コラム・観戦記

第34期最高位決定戦2日目 その②

【7回戦】

東家 石橋
南家 飯田
西家 尾崎
北家 金子

【東1局・ドラ

未だにらしさも見えずにいるも、そろそろ何としてもプラスのポイントを取りに行きたい起家・石橋。

13巡目に飯田の打をポンして聴牌。

《石橋》

ポン

これに飯田も反応する。

《飯田》

チー

3巡後に500・1000を気持ち良さそうにツモった飯田。番手はまず譲らないといったところの気持ちが垣間見える。

飲み終わったコーヒーの缶を、音を立てて置いた金子。胸中はそろそろ穏やかではなくなったかのようだった。

東2局の飯田の親番は、飯田のリーチ~流局、1本場は金子の1人聴牌と、大きな動きもなく進むと、東3局はまたこの2人がぶつかる。

【東3局2本場・ドラ

今回の先制聴牌は金子。時折荒々しく打牌をしながらも、ここも前向きに攻めに出る。表情はさほど動かずに、リーチに出る。

《金子・7巡目リーチ》

すると現在大きくプラスしているポイントを追い風に、尾崎が次巡、親リーチで攻め込む。

《尾崎・8巡目リーチ》

今日は幾度も尾崎にしてやられた金子。しかしここは負けなしのリーチ、力なく河に並べたで2600は3200、リーチ棒2本と大きな収入を得て親番をリードで迎えるも、やはりこの半荘でも荒波に揉まれてしまう。

【東4局1本場・ドラ

平場は全員が前に出て、結局石橋以外の3人聴牌で流れた。この時金子は小さな声でよし、と口にするのが聞こえてきた。

人一倍の鋭い攻撃力のある金子、しかし今日はなかなか点棒に結び付かない。それでも、いやだからこそ、気合いが入るのが金子なのだ。

1本場は、7巡目に尾崎が、縦のツモを重ねて先制の聴牌を果たす。

《尾崎》

自風の北も暗刻の1手変わり四暗刻。息を殺して闇に構える尾崎。

そして3巡後、石橋からリーチ。

《石橋》

ドラはないが先制リーチなら当然と曲げる石橋。

親の金子は、長い一向聴から聴牌に漕ぎ着けリーチ。

《金子・13巡目リーチ》

ツモ

しかし宣言牌がそのままヤミテンに構えていた尾崎に6400は6700の放銃となる。

はドラ。ドラでなければ切りで放銃もなく、石橋の待ち牌は山に2枚。金子の待ちの高めのダブは2枚生き、が1枚まだ山だった。石橋のリーチには無筋である。がドラであり、使いきることが仇になるとは、まさに不運である。

肩がガクリと落ちる金子を横目に、尾崎がまたゆっくりと上に上がる。

 

 

 

 ―放銃が重なると段々と気持ちが萎えてくる

麻雀をする者なら誰でも感じるであろう、苛々した、何とも言えない感情が体を覆う。

金子はそんな想いを振り払うかのように大きく身震いすると、先ほど少し落とした肩をまた、大きく伸ばし前を見据えた。

堂々とした風格は、未だに衰えるどころか、年々増し輝いている。

 

 

 

―金子正輝は、このくらいでは微塵も霞んだりしない。

 

 

 

 

【南場】

 

南1局は石橋があっさりと1000オールをツモるも、1本場は尾崎が飯田から2600、南2局は金子が400・700を早々にツモ。

激しくも穏やかなぶつかり合いで、7回戦は急速に終盤へ突入する。

【南3局・ドラ

親の尾崎は、ドラが対子になるもツモが悪く手が進まない。もどかしそうにツモ牌を河にツモ切りしていると、先制聴牌の金子、リーチのみだが豪快に牌を曲げた。

《金子・10巡目リーチ》

ここに向かってきたのは、ラス目でもう親のない石橋。

《石橋・13巡目リーチ》

ここで石橋に放銃となれば致命的になりかねない金子。早く和了切ってしまいたい気持ちが、ツモ和了を遂げた瞬間に溢れ出る。

15巡目、ツモで裏は乗らず。打点こそ低いが傍目からも喜々としているように見えていた。

【南4局・ドラ

東家 金子 34500
南家 石橋 24100
西家 飯田 27900
北家 尾崎 33500

2着の尾崎とは1000点差の金子、を1巡目に先手の仕掛けをすると好形の手牌を順当にまとめて6巡目に聴牌。

《金子》

このままひとアガリして逃げ切りたい金子。前2半荘のマイナスを気にする暇もないほどスピードのある聴牌である。

ここは押し切れるかと息を飲んだ瞬間、ラス目の石橋からリーチが入った。

そして金子はリーチを受けて一発目のツモ牌、4枚生きていた内の1枚のを確認すると、手の内から安牌を切り出すこともなく河に放った―。

―ロン。

石橋がハッキリと口にしたのは、ロンの発声だった。

《石橋》

高めでの一発なら裏1で出和了でもトップになる石橋。それでも普段通りに裏ドラを確認すると、頂上への案内が届いていた。

メンタンピン一発オモウラ、12000。

この時、場が凍り付いて時が止まったかのように見えたのは、金子の闘志の灯が、その一瞬だけ吹き消されてしまったからだったのかもしれない。

そして待望の初トップを一撃で勝ち得た石橋の顔は、決定戦で初めて見るAリーグの強者の引き締まった笑顔だった。

【7回戦】

石橋 36100 +36.1
尾崎 33500 +13.5
飯田 27900 △12.1
金子 22500 △37.5

【7回戦終了時】

尾崎 +172.7
飯田   +22.2
金子   △89.6
石橋 △105.3

 

 

 

【8回戦】

起家 石橋
南家 金子
西家 尾崎
北家 飯田

【東1局1本場・ドラ

開局は、親の石橋が仕掛けて500オールツモで連荘となるも、1本場は、尾崎から河の強いリーチがくる。

《尾崎・9巡目リーチ》

《尾崎・捨て牌》

ここに被せたのは、違うネクタイを締め直してきた金子だった。3ラスを引き、ネクタイを変え気持ちを一新する。実にオカルトだが、それで気分が変わるのならしない手はない。

11巡目、安めのを引いてのピンフドラで追随のリーチ。

《金子》

ツモ

リーチ

12巡目、尾崎が、まさに捨てるように河に放ったで、3900は4200。

金子、そっと牌を倒して今日最後の半荘を制しに前進する。

【東2局1本場・ドラ

続いた金子の自親でも、尾崎のリーチを気合いで蹴り上げてまず1500を出和了する。

1本場になると、2連続の放銃であからさまに顔が赤くなった尾崎が、さらに前に出る。

6巡目にピンフを聴牌して1巡ダマるもツモ切りリーチを敢行した石橋。

《石橋・7巡目リーチ》

ここに南家の尾崎が被せる。

《尾崎》

ポン

決着がつかないまま見守りつつ手を進めていた親の金子が、追いついて聴牌。

《金子・15巡目》

激しい卓上の戦いは、観戦者をも緊張に走らせ魅了する。皆の高まる想いを集約させた和了を引き寄せたのは、ようやくトップを手にして自分を取り戻した、石橋だった。

15巡目、をツモ、裏1で1300・2600の1本場。

一瞬も目が離せない展開と共に、一歩も引かない4人の強者たちが、各々オーラを放ちながら、頂点へと昇りつめていく。

【東3局・ドラ

西家の石橋が、今期のAリーグでも幾度となく見せたブラフ気味の仕掛けを、初めて強行。

《石橋・3巡目》

ポン

ドラ色、ピンズの混一に見える河を作り8巡目に2フーロ目のポンとするも、まだ手牌の7枚はバラバラである。

すると9巡目、腹を括ってのツモ切りリーチにきたのは、大魔神・飯田だった。

《飯田》

これを受けたラス目の親・尾崎。
10巡目に暫く河を傍観すると、数回小さく頷く。そして大きく振りかぶってリーチに出る。宣言牌は、ドラの

《尾崎》

ツモ

この2軒のリーチに、当然めいっぱい回り、オリながら手を進めた石橋。

14巡目、これでようやく勝負にいける聴牌。

《石橋・14巡目》

ツモ

しかしこのが飯田に3900の放銃。石橋は、やはり未だに乗り切れてないのだろうか。

【東4局・ドラ

8回戦になってから、和了や勝負手の聴牌を組めるようになった石橋。この局は、金子の仕掛けのあと、ツモが形良く噛み合い伸びていく。

《金子・9巡目》

ポン

《石橋・9巡目》

金子がポンテンを入れたあと、とツモり満貫の聴牌。

《石橋・12巡目》

ここは慎重に闇に構えて、飯田から8000を打ち取る。

少し顔が驚きを見せていたが、仕方ないといった表情で点棒を支払った大魔神。飯田は、きっとやってくる自分の出番を信じ、じっと待ち続ける。

【南1局・ドラ

親・石橋のリードで迎えたこの日最後の南場は、またもやブラフ気味の仕掛けを入れた石橋が局を支配しようと試みる。

《石橋・1巡目》

ポン

北家・飯田は、もう1つ鳴かれるまではと、勢いよく萬子を被せていく。

《飯田・9巡目》

《飯田・捨て牌》

飯田とは噛み合わなかったが順調にツモが伸びた石橋。値千金の7700聴牌に辿り着く。

《石橋・14巡目》

ツモ

そしてを鮮やかにをツモり2600オール。まさに石橋の真骨頂、相手との距離を計りながら手を進める石橋らしさが、ようやく繰り広げられた。

続いた1本場は尾崎が満貫ツモで、ラスを回避するための踏ん張りを見せる。

【南2局・ドラ

少しずつ調子が上がってきた金子、最後の親番で石橋を捲り上げるために猛進。

《金子・8巡目リーチ》

1発目のツモは、ドラのに少しがっかりするも、これを見た石橋が掛かる。

《石橋・9巡目》

ポン

現物となったを叩いて勝負に出て、金子に裏1の5800を放銃。

石橋、金子と11600差に詰め寄る。ボードを横目で一瞬確認すると、金子はより鋭い顔つきで次局の配牌を丁寧に並べた。

【南2局1本場・ドラ

もっと攻め込みたい金子だったが、ラス目の尾崎からリーチがくる。

《尾崎・7巡目リーチ》

ツモ

3巡目、一向聴で離したドラのが次巡、さらに6巡目にと被り、結果かなり打点を落とすも、次局の親番に向けて積極的に前に出る。

手が入り出した石橋は、ここでも好形から伸びて聴牌が入った。

《石橋・9巡目》

もう親のないトップ目だが、この手牌ならリーチ。強気に攻めた石橋が、尾崎から高めので8000は8300を打ち取る。

現在のポイントを考えたら、これ以上尾崎を勝たせるわけにはいかないのだ。

波に乗った石橋が、逆襲とばかりに、尾崎を引きずりおろしに向かう。

南3局の尾崎の親番は、絞り切った金子に形式聴牌もさせてもらえず、尾崎は痛い親流れとなる。

オーラスは、この半荘の主導権を握った石橋が、7巡目のポンテン、タンヤオドラを早々にツモって、最後まで主役を譲らずに終局。


 

【8回戦】

 

 

石橋 55400 +55.4
金子 32000 +12.0
飯田 21400 △18.6
尾崎 11700 △48.3

【8回戦終了時】

尾崎 +123.8
飯田     +3.5
石橋   △59.6
金子   △77.7

―石橋に捲られちゃったよー、と終了するなり叫んだのは、金子だった。3ラスを引いたあとには、誰一人近寄り難い空気に覆われていた金子は、新しく締め直したネクタイと同じように、気分もちゃんと一新したようだった。

天は味方せずとも、金子の精神力は強い。今日負けたら明日勝てばいい。さらに気合いが増すだけだ。

 

 

宣言通り、金子が、また嵐を巻き起こす。

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