初日終了時のポイント。
下出 +19.2 村上-2.2 井出-5.4 小林-11.6
下出が頭一つ抜け出してはいるものの、混戦模様で2日目の最終日を迎えた。
初回・6回戦は起家から、 村上・下出・井出・小林。
東一局。10巡目、初日と同じくオヤの村上がリーチをかける。
ツモ 打 ドラ
片面役無し、アガリ点効率大、とあっては、村上にリーチしない理由はなかっただろう。
テンパイのドラ表示牌の感触は好かっただろうが、これは流局。
(そうそう毎回ツモれないよ。)と他者3人が思ったかどうか。
予選から多くの選手が忌避した、片面とは言え役ありの原点リーチ。村上の失点となる時があるのだろうか。
流局をはさんだ東三局2本場。
井出の9巡目。
ドラ
ここに、ツモで打とチンイツへ。
同巡、村上がチーテン。
チー 打
次巡の井出のツモがドラ。
ツモ
直前に4枚目のが捨てられているが、村上の河にはもも通っていない。
打とした井出。ノド手のドラ表示牌を引き入れたのが13巡目。1巡おいてツモアガった。
ツモ
2600は2700オール。
さらに次局も井出。9巡目、
ツモ ドラ
打でヤミテン。次巡のツモが。が、すでにが2枚切れ。カラ切りした井出の2巡後のツモがドラの。
ツモ
ゆっくりとした動作で井出が打ち出したのはであった。
繰り返すが、は2枚切れである。役無しであることから、最初のテンパイで即リーチと行く手も有効だろう。
こう打つと、井出の手牌からの変化はツモぐらいか。3面に受けるか、の枯れを見てのイーペーコーのペンチャン待ちか。
が、2巡後。井出が手元に引き寄せたのは、もう一つの有効牌であった。
ツモ
4000は4300オール。
実は井出の最初のテンパイ時点での山残りは-1枚、2枚。
さらに、南家・小林の12巡目が、
井出のツモ切りであれば違う一局となっていただろう。
アガリの確認の「ハイ。」の際、村上が瞬間手を止めて目線を河に走らせていた。
4本場。
北家・下出の配牌。
ドラ
アガリに遠そうなこの手に、要牌を引き込みまとめたのが10巡目。
ツモ
配牌には1枚もなかったドラが暗刻。自手にドラが固まりなら、相手が向かってくることも少ないと、井出が飛び出た他3者横一線の場面、ヤミテンに構える下出。
が、実際はこの時、-を掴まされれば打ち出したであろう人間が、一人いた。
2巡後、ツモ。もう一つのヤミテンの利。当然、暗カン。リンシャンツモなら高目での3000-6000。
が、。
(なかなか、ないよな。)と、ツモ切る下出。
が、次巡ツモ切ったには声がかかった。
小林「ロン。」
ロン
特に色染めにも見えない小林の前巡が、。の出切れの上に、が3枚ずつ見えていたことが小林に利した。
8000は9200。
東四局。
小林がをポン。
下出のでロン。
ロン ドラ
2900。
場に4枚切れを見ての待ち取りに、下出、
と、止まりようもない。
下出の点箱は寥々とした有様になってきた。
1本場。またも下出に手が入る。7巡目、
ドラ
1枚ずつの出を見て打白とする下出。
これをすでにを叩いていた村上がポン。
この鳴きで下出にドラのが入る。方寸どおりののトイツ落としと同時にを引き入れた。
ヤミテン。ホンイツ模様の村上がを手出し。
もう止める気のない下出のツモ切りに、「ロン。」
ロン
7700は8000。下出からは見えないが、ツモの今テン。
厳しい。
この3局とも、下出の牌姿からのオリは誤着でしかないだろう。
が、正着に対してさえ、結果は時に非情である。
南入して、再び村上のオヤ番。
村上が9巡目にテンパイ。
ツモ ドラ
場に1枚切れ。村上、一つ頷くようないつもの動作で、打。
「リーチ。」
声はいつもと変わらない。が、後日の村上は言った。
「自信はなかった。」
と。
リーチという手役、と単純に呼ぶよりは手段、と呼ぶべきだろうか。
得点がアップする。無防備状態となる。1000点の供託を要する。
これらを前提的、あるいは機械的な要素と呼ぶとすると、他にはどのような要素があるだろうか。
伏せられた牌の全てを透かし見る神のような存在ではない限り、打ち手には限界がある。当たり牌のみを押さえ、他の全ての牌を通してくる打ち手はいない。
多くの場合、リーチには頭を下げさせられるのが現実なのだ。
それらの要素まで折込んだ上で、得点力などの要素に戻る。
加えて3着目。村上にとってはやはり当然のリーチなのか。
井出がチートイツの待ちで追いつくが、これはつまり流局が精一杯。
南家の下出、村上のリーチを受けた時点で、
一発逆転を想い描いただろうか。あるいは、またもやの罠でしかないのか。
14巡目に4枚目のを引き入れた下出。
が、ここまでだった。
村上「ツモ。」
ツモ
2000オール。同手、2回分のアガリとも数えられる。
後日の村上談には続きもあったのだ。
「嬉しかった。」
と。
1本場。
やはり村上。10巡目リーチ。即、次巡のツモアガリ。
ツモ ドラ
2600は2700オール。
前局に比べると当たり前と呼べるリーチであるが、今度は小林を2900かわした
2着目から。
だが、安目ながらトップ目の井出に肉迫する。
2本場は流れて、南二局3本場。
下出のオヤ番。
5巡目、
ドラ
ここから当然の打と寄せていく下出。
10巡目にテンパイ。
ツモ
(リーチ・ツモなら6000オールまで。が、3着目の小林がポンと仕掛けている。小林の手の進み方によっては直撃も期待できる・・・。)
ヤミテンを選択した下出。だが、判断の是非を問われることすらなかった。テンパイ取りのが村上への放銃となったのだ。
ロン
2600。
下出に好牌を与えた小林の鳴きが、村上にもやはりカン、ペンの急所を送り込んでいた。
南三局。
小林がソーズに寄せて終盤、15巡目テンパイ。
ツモ 打 ドラ
前巡の打牌は。の出は1枚ではあったが、終盤であり、生牌のを押さえて進めた。
トップ争いの二人とは17000強の点差があるが、二人の点差は100点。特に2着目の村上からのこぼれは多少の期待はできる。
が、そので村上がアガった。
ツモ
1300-2600.
100点差のトップ目・井出のオヤ番であった。
ラス前であり出アガリでも十分とした村上。
逆に7700点リードとしてオーラスを迎え、ドラ単騎のチートイツを入れた小林のラスオヤを一と鳴きのタンヤオで落として、2日目緒戦の1勝を手にした。
6回戦 村上+35.7 井出+19.0 小林-6.0 下出-48.7
Total 村上+33.5 井出+13.6 小林-17.6 下出-29.5
7回戦 起家から、 村上・下出・井出・小林
首位と2着目ポイント差は本日開始時のそれに似ている。が、1戦を消化しており、残り半荘4回戦。さらに上下の差は大きくなっている。
その辺りの影響があるいはこの回の後半頃に現れてくるだろうか。
東一局が流れた後の東二局、下出が連荘する。
まずは連風のを鳴いて、4巡目に井出からの出アガリで2900は3200。
2本場の下出。6巡目に、
ドラ
が3枚見えだが、に照準を合わせて打とイッツー含みに構える。
終盤のツモでは、-が軽くなったとして、打。ツモ、ツモを捉える柔軟な手筋を見せて、1000は1200オール。
連荘でいくらか気持ちを立て直せたか、下出。
次局、小林のピンフテンパイ以外に手がまとまる者がなく、流局。
4本場となった東三局。
小林に好配牌が入る。
ドラ
第1ツモがときて、迷わず打とする小林。井出が迎え撃つように、「ポン。」
ここから打としたが、この時点で2900からの手であるから翻牌からの切りは惜しい気もした。
が、さらに小林からをポンして食い取った要牌は、続けてドラ。
井出
井出も5800からのシャンテンとなるが、のトイツ落としをしてきた小林が次巡のツモで手牌を開けた。
ツモ
最高形の3000-6000。
小林の河には老頭牌・字牌のみが並んでいた。受ける側は、むしろ余り出さなかったことが幸運であったろうか。
トップ目が入れ替わっての、東四局。
二の矢の放つべく最短のアガリへ向けて手を進める小林だが、12巡目の下出のドラツモ切りに状況を悟りイーシャンテンを崩す。
同巡に村上がリーチ。
ドラ
巡目は深いが、村上から見えているのは、、と各1枚のみ。さらに、が4枚ずつ見えており、アガリの見込みは薄くなかっただろう。
が、同巡に下出のツモアガリで決着がついた。
ツモ ドラ
2000-4000。プラスリーチ棒の1000。
南入。
下出の再逆転に場のムードは小林とのデッドヒートの様相を呈していた。
が、瞬間で覆された。(全体牌譜 7回戦南一局)
村上の8巡目テンパイ。
ツモ ドラ
マンズの伸ばし直しも視野にはあったろう。が、ダイレクトなツモ。
トータル首位である。確実にアガリたい12000。出場所が悪い井出からでも大きい。下出か小林からの出アガリならば2着目。空振りだけは避けたいところだろう。
が、村上の判断は、リーチだった。
ヤミテンの利に対してリーチの利が優れさえすれば。要素としてはヤミテンの不利もある。そして点差状況。
村上の興味は結果にはない。正着か否か。常にその1点だけがある。
即次巡でのツモアガリ。チャンスを最大に仕上げた。それは、逆転トップ目となったことでもある。
1本場。(全体牌譜 7回戦南一局1本場)
村上が8巡目に手を止めた。
ツモ ドラ
すでに前巡、ツモ、打でイーシャンテンになっている。そこにピンズの伸び。
ドラ表示にが1枚見えている。ドラのは当然だが場に生牌。見た目の残り枚数は同じ。
仮にストレートなシャンテンに取っても、ソーズを引き入れてカンに受けることはない。
ならば。
打とした2巡後。かぶせた親指をずらすようにツモ牌を確認した村上。そして、この牌を引けばやることは決まっていただった。
村上「リーチ。」
リーチ後、下出に3牌が流れるが、なお余裕のツモアガリ。
2600は2700オール。
2本場。
村上の6巡目。
ツモ ドラ
トイツに手をかけない進行を考え、打。次巡ドラのを暗刻にするや、イーシャンテンへと進めるチー。次巡、
ツモ 打
どこまで得点を伸ばすのかと思えたが、これは流局した。
村上の2連荘。2連荘それ自体は珍しくもない。が、それが始まる前とは場の空気が一変していた。
与えられた手材料は運であったかも知れない。展開に恵まれたことはツキと呼べるものであったかもしれない。
が、それを最大限に生かしきったこと。それは、運でもツキでもない。
15年に及ぶ歳月。揺るがなかった信念。鍛えられた麻雀観こそが、村上淳の実力であり、武器であった。
南二局3本場。
下出のオヤ番であるが、これはあっさり、といった感じで終わった。
アガった井出のイーシャンテン。
ドラ
これにを引き入れての下出からの出アガリ。1000は1900。
小林もを叩いてイーシャンテンからの1翻テンパイ。
各々オヤ番を残していれば、そこでの得点に賭けるのは常識といえる。が、場が軽く回ることは首位者である村上の望むところでもあるだろう。
南三局。井出のオヤ番。
小林が11巡目リーチ。
ツモ 打 ドラ
村上との点差は19200。子方でもあり、イッツーを待ちつつのヤミテンの手はあるが、小林の当面の目標は2500差の下出の2着目である。
リーチの同巡、村上もテンパイ。
ツモ
小林の現物の打ち。
が、アガリはオヤの井出だった。
ロン
リーチの小林からの出アガリ。小林より3巡早いテンパイだったが、すでに-は5枚切れており、ヤミテンのままでの2900。
1本場。南入してから鳴りをひそめていた下出がツモアガリ。
ツモ ドラ
1000-2000は1100-2100。
ドラのが生牌でもあり、と下出らしいヤミテンなのだが、トータル首位の村上の順位を詰めるチャンスではなかったか。
河にが4枚みえており、であればの1枚出も悪材料とは限らない。
というのは、しょせん岡目八目なのだろうか。次回からの残り3回戦は、少なくとも逆転するのに十分な回数だというのが下出の判断だったろうか。
このルールで、ズレることはあるにしても見当違いな目算を立てる下出ではない。
が、将来のワンチャンスを大事にしようとし過ぎれば、ギリギリを詰めていくべき目の前の局面に対しての踏み込みは甘くなりがちになるものだ。
オーラス。
離されたラス目の井出に点棒を削られた格好の小林。その10巡目。
ツモ ドラ
ここでの小林の打には唸らされた。ドラ固定はわかるが、雀頭でのソーズのくっつきがこの手の本線と思えたからだが、
でシュンツを作った時の得点力は下出に11800差の点棒状況では確かに大きい。
結果は、予定外にを重ねてのリーチでツモアガリ。2600オール。
そして1本場。(全体牌譜 7回戦南四局1本場)
7巡目、すでにテンパイを入れていた小林。
ドラ
リーチをかけてもトップ目の村上にはなお遠い。ヤミテンでも下出をシバ差かわして2着目には上がる。結論はヤミテン。
ギャラリーの誰もがそう思った。
が、9巡目。井出のに小林は見逃しをかけた。
(・・・・!)
(アガリ連荘で・・・。)
見逃してすぐに振り替わりの。リーチしてのツモアガリは安目での1300は1400オール。
前述の下出とは違い、小林はすでに村上のトップ阻止の急務を意識していたのだろう。
それにしてもの小林剛、である。冷静さというものが時に狂気じみてもいるということをギャラリーに知らしめた、そんなアガらずの一手だった。
2本場。
村上を追って2着目に立った小林。当然追い込みたいところだが、展開はあまりに急であった。
3巡目に暗刻のリャンシャンテンとなって即決着を狙った村上のドラを下出がポン。
ドラ
出来メンツから派手に動いたわけだが、下出にしてみればドラ1枚のメンツ構成ではアガリ点が足りない。
当然の展開で翻牌が場に出なくなり、下出もテンパイまで。
トータル首位の村上がさらに差をつけて、7回戦が終了した。
7回戦 村上+25.4 小林+10.3 下出-1.9 井出-33.8
Total 村上+58.9 小林-7.3 井出-20.2 下出-31.4
8回戦 起家から、 下出・村上・小林・井出。
東一局。
小林の配牌。
ドラ
タンヤオとは望めなくともシュンツ形には組めそうか。
が、7巡目の牌姿はこうなっていた。
前巡、2枚見えのを1枚はずしたところ。
すぐに1s*が出てポンテンを取るが、次巡のツモが。
ツモ
結果裏目を食ったわけだが、当然タンキに振り替える。
最後の待ち選択はタンキ。(4枚切れ)
前巡井出がを暗カンしているのだが、小林の次巡のツモが。当然の暗カン、リンシャン牌がであった。
ツモ(リンシャン)
3000-6000。
東二局の村上のオヤは、小林がピンフドラ2を慎重にヤミテンに構えてのツモアガリ。
場に1枚切れのリャンメン待ち。結果ツモアガれれば、村上との点差を見て、(リーチなら・・・)と思ってしまうのは私だけだろうか。
が、前回のオーラスを見た限り、小林に取りこぼしはないだろうと思わせる。
東三局。(全体牌譜 8回戦東三局0本場)
村上が7巡目テンパイ。
ツモ ドラ
打。まずは、ドラ表示牌待ちと苦しいながらもテンパイ。
次巡、井出がチーテン。
カンチー、打。場に悪くないピンズのリャンメン。
同巡、村上がツモ、打と待ち替え。
1巡おいた井出のツモが。村上を警戒して、直前に村上が通したを狙っての打と目まぐるしい。
同巡、下出がリーチ。2巡前までのシャンテン形が、
ここに、と引き入れてのリーチで、予定より安い方向に流れた格好。
この下出の入り目を飛ばして勝負形を組んだのが、村上。
を引きこんでの打ち。
ドラがなら安目。小林のオヤ番ならば。などという安直さは村上にはなかっただろう。簡単には勝たせてもらえない。
時に身を捨ててこその勝機。ここでこう打てる為に、取りこぼしないようにリードを広げてきたのではないか。
リーチの次巡、下出がのツモ切り。井出がアガるチャンスは、おそらくこの牌が最後であった。下出のロン牌を掴まされた井出が唯一助かる手段は手仕舞いのみ。
細部としては、村上のカラ切りが地味な効果をもたらしたとは言える。
次局は小林の1翻アガリ。南入した。
南一局。
下出のオヤ番。
配牌。いつもどおりまず2トンずつ3回を取る。
下出(・・・あれ?)。チョンチョンの前の12枚が、
(もしや!)と思ったそうでそれは無理はないが、1000分の1程度の確率では、やはりなかった。
それでも待ちごろの牌があったのはラッキーだった。
配牌を取り終えて理牌した下出。村上ばりに一つ頷いて、
「リーチ!」
オヤのダブルリーチ。
ドラ
打牌は。他3人共に、拝み打ちに合わせ打ち。ロシアンルーレットにも似た雰囲気。
ついに捕まったのは村上であった。
下出にとっても望外。そして、小林にも、井出にも。
9600は大きい。干天の慈雨となるか。
1本場。
ドラは。
下出の仕掛けは2巡目だった。
ドラ
ここにが出てポン。
下出の狙いは分かる。メンゼンで進めても見込みの薄い手。食い仕掛けでいい。ドラのも打たせず、を掴んだ人間には他の牌でもブレーキとなるだろう。
間違ってはいない。
が、下出にとっては大事な1回のオヤ番ではないのか。引き分け、つまり流局に持ち込むことも狙いの内であった、というのなら否はないのだが。
もう一つの懸念。それはすぐにやってきた。それも村上からという最悪の形で。
村上「リーチ。」
村上の配牌は、
ここに、、、と引き入れて、
下出は攻め返しようもない。手牌を短くしてさえいなければ居直ることはできただろう。が、それすらできずに、1巡ごとの拝み打ちとなってしまっていた。
リーチ後6巡で村上がツモアガった。
2000-3900は、2100-4000。
9600の僥倖も水泡と消えた。
次局の村上のオヤは、小林が一つ鳴いたホンイツの3900を井出からアガり落とした。
南三局。(全体牌譜 南三局0本場)
村上のチーテン。その2巡後に小林がテンパイ。高目24000。
局後、村上自身が、「長引かないうちに掴まされていたら、止まらなかった。」と語っていた。直撃であれば、この半荘開始時点の村上ー小林との点差66.2Pは一発で逆転していた。
村上のチーテンの待ち形は、このルールにおいてはオーソドックスな範疇に入る。
カンを見切ってのカンチーに打とくれば、透けて見える待ち。無論、2分の1以下の可能性であろうが、村上がアガリにかけた局は逆にチャンスでもある。
村上の大量失点は井出・下出にも望むところであった筈。
だが、それは小林の手が見えていて言えることであって、すでに大差のついたこの状況では、そこまでの八方眼は望みようはないのだろうか。
オーラスは連荘に賭ける井出のリーチも流局。村上の牙城が揺らぐことはなかった。
8回戦 小林+32.0 村上+7.0 下出-6.7 井出-33.3 (R 1.0)
Total 村上+65.9 小林+24.7 下出-38.1 井出-53.5
9回戦 起家から、下出・井出・小林・村上。
残り2回戦。村上とのポイント差を着順で詰められるのは、6着順、48.0P。これは理想的にいった場合だが、もっとも近い位置にいる小林は順位だけで村上を逆転できる。
1着順差を逃すごとに子満貫分の素点が必要となるが、これが3番手の下出・井出の位置からでは役満級の僥倖をものにしなければならない。
東一局。
起家・下出のテンパイ。
ドラ
イーシャンテンでを放したがそのままをバタバタと打たれた後にテンパイし、片面割れシャンポンの役無し。の引き戻しまで考えてヤミテンとしているうちに村上が仕掛ける。
それでは、と出したリーチ棒は安全牌1枚打って300-500をツモアガった村上へ献上するはめに。
東二局。
2巡目に連翻のを重ねた井出が3巡目にポン。
ドラ
これがこの後はオールツモ切り。
下出 (リーチ)
小林 (リーチ)
2軒リーチは下出のツモアガリ。2000-3900。
流局をはさんだ東四局1本場。村上のオヤ番。
また下出がアガる。
ツモ ドラ
1300-2600は1400-2700。
村上に1300をかぶせたわけだが、開局のアガリが利いて村上はいまだに2着目である。
「ハイ。」と静かに点棒を支払う村上。
南一局は流局して、南二局1本場。
小林の7巡目リーチ。
ドラ
まずは村上より上へ。
が、アガリは井出だった。
ツモ
1000は1100オール。
まず井出が村上より上になる。小林にとっては悪くはない。
2本場は小林のリーチで流局する。
カンチャン待ちのリーチ1翻であるが、ツモアガリでまず村上の上になる狙いであった。。
南三局3本場。
オヤの小林の3巡目リーチ。
ツモアガリでまずは村上を捲くる。連荘で何着順上げられるのか。
が、流局。
そして南四局。4本場。供託に小林が出した1000点棒が2本。
配牌に祈るということは誰にでもあうことなのだろうか。スーパーデジタルと言われる小林にも。
ラスオヤの村上との差は5100。井出までは7500。
供託があるので1000-2000か5200の出アガリ。
井出からの出アガリの場合、2000でいいが、2着にはなっても村上が3着のままでなので、やはり1000-2000目標の手作りが指針か。
が、8巡目。村上「ツモ。」
小林の全ての目算を打ち砕くアガリだった。そして、他の二人にも。
実際、小林の後日のコメントは、
「あのチートイツで、終わったと思いました。」
だった。
これに関して村上がピンとこない様子だったのは、もうすでに、と言いたかったのか、あるいは逆であったのか。
次局の5本場は村上と下出の一鳴きテンパイ合戦。
下出の手はホンイツドラシャンポンの高目ハネ満。もちろん、村上から1牌の危険牌も打ち出されずに流局。
下出のトップで9回戦が終了したが、小林をラスに落とした村上。もはや優勝を掌中にしたも同然と言ってよかった。
9回戦 下出+21.8 村上+8.3 井出-7.3 小林-22.8
Total 村上+74.2 小林+1.9 下出-16.3 井出-60.8
10回戦 起家から、小林・井出・下出・村上
東一局。下出のリーチ。
ドラ
まだあきらめてはいない。が、戦略もない。アガリ続けるしかない。
テンパイの井出から高目のでアガった。
8000。8・0ポイント。一局消化の代価だった。
東二局。
村上がチーテン。
ドラ
下出からドラ切りのリーチ。
村上は止まらない。無筋を2つかぶせて、村上のツモアガリ。
村上はもう、子方にはある程度向かう方が分がいいのだ。失点しても連荘阻止の代償と思えばいい。
東三局。
オヤの下出がチーテンのタンヤオドラ1。
ここにはきっちりオリる村上。
流局。
東四局。
井出の一矢。
(リーチ) ツモ ドラ
4000を支払う村上。かまわない。小林との点差は2000縮まっただけだ。
南一局。
オヤ・小林のリーチ。
ドラ
下出は配牌9種から国士無双のイーシャンテンにこぎつけている。
オヤの現物のを抜き打つ村上。井出がアガる。
ロン
安目で3900。
小林の最後のオヤが流れた。
南二局。
オヤの井出がアガる。
ツモ ドラ
出場所を選ぶ為か、ヤミテン。
2600オール。村上までは遥か遠い。
かつて第28期麻雀王座決定戦において、金子正輝との9万点差を逆転する奇跡を現出させた井出。
しかし、奇跡は何度も起きるものでないからそう呼ばれる。そして今回の条件はアガリ連荘と、さらに厳しいルールである。
一本場もテンパイを入れる。
ドラ
(村上はオリていない。あるいは出場所最高まで・・・)
その村上がツモアガった。
ツモ
高目の1300-2600。
井出の最後のオヤが流れた。
南三局。
14巡目、小林のリーチ。
ドラ
出アガリ2600のリーチ。いや、小林はおそらく出アガリはしなかったはずだ。狙うのはツモアガリの1点のみ。
今回の点差は村上が小林に4400リードしている。ツモアガリで小林が600上になる。
10回戦開始時の村上-小林のポイント差は72.3。小林のツモアガリで迎えるオーラスが71.7差であれば・・・。
小林の役満ツモアガリで、300点差の逆転優勝となる。
下出も同様であった。オーラスに役満直撃条件を残す為には、放銃できない。
さらにリャンシャンテンでツモ切りが続き残り2巡でのイーシャンテンでは、連荘にかけられる筈もなかった。
流局。
下出の最後のオヤが流れた。
小林・下出共に、役満直撃条件が残された。
南四局。最終局。この半荘の、そして第5期最高位戦Classic全対局の最終局である。
小林はギリギリの巡目まで役満直撃の可能性を追った。再度のテンパイ取りはもはや四暗刻タンキ待ちに振り返る巡目が無くなった為である。
小林がその姿勢を見せてくれたことに比べれば、準優勝と3位の差などはどうでもいいことだった。
小林がテンパイを崩したその巡目までは、第5期Classic優勝者は決定していなかったのだ。
15巡目に井出がアガった。
全対局が終了した。
プロ競技団体所属者を中心として延べ130人以上の参加があったこのタイトル戦の最終局。
拍手を送るべき最終局だろう。
四人の勝者が集い、戦い、最後に勝利を手にしたのは村上淳であった。
かつて麻雀界を覆い尽くしていたツキ・流れ論に異を唱え、反オカルトの旗手として注目された村上が初タイトルを手にしたのは、今春の日本プロ麻雀協会主催・日本オープンであった。
全く異なるルールの雀戦を制し、2冠目を加えた村上。
次代を担うと嘱目されたかつての若手は今、トッププレイヤーとしてここに改めて高々と勝ち名乗りを上げた。
(文中敬称略)
社団法人日本麻雀101競技連盟
萱場貞二