を降ろす意味合いがあったのだろう。
だからこそ持ってきた生牌の
も何事も無いかの様にツモ切った。

少しでも考えてを抜けばノーテンと疑われるからだ。

そこに根本から静かにロンの発声。

 


確かに軽率と言えば軽率な放銃。
たがその代償は想像をはるかに上回る法外価格。


根本(南家、17巡目)

 ロン

 

会場全体が凍りついたかの様な静寂に包まれた。

ちなみに14巡目にを落としたときは、まだこんな形。

根本(南家、14巡目)

 

既にが2枚切れのため、ほぼ受けに回った所からと引き入れ、わずか3巡で望外のテンパイ。


私自身は天運とか星とかいった表現は好きではない。
これまで根本が歩んできた覇道をそんな言葉で例えるのも安っぽい様に思えるし、本人も好むものではないだろう。

 

それでも、今まで幾度となく名勝負と逆転劇を演じてきた根本だからこそ、ここでこの一手が舞い降りてくるのだろうか。
やはり今年も主役の座に就くのは彼女なのだろうか。

そんな俄かじみた運命論が一瞬頭を過ぎった…。


確かに四暗刻単騎、驚愕の32000。

 

女王根本、ここから怒涛の反撃が始まる。

根本佳織

 

 

自身の親番はあっさり流されるも、東3局はこのツモ上がり。
東3局 ドラ八

根本(北家、11巡目)

  ツモ

一手変わりでまたも四暗刻単騎となる手だが、ドラ表のをあっさりツモり満貫。

 

更には迎えた南2局の親番。

いわまの先制リーチを受けた後にツモり四暗刻テンパイ。
南2局 ドラ

根本(東家、10巡目)


 

テンパイした時点で山に3枚残り。
これもツモるのかとギャラリーが再び心躍らせるも、石井が上手く捌いて親落ち。
石井(南家、14巡目)

ポン チー ツモ


結局この後大きな波乱は起こらず、2回戦は根本が7万点オーバーのトップで一気に借金を返済した。

 


2回戦終了
根本+71.5  いわま+18.7  鳥越▲30.1  石井▲60.1

 

2回戦終了時トータル
いわま +75.6
根本  +13.9
石井  ▲38.7
鳥越  ▲50.8

 

 

この大舞台、この苦境で会心の役満を決めても何食わぬ様子に見えた根本だが、やはり精神的な高ぶりはあったのだろう。
半荘終了後少しいつもと違った動揺を隠せない感じが見受けられた。

 

逆に放銃した石井の方がいつも通り落ち着いている様にさえ見える。
打った局をどう省みるかは別として、ハコを割ったこの半荘を後に引きずらないメンタルの強さ。
石井もまた根本同様に多くの強者が持つ鈍感力を備えているのだろう。

 

だからこそ勝負所で勝利の女神に愛されるのか、迎えた後半2回戦は石井のターンが訪れる。

 

 

 

☆3回戦☆
起家から根本-いわま-鳥越-石井

 

東1局 ドラ

 東1局からまたしてもツモり四暗刻イーシャンテンとなった根本。

 結局2枚目のをポンして、リーチしていたいわまから4800を和了。
根本(東家、15巡目)
ポン ロン

 

本日初の原点割れとなったいわまだが続く1本場で1000は1300を、迎えた親番ではピンフのみをリーチしてツモりあっさり原点復帰。
東2局 ドラ

いわま(東家、15巡目)
 ツモ


7巡目にテンパイし手変わりを求めて一度ヤミテンに構えたが、9巡目に頃合と見てツモ切りリーチを敢行。
おそらく前巡にドラ表示牌の
を手出しした石井を牽制する意味合いもあるのだろう。


現に石井はチートイドラドラのイーシャンテンになったばかり、この辺りの勝負勘は流石といった所か。

 


東2局1本場 ドラ 裏ドラ

続く1本場、鳥越に女王からの洗礼。

3回戦東2局1本場

 

根本の8巡目リーチに対して現物が無い。
最も安全度が高いのは1枚切れの
だが、もし叩ければかわし手になるし、重ねれば本手としてぶつけられる。


おそらく出るな…

 

そう思た直後、鳥越の切った牌に根本が手を開いた。

根本(北家、9巡目)

 ロン
 

裏も載って12000は12300。
ここまで苦しいながらも何とか耐えてきた感があった鳥越だが、後半になるにつれ所々小さなミスが目立ち始めてきた。
この放銃で失った点棒と精神的ショックも決して小さいものではなかっただろう。

 


東3局 ドラ

先制テンパイはまたしても根本。
根本(西家、5巡目)


 

一通含みの16000テンパイ、何とも恐ろしい…。

まだ5巡目、当然周りはメンチンが入っているなどと気付く余地もない。


どうせコレも根本が決めちゃうんでしょ、と思いながら見てると8巡目にツモ切った1枚切れの
に石井からポンの声。

 

こちらにもまぎれもない本手が入っていた、しかも好形。
石井(南家、10巡目)

ポン ツモ

程なくツモって3000・6000。

 


第8期プロクイーン・石井あや。

石井あや

 

第34期前期プロテストを堂々のトップ成績で合格。
入会当時から内輪での評価は高かった選手だが、今年に入ってTV対局出演、プロクイーン優勝、そしてこの女流最高位決定戦進出と絶好調。
最高位戦で今一番勢いに乗っている女流と言っても過言ではない。

 

先ほど役満放銃という憂き目にあったばかりだが、この3000・6000を皮切りに後半戦は石井の快進撃が続くことになる。

 

 

迎えた東場の親番、人テンパイ後の1本場で3巡目に以下牌姿。
東4局1本場 ドラ

石井(東家、3巡目)


 

小考後石井の選択は打、牌理上はの方が手広いが打点を求めるのであれば理に適っている。

7巡目にを引き3面張でリーチすると、13巡目にツモで4000は4100オール。
石井(東家、13巡目)

 ツモ

 

これで石井のトップはほぼ確定、南場では根本といわまの激しい2着争いが繰り広げられる。

 


まず南1局親番の根本、8巡目にいわまの先制リーチが入るも、すぐに根本も追いかけての捲り合い。
南1局3本場 供託1.0 ドラ

いわま(南家、8巡目)

 

根本(東家、10巡目)


 

結果は根本がを掴み放銃。

一旦3着に陥落した根本だが、南3局鳥越の親番では6巡目にピンフドラドラを先制リーチ。
南3局1本場 供託1.0 ドラ

根本(西家、8巡目)
 ロン

 

2巡後に放銃したのはピンフのみのテンパイを入れたトップ目の石井。
満貫は少々高い出費だが、局が進むメリットも踏まれば想定内の痛手と言った所か。


南4局 ドラ

石井   45700
根本   36600
いわま 31400
鳥越   6300

 

ラス親の石井、前局和了できていれば2着目との差は24000点を超えボーナスタイムに突入していたが、根本にここまで近寄られると余程手が入らない限りは前に出てこないだろう。

 

そうなるとやはり注目は根本といわまの着順対決。

先にイーシャンテンとなったのはいわま。

 

いわま(西家、8巡目)



は2枚切れ、は1枚切れ。
ドラを引いた時の手変わりも考えると
のカンチャンを外す方が正着に思えるが、いわまの選択は打。マンズの下が安い根本の河を見て、の方がヤマにいると踏んだのだろうか。

 

そして12巡目にを引いてリーチ。

2枚切れのカンチャン待ちだが根本に追いつかれて放銃しても、順位は落ちずに素点を失うだけならば必然の選択となる。
いわま(西家、12巡目)

 

対して根本次巡に追いつくが、こちらはリーチ判断が難しい。
根本(南家、13巡目)

 

石井との差はいわまのリーチ棒を含めると8100点差。
1300・2600ツモでも8000出上がりでもギリギリ石井に届かない。

そしていわまに放銃した時は、素点だけではなく順位点も失う可能性が高い。

 

これらのマイナス要素を考えるとダマテンにするのが無難な気もするが、根本の選択はリーチ。

この短期決戦でをツモった時に、裏ドラを見ないでチャンスを逃したくはなかったのだろう。
更にはいわまの宣戦布告に対して腹を括ったと言った所か。

 

 

両者の思考が諸々垣間見えた見応えのあるオーラスだったが、結果は流局。

3回戦は石井の初トップで終了。

 

 

3回戦終了
石井+44.2  根本+17.1  いわま▲8.1  鳥越▲55.2

 

3回戦終了時トータル
いわま +67.5
根本  +31.0
石井  +5.5
鳥越  ▲106.0

 

 

石井がプラスポイントに返り咲き、勝負は三つ巴の様相を呈してきた。

 

 


☆4回戦☆
起家から根本-石井-いわま-鳥越

 

東1局 ドラ

本日の最終戦となる四回戦目。開局早々に根本が魅せる。

4回戦東1局

北家鳥越はドラのをリリースした後は全てツモ切り。さて根本何を切る!?

 

私が根本の立場であれば、自身が好形イーシャンテンで鳥越の待ちもまだ絞りきれていない以上、自己都合で手を進めるだろう。
が3枚見えたとは言え、手の形で一番ロスの少ないを切るのではないか。
そうなると鳥越にあっさり1000点放銃、この局は終了していたことになる。

 

しかし根本の指から切られた牌は何と

仮に当たると思っても、この大舞台で自分の読みと感性に従ってシャンポン固定できる打ち手が一体何人いるだろうか…。
次巡あっさり
を重ねてテンパイし、打でリーチ。一発は石井に消されるも、流れてきたを即手繰り寄せた。

 

根本(東家、13巡目)
 ツモ

裏は載らずも2000オール、お見事と言うしかない。

 


一方かわし手さえ和了させてもらえない鳥越、この半荘もラスを引く様だといよいよ後が無くなる。

鳥越智恵子

 

鳥越智恵子、第35期前期入会。
今春プロになったばかりの新人で、決勝卓も今回が初となる。

 

今年最高位戦に入った35期生の中で女流最高位戦の準決勝に残ったのは3人。
その
3人の内、第9回野口賞で活躍した浅見真紀、池下真里子が敗退する中、唯人決勝の椅子を勝ち取った。

 

私は鳥越の麻雀を見るのは今日が初めてだが、1,2回戦を見る限りよく我慢が効いている印象を受けた。
しかし我慢はしてもとにかく勝負手が実らない、展開にも恵まれない。

本人の悲痛な心の叫びが見ている側にも聞こえてきそうだが、最終戦も吹き荒れる逆風は止む気配が無い。

 

 

東3局、親のいわまが先制リーチ後にドラ2両面で追いかけるも、を掴んで放銃。
東3局 ドラ

鳥越(南家、13巡目)

 

いわま(東家、14巡目)

 ロン

 


東4局の親番では久々に先手好形のリーチを打つも、
東4局 ドラ

鳥越(東家、11巡目)

 

同巡ドラ暗刻になった石井と手がぶつかってしまい、またも敗北。
石井(西家、14巡目)
 ツモ

 

この親被りで最終戦も持ち点が20000点を割ってしまった。

 


南1局 ドラ

東パツに2000オール、東2局に2000・4000と加点した根本だが、今一つ波に乗り切れない。

 

根本(東家、5巡目)

 

根本はここからとし、9巡目にを引き入れリーチ。

 根本(東家、9巡目)


 

リャンメンを嫌う以上は、をツモって跳満にする心積もりなのだろう。
しかし結果は16巡目にいわまが追いかけ、根本から3200の和了。

 

いわま(西家、18巡目)
アンカン ロン

 

いわまの牌姿とツモを追う限り、根本がのトイツどちらを落とししても選択におそらく影響は出ていない。
ともあれこの和了でいわまも原点近くまで浮上した。


続く南2局、鳥越この日最後の勝負手。
南2局 ドラ

鳥越(西家、7巡目)

片上がりだが周りを引いてのリャンメン変化との出やすさを考えれば当然のダマテン。

 

しかし直後に石井が切ったにいわまが1000点の和了。

最後の刃もあっさりと空振り。

 

いわま(南家、8巡目)

 ロン

は鳥越の現物ではないが、仮にリーチしても手牌が完全イーシャンテンになっている石井がを止めた可能性は低い様に思える。

 

結局この日鳥越が和了できたのは1回戦東3局の4000オールと4回戦東3局1本場の1000は1300のみ。
野球ならノーヒットノーランとまでは行かなくとも、完封負けといった所か。

 


オーラス平場は石井以外の3人テンパイで流局。
そして迎えた1本場、本日の最終局。
南4局1本場 ドラ

鳥越   18500
根本   31800
石井   37500
いわま 32200

 

まず動いたのはいわま。役牌を鳴いてイーシャンテン。
いわま(北家、6巡目)
ポン

何でも和了すれば2着となる状況、受け入れ広くノータイムでドラのを打つ。

 

するとそこに根本からポンの声、途中カン待ちの役なしドラ2テンパイを取らずの3面張。和了できれば3着から一気にトップ浮上となる。

根本(南家、7巡目)
ポン

 

次巡いわまものシャンポン待ちでテンパイ。

両者とも相手に放銃してもラス落ちの危険が無い上に、ノーテンで3着終了となるならばお互い引く気は全く無い。

 

 

 

本日幾度となく繰り広げられた根本といわまの叩き合い、最後に和了したのはいわま。
いわま(北家、10巡目)
ポン ロン


10巡目に根本がを掴み、1000は1300で4回戦終了。

 

 

たった1300点の放銃だが、もし自分が和了した場合満貫分の素点+2着順アップの順位ウマで48300点分のポイントを得ることができた根本。

その上下差49600点となる痛恨の捲り負けである。


もしこれが石井以外から和了できていれば、本日をトータルトップで終えることになっていた。

 


4回戦終了
石井+37.5  いわま+13.5  根本▲9.5  鳥越▲41.5

 

4回戦終了時トータル
いわま +81.0
石井  +43.0
根本  +21.5
鳥越  ▲147.5

 

 

 

人ノーラスで終始安定したポイントをキープし、首位での折り返しとなったいわま。
悲願の初優勝に向けて一歩リードといった所だが、まだまだ2位との差は40P弱と楽観はできない。
2日目も躊躇することなく攻めの姿勢を貫いてくるだろう。

 

後半の連勝で見事に巻き返した石井。
対局終了後本人も胸を撫で下ろしていた様に、役満を放銃してこの結果なら上出来だろう。
プロクイーン優勝の時と同様に、初日の好位置から2冠目を狙う。

 

人大きくマイナスし、早くも絶体絶命の鳥越。
タイトル戦の決勝において200ポイント差を半荘3,4回で逆転した例は過去何度か記憶にあるが、3人ともに大差をつけられているこの状況は相当厳しい。
果たして奇跡の大逆転を起こすことはできるのか、それとも早々の脱落者となってしまうのか。

 


そして最後に根本、対局終了後にこう一言呟いた。

「勝負手があまり実らなかった」

 

確かに2回戦の役満があまりに印象強いが、3回戦のメンチンや、4回戦オーラス上がりトップのタンヤオドラ3等、捲り合いに敗れる場面もかなり多かった初日。

 

ここ数年の決定戦の中で、勝負所でこれ程競り負ける根本は殆ど記憶に無い。
おそらく本人も6連覇に向けてあまり良い手ごたえを得られなかったのではないか。

 

トータルトップのいわまとの差は現在約60ポイント。半荘1回でも十分逆転可能ではあるが、決して小さい数値でもない。
まずは2日目、上位2人との差を縮める好スタートを切りたい。

 


僅かな不安を抱えたまま帰路につく女王。

第10期女流最高位決定戦はその初日を終える。

 

 

四者が再び神楽坂で相見えるのは11月14日(日)。

栄冠の座に就くのは果たして―

 

 

 

文責:武中 真

(文中敬称略)

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