コラム・観戦記

日本プロ麻雀協会須田良規の第4期最高位戦Classic決勝1日目 その②

4回戦

起親から上野、根本、有賀、坂本の座順。

1局 ドラ

東家上野の8巡目。

 

悪配牌を丁寧にまとめあげてのこの形である。

しかし同巡、南家根本がをポンすると、すぐに上野がを掴まされて1000の放銃。

 ロン

上野の受ける逆風はいまだ止まない。

2局 ドラ

坂本の後をひたすらに追う南家の有賀、11巡目に表示牌をチーしてこの聴牌。

 

聴牌打牌は

西家坂本はこのとき、

 

であるが、もちろんに動くことはない。2枚目のも無論スルー。

坂本、このまま静観の構えかと思えば、13巡目、

 

ここで上家の有賀がツモ切ったにチー。安牌のを切って、一見立ち向かう気概をアピールする。

もちろん筒子の中目は有賀に打てないし、を使い切るならこうするしかないが、これは牽制の意味合いが強いだろう。

直後に坂本はもチーし、この形。

  

 

決勝戦のこの舞台で、この仕掛けが出来る者がどれだけいるだろう。

坂本の仕掛けがなければ悠々の一人旅だった有賀、途中引いた索子で少考の末、ツモ番を2回残して降り。

「坂本さんは流石に役牌暗刻でしょう。筒子、萬子と晒したところにさらに索子は・・・」

後にそう語った有賀の気持ちは十分わかる。

しかし、まさにこれが今坂本と有賀の間にある経験の差なのであろう。

この後坂本はさらに安牌の※中を手出しし、有賀が苦渋の表情をした。

私は、焦りと恐れが有賀を蝕んでいくのが怖かった。

4局2本場 ドラ

5巡目の北家有賀、ドラドラでこの形。

 

点棒の動きは、開局の上野から根本への1000だけ。有賀もこの手ばかりは成就させたい。

西家根本が中盤を仕掛けた後、9巡目にやっと有賀が聴牌。

 

ダマである。は場に3枚だが、今ならどこからでもこぼれそうだ。

和了りたい――。

有賀の祈りにも似た思いが、周囲ににじむように伝わった。

同巡、南家上野もを両面チーして追いつく。

 

12巡目、根本もチーで聴牌。

  

焦りがまた、有賀を襲う。

そうして有賀に訪れた牌は、非情にもドラのであった。

 ツモ

切るのか。私は半ば、諦念の思いで状況を見つめていた。

これを打っては、今日の有賀はもうだめだ。

通常なら無論打てない牌だが、ここまでの内容の悪さが有賀を自棄にさせてもおかしくはない。

有賀、少考――。

歯を食い縛って、を抜く。

そう、打てない牌は打てない。私は、安堵した。

初めての決勝という舞台で緊張に踊らされていた有賀だが、ここまで勝ち上がってきた実力はこんなものではないはずだ。

しかし神の悪戯か、有賀を嘲笑うかのように次のツモにはいた。

有賀はそのとき、何を思っただろう。

決して、肩を落としてはならぬ。まだ、ライバルの背中も見えてはいないのだ。

1局3本場 ドラ

3連勝の坂本、

  ツモ

ここでも均衡を破って積み棒をさらうツモ和了りである。

苦もなくこの展開を得られるあたり、牌運にも恵まれている。

2局 ドラ

東家根本が九種九牌。3巡目にドラもツモ切って、国士一直線。

9巡目の打に、南家有賀が飛びついた。

 

このとき根本、11種11牌。

 

次巡ツモで、13面張のイーシャンテン。無論、ヤオチュウハイを引けば何でも聴牌である。

 ツモ

ここにツモと来た。当然不要な牌だが、仕掛けた有賀の捨て牌がこう。

 

私が根本の立場なら、後々危ないを先に処理する。は全員の安牌でもあるし、放銃になるよりは鳴かれた方が良い。

 

チーした有賀のこの形、すぐにが出たとしたら、やはり鳴くのが自然ではないだろうか。

しかし根本は有賀の手を進めることを嫌ってか、打

ツモ番変わらずのその瞬間、根本の上家上野がツモって来た牌は、4枚目の

この瞬間根本の国士は潰える。

その後有賀は、を引いて待ち聴牌。

 

次巡、根本がツモで国士聴牌となるが、待ち牌のはもう山に残ってはいない。

 ツモ

余ったは、有賀へ2000の放銃となった。

牌の並びなど水物であるが――、先に切っておけば、と愚推せずにはいられない。

ともあれ、女王の豪腕は空振りに終わる。

4局1本場 ドラ

坂本32000、有賀31400。

ここまで詰め寄った北家有賀、この600点差を是が非でも捲りたいところ。

東家坂本は3連勝のアドバンテージがあってか、無理に和了りにはいかなかった。どこにも打たないように、丁寧に安牌を並べる。

対して有賀。

 ツモ

12巡目にこの形から、打で諦めたように降り。

これはどういうことだろう。

坂本は降りているし、西家根本も手が進んでいる様子はない。

南家上野はイーシャンテンだが、7巡目からずっとツモ切りである。

もう1牌、もう1巡の踏み込みの無さが、ここでも現れている。

ここは打と行って欲しかった。

すると15巡目、有賀はツモでこの聴牌が組めている。

 

この時点で、は、なんと山に4枚残り。

結局王牌に3枚という不運で和了れることはなかったのだが、有賀の立場ならここはもう少し押さなければならない。

有賀、あと一歩が届かない。いや、踏み出せないのか。

坂本、磐石の4連勝。

坂本+14.0 有賀+5.4 根本△5.6 上野△13.8

 

4回戦終了時トータル

坂本+96.2

根本△11.6

有賀△38.9

上野△45.7

 

5回戦

起親から坂本、根本、上野、有賀の座順。

もうこのまま、今年のClassicは決してしまうのであろうか。確かに今日の坂本は完璧な内容を残しており、牌の巡りも味方している。

しかし、誰かがその首に鈴をつけなければならない。後悔は、全ての戦いを終えてからだろう。

流局を2回挟んで、まさに懸賞首、西家坂本の手牌。

3局2本場 ドラ

 ツモ

カンかカンを外していく形だが、東家上野が第1打に※ニを切っている。

それに対応し、坂本はから放していく。

そして次巡、当たり前のように置かれた

上気した有賀の声がそれに間に合った。

 ロン

有賀、初手から七対子を見据え、上野の第1打を見てを残した。

値千金の6400は7000を、ライバルから討ち取る。

4局 ドラ

そして親番を迎えた有賀、

 

配牌ドラドラのこの面子手。これが8巡目には

 ツモ

この形。これを七対子にシフトさせ、今対面の切ったを抜いていく。

そしてついに14巡目。

 ツモ

前巡引いて待ちとした。これを続けてツモっての、4000オール。

これでこの半荘はほぼ決定的となる。

やっと、やっと有賀が坂本を抑えつけた。

4局1本場 ドラ

   ロン

次局は、南家坂本が、西家根本の聴牌打牌を捕らえて8000は8300。しぶとく2着目にのし上がる。

3者も坂本をそのままラスに沈めておきたかっただろうが、やはり今日の坂本は、一筋縄ではいかない。

2局1本場 ドラ

ここでの点棒状況は、有賀52900、坂本25300、上野25000、根本16800。

坂本が2着に残っては、一矢報いたとも言い難い。着順は一つでも下げなければならない。

この先坂本の順位を下回った者は、その掌から、少しずつ勝機という取り返しのつかないものを失ってしまうのだ。

初日の戦いは、ゆっくりと終焉に向かっていた。

南家上野、この配牌。

 

今日の上野は本当に手牌に恵まれなかった。この道の先人に敢えて与えられたかのように、重い枷がつきまとい、避けようのない放銃に見舞われた。

そして9巡目。

 ロン

これを坂本が打ったのは、この日最後に訪れた、上野にとっての微かな幸運だった。

そしてその瞬間の、東家根本。

 

根本もたった今聴牌したものの、ツモ山に手を伸ばすことすらなく終局。

ツモれば親倍となる高めのドラは、山に3枚生きていた。

女王、根本。豪腕振るわず、初日はいまだ沈黙。

4局1本場 ドラ

東家有賀は52900持ちのダントツ。

思えば今日は長い道程だった。

自分と近い境遇のライバルを追い続け、やっと最後にその背中を捉えた。

経験の差が緊張を生み、この開きの一因を作ってしまった。

決してこれで終わるような力の選手ではない。2日目は最初から、全力を出し切って欲しい。

そして8巡目、有賀のツモ切った牌に、南家坂本が声を掛ける。

 ロン

 

1600は1900の和了りは、3着のまま。

坂本は、2着目上野と2300点差、4着目根本と7200点差。

「根本さん以外からは、喜んで和了ろうと思っていました」

4連勝男は、こう言ってのけた。

上野からなら直撃でもちろん着順は上がる。

そして有賀からなら、現在もっともポイントの近い有賀の素点を削れるなら、それも良しと。

今日満点と言っていい内容で締め括った坂本は、タイトル獲得を目前として、余裕と貫禄を確かにその身にまとっていた。

4期Classic決勝は、その初日を終える。

 

有賀+33.0 上野+0.3 坂本△8.1 根本△25.2

 

5回戦終了時トータル

坂本+88.1

有賀 △5.9

根本△36.8

上野△45.4

 

私は、最高位戦の選手を羨ましく思った。麻雀への情熱を思い出させるかつての旧き良きルールの場があり、才能あふれる若手と経験豊かな先人に恵まれている。そして、その中でのライバルの存在が、どれだけお互いを高め合ってくれることであろうか。

情熱の戦いの結末は、今回ばかりは最高位戦に預けておこう。

Classic決勝2日目は、8月23日(日)。

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