コラム・観戦記

第15期女流名人戦観戦記・前編

女流限定のオープンタイトルとして最も長い伝統を持つ「女流名人戦」。

 

1984年に『月刊プロ麻雀』の誌上企画として始まった第1期開催より幾度かの紆余曲折を経たこの大会だが、第15期となる今回から最高位戦主催のタイトルとしてリニューアルされることになった。

 

まず今大会のシステムとルールについて簡単に記載させて頂く。
・1日目の予選、そして2日目の本戦と、ポイントによる上位勝ち抜き戦が行われる。
・最終日となる3日目に、本戦通過者15名に現女流名人を加えた計16名の選手による決勝大会が行われる。
・決勝大会は16名で3半荘、その後上位8名で2半荘を戦い、決勝進出者4名を決める。
・決勝進出者4名で1半荘を行い、第15期女流名人が決定する(最終日はポイント終日持ち越し)。
・ウマが5-15の一発裏有りルール、ノーテン罰符は”差2000″方式を採用(他は概ね現最高位戦ルールと同じ)

 

“差2000″というノーテン罰符方式に馴染みの無い方が多いと思うので少し補足させて頂きたい。
近年のリーチ麻雀で最も多く採用されているノーテン罰符方式は”場3000″と呼ばれるものである(1or3人テンパイの場合ノーテンの人は1000点払い、2人テンパイの場合は1500点払い)。

これに対し”差2000″とはテンパイ者とノーテン者の間で、点差が必ず2000点になる様罰符を払う方式となる(1or3人テンパイの場合ノーテンの人は500点払い、2人テンパイの場合は1000点払い)。

 

言い方を変えればノーテン時に払う罰符が普段より500点少なくなる方式と書けば分かりやすいだろうか。

ノーテン罰符による点棒の減少が当然少なくなる為、要所要所で的確にオリるバランスを問われるルールと考えてよい。

そして迎えた2010年3月22日、激戦を勝ち抜き第15期女流名人戦の決勝大会へと駒を進めた選手は以下16名。

 

・最高位戦
北島 朋子(現女流名人)
川端 美雪
京杜 なお
谷崎 舞華
細谷 映里子
宮本 祐子

 

・協会
会田 日和
朝倉 ゆかり
蔵 美里
眞崎 雪菜

 

・麻将連合
稲毛 知佳子
松本 陽子

 

・RMU
藤中 里美

 

・一般
清水 奈津子(歴代女流名人)
藤戸 眞由美
丸山 あい

 

注目選手として真っ先に挙げたいのが朝倉ゆかりと眞崎雪菜だ。
2名とも過去に協会の女流の頂点を決めるタイトル、「女流雀王」を連覇した経歴を持つ協会屈指の実力派である。

 

又本戦から見ていた中で、歴代女流名人である藤中と清水の好調さも際立っていた。
決勝大会の会場に現れても終始リラックスしており、再冠の可能性も十分にあると考えられる。

 

主催団体である最高位戦の選手の中では、川端美雪が有力候補になるだろう。
リーグ戦では現在B2所属選手であり、昨年はμレディースオープンで初タイトルを獲得している。基礎雀力は勿論、今勢いもある打ち手と言って良い。

 

そしてもう1人の有力候補が第14期女流名人の北島朋子である。
昨年この舞台で初の栄冠を獲得してから1年、連覇に向けて彼女がどの様な鍛錬を積んできたのか非常に興味深い。

 

今日1日を戦い抜き第15期女流名人の称号を得られるのは当然この中の1名のみ。個々の可能性にすれば、優勝確率はまだ10%にも満たない厳しい戦いである。

 

だがここまでくれば確率なんてものは誰も頭に入ってなどいないだろう。

 

「私が勝つ」

 

そんな各選手の張りつめた空気が会場に溢れる中、定刻通り決勝大会が幕を開けた。

決勝大会の様子

 

 

■1回戦
(起家から順に)
1卓 藤戸、谷崎、丸山、北島
2卓 宮本、稲毛、京杜、細谷
3卓 眞崎、朝倉、会田、川端
4卓 蔵、藤中、清水、松本

 

まず最初に目に留まったのは前年度優勝者の北島、早速東1局にテンパイが入る。

 ドラ

 

も自分で切っており他家からリーチや仕掛けは入っていない中盤過ぎの局面、北島の選択はダマテン。結果は流局となった。

 

私が北島の麻雀を見るのは最高位戦のCリーグ以来約2年半ぶりになるのだが、当時の北島ならこの手はノータイムでリーチをかけていそうなイメージがあった。

当然2年以上経てば技術・経験なんてものは大きく変わるだろうし、このダマテンに特に違和感がある訳ではない。

 

只この選択が単なる安全策であるならば、彼女の持ち味とは少し違う様にも思えるのも事実である。

先に統括をしてしまえば、この日の北島は選択を迫られる局面でよく言えば「慎重」、悪く言えば「弱気」なチョイスを多くしていた様に思える。

 

後に紹介する対局終了後の彼女のコメントは、こういった戦い方に対する自戒の念も含まれていたのだろう。

 

この半荘を制したのは、第14期女流名人戦の準優勝者である谷崎舞華。南2局の親番で丸山から強烈なホンイツを和了。

 ポン ロン ドラ

 

同卓している北島相手に昨年の借りと言わんばかりのトップ奪取、こちらは1日を通じて強気な選択が実を結んでいくことになる。

 

一方で強気の策が裏目に出たのが、4卓の蔵美里。

オーラスを迎えて点棒状況は以下の通り。
南4局 ドラ
松本 37600
蔵   33400
藤中 31700
清水 17300

 

中盤に藤中からリーチが入った後の蔵、リーチに対して回り、残り1巡で以下の形。
 チー チー

 

聴牌を取る為に切る牌はノーチャンスとは言えドラの、3着目の藤中とはリーチ棒が出たことで2700点差になっている。
確かに2700点差ならテンパイを取らねばどの道3着に落ちるし、放銃してもラスに落ちる心配は無い。ならばドラでも当然切ってテンパイを取るだろう。

 

が、それはノーテン罰符が場3000の場合の話である。
冒頭に記述した通り女流名人戦のノーテン罰符は差2000、即ちここで藤中の1人テンパイで流局しても蔵は2着終了となる。
加えて自身がテンパイを維持してもトップを取れないのであれば、正直これはやりすぎの感が否めない。

 

そしてこの判断を咎めるかの様な藤中のドラ単騎待ちに放銃、3着に陥落となる。
 ロン

 

この局面で放銃分の素点に加え、1着順分のウマ10ポイントを失って優勝を飾れるほど決勝大会は甘くはない。
この後蔵は要所で勝負手が何度か入るも実らせることができず、ベスト16で敗退となってしまう。

2卓は最高位戦のB2リーガー宮本、3卓は朝倉、眞崎のワンツーフィニッシュとなった。

 

 

■2回戦
1卓 京杜(+7.4)、川端(-43.1)、蔵(-6.8)、藤戸(-32.1)
2卓 稲毛(-9.1)、清水(-27.7)、北島(-3.9)、眞崎(+14.2)
3卓 松本(+22.6)、丸山(+10.3)、朝倉(+29.0)、宮本(+21.3)
4卓 細谷(-19.6)、会田(-0.1)、谷崎(+25.7)、藤中(+11.9)

 

3卓の朝倉が1回戦に引き続き好調をキープ。東1局で早くも高打点を決めた東2局、またも先制テンパイ。

 ドラ

 

7巡目に場に2枚切れのと変えての単騎。それ程悪い待ちでもなさそうだが、上家の丸山の仕掛けを見てかダマに構える。
すると11巡目に宮本がリーチ。

 

朝倉が一発で掴んだのは当たり牌の、すると小考すらせずにノータイムでを切ってテンパイ崩し。
その後宮本、丸山に対して他に危険な牌を引かないままとたて続けに引きあっさりとツモアガリ。

 ツモ ドラ

観戦者からも思わず溜息が出てしまう華麗な捌き、正に女流雀王の真骨頂というべき和了だろう。

この後南場でリードを更に広げた朝倉が2連勝。
2卓では眞崎も軽快にトップを取る。まだ2回戦だが、おそらく2人とも決勝に残ってくるだろうと思わずにいられない強さだ。

 

その頃4卓では南1局、11巡目に細谷が静かに手牌を倒した。

「ツモ、16000オール。」

 ツモ ドラ

 

と全て1枚切れのイーシャンテンから、2連続で有功牌を引き入れての役満成就。
重厚な手組をする彼女だからこそ生み出せた、まさしく値千金の和了である(ちなみに筆者は序盤に仕掛けてしまっているので当然アガれない)。

 

そして彼女の麻雀でもう一つ取り上げたいのが、東1局の親番での妙手。
 ツモ ドラ

 

残り1巡でようやくテンパイにこぎつけたこの手、アンカンでリンシャンツモにアガリ牌がいれば僥倖となるこの局面だが、細谷の選択はカンを放棄する切り。

確かには他家にほぼ間違いなく通るのだが、一瞬何が起こったのか分からなかった。
 

が、よくヤマを見てみると下家の鳴きでハイテイが細谷にずれていたことを見て納得。

 

つまり細谷はここでアンカンをしないことで、他家に不要なドラとハイテイを与えない選択をしたのだ。

ツモれるのはどの道残り1回、リンシャンでもハイテイでも満貫ツモになることには変わりない。

どちらが得かは微妙な状況だが、自身の選択をこの舞台でも貫けることに細谷の芯の強さを感じた1局であった。

1卓では藤戸が4万点オーバーのトップ、3着の川端はポイントが-50を下回り準決勝進出がかなり厳しい状況となる。

 

 

■3回戦
1卓 藤戸(-2.9)、清水(-39.8)、朝倉(+54.6)、細谷(+28.8)
2卓 川端(-51.6)、藤中(-3.5)、稲毛(-37.3)、丸山(+15.7)
3卓 北島(+7.7)、会田(-36.1)、蔵(-0.2)、宮本(-3.6)
4卓 谷崎(+28.7)、京杜(-19.9)、眞崎(+42.9)、松本(+16.5)

 

早くも決勝大会は3回戦に突入、この半荘が終わった結果で下位8名が足切りとなる。
現在までのポイントは以下の通り。
1 朝倉ゆかり 54.6
2 眞崎雪菜 42.9
3 細谷映里子 28.8
4 谷崎舞華 28.7
5 松本陽子 16.5
6 丸山あい 15.7
7 北島 朋子 7.7
8 蔵美里 -0.2
(9位以下は3回戦終了時に足切り)
9 藤戸眞由美 -2.9
10 藤中里美 -3.5
11 宮本祐子 -3.6
12 京杜なお -19.9
13 会田日和 -36.1
14 稲毛千桂子 -37.3
15 清水奈津子 -39.8
16 川端美雪 -51.6

ベスト8に残るボーダーは勿論意識すべきところだが、優勝を飾る為にはそろそろ上位のポイントが気になってくる頃である。

 

特に今1,2位を陣取っているのが朝倉、眞崎という強豪2名とあっては、追いかける立場として気が気ではないだろう。

自分が勝ち抜くことが大前提ではあるが、同時に上位陣を苦しめていくことをここからは考えて打つ必要が出てくる。

 

そんな思いが実ってか、4卓では眞崎がこの日一番の大苦戦。
東3局の親番で先制リーチを放つも、まずは谷崎に追いかけられて2000・4000を親被り。
続いて東4局では松本が2600オール、更には京杜が3000・6000。

 

南2局を迎えた時点で、眞崎を1人離れたラス目に追いやる。
京杜 43800
眞崎 18700
松本 26200
谷崎 31500

 

しかし今日の彼女は本当に力強い、まずは南1局。

 チー ポン ツモ ドラ

 

チーテン直後に高めツモの満貫で3着に浮上。 

そしてオーラスでも見事満貫を和了し、2着で事なきを得る。
 ツモ ドラ

 

同巡の東家松本の追いかけリーチをかわして渾身の一発ツモ。
谷崎、京杜両名ともベスト8には進出したものの、眞崎を2着にさせては喜び半分といったところか。

 

1卓では藤戸、2卓では丸山がトップ。何と予選からの一般参加組2名がベスト8へ進出確定。

 

実績上位であった筈の稲毛,藤中,清水,川端は本日成す術なしといったところだろうか、これだから麻雀は恐ろしい。

 

 

そして注目は3卓、大トップ条件の会田が東場から大きく素点を稼ぐ中、蔵、宮本、北島は横並びで苦戦を強いられる。

3人とも準決勝に進む為には連対条件、即ちベスト8に残された最後の椅子を争う形となった。

まず南2局、南家の蔵が13巡目に先制リーチ。
 ドラ

 

アガれば決め手となるが、流局。しかも3人聴牌では心中穏やかではないだろう。

続く南3局は北島が6巡目に先制リーチ。
 ドラ

 

が、北島のリーチ宣言牌であるドラを鳴いた会田が追いつく。
 ポン ポン

 

2人が聴牌した時点で北島の待ちはヤマにたった1枚、一方会田はが全ヤマと圧倒的有利。

結果は会田のツモアガリ。

北島、放銃していればほぼゲームセットだったが、何とか首の皮が繋がっている。

迎えたオーラス、ご覧の通り3人による大混戦の2着争い。

 

3卓南4局 ドラ
宮本 22500
北島 22700
会田 52000
蔵 22800

 

8巡目、北島が仕掛ける。

 チー

かなり苦しいが是が非でもアガリが必要な局面、なりふり構ってなどいられない。次巡をツモりイーシャンテン。
しかし宮本も黙ってはいない、12巡目にリーチで応戦。

 

は既に2枚切れているが、既に仕掛けている北島を抑えつける意味合いが強い。こちらも最終形など考えていられる余裕はないのである。

北島はまだイーシャンテンで押し引きが非常に難しい状況だが、宮本が一発目のツモで河に置いたのは

宮本が持ってきた牌がならば、北島は悩んだかもしれない。
だがこの急所が鳴けるならば流石に押しの一手だろう。直後に会田からが出て北島がベスト8に進出。

 チー チー ロン

 

3回戦を終えての結果は以下の通りとなった。
1 朝倉ゆかり 69.2
2 眞崎雪菜 53.6
3 丸山あい 41.3
4 藤戸眞由美 26.1
5 谷崎舞華 22.2
6 北島 朋子 7.4
7 京杜なお 1.7
8 会田日和 -0.1
(以上8名が準決勝進出、以下8名は足切り)
9 細谷映里子 -1.8
10 松本陽子 -9.3
11 蔵美里 -12.4
12 稲毛千桂子 -25.7
13 宮本祐子 -27.1
14 藤中里美 -35.4
15 清水奈津子 -52.8
16 川端美雪 -56.9

 

3回戦トップ条件をクリアした京杜と会田が見事ベスト8進出。

また2回戦で四暗刻を和了した細谷は3回戦でラスを引き無念の敗退。

 

前半3回戦は朝倉、眞崎という協会2強が上位を快走した形となった。
ここから果たしてどの様な展開を見せるのであろうか!?

 

 

■4回戦(準決勝その1)
1卓 北島(+7.4)、藤戸(+26.1)、会田(-0.1)、眞崎(+53.6)
2卓 丸山(+41.3)、谷崎(+22.2)、京杜(+1.7)、朝倉(+69.2)

 

1卓では眞崎が相変わらず好調。東4局の親番、わずか6巡目の出来事。
「ツモ、4000オール。」

 ツモ ドラ

 

ドラは無いが高めツモで確かに満貫。同卓者からの嘆きが今にも聞こえてきそうな和了である。

結局このリードを保った眞崎がトップを取るのだが、彼女の冷静な判断力が発揮されたのがオーラス1本場。

 

南4局1本場 ドラ
眞崎 37800
北島 23300
藤戸 31700
会田 27200

 

眞崎は5巡目に以下を聴牌すると、小考後ヤミテンに構える。

 

ここで女流名人戦のシステムに関する補足となるが、決勝大会では最終戦となる6回戦目以外の半荘では全て時間打ち切りのシステムを採用している。
そして前局(南4局の平場)で残り時間5分である旨が運営よりコールされており、この局が最終局になる可能性が極めて高い。

 

要はリーチをかけずに時間打ち切りの合図後を待って、この半荘を波乱無く終えるのが彼女の狙いな訳である。

この局他家(特にラス目の北島)は自分の着順を上げる為に多少無茶な勝負をしてくる可能性が高い。そしてその時自分の手に蓋をしてカウンターを喰らうのが確かに眞崎にとっては一番怖い。
仮にダマテンの間にアガリ牌が出て和了しても、次局は2着目の藤戸が満貫でもトップに届かなくなることも計算に入れての冷静な判断と言えよう。

 

結果は制限時間のコール直後に眞崎がこの手をあっさりと出アガリ、まさしく計算通りの展開でトップを取る。

 

2卓では東1局に親の丸山が6000オールを決め、早々トップを決定づける。
一方で朝倉は簡単には和了させてもらえず厳しい戦いを強いられるが、ようやく南場から反撃開始。

 

南1局 ドラ
丸山 42200
谷崎 31600
京杜 28800
朝倉 17400

 

まず南1局は9巡目にホンイツドラドラのチーテンを取り、次巡安めだがあっさりとツモアガリ。
 チー ツモ

 

続く南2局も京杜から高め満貫の仕掛けをアガリ、あっという間に2着目に浮上。
 チー ポン ロン ドラ

 

朝倉の最終手出しは、要するにドラ表示牌のカンチャンからシャンポン待ち手変りした後の和了である。

 

正直ここで京杜が何事も無いかの様にドラを河に置いたのには少し驚いた。
聞けばタンヤオドラ1のシャンポン聴牌だったそうだが、朝倉の仕掛けと河、そしての手出しを見ればドラがかなりの危険牌なのは分かっていない筈はないだろう。

朝倉だけは下位に沈めておきたいこの局面、少々軽率な放銃であったことは否めないか。

 

迎えたオーラス、3着目の谷崎が終盤にリーチ一発ツモで2着に浮上。朝倉をこの日初めて逆連対させることに何とか成功。

 ツモ ドラ

決勝まで残すは1半荘、泣いても笑っても後1回でファイナリストが決定する。

 

 

■5回戦(準決勝その2)
1卓 谷崎(+32.6)、京杜(-26.1)、朝倉(+65.0)、会田(-11.1)

5回戦・1卓 


2卓 丸山(+62.9)、北島(-14.3)、眞崎(+79.6)、藤戸(-7.2)

5回戦・2卓

 

 

4回戦までのポイントは以下の通り、かなり上下が開いた展開になっている。
1 眞崎雪菜 79.6
2 朝倉ゆかり 65.0
3 丸山あい 62.9
4 谷崎舞華 32.6
5 藤戸眞由美 -7.2
6 会田日和 -11.1
7 北島 朋子 -14.3
8 京杜なお -26.1

 

決勝へ行くには5位の藤戸でも(別卓の)谷崎にトップラス条件に加えて素点で約2万点差が必要な状況。

5回戦が始まる前、私は正直この半荘は谷崎が決勝に向けて上位3人とどれ位ポイントを縮められるかが見所だろうと考えていた。

 

しかしここまで勝ち抜いてきた選手達が、最後の意地と言わんばかりに上位陣に喰らいつく。

まず2卓、大トップ条件の京杜が爆発。

東2局の親番で4本場まで積み、素点を4万点以上に伸ばしてくる。更に南3局の朝倉の親番。

 ツモ ドラ

先に聴牌していた谷崎のメンホンチートイツを潜り抜けて一発ツモ。朝倉に跳満を親被りさせ、彼女のラスを決定づける。
決勝に進むだけなら谷崎ラスの方が条件は楽になるが、優勝を見据えるならば朝倉ラスの方が好ましいだろう。

 

迎えたオーラスでポイント状況は以下の通り。

南4局 ドラ
会田 24100(-2.0)
谷崎 22900(+20.5)
京杜 57900(+16.8)
朝倉 15100(+35.1)
※()内が現状のトータルポイント

 

別卓の結果もあるので条件を一概には書けないが、谷崎は会田をまくって2着になれば決勝進出はほぼ確定。

京杜は谷崎をトータルポイントで捲くることが最低条件。会田はとにかく連荘してポイントを叩くしかない。
朝倉はよほど他家に大きい放銃をしなければ決勝は安泰だが、決勝を有利な条件で迎える為に、できれば谷崎をまくれる様な手が欲しい。

 

各々の思惑が交錯するオーラス、先制聴牌を果たしたのは京杜。13巡目に以下牌姿でリーチ。

 

谷崎をトータルポイントで捲くるには条件が少しややこしい。
まず出上がりだが、朝倉からは一発or裏条件、谷崎から直撃だと条件は特に発生しない。
次に親の会田からの出アガリだが、これは一切できない。会田と1200点差の谷崎の着順を上げてしまうからだ。

 

そしてツモアガリの場合、1000・2000なら問題ないが、満貫だと谷崎の着順を上げてしまう。ただし跳満以上なら素点で谷崎のトータルポイントを上回ることができる。


要するにツモった場合、(一発時を除いて)裏ドラが0か3なら京杜の勝ち、1か2なら谷崎の勝ちとなるのだ。

「ロン」

しかし同巡、朝倉の切ったに手牌を倒したのは谷崎。
 ロン

 

重圧から解放された喜びか、少し普段より声が弾んでいる様にも思えた。

2卓からは朝倉、そして2年連続で谷崎が決勝への切符を掴む。

 

 

そして1卓では北島と藤戸が丸山を追い詰める。

まず東2局、北島の親番。丸山が5巡目にメンホンチートイツ聴牌。

 ドラ

 

9巡目に1枚切れのを持ってきて待ち変えするが、次巡すぐにを河に並べてしまう。

あくまで結果論だが唯一のアガリ手順を逃した後、親の北島が12巡目にリーチ。

 

丸山が一発目に掴んだのは当たり牌の、現物のを切ってシャンポンに受ける。

 が、次巡丸山が持ってきたのはまたもや当たり牌の、今度は河に置き北島からロンの発声。
 ロン ドラ 裏ドラ

聴牌を維持するならば一発かタンヤオの違いだけで12000を放銃することに変わりは無い。この半荘で課せられた丸山のラス、それを早くも決定づける和了となった。

 

更に北島は南1局でダブ南ホンイツをツモアガリ、丸山に親被りをさせることに成功。
 ポン ポン ツモ

 

自身の親番は眞崎の満貫ツモであっさりと流れ、オーラスを以下状況で迎えることになった。

 

南4局

藤戸 35200(+3.0)
丸山 6400(+24.3)
北島 43400(+14.1)
眞崎 34000(+78.6)
※()内が現状のトータルポイント

 

丸山と北島の差は10.2P、遠かった背中にようやく手が届く位置まで相手を追い詰めてきた。

しかしここで底力を見せたのは藤戸。平場は流局した後に迎えた1本場、リーチ後に渾身の高目ツモで4000オール。
 ツモ ドラ

南4局2本場の時点でポイントは以下の様に変わった。

藤戸 49500(+27.3)
丸山 3300(+21.2)
北島 38300(-1.0)
眞崎 28900(+73.5)
※()内が現状のトータルポイント

 

何と藤戸が丸山を捲くって卓内2位に急浮上。この局藤戸は手にならず早々にオリる中、北島がリーチ。

 ドラ

トップに浮上するには藤戸からの直撃かツモって裏条件。

 

連覇をかけた舞台で放った最後の矢、結果は流局となり彼女の戦いは幕を閉じた。

 

 

 

「正直勝ちたいという思いが強すぎて、慎重になり過ぎたかもしれません。」

準決勝終了後に北島からこんなコメントをもらった。

 

確かにこの日の北島は少し弱気だった様に思える、昨年優勝を勝ちとった時の、そして(少なくとも今現在の)自身の持ち味を活かす麻雀というのはもっと攻撃的なものなのだろう。

 

それでも数年ぶりに見た彼女の麻雀が、色々なものを吸収して成長してきたことがこの1日だけでもよく伝わってきた。

 

そしておそらくこれからも、自身のスタイルを模索しながら彼女は進歩していくに違いない

 

競技生命も、2冠への道も今日で終わった訳ではない。
また次のタイトル戦、そして何より来年この決勝大会でまた北島の勇姿が見られることを期待したい。

 

かくして決勝に残ったのは以下4名の選手。

眞崎 雪菜(協会)
谷崎 舞華(最高位戦)
朝倉 ゆかり(協会)
藤戸 眞由美(一般)

 

第15期女流名人を決める最後の1半荘、その白熱する勝負の行方は…

 

 

 

 

後編のお楽しみ。

 

(文責 武中 真)

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